CLOSE

脱! 名ばかり管理職! 管理職が陥る13のジレンマ(全4記事)

新人研修は手厚いのに、なぜかそのあとは“放置プレイ” 「見て学べ」が横行する、日本企業の管理職が抱える課題

大企業・中小企業合わせて、新人以外の層に教育を施している企業は全国で22パーセントというデータが出ています。管理職が育たない原因や改善策について、株式会社PDCAの学校 代表取締役の浅井隆志氏が解説。新人研修は行われる一方で、管理職研修が進まない日本企業の現状や、多くの管理職が抱えている課題感について指摘します。

「名ばかり管理職」からどう脱却するか

浅井隆志氏:株式会社PDCAの学校代表取締役、浅井隆志でございます。簡単に私の経歴をお話しさせていただきますと、1976年4月生まれで、今年で46歳になります。

社会に出たのが18歳で、高校を卒業して一番最初に、家業である建築の職人をやりました。そのあと工務店の現場監督、リフォームの営業、不動産の営業、最終的には住宅の営業で営業統括になりました。

新卒採用、中途採用、社員の定着評価、業務フロー、営業フロー、営業戦略などなどを担いまして、30名ぐらいの会社を140名ぐらいの組織にすることができました。その体験・経験をきっかけに創業したのが2010年です。

もともとは営業系の教育研修がメインだったんですが、今は若手社員を早期戦力化していくために、マネジメントをどのようにしていくのかという管理職への教育や、若手向けの教育。それから、企業さまにしっかり入り込んだ伴走型でコンサルティングをさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。

本日は「管理職が育たないのは誰のせいか」ということで、名ばかり管理職をどうやって脱却していくのか、なぜ名ばかり管理職か増えるのかという背景もお話させていただきます。

私は今、特にコンサルティング活動がメインではございますが、数多くの中小企業の管理職の方と温度感のある会話をさせていただいています。どういうところに悩み、何が障害になってるのか、少し理論も交えながら今日はお話をしていきたいと思います。

日本の管理職の9割以上はプレイングマネージャー

管理職はなぜ育たないのか、育っていないのか。管理職が陥る13のジレンマ。このあたりは、私の現場の体験・経験を交えてお話しします。管理職の育成を促すことは、最終的には若手の育成を推進していくものだと考えております。

まずはこの数字からお伝えしたいと思いますが、上場企業の管理職の95.8パーセント、中小企業の管理職の97.5パーセントということで、実は日本の管理職はほぼプレイングマネージャーです。ここが、管理職の仕事の中で、部下を育成することがなかなか進まない理由の1つであるかなと思います。

少しだけ日本企業の文化についてお話をさせていただきます。そもそも日本の企業はどう成り立っているかというと、「プロパー文化」が根強くあります。

毎年、毎年、新卒を採用して、会社内でいろいろな教育訓練や現場指導を重ねていきながら、仕事ができるようになっていくというステップアップが、現状も続く人材育成の文化と言いますか、企業文化としてあります。

ちなみに僕がコンサルティングの活動をし始めて、もう約13年が経ちます。いろいろな企業さまや社長とお話をする機会があるんですけど、3年目ぐらいで気づいたのが、社長ってプロパー出身が多いなと思ったんですね。

テレビで「日本マクドナルドのCEOがどこどこのCEOを務める」みたいなニュースばっかり聞いてるので、なんとなく大きい会社の社長は経営者業の人がやってるのかな? という認識あったんですが、いろんな会社の社長とお話をしていると、プロパーが多いなと思いました。

プレイヤーとして優秀な人が管理職になる

調べたんですが、日本企業の社長はほぼ会社に新卒で入って叩き上げという、いわゆるプロパーだったんですね。これは日本の会社の独自性というか、会社の中でしか通用しない。逆に言うと、その会社が持っている強固な風土や文化でポジションになってきたという背景があると思います。

これが管理職にどう影響するのかというと、「社長もプロパーで叩き上げになった。だから、あの社長の言うことは間違いない」という背景が、トップマネジメントにおいてある程度影響力になっているということですね。

管理職においても、「プロパーから叩き上げてきた管理職だから、その業務ことは誰よりも知っている」という背景があって、マネジメントを進めていく影響力につながっていくと思います。

逆に言うと、他の会社から優秀な管理職を連れてきて、「マネジメント能力があるから、今度うちの部門のマネジメントをしてもらいます」といった時に、メンバーである社員が納得するかというと、日本企業の文化としてはなかなか受け入れられない。こういう心情的なところもあるなと思っています。

これはいいところもあると思いますし、弊害もあるとは思いますが、対極にあるのはアメリカで、どちらかというとジョブ型です。

日本はどちらかというと叩き上げていって、年齢と社歴と周りの信用がそこそこで、その仕事の能力があるから管理職になるというパターンがほぼほぼだと思います。そうすると、プレイヤーとして優秀だからこそ管理職になる。

じゃあ、管理職の業務に専念してプレイヤーの仕事を手放しにしてしまうと、部門や部署の成果、スタープレイヤーの成果がゴソッと抜け落ちてしまうと困るので、管理職の方にも引き続きプレイヤーの責務は担うという実情があるかと思います。私も中小企業の経営者ではありますが、やはりプレイヤーとしてやっております。

大きな仕事は管理職が巻き取り、結局部下が育たない

じゃあ、そもそも管理職務の役割は何か? というところなんですが、まずはチームや会社全体の業績や成果を出していくことと、部下の人材育成の責任。3つ目は、管理職員研修で意見交換をしてもなかなか出てこないんですが、今は部下の保護管理責任も問われております。

以前、電通の事件・事故がございましたが、今や体の健康管理だけじゃなく、部下のメンタルケア・心の健康管理も、実は管理職が担うところです。

前段でお話ししたように、どうしても業績や成果にフォーカスしがちになってしまって、指導育成責任や部下の保護管理責任が、なかなか後手に回っているんじゃないかなと思っております。

管理職としては、「プレイヤーとして成果を出してるから、まあいいでしょう」というところが、やはりあるんじゃないかなと思っております。

ちょうど先日、僕がコンサルをしている(従業員数)300名ぐらいの会社さんの本部長、いわゆる役員の下にいらっしゃる現場のトップの方とお話をしていました。そもそも本部長とは事業部の部長ですので、「事業展開や事業の方向性を考えて作っていくのが、本部長のあるべき姿ですよ」というお話をさせていただいたんです。

結局、会社の業績を支える大きい案件や難しい案件は自分(管理職)しかできない。逆にいうと、社員たちに負担をかけないためにも、自分が数字を作る第一線であるべきだという考え方だったんですね。

これはすばらしいなと思う一方で、自分で全部をやってしまっているという側面もありますので、結局はいつまでたっても部下が育ってこない。その会社さんの課題は、まさに部長の人たち・エキスパートなんですね。

「現場のマネジメントが進まない」という現状からの脱却

プレイヤーとしてすばらしいエキスパートなんですが、課長の人すらも、マネジメントもプレイヤーとしても、実はまだまだ「課長職」なんです。

一般社員に置き換えて考えていくと、育成や成長のスピード・生産性は、なかなか上がっていない現状があります。

企業として「成果を上げていかなければいけない」というのは、どうしても果たさなければいけない部分でありますが、そこだけにフォーカスしてしまっているのが今の現状かなと思います。

「日本の管理職の昇格の事実」ということで、すでにご説明をさせていただきましたが、管理職として必要な能力が備わってるから管理職になるわけではなくて、どちらかというと、プレイヤーとして成果が出たから管理職になるということです。

ここでは1つの決断が重要だと思っています。先ほど3つお話をさせていただきましたが、「業績・成果」「部下の育成指導の責任」「部下の保護管理責任」ということで、管理職は管理職としての責務があるわけです。

「プレイヤーとして成果を出していて、そこそこの社歴と年齢があるから、それなりのポジションをつけなければいけない」という基準や雰囲気があるのでしたら、会社判断として「1人課長」とか「1人部長」でもいいかなと思っています。

逆に、プレイヤーとして成果を出してきた過去の歴史があるからといって、マネジメント能力がない人に無理してポジションをつけて、部下を持たせなければいけないというのが、まずは1つの間違いなのではないかなと思っております。こういう方針を転換して、「現場のマネジメントが進まない」というところをなくしていく考え方が1つ。

管理職の教育は、まだまだ「見て学べ」の世界

もう1つは、「管理職にそもそも何が必要なのか」をきちんと管理職の教育をしていく。

漠然と「管理職としての役割を全うしましょう」ということではなくて、「うちの会社の部長としてはこの業務が大事です」「うちの会社の課長としては、成果だけではなく、部下に対するこういう役割を担います」というところを、しっかり明確にすることが大事かなと思います。

新人教育はだいたいどこの会社さんでもやっていて、約98パーセントは実施するなんて言われております。ただ、社内勉強会・社外の研修も含めまして、中堅社員、それから管理職のトレーニングにつきましては、大企業まで含めて22パーセントしか教育をしていないという事実もあります。

おそらく今、みなさんは「新入社員に対する教育で『見て学べ』というのはおかしいよね」という感覚は、もうお持ちいただいてると思います。僕はザ・昭和なので「見て学べ」という世界だったんですが、若手の早期戦力化を考えていきますと、「見て学べ」は時代錯誤です。

実は管理職も、「見て学べ」がまだまだ横行しているんじゃないかなと思うんですね。ようやく若手には「インプットや教育の仕組みが大事だ」という認識が広まってきた一方で、管理職に対する教育や指導は「見て学べ」が多いんじゃないかなと思います。

新人研修はあるのに、管理職のOJTはない

逆にみなさんに質問させていただきたいのは、例えば新入社員であれば、会社の勉強会や社外研修とか、いろんな取り組みがありますよね。教育指導のトレーニング含めて、OJTもありますが、管理職員に対しての教育とか管理職のOJTってみなさんの会社ではやってますか?

新人だったら絶対にOJTをやりますよね。先輩が同行するとか、上司が同行するとか、横について一緒に仕事を見てあげて、フィードバック・アドバイスをしてあげる。

にも関わらず、プレイヤーと管理職の仕事はまったく別物なのに、管理職のOJTはないんですよ。だから管理職の方は、「自分がされたマネジメント」を繰り返すしかないんですね。今の若手や時代にマッチしていない、(管理職自身が)受けたマネジメントを繰り返していったら、弊害でしかないですよね。

ちなみに先日「管理職としての悩みを相談する人はいますか?」というアンケートをとりましたら、「相談する人はいる」は17パーセント、「いない」は83パーセントですので、やはり社内のコミュニケーションにも問題があるんじゃないかなと思います。

ちなみに「管理職としてどんな悩みがありますか?」と聞きますと、半数以上の方は「部下の育成」に直面してるんですね。「自分たちの世代と(今の)若手の価値観は違うな」ということは、薄っすら勘づいています。

最近はこの弊害もあるなと思っているんですが、なんでもかんでも「ハラスメント」なんて言われてる風潮がありますよね。厳しく言っていいのか、優しく言ったほうがいいのか、褒めたほうがいいのか、かなり悩まれている方が多い印象がございます。

部下の育成で悩んでいる管理職の“本音”

一方で、ちょっとおもしろいなという真逆の答えが出たんですが、「部下の育成に対して自信がありますか?」という質問に対して、「悩んでます」が半数以上。ただ、「自信があります」が8割近くいらっしゃる。そもそも、この逆転現象はいったい何なのかな? というところなんですね。

部下が育たないことには悩んでいるが、管理職の本音として、昨今の若手は「受け身」「指示待ち」「チャレンジしない」「意識が低い」「ストレス耐性が低い」。

何が言いたいかというと、「自分は悪くない。部下が悪い。自分はちゃんとした指導をしてるんだけど、受け手側の若手がちょっとイマイチなんですよね。こういうどうしようもない、責任感や危機感がない若手はどうしたらいいんですかね?」みたいな感じです。

それから「なんとなく指導」。「『監視役』の上司が蔓延」と、先ほど言った「管理職向けのOJTが皆無」が、一番の“ガン”になっているんじゃないかなと思っております。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • 10点満点中7点の部下に言うべきこと 部下を育成できない上司の特徴トップ5

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!