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愛とテクノロジーとブランディング【第1部】(全2記事)

進化のスピード優先なら部署ごとの守備範囲は「ざっくり」がいい 「LOVOT」開発者が語る、組織内にコントロールできるカオスを残す意味

経営者、事業責任者、マーケターからPRパーソン、デザイナーまで、業界業種を問わず、企画職の誰もが頭を悩ます「ブランディング」をテーマに、じっくり向き合う音声番組「本音茶会じっくりブランディング学」。今回は、『温かいテクノロジー』の著者で、家庭用ロボットLOVOTを提供するGROOVE X代表の林要氏をゲストに迎えた「愛とテクノロジーとブランディング」の回をお届けします。第1部の後半では、GROOVE X社のチーム作りの特徴などが語られました。

同じ開発でも領域ごとの仲が悪い理由

工藤拓真氏(以下、工藤):GROOVE Xさんは、どういうチーム作りなんですか?

林要氏(以下、林):今回の「LOVOT」の事業の骨格みたいなものは、どちらかというと私が考えていますが、事業全体の運営は、かなり有機的に多くの人が働いています。

簡単に説明すると、例えば開発の領域だと、クリエイティブとソフトウェアとハードウェアの3つの領域があるんですが、この3つの領域が、いかに一緒に働くのが難しいかは、メーカーで働いたことのある方は比較的理解がしやすいと思います。まぁ、仲が悪いんですよ。びっくりするぐらいです。

工藤:(笑)。

:例えばハードウェアの中にも、電気の領域と「メカ=機械モノ」の領域があって、メーカーだと仲が悪いわけですよ。別にみんなが「嫌な人」というわけではなく、みなさんすごく真摯に自分の領域を守るんですね。

「君にはここを任せた」と言われるので、すごい責任感で、そこで失敗しないようにしている。「失敗しないようにする」ってどういうことかというと、他からの外乱があったら、なるべくリジェクトしたほうがいいんですよね。

受ければ受けるほど、どんどん失敗の要素が増えていく。結果的に、それぞれの部署が、「あっちがやったほうが絶対に効率がいいのに、自分のところでやらなきゃいけない」ということがどんどん溜まっていって、お互い無理して仲が悪くなっちゃう。

工藤:うんうん。

:ただ、それも仕事の進め方がかなりしっかりと決まっている領域なら、うまくいくんですよね。

工藤:ちゃんと分担になっている。

:分担になっている。

組織内にコントロールできるカオスを残す

:それが難しいのが、「LOVOT」の場合は、日々誰が何をやるべきかが明確になっていくと言うか、日々、今までわからなかったことがどんどん見えてくるわけです。その度に、過去の仮説が修正されていっちゃうんです。

工藤:なるほど、そうか。

:そうすると、守備範囲もその度に修正しなきゃいけない。だけど、実際にはそれは不可能に近いくらいの進化の速度なので、そもそも守備範囲をざっくりとしか決めないで、何か問題が起きても、「みんなでリカバリーしようね」と言って、ちょっと緩くやる。

工藤:そこに緩さがあるんですね。

:緩さがあるんですよね。

工藤:おもしろい。

:それにはいい面も悪い面もあって。いい面は、各領域の仲が悪くなることを避けられるんですよね。悪い面は、責任分解が曖昧になる。なので問題が起きた時に、「この問題は、誰のどういうことによって起きたのか」が、明確になりきらない。

だけど、進化のスピードを優先するならば、それはある程度しょうがないカオスだと僕は考えています。

工藤:許容できるカオスだということですね。

:そうですね。ある種の「コントロールドカオス」という概念を持っていて、カオスであることは前提であると。これを整理しすぎると、結果的に組織間の壁ができてしまうので、「コントロールできる範囲のカオスはずっと残そう」ということで組織を作っています。

ロジックとエモーションの分担の話から入っていますが、例えばクリエイティブの人は、かなりエモーションの部分を大切にしている。

工藤:フィーリングを大事にしている。

:ソフトウェアとかハードウェアはロジックが大事で、そういったところでの役割分担ができていくんですよね。

「ここを変えなきゃいけないんだったらしょうがないよね」「じゃあ、どこで変える?」「うちで変えるのが一番早いね」ということを、お互い比較的スムーズにできるようになるのが、うちの組織構造になっています。

「WHY」と「イシュー」を行き来するプロダクトオーナー

工藤:おもしろいですね。そのコントロールドカオスを実現するには、単純な話、対話がすごく重要な気がします。

:対話はめちゃくちゃ重要ですね。

工藤:そこは、みなさんで話し合う場が定期的にあるのでしょうか?

:「基本はチームで決めようね」ということと、「チーム間は勝手にやってね」と言っています。

工藤:「勝手にやって」なんですね(笑)。

:「勝手にやってね」と(笑)。例えば、2領域間は「勝手にやってくれ」だけど、3領域にまたがると、急に複雑になる。こういったところは、ちゃんとエスカレーションして、上に決めてもらう。

それは僕になるわけですが、複数領域にまたがったり、ディスカッションが長引いたりすることは、僕に持ってきてくれと言っています。僕が全部正しく決められるわけではないんだけど、「イチローだって3割打者なんだから、3割でいいじゃないか」と(笑)。

工藤:すばらしいですね(笑)。

:「3割打者だけど決めさせろ」ということをやっています。

工藤:その時は、WHY的なものとか、イシュー的なものの整理がせめぎ合って決断される。

:そうですね。WHYとイシューの行き来はそんなに簡単ではないので、最終的には僕がそこを行き来しながら決めちゃう。

弊社には「プロダクトオーナー」という役割があって、その人たちは、まさにWHYとイシューを行き来するお仕事で、お仕事の優先順位を決めるんですよね。

工藤:なるほど。

:ROI……インベストメントに対するリターンが最大化されることを、優先順位の組み替えだけで行う役割です。これが僕以外にも、ソフトウェア領域・ハードウェア領域・アフターサービス領域にいるということです。

工藤:順番を組み替えることが仕事の方がいらっしゃる。

:そうですね。

工藤:毎回、昨日とは違う可能性が見えてきて、「センサー感度を上げるよりもこっちが大事だ」みたいなものが、日々出てくる。

:まさにそうですね。その人たちはすべての決定に説明責任を負っているので、WHYとイシューを行き来しながら説明しなければいけないというお仕事ですね。

工藤:なるほど。すばらしいですね。おもしろい。ますますこの温かいテクノロジーの話が聞きたくてしょうがない流れになってきました。

:ありがとうございます(笑)。

メカニズムに落として考える

工藤:あらためてお話をうかがって、一貫されているのは「サイエンスの本を選ばれている」というか。

『WHYから始めよ!』も「生物学だ」と言っていたりするので、本当のサイエンティストからしたら、「そうじゃねえよ」という話もあるかもしれませんが。安宅さんはサイエンティストの顔もお持ちだし、林さんの思考と一貫するようなところもあるのでしょうか。

:どちらかというと、やっぱりエンジニアなので、メカニズムに落として考えたいんですよね。

工藤:なるほど。

:例えば、いかにエモーショナルな意思決定だとしても、僕らが生物メカニズムとしてそれを意思決定するバックグラウンドが何かあるんですよね。その中には不安があるかもしれないし、興味があるかもしれないし、その他のものがあるかもしれない。そういったものを考えていくと、自然といろんなものはこうなると。

例えば、「会社が大企業病になる」と言った時に、大企業病を責めることは簡単だけど、そのメカニズムを知ると、責めるべきものではなくて単なる現象になるし、「その現象を構成しているものはすべて善意である」こともわかってくるわけですよね。

そうしたら、「善意の集合体をもうちょっと組み替えるだけで大企業病が解消される」みたいな話を考えるのが好きという感じですね。

工藤:その感情はこの本の全面に出ていますよ(笑)。

:(笑)。

工藤:ありがとうございます。では、いったんここで区切らせていただいて、次回は今年5月に発売されたご著書についてお話をうかがっていきたいと思います。

:ありがとうございます。

工藤:ありがとうございました。

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