スタートアップにとっての「優秀な人材」とは

村上篤志氏(以下、村上):続いて、ここからいよいよトークセッションに入っていければなと思います。まずは今日のセミナーのテーマでもある、「(スタートアップにとっての)優秀人材」という話ですね。

藤岡さんの書籍(『スタートアップ「転職×副業」術』)では「良い人材」「優秀な人材」という言い方をされてると思うんですが、書籍のコンテンツからいろいろ拾っていければなと思います。

まず1つ、藤岡さんが書籍で書いている「『人軸』ではなく『イシュー軸』で採用しなさい」というところですね。具体的にどういうことなのか、簡単にご説明いただいてもよろしいですか?

藤岡清高氏(以下、藤岡):今日、参加されている方は、スタートアップ以外の方もいらっしゃると思うんですが、スタートアップ転職という前提でお話しさせてもらいます。

そもそもなんですけど、スタートアップって短期間で急成長を求められてイグジットをすることが前提なんですね。お金もあんまりないけど、株主もいて、短期で結果を出しなさいという方々です。

よくシリコンバレーで例えられるのは、「急降下してる間に飛行機を作って飛ばないと、地面に落っこっちゃうよ」と。だから、「落ちながら作って飛びなさい」と言われる状況なんです。こういう状況なので、スタートアップは急いでるんですよね。

学歴やパーソナリティよりも“重視すること”

藤岡:スタートアップが欲しい人は、ビズリーチがよく使っている「即戦力人材」です。入社したら2、3ヶ月後ぐらいには成果を出していることを求められます。会社側も「何を解決したいのか」を明確にした上で、それを解決できる人を採ります。

つまり、スタートアップが言う優秀人材とは、「会社の抱えている課題を短期間で解決できる人」なんですよね。にもかかわらず、僕があえてここに書いている理由は、日本って大企業の採用を引きずってる人が多くて。

大企業の採用って、学歴とか性格・ヒトの良さという軸で採用してますが、スタートアップの採用を突き詰めていくと、ぶっちゃけ学歴や年齢なんてあんまり関係ないというか。課題を解決できれば、日本にいようが年齢・性別がなんだろうが関係なかったりするので、「課題を解決できる人」がスタートアップにとっての良い人です。

たぶん、ここを理解せずに採用を進めているスタートアップさんだと学歴にこだわっていたり、今日はこういう場だからぶっちゃけて言いますけど、「GMARCHマーチ以上の人じゃないと雇いません」という会社は、だいたい間違ってることが多くて。「その学歴がないとできない仕事って何なんだろう?」と思うんですけれども。

村上:おっしゃるとおりですね。

藤岡:「人軸」は学歴とかパーソナリティの話なんですが、スタートアップはそれで採用するのではなく、「課題を解決できる人」にしっかり目をぶらさずに採用していくと、うまくいくことが多いとか、間違いを起こさない感じがしますね。

村上:そういうことでしょうね。

採用戦略は、スタートアップの成長スピードを左右する

村上:御社じゃなくて別の会社だとしても、どうしてもある程度採用能力を発揮するような、汎用的に優秀な人を欲しがってしまいがちですが、そうではなくて今の自社に必要な人材を採用していく。

開発が課題なのか、営業が課題なのか、組織作りが課題なのか、ブランディングが課題なのか、いろいろあると思うんですが、論点を明確にして、それを解決する人を採る。まずはそのイシュー軸での考え方を持つ。スタートアップにとって万能的に優秀な人材というのは、本来はいないはずだと。概念としてはそういうことですよね。

藤岡:そういうことです。これがわかっているだけで、会社の成長スピードがぜんぜん違うんです。東大卒のマッキンゼーで20代の人は優秀なんだけど、スタートアップで即戦力になるのは、たぶんちょっと時間かかるんですよ。きっとパフォーマンスはするんでしょうけど、タイムラグはあります。

スタートマッキンゼーにいたからといって、プロダクトマーケティングができるわけじゃないし、SaaSビジネスの0→1ができるわけじゃなくて。キャッチアップしていけばできる可能性はあるけど、たぶん時間はちょっとかかる。

ただ、SaaSビジネス経験者を採れば、たぶん3ヶ月以内には形にしている。この繰り返しが会社の成長スピードを変えていくので、採用軸を明確にする。「これができる人」「これをしたことがある人」というふうに採用するといいと思います。

村上:ありがとうございます。

「優秀だけど短期間で辞めちゃった社員」が生まれる原因

村上:(スタートアップにとって優秀な人材の)1つ目が、「イシューを解決できるスキルがある」というところかと思います。プラス、藤岡さんの書籍には「ビジョンへの共感」「社員との相性」も書いてありますが、このあたりも藤岡さんから見て必要な要素ですか?

藤岡:そうですね。補足すると、特に1番、2番は必須なんですよ。よく「スキルなんですか? ビジョンなんですか?」って言うんですけど、特にアーリーフェーズ、創業期に近づけば近づくほど、両方のどちらかじゃなくて2つとも必須です。だから、アーリーフェーズのほうの採用が難しくなってくるんです。

レイターフェーズとかになってくると、マニュアルや仕組みで、地頭が良ければ回るようになってくるので薄まっていくんですけど、基本的に僕はスタートアップという定義で話してるので、これは両方必須です。

ここにいらっしゃる方も、ある程度ご理解いただいてると思いますけど、会社ってビジョンありきで始まってるんですよね。

村上:特にスタートアップはそこが強いですよね。

藤岡:「あそこに行こう」と決めて会社は作られているのに、「あそこに行こう」に共感できてない人が入ると、モチベーションが上がらない。

僕は本でも船に例えていますが、船に乗って目的地に行く時に、「台風が来たから道を変えよう」「クジラが来たから道を変えよう」とかあると思います。

目的地がわかってればピボットするというか、方向変換してもわかるんだけど、目的地がわかってないと「なんでうちの社長はやることや方向性がコロコロ変わるんだ」という話になっちゃうんです。ここがないと、どんなに優秀な人でもモチベーションが持ちません。

みなさんの会社でも、「優秀だけど短期間で辞めちゃった社員」を周りで見たことがあると思うんですけど、つまるところこれなんですよね。自社のビジョンに共感できるかどうかは必須で、それに対してスキルもあるのが最強です。

「仲が良いか」よりも「一緒にやっていけそうかどうか」

藤岡:完璧な人はなかなかいませんが、会社の状況次第ではビジョンがマストだと思います。スキルは、時間をかけたり地頭があればキャッチアップできるので、いわゆる高学歴層を採るのがいいんだけど、ベストはやはり両方ですね。

1番(「イシューを解決できるスキル」があるか)、2番(自社のビジョンに共感できそうか)は必須という前提で、「誰を船に乗せるか」という話をします。

『ビジョナリー・カンパニー2』では「誰をバスに乗せるか」というのがありますが、同じ狭い世界にいるので、仲が良くなかったり喧嘩しちゃうような感じだと、船の中で内部組織崩壊が起こってしまいます。なので、「一緒にやっていけそうか」を見ていくのはとても大事です。

もしかしたらあとで話すかもしれないんですが、仲が良いかどうかはぶっちゃけどうでもよくて、「一緒にやっていけそうかどうか」なんです。考えやバックグラウンドは違ってもいいけど、(大事なポイントは)お互いに尊重できるかどうかですね。

「こいつとは絶対に(仕事)したくない」というのはダメなんですけど、「なんかこいつ変なやつだけど、一緒に仕事していけそうだな」という感覚を持てばいいので、面接プロセスでいろんな人をしっかり巻き込むのがとても大事かなと思ってます。

村上:なるほど、ありがとうございます。

“似たような人”を集めた組織がぶつかる壁

村上:「ビジョンに共感する」とか「相性」って、大手企業も含めて一般的に言われがちなポイントではあります。

特にスタートアップだと、壁にぶつかったり、絶対にうまくいかないことが多々ある中で、そこを乗り切るためには「会社のビジョンに共感している」というのがないと、「やーめた」となっちゃうので、特にビジョンへの共感が大事だと。

あと、スタートアップは小さい会社なので、狭い世界は社員同士の協業・相性の重要性がより増す。ただの一般論というわけではなく、スタートアップだからこそ2番、3番は特に大事という話ですね。

藤岡:そうですね。

村上:相性の話もありますが、もう1つキーワードとして非常に印象的だったのが「カルチャーフィット」。

(「カルチャーフィット」は)スタートアップの採用でも聞きますけど、藤岡さんの書籍ではそうではなく「カルチャープラス」と言ってると思うんですが、この意図や思いを説明していただけるとうれしいなと思います。

藤岡:「カルチャーフィット」って、みなさんも使う方が多いんですが、(候補者を)「同じような人だ」と感じて採用してる会社はけっこうミスを起こすというか。セミナーだからぶっちゃけ言っちゃいますけど、よくあるのは慶応の人で集めちゃう会社とかあって。

村上:そういう、内輪で同じ人たちの集まりって好きですよね(笑)。

藤岡:これは一見良いようで、組織が30人の壁にぶつかる典型例なんですよね。例えば、同じ大学の人とか商社出身の人で集まると、阿吽の呼吸で仕事ができるので最初はいいんですよ。でもたぶん、だいたい30人の壁にぶつかります。

なんでぶつかるかというと、いろんなことが起こってきた時に、変化への対応力が弱まっていったり、組織拡大の壁になるんですね。

「カルチャーフィット」よりも「カルチャープラス」

藤岡:例えば、お客さんがどんどん変わっていって、「うちは男ばっかりだけど、女性も採らなきゃいけないよね」といった時に、男ばっかりで30人集めちゃった会社で31人目にを女性採ったら、なかなかフィットは難しいですよね。なので、最初から違う人を採っておかなきゃいけない。

あと、日本人だけの会社は多いけど、お客さんが外国人との取引をすることを想定してるのに、30人まで日本人だけでいきなり外国人を採ると社内がバタバタしちゃいます。外国人とお客さん(取引を)するってわかってるんだったら、30人までの間に外国人比率を50パーセントにしておくとか。

村上:その事例、書籍にも書いてありましたよね。

藤岡:そうなんです。ここで言いたいのは、30人の時にけっこう組織が決まると言われていて。(もうすでに従業員数が)30人以上になっちゃった会社がいたら申し訳ないんですけど、まだ修正はできなくはないと思います。30人の時に多様性があると、30人の壁、100人の壁を余裕で越えていくんです。

だから30人の段階で、属性、年齢体、属性、バックグラウンドがありたい姿に近づいていることがとても大事です。その時に「カルチャーフィット」とか言って、同じような仲の良い人ばっかりを集めちゃうと、変化しづらくなってしまう。

この時に大事な考えが「カルチャープラス」です。目的地を共感してるんだったら、あえて考え方やバックグラウンドがさまざまな人を入れる。

30人、500人、1000人の時になっていたい姿の“小宇宙”ができていると、スムーズに成長していきます。30人の壁って(原因が)だいたいそこなんですよね。

村上:そういうことですね。確かに、同質性の高いスタートアップさんって時々拝見しますよね。

藤岡:同じ人たちが20、30人いると、違う人を弾いちゃったりします。結局、それが会社の壁になっているので、変われなくなっちゃうんですよね。

多様な人材を採ることで、乗り越えられる壁もある

藤岡:30人の壁や100人の壁って、多様性で解決できることがけっこうあったりするので、早いうちから多様性のある組織にする。カルチャーフィットよりもカルチャープラス、自分たちにない何かを持った人たちを採りながら、目的地を共有する組織体制にすることが、実は予防策としてはすごく大事かなと思ってます。

村上:私が実際にお手伝いしている、かなり企業規模が大きくなって成長したスタートアップ企業さまの社長の方で、採用する時に意識しているのがすごくおもしろい概念だなと思ったんです。

「丸いテーブルをイメージして、こっち側の人を採ったら、逆サイドのちょっと外れた人を採る。またこっち側を採ってみて、バランスが崩れないかを見ながら徐々に広げているんだ」という言い方をされていて。

そういう感覚で、多様性の幅を徐々に広げていくような採用を意識されているんだなと聞いて、おもしろいなと思いました。実際にそのとおり、かなりバックグラウンドが多様な方が入ってはいるんです。

ぜんぜん(カルチャーとは)違う方をいきなり採ると、なかなか馴染めなかったり、ハレーションが起きたりするじゃないですか。徐々に逆サイドの人たちを増やして・広げていくという概念をおっしゃっていた社長がいて、非常にこの話と近しい考え方だなと思いました。

藤岡:考え方は基本的には一緒だと思いますね。たぶんその社長は、30人の時の“お盆の上”のバランスを常にイメージされているので、お盆の上の配置がそうなるように順番に配置している感じですよね。

村上:おっしゃるとおり、そういう感じだと思います。それをイメージされているのは非常に勉強になりました。ありがとうございます。