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スタートアップ・ベンチャーが優秀人材を採用するための秘訣(全4記事)

採用が上手な会社は「効率」を追い求めていない 大手に不利なスタートアップが優秀人材を採用するには

多くのスタートアップ・ベンチャー企業の採用は「キャリア採用(中途採用)」が中心ですが、最近は大手企業もキャリア採用を強化しており、その影響でスタートアップ・ベンチャー企業は採用に苦戦しています。「優秀な人材が採用できない」と悩む担当者に向けて、『スタートアップ「転職×副業」術』の著書である藤岡清高氏が採用のヒントを語ります。本記事では、採用が上手な会社の特徴から、スタートアップが人材を獲得するためのポイントを解説しています。

スタートアップの内定承諾率に差をつけるもの

村上篤志氏(以下、村上):具体的な話として、これも明確に書籍(『スタートアップ「転職×副業」術』)の中に書いてあったと思いますが、「(採用にあたって必要な)4つの具体的なアクション」。

藤岡清高氏(以下、藤岡):最近、企業を見ていると、1、2、3はできているところが多いなと思っているんです。2番と4番の重要性をあえて話したいんですが、社長のストーリーがあると何がいいのかというと、内定承諾率に大きな差が出ます。

最終面談のあとに何が起こっているかというと、キャンディテートの方は、必ずご家族や友だちに相談していると思うんです。最後の判断ですからね。「この会社どうしようかな?」と、他の会社と並べながら困っている方は多いと思うんですが、その時に奥さんやご家族が応援してくれるかどうかって大事なんですよね。

その時に受けている会社の社長の話をして、「この会社はよくわかんないけど、社長はすばらしい人じゃない。一緒に働いてもいいんじゃないの?」って、奥さんとかから言ってもらうことがとても大事です。それがないと、「知らない会社で大丈夫なの?」と言われちゃったりすると思います。

いちいち社長に奥さんを説明・説得してもらうのはしんどいと思うんですけど、そういうコンテンツがあるかどうか。

CEOの思いをコンテンツ化するメリット

藤岡:最近のホットトピックでいうと、アイデミーという会社さん。上場しましたけれども。

村上:石川(聡彦)さんですね。

藤岡:コンテンツは私が作ったんです。若い社長なので、多くの人が「この社長は東大出身だけど、若くて大丈夫なの?」みたいな話があると思うんですけど、あれを見るとこの人がいかに人たらしで、すばらしいメンターが周りにいるかがわかる。

村上:本当にそうですよね。

藤岡:人間的にもおもしろいじゃないですか。でも、コンテンツがないとわからないですよね。

村上:伝わらないですよね。直接会ったことある我々はわかりますが、直接会ったことがないと、確かにまったくわからないですね。

藤岡:なので、内定承諾率を高めるために、これ(CEOの思いをコンテンツ化したもの)は絶対にあったほうがよくて。みなさんも経験があると思いますが、最終面談で辞退された時って計り知れないくらいのショックがあると思います。

そのポイントが2、3割上がるだけで会社としてもぜんぜん違うので、絶対にあったほうがいいです。これが2番ですね。

“他の会社でもできること”をすると大手に負ける

藤岡:3番(社員のストーリー・社員対談のコンテンツ化)は、noteでもできるのでやったほうがいいんですが、4番(求める人材にどうアプローチするのか、採用戦略を考える)ですね。

これは村上さんもお詳しい世界ですが、職種別で採用の手法って違うんですよ。一概に「どうやってアプローチすればいいんですか?」じゃなくて、まずは職種別にその人たちの行動特性を理解することです。

上からいくと「エンジニア」。みなさん、エンジニアを採用したいですよね。エンジニアはけっこう社外のコミュニティを持っていて、ネットワーキング・コミュニティが強い人たちなので、採用が上手な社長はそのコミュニティに足を運びます。転職潜在層を求めていって、そこで声を掛けて仲良くなっていく。

別に、今すぐ転職するかはわからないけれども、半年後、1年後、2年後に動くかもしれない可能性があるので、潜在層にどんどん自分からアプローチをしていって、結果的には採用につなげているパターンがとても多いです。

ここで大事なことを言いますが、採用上手な社長は「人がやらないこと」をやるんですよ。(スライドの)右に書いている我々を否定することになっちゃうんですけど、採用媒体を使うことは誰でもできるので、誰でもできることをスタートアップがやったら負けるんです。

こういう媒体やエージェントを使うのって誰でもできるんです。エージェント使うと金がある会社が勝つので、たぶんスタートアップは不利な戦いになるんですけど、他の会社もできることをやっちゃダメです。

採用上手な社長は、リアルな場に足を運んでいる

藤岡:私が知っている採用が上手な社長は、採る人の行動特性を見て、自分で足を運ぶ。今では有名な某V社の社長は勉強会やセミナーに足を運んで、初期メンバーはほとんど自分でナンパしています。

村上:リアルな場ということですね。

藤岡:自分の知り合いから採用することもあるけれども、その次はリアルな場に自分で足を運んで採っているんですよね。だから、競争に巻き込まれる前に採っているんです。

そういうところに行って、ソーシングして、自分の近くで口説く。みなさんのうしろで「エージェントがダメだ」「媒体は使えない」とか言っている社長は、自分の足を運んでやっていますか? という感じですね。

ランサーズの秋好(陽介)社長も、エンジニアコミュニティに足を運んでエンジニアを採っていましたね。HRや広報・PRとか、他にもいます。僕も足を運んだことがありますけど、やはりプロフェッショナルの人たちって業界ネットワークがあるんですよ。

村上:ありますね。

藤岡:そこに協賛をするとか、自分がセミナー講師になったり、誰か知り合いを送り込むとか、何かをギブして入っていく。実は僕もSNSでもアップしちゃいましたけど、いい歳なので、若手の某VCのコミュニティに入りたいなと思ってピザスポンサーになったんです。

村上:へえ! なるほど(笑)。お金を出して。

藤岡:「食事はアマテラスプレゼンスです」と言うと、そこの輪に入れてくれるんですよね。若いキャピタリストとか、画像生成AIのエンジニアとかいっぱいいるんですけど、そういうところに入れてもらって話をする。コロナも明けたので、足を運ぶ。できる社長、採用の上手な社長はこういうところに行っています。

村上:なるほど。

リソースの少ないスタートアップが採用で勝つために

藤岡:下も一緒です。CFOはちょっとコミュニティが弱いんですけど、IPO向けセミナーやCFOセミナーがあるので足を運ぶ。ビジネス系の人たちもそういうイベントに出ているので、そこに足を運んでいく。

そこで知り得た人たちに対して、TwitterやSNSとかでどんどん情報発信をしていく。大変ですよ。大変ですけど、繰り返し言いますが、採用が上手な社長は人がしないことや大変なことをする。他の人でもできることは、できるだけしないみたいですね。

ビズリーチはすばらしいですよ。だけど、みんな使っています。みんなが使っているところに入って、リソースの少ないスタートアップがどうやって勝つんですか? 同じリソースを使うなら勝率を高いほうがいいので、足を使ったほうがいいです。

ちょっとタフなことを言ってしまいましたけど、実際に採用が上手い社長は時間にもコミットしてるし、その時間を使って足を運んでますね。そこにTwitterやSNSをかましている感じでしょうか。

村上:ありがとうございます。非常に参考になりました。

一次面談から社長が参加するのが「最も効率的」

村上:あとは「採用がうまくいくスタートアップの特徴」ということで、藤岡さんからコメントをお願いします。

藤岡:アマテラスを利用している会社の中で、特に採用が上手い40社ほどを選んで、どんなことをしてるかヒアリングしたんです。これは本当に、うちのアマテラスを使ってる会社のトップオブトップのノウハウなのでお伝えしますけど、採用が上手い会社は社長自らアマテラスにログインしてスカウトしていました。

当然、Attackさんとかも使っているんですけど、社長自身も自分でログインしていました。「なんで社長は忙しいのにやってるんですか?」と聞いたら、「自分の目で見たいんだよ」と。本当に、自分の目で嗅覚を働かせて人を探したいと言ってました。

次に行きますか。一次面談は基本社長ですね。

村上:最初から社長が出るということですね。

藤岡:はい。なんでかというと、ビジョン・ミッションを一次面談で語るのが一番大事じゃないですか。社内で、ビジョン・ミッション一番うまく語れるのって誰ですか? というと、社長に違いないです。

村上:絶対にそうですね。

藤岡:絶対にそうです。何を聞かれても絶対に答えられますから。なので、社長が出る。「大変じゃないですか?」と聞くんですけど、「いや。でも、結果的にそれが一番効率いいので」と、アマテラスユーザーのアーリーステージの某社長は、1年間で150人の一次面談をやって10名採用していました。非効率なようでいて、最も効率的だと僕は思ってますね。

村上:そうですね。このコンバージョンはいいですよね。

藤岡:ですよね。

採用は「人間関係づくり」が重要

藤岡:次は何度も言っていますが、社長の時間を最もレバレッジできることは何かと言ったら「採用」です。社長が営業しても採れると思いますが、仕事ができる人を採ることが、社長が一番レバレッジできることです。そう考えると、社長の時間を一番使うのは採用でしょうという話になっています。

何度も言ってますが、社長と採用を通じて人間関係を作っていく。そして、「社長が好きだ」と言ってもらうことが採用の秘訣なので、採用って人間関係作りなんですよ。

ビズリーチ元社長の多田(洋祐)さんはいつも「採用に効率が一番いけません」とおっしゃってました。僕も本当にそう思っていて、先ほど「足を運べ」とかいろいろ言いましたけど、(採用が)上手い会社は効率とかを考えずに足を運んで、みんながしないことをやってるんですよね。

みんながしていることをやってると、結果的に効率が悪くなるという話があって。みんなと同じことをやって勝てるのは、パワーがある人たちです。

メルカリとか、ああいったパワーがある会社はみんなと同じことをやって勝てるんですけど、何もないスタートアップは、人がしないこと・大変なことをやらないといけないです。

社長が一番やってはいけないことは“他責”

藤岡:社長が一番やっちゃダメなのは、「エージェントがダメだ」「媒体が使えない」「市況がダメだ」とか、人のせいにすること。(同じ環境でも)採用をしてる会社はありますし、そういう会社を我々はリアルに見てますから。

村上:そうですね。ありがとうございます。すごく印象的なのは、いろいろと足を運んだり、一手間かけて(他社が)やってないことをやる。他社がやってないことをやるのは非効率のように見えて、最終的には効率がいい採用方法だったりするんですね。

藤岡:本当にそう思います。

村上:わかりました。ありがとうございます。藤岡さんから、非常にためになる話をいただきました。最後に、私から藤岡さんに質問を。

藤岡:村上さんから?(笑)

村上:ちょっと候補者寄りの話になっちゃうんですが、藤岡さんがアマテラスを十数年やってきた中で、スタートアップへの転職、特に大企業からの転職者の動きはどんどん加速している感覚があるか、それともそこまで変わってないけど質が変化しているのか、実際のところどうですか?

私なんかは、最近はまた大手to大手の転職も増えてるなっていう感覚があって。実際に、スタートアップに(転職する)優秀な方は今でも増えているのかどうか、候補者側の動きも気になってはいて、藤岡さんの所感を聞ければなと思いました。

藤岡:これは環境要因も関わるんですが、ここ1年前後でいくと、大企業からスタートアップの人の転職はそんなに増えてる感じがしないんですよ。一方で、関心を持ってる人がめちゃめちゃ増えたという感じですね。

大企業にいても「ベンチャーっぽいこと」ができる時代

藤岡:私がこういう本(『スタートアップ「転職×副業」術』)を出した理由でもあるんですが、たぶん企業の人も「スタートアップに転職する」という選択肢をみなさんが持ち始めた。だけど、行動する人はまだそんなに増えていないところがあるんです。

その要因としては、環境のせいにするのはあれですけど、この1年、2年は円安もあって、全般的に言うと大企業はけっこう調子がいいですよね。

村上:確かにそうですね。

藤岡:みなさんご存知のとおり、スタートアップはめちゃめちゃ冬の時代だったんですよ。どうやら今年の後半ぐらいから上がってくるらしいんですけど、INITIALさんが出してるベンチャー投資金額も、2023年の前半1月から6月にかけてもかなり下がりました。例年の半分ぐらいかな?

シリコンバレーも「スタートアップ投資、冬の時代」「バブル過ぎた」と言われていて、投資金額が半分ぐらいになっています。日本もバブルが過ぎたので、投資金額がクシューっと(縮小傾向に)なっていて。

リストラとは言わないけど、ベンチャー業界では自然減があったりして良くない一方で、大企業は円安で景気が良かったので、同じことをしても勝手に利益が上がっちゃう感じがあって。

大企業も、「この間に社内ベンチャーをやっちゃおう」「オープンイノベーションをやっちゃおう」とか、スタートアップ関わろうという大企業が増えてきたので、大企業にいながらもベンチャーっぽいことができるようになったりとか。

村上:そうですね。確かに、最近はそういう環境も増えてきましたね。

藤岡:そうなんですよ。

関心は高まっているが、スタートアップへの転職者は増えていない

藤岡:なので、総論としてスタートアップに関心を持ってる人はめちゃめちゃ増えてるけど、大企業の人がわざわざ辞めなくても、ベンチャーっぽいことができるようなことになってきている。だって村上さんのお客さまでも、大企業の社内ベンチャーとか、子会社が社内ベンチャーとか、あると思います。

村上:そうなんですよ。そういう会社がありますね。

藤岡:なので、無理やり転職を促さないのであれば、いきなりスタートアップへ行くのはけっこうリスキーでもあったりします。大企業にいながらにしてベンチャーっぽいことができたり、事業立ち上げをゼロイチでできるんだったら、そこで経験してからスタートアップへ行ったほうがお互いにとってもいいので。

そういう意味では、大企業がスタートアップに寄り添ってきて、大企業の中にいてもスタートアップっぽいことができるようになってきた。

僕が昔いた住友銀行(SMBC)ですら、今はもう服装も自由になったり、社内ベンチャーがあったり、ベンチャーに出向させてもらえたりとか、すごく事例が出てきて。入った会社ですらベンチャーっぽいことができるようになってくると、転職者はそんなに増えないよね。

村上:「大手企業からベンチャー出向」みたいな、ベンチャーでの就業体験みたいな動きも最近は増えてますよね。

藤岡:そうそう。

今後、スタートアップに人材は流動するのか

藤岡:だけど直近で言うと、「大企業から大企業の転職が増えている」と村上さんがおっしゃったとおり、スタートアップに興味はあるけどまだそこまででもない、というふうになってきているんです。でも時間を置くと、大企業で子会社をやってもどっかで壁にぶつかるわけです。

本当にやりたいことをダイナミックにできるか・大胆にやれるかというと、それはリスク取った社長のもとでしかできない。今、みなさんもスタートアップっぽいことを経験してるけど、長い時間軸で見ると、どんどんスタートアップに人が流れていくと思ってますね。

村上:波はあれども、緩やかに見ていくと右肩上がりで、基本的にはスタートアップへの人材流動が増えてくるんじゃないかなと。

藤岡:そうですね。

村上:わかりました。ちょうどお時間になりました。藤岡さん、今日は本当にお忙しい中、セミナーにご参加いただきありがとうございました。

藤岡:こちらこそ。僕からもですけど、村上さんは本当に数字に強くて、定量的な分析力もあって頼りになる方ですので、ぜひみなさんも村上さんをフル活用してもらえると、きっと採用がうまくいくと思います。

村上:逆に営業いただいてありがとうございます。ぜひアマテラスさんを使っていただいて、私も自社のお客さまにどんどんアマテラスの営業をしていきたいなと思います。

藤岡:ありがとうございます。

村上:じゃあ、以上でセミナーを終了とさせていただきます。みなさま、ご参加いただき誠にありがとうございました。

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