自分が信じる“べき論”が怒りの火種になりうる

安藤俊介氏:さて、怒りに関してもうちょっとだけ知ってほしいことがあるので、それについてお話しをしましょう。先ほど、怒りが生まれるメカニズムは「べき」「はず」「普通」「常識」という言葉に注目するといいですよ、という話をしました。

怒りが生まれる仕組みは、ライターを模して説明することができるので、今からちょっと説明しましょう。

ライターで火を燃やすためにはどうすればいいかと言うと、まずは火打ち石をバチっとしたら火花が散るわけですよね。ガスライターであれば、火花が散ったところにガスを送り込むことによって、炎が大きく燃え上がるわけです。バチっと火花を散らし、ガスを送り込んで、炎を燃やす。これがライターの仕組みです。

じゃあ、それに「怒り」を当てはめるとどうなるかと言うと、炎の部分が怒りだと思ってください。先ほどお話しした「べき」「はず」「普通」「常識」「当たり前」というのが、火打ち石をバチっとすることに相当します。

なので、自分が信じている「~するべきである」「はずである」「普通」「常識」「当たり前」みたいなものが裏切られると、火打ち石をバチっと回して火花が散る状態になるんですね。

イラッとする時・しない時の違いはどこにあるのか

例えば、「時間を守るべき」と思っているのに遅刻してきたら、イラッとしてバチっと火花が散るわけです。でも、火花が散っただけでは炎は燃えないので、そこにはガスが必要なんです。

じゃあ、ガスはいったい何になるかと言うと、「つらい」「苦しい」「悲しい」といったマイナスな感情。それから、「疲れている」「眠い」「お腹が空いた」「体調が悪い」といったマイナスな感情・マイナスな状態がガスに相当します。

マイナスな感情や状態がすごくある時は、つまりはガスがいっぱいある時なんです。そうすると、火花が散った瞬間にガスを大量に送り込んで、炎が大きく燃え上がるんですね。

みなさんもこういう経験があると思います。同じように「べき」が裏切られたとしても、すごく頭にくる時もあれば、そうでない時もあるわけですよ。

先ほどから例に出しているような「時間を守るべき」が、相手が遅刻をして裏切られたとします。「遅れてすみません」と言われても、ある日は「ああ。いい、いい。じゃあミーティングを始めようか」みたいな感じになるのに、ある日は「お前、会議に遅刻するなんていったい何事だ!」と、すっごく腹が立ったりするわけですよ。

じゃあ、その違いはいったい何かと言うと、マイナスな感情や状態の量の違いなんですね。方程式にも例えることができるんですが、炎が怒りだとすると、「『べき』が裏切られる×マイナス感情・マイナス状態」なんです。

なので、怒りの炎を大きく燃え上がらせたくなかったら、できることは2つあります。「べき」が裏切られる回数を減らすことと、もう1つはマイナスな感情や状態を小さくすること。実はどっちかしかないんですね。

ムダな怒りに振り回されないための心得

僕らが専門にしているアンガーマネジメントは、「怒りをコントロールするアンガーマネジメント」みたいな紹介のされ方をするんですが、別に私たちって怒り自体はコントロールはしてないんですよね。なので、「怒りをコントロールする」って、実は表現としては正しくなくて。

私たちがアンガーマネジメントでやっていることは、怒りが生まれる前、それから怒りが生まれた後にどうするかなんですよ。だから、怒りが生まれることそのものをどうしようとは思ってないんですね。そこは(世間の認識と)ちょっと違っております。

怒りが生まれるメカニズムを知っておくと、「自分の『べき』って何だろうな?」ということがわかる。それから、自分の中にあるストレス、罪悪感、嫌だという気持ちや心配する気持ちが、大きいか・小さいかがわかっていく。

何か起きた時に自分がどれぐらいの炎が燃え上がるかがわかるので、予測ができるようになります。そうすると、ムダに怒ったり、怒りに振り回されるようなことはなくなっていくわけです。

あらためてもう一回整理をすると、自分が怒りという感情に振り回されたくなかったら、何を知っておけばいいかと言うと、このライターの図を覚えておいてください。

「べき」が裏切られることにより火花が散ります。でも、火花が散っただけでは炎は燃え上がらないです。じゃあそこには何が必要かと言うと、ガスが必要です。ガスとはいったい何かと言うと、マイナスな感情やマイナスな状態。これが掛け合わさることによって、怒りの炎は大きく燃え上がるんですね。

マイナス状態や不安への対処法

先ほど「自分の『べき』とか『はず』をチェックしておくといいですよ」という話をしたんですが、もう1個できるとするならば、「今、自分のマイナスな感情はどれぐらいあるの?」「マイナスな状態ってどうなっているの?」「それってどうにか改善できないの?」という、自分の状態の把握です。

今日はアンガーマネジメントが専門の話ではないので、いつかまた日をあらためて、アンガーマネジメントの細かな内容に関してお伝えする機会があればいいなとは思います。

すごく簡単に話をしてしまうと、不安が大きくて「ガスがいっぱいあるな」と思ったら、その不安を消したほうがいいわけです。

不安を消す方法とはどうすればいいかと言うと、不安のもとになる情報にアクセスしなければいいわけです。それから、単純に眠いんだったら寝ればいい話ですよ。マイナスな感情、あるいはマイナスな状態には対処のしようはあるんです。

もちろん難易度はあるんですが、対処のしようはあるので、対処していくことによってガスは小さくすることができます。

それから「べき」に関しても、「べき」を全部手放しましょうというのはなかなか難しいわけです。

なので、「いろんな『べき』がある中で、自分はこの『べき』は大事にしておきたい」という「べき」と、「ちょっと緩めてもいいかな、手放してもいいかな」という「べき」の線を引いていく。

自分が大切にしたいもの、あるいは放していいものの優先順位がわかってくると、「そんなことで怒らなくていいんじゃない?」みたいなところが出てくるんですよね。

パワハラ加害者は「そこまで悪いことをしているとは思ってない」

「コミュニケーションって何だろうね?」ということで、特に良好なコミュニケーションやミスコミュニケーションが起きる場合において、感情的なつながりの部分がすごく大事になってくる。

特にミスコミュニケーションにつながるのが、怒りという感情です。企業の場合であれば、パワハラなんかもそうですよね。もしかしたら、伝えようとしていること自体は正しいのかもしれない一方で、余計な怒りの感情に任せて言うことによって、残念ながらそれがパワハラになってしまうことは往々にしてあるわけです。

私たちは、パワハラ防止の研修や、実際にパワハラをしてしまった人に対する研修を数多くお受けしているわけなんですが、パワハラの行為者に共通して言えることは、「自分はそこまで悪いことをしているとは思ってない」ということです。

部下のためを思っているし、本当に会社のことを考えているし、指導だと思ってやった。ただ、伝え方やコミュニケーションの方法が悪くて、指導の範ちゅうを越えてしまっていることが、本当に残念ですが往々にしてあり得るんですね。

ですから、部下を責めたくてとか、会社を悪くしたくて怒鳴り散らす人なんて基本的にはいないわけです。「どうにか良くしたい」という思いの中で、コミュニケーションがうまくいかない。まずいコミュニケーションを取るがあまりに、パワハラや他のハラスメントが起きてしまうのが残念な点なわけですよね。

特にハラスメントにつながるようなものに関して言えば、怒りという感情は大きな鍵になりますので、前半の部分の「怒りという感情がどうして生まれるのか」という部分に関して、ぜひ覚えておいていただければと思います。

なぜか感情的になりがちな人の“伝え方”

さて、後半に入っていきましょう。「良好なコミュニケーションのための4つのポイント」。良好コミュニケーションとミスコミュニケーションに関してお話をしてきましたが、ここからはあらためてもうちょっと詳しくお話をしていきますね。

良好なコミュニケーションは、「伝えたいことが伝わりますよ」「伝えたいと思っていることが伝わりますよ」「リクエストが伝わりますよ」という話を冒頭でお話ししてきたんですが、それって具体的にどうすればいいかというと、4つのポイントがあります。

まず1つ目が「主にリクエストを伝える」。会社や仕事の中でのコミュニケーションというと、やはり指導の部分が出てくるんですが、指導においては「今どうしてほしいか」「次からどうしてほしいか」を伝えることを主目的に考えてください。

感情を伝えるのは後なんですね。「今、どうしてほしいか」「次からどうしてほしい」というリクエストを伝えるのがメインであって、あなたがいかに怒っているかを伝えるのは別にメインではないんですよ。感情というのは、ちょっとしたスパイスみたいなものなんです。

ところが感情的になってしまう人は、どうしても感情がメインになってしまう。だから、「なんでこの人って感情的に物を言ってくるのかな?」「何を言っているかわからない」という人は、伝えたいものが感情になっちゃっているわけです。

もちろん、自分が怒っているとか、悲しいとか、喜んでいるとか、うれしいといった感情を含めて感情を伝えるのはそうなんですが、特に仕事の場においては、それがメインではないんです。

伝えなければいけないのは、「今、どうしてほしいか」「次からどうしてほしいか」というリクエストです、その上で、ついでに自分の気持ちも伝えます、ぐらいの捉え方をしておいてください。

「自分の常識」と「相手の常識」が違うのは大前提

感情が先に立ってしまうと、特に指導の場においては、ハラスメントに非常に気をつけなければいけないです。ネガティブな感情全般が先に立ってしまうと、あまりいいコミュニケーションにはならないので、自分が何を伝えたいのか・どうしてほしいのか(リクエスト)が最初にくることが、良好なコミュニケーションの1つ目のポイントです。

そして2つ目が「双方の常識・価値観の違いの理解」です。こんなことは私が言うまでもなく、自分の常識は相手の常識ではないと、みんななんとなくわかっているんですね。でも、つい自分が何かを伝えようとすると、「自分の中では当たり前になっていることが、相手には当たり前ではない」ということを忘れてしまうんです。

だから、「常識」とか「当たり前」というのは前提条件なんですね。みんなが同じ前提条件に立っていると勝手に思っているのは、そもそも常識ではないわけです。みんな違うんですね。

特に今は「みんな違ってみんないい」を社会として推し進めようとしています。ですので、自分の常識は相手の常識ではない。自分の価値観、特に自分が正しいと思っている価値観は、相手にとっては別に正しくもなければ優先順位が高いわけでもないことを理解しておかないと、コミュニケーションはうまくいかないです。

例えば、「『報告する』って何よりも大事じゃない?」というのを当たり前と思っている人もいれば、「別に、報告する前に問題を解決できればいいんじゃないですか?」「結果を出せばいいんじゃないですか?」と思っている人もいるわけです。

良好なコミュニケーションを行うカギ

もちろん、自分の常識は自分の常識として大切にすればいいんですが、一方で「自分が今、向き合っている相手の常識や価値観って何だろうな?」ということを考えるのはすごく大事なんですね。

その時にまた注目してほしいのが、「べき」「はず」「普通」「常識」「当たり前」です。これらは、自分の価値観を象徴する言葉の1つなんですね。

「~はそうすべきだよね」「〜はずだよね」と言っているとすると、それは自分の常識や理想であって、相手の理想・常識とはちょっと程度が違ったりもするわけです。

自分の常識が、果たして本当に相手にとって常識なのかどうなのか。それをどうやって確認すればいいのかというと、相手の言っているコミュニケーションや会話の中で、「べき」「はず」「普通」「常識」に注目をしてほしいんです。そうすることによって、自分自身を理解することができるし、同時に相手も理解することができます。

ふだんから僕らは、「べき」「はず」「普通」「常識」「当たり前」を日々チェックしているわけなんですが、そういった言葉に対して敏感になりますので、「なるほどね。この相手はそういうことが常識なんだな」「そういうものを大切にしているんだな」というのが理解できるようになります。