コーポレートの社員が「社員のための仕事」をするには

西田圭一氏(以下、西田):(サテライトグロース戦略と)同時に、KDDIの経営陣からは、ガバナンスの強化と人財ファースト、人を育てることも非常に期待されています。

なぜシェアードサービスを立ち上げたかと多くの方に聞かれます。私自身、先ほどのケーブルテレビの子会社での経験はありますが、タイミングが大きかったと思います。今だから、これができている。

特にテクノロジーです。クラウドとSaaSがこの数年で劇的に進化をしています。その話は後ほど詳しくまたお話しさせていただきますけども、本当にこのタイミングが良かったと思っています。労働事務集約型だったコーポレートの仕事が、ドリーム・アーツさんの「SmartDB」で(大きく変わりました)。

最初に触った時に感動したんですが、「SmartDB」をはじめとする多くのSaaSを組み上げることで、システムの方に頼まなくても、我々業務をやっている人自身で作れる。このすばらしさをぜひみなさんに伝えたいなと思います。

ただみなさんご承知のとおり、この中に管理部門の方がどれぐらいいらっしゃるかわかりませんが、コーポレート管理部門の人は本当に評価がされにくいんですよね。守りをしているし、何か売上を取るわけでもないし、目立ったことができないので、なかなか会社の中で評価されない一面があります。

(だからこそ)デジタル化とシンプル化と自動化(が必要です)。人がやらなくていい仕事をそちらに寄せて、例えば毎日毎日残業しているとしたら、その時間の半分を自由な時間にできた時に、初めてコーポレートの社員は「社員のための仕事」ができると思うんです。

人にしかできない仕事はたくさんあると思います。それが価値貢献なのかなと思っています。

うちの社員たちはもちろん、いろんな会社さんのコーポレートの方々とお話ししていても、本当にコーポレート部門の社員はコツコツまじめにやっています。そういう人たちに光をちゃんと当てて、彼らがプライドを持って自分たちの仕事を変えていける。そういう時代が来たんだなと、直感的に思っているところです。

「利他の心」で変革にチャレンジ

西田:ドリーム・アーツさんをはじめ、「利他の心」で変革にチャレンジしてきました。スキルで実際に仕事を回しながら、うまく時間を作ってノーコード・ローコードを勉強している人たちが増えてきています。そういう仲間は本当にたくさんいます。

私のコーポレートシェアード本部では大きく業務が4つあります。経理と購買、それから人事。このへんは鉄板ですけれども、それ以外に会社運営基盤というサービスを提供しています。フルクラウドで専門性の高いそれぞれのツールを導入する一方で、共通するもの。例えば稟議決裁であったりワークフローであったり、いろんなものがありますよね。こういったものもお客さまと一緒にデザインをして提供しているかたちになります。

特にドリーム・アーツさんには、会社運営基盤の部分をお手伝いしていただいています。「SmartDB」、略称「スマデビ」と呼んでいます。「スマデビ」はKDDIでもどんどんユーザーに浸透していて、自分たちで業務を作って変えていけることに魅力があると思っています。

ただSaaSを導入して提供するだけではなく、ドリーム・アーツさんとは協創パートナーとして、一緒に業務をデザインしたり、我々のグループ会社にいろんなサービスを企画・提案していただいています。

それこそ一緒に稟議システムを作っています。稟議システム、みなさんの会社はどうでしょう。私どもの会社ではもう何十年もの歴史の稟議の制度があって、どんどん複雑になって、どんどんルールを増やし、もし稟議を通すための社員の全部の時間を換算したらいったいどれぐらいの時間を使っているんだろうというほど、まだまだ意思決定に時間をかけすぎているところがあります。

「SmartDB」を得て、このプロダクトの可能性を信じて、KDDI本体の稟議システムも変えていこうというプロジェクトも今立ち上げたところです。本当にがんばっていきたいなと思っているところです。ほかのワークフローや問い合わせの関係の一元化にもプラットフォームとして役立ちます。

「データが集まってくる」価値

西田:繰り返しますが、業務を一番知っている現場部門のメンバーが、システムの方に頼らなくても自発的に市民開発できる「SmartDB」。それで業務をつないでいく、またはシステムをつないでいく。このことを地道に繰り返していった時に、結果的に共通基盤が出来上がる。

最初から大きなものを作ろうとするとなかなか難しいんですが、このアプローチはシェアードの中でも生きていると思います。SaaSを活用することで、シンプルで共通性を意識した業務プロセスが実現できますし、なによりもシェアードは会計データ、人事のデータ、購買データなど、いろんな会社のデータが集まってきます。

当然そこに関係するベンダーさんの情報など、いろんな情報が集まってきます。この「データが集まってくる」のが実はシェアードの価値で、何が最初に効用として出るかというと、ガバナンスです。ガバナンスが効くようになります。データが集まってくると、ABCで並べることができますから。ガバナンスに対しても非常に有効かと思います。

最後にリスキリングのお話をさせていただきます。今回のイベントのテーマになっておりますが、いろんな定義があると思います。私たちは、今シェアードで「コンサルティングの力」を必要としています。

先ほどのスマホ教室でご紹介したとおり、コンサルティングをしてあげる、問題を一緒に解決してあげるという姿勢ではなく、むしろ何が問題なのかをお客さんに教えていただけるかどうか。これに尽きるかなと思っていて、ここを「コンサルティング力」と呼んでいます。

真の原因があるのは、業務の「上流」の部分

西田:このリスキリング、さらに上流思考ですね。ダン・ヒースさんという方が『Upstream』という著書を出されています。『上流思考』という本なのですが、書かれている逸話がとても秀逸です。

大きな川が流れていて、あなたは近くの川岸に立っています。そうすると川の向こうから溺れた子どもが流れてきました。さて、あなたはどうしますか? 当然、助けますよね。濡れてでも助けます。1人を助けて、川岸にあげました。

ふと見ると、また上流から子どもが流れてきました。また助けに行きます。「よかったね、よかったね」、みんなよろこんでいます。ふと川を見ると、今度は10人の子どもが流れてきました。

……これはなんの例え話かというと、日々会社や組織の現場で起きている業務プロセスのことです。下流で待って助けるのか、誰かが勇気を持って上流に登って、橋の上から子どもを投げ下ろしている悪い人を見つけていくのか。

これは非常にわかりやすい話だなと思っています。下流でがんばっているだけでは限界があります。業務の上流部分に真の原因があるというのは、シェアードをやっていると実感します。

請け負っている業務だけではなく、そのお客さまの上流に入っていく。ここに価値があるし、当然そこでいろんな受注もいただけるという、つながりが出てくると思っています。個々の業務をただこなすだけでは、なかなか全体的な効率化は生まれない。そういう状態だと思います。

リスキリングとは「得意と得意を掛け合わせること」

西田:なおKDDIでは、けっこう議論があったんですが、かなり外注、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)化が進みすぎていて、社員の力が落ちているんじゃないかという意見が社内で挙がっていました。

一方で、若い優秀な社員たちのスキルを実際どう上げていくか。出た結果が、会社に大学を作ることでした。「KDDI DX University」という教育機関を作りました。(対象者は)全社員です。

1万4,000人の全社員のデジタルスキルの習得に加えて、専門領域については注力人財として、業務から2〜3ヶ月離します。上司に有無は言わせないです。仕事から外して徹底的にマインドセットからプログラミング、ビジネスのスキル、DXのスキルを叩き込んで、また職場に戻して実践させる。これを愚直に繰り返しています。

すでに400名以上の人がその専門領域で出てきていて、このあと出てくる横山さんも、その卒業生の1人になっています。ぜひ話を楽しみにしておいてください。

私なりに考えた「リスキリング」の定義は、「得意と得意を掛け合わせること」かなと思います。例えば10人の職場で「俺が一番だ」と思っている人がいれば、10分の1の人ですよね。それに「実は『SmartDB』も使えるぜ」というのも10分の1だとします。そうすると10掛ける10で、100人に1人の人財になるわけです。

このような掛け算を考えていくと、従来型の専門領域が広がっていくT型人財よりも、むしろ最初から2つぐらいの軸を持っている人。「π型人財」と言われるようなのですが、そういう人を私は本部で作っていきたいと思っています。

一度辞めていった人が戻ってくる時代のリスキリング

西田:できればそういう人と一緒に働いていてほしいですが、これからの若い人はおそらく今の組織に留まっている時代ではないです。彼らがさらに外に出て行って活躍できることを前提に、リスキリングさせてあげたいし、また戻ってくればいい。

「アルムナイ」は卒業生、同期という言葉ですが、今は企業間でのアルムナイがどんどん増えています。一度辞めていった人がまた戻ってくる時代になっていますので、とにかくかけがえのない人財のために時間を作りたい。そのスプリングボードにシェアードサービスセンターがなりたいとも思っています。

ここでも向き不向きで考えるのではなく、前向きに考える。そのスピリットは必ず組織やグループ、年代の壁を越えていけると思います。正解はありません。このかたちが正しいのかどうかもまったくわからないのですが、この正解のないチャレンジにがんばっていきたいなと思っているところです。

最後に、今日会場に来ているみなさん、ありがとうございます。せっかくなのでエールを送らせていただきたいと思います。冒頭で、大阪の公民館のお話をしました。シニアの方一人ひとりはみんな違う。でも違っていていいし、年代や成長ステージもみんな違う。

そこで得た「わからないことを教えていただく」という姿勢の気づき。ガチンコになっている時こそ、このマインドセットがあるとうまくいくような気がするので、頭の片隅に留めていただければなと思います。

「利他の心」こそ、コーポレート部門の原動力になる

西田:あと、「強がりの仮面」です。みなさん、つけていませんか。私もついつい強がっちゃうんですが、本当に大事な時は仮面を外す。外して、関係性の質を高めることに集中すると、やりたい結果はついてきます。

結果から入ると、マイクロマネジメントになり、逆の負のループが回ってしまう。ですから「まず関係性の質」。これをぜひみなさんにお届けしたいなと思います。

国内100社、海外を含めると200社、まだまだ我々のジャーニーは続いていきますけども、(全社員が)自分の仕事に集中できるように我々は支援をしていきたいし、信頼され、助け合う状態を作っていければと思っています。

現場部門や事業を支えるコーポレート部門・管理部門は、他人の幸せ、喜ぶ顔、笑顔、「ありがとうね」と言われること。この感覚を喜ぶ「利他の心」こそが原動力になると思います。

あらためてコーポレート部門のスタッフのプライドを、もう1回取り戻していきたいと思っているところです。

最後にシェアードサービスセンターの話を差し上げましたが、SSCと略すことが多いです。うちのスタッフの1人から、「我々のシェアードはSSCなんですけど、幸せをシェアリングするカンパニーですね」と言ってもらいました。

カンパニーは「会社」というよりも、オーケストラのように自立自走する「仲間たち」。幸せシェアリングカンパニーとして、今後もチャレンジを続けていきたいと思っています。

クラウドは道具、SaaSはツールでしかありませんが、これをきっかけにこんなにいろんなことができるということをぜひみなさんにお伝えしたくて、今日はお時間をいただきました。

コーポレートにとっては課題は伸びしろ

西田:本当に私は運がいいなと思っています。ここまでテクノロジーが進化して、ノーコードで、プログラムをせずにシステムが作れる。その時の感動を味わえる。

「生産性を上げろ」「効率化、効率化」と言われますよね。一方では「ガバナンスを高めろ」(とも言われる)。この相反するところをどうすればいいのか。これを(「or」ではなく)「and」でやれる、トレードオフではなくトレードオンでできる。それが新しいシェアードだと思っています。

ドリーム・アーツさんのようなパートナー企業とも出会えました。今日来ているみなさんの会社でも、規模に関係なく、コーポレートの仕事は一緒です。経理も人事も、みんなやることは一緒です。なので、ぜひ領域を超えてつながっていきたい、そう思っています。

今もみなさんの会社、もしかしたらどうかわかりませんが、昭和的な「紙とハンコ」や、エクセルをメールに添付をするバケツリレーで仕事をされていませんか? これはまだまだ課題だらけです。

ただ、コーポレートにとって課題は伸びしろです。ホワイトスペースはこれから変えられるところです。なのでみなさんと一緒に、新しい働き方と働きがいを作っていければと思っています。ありがとうございました。

司会者:西田さん、ありがとうございました。あらためて大きな拍手をお送りください。

(会場拍手)