「おむつを開けずに中が見たい」介護職の声から開発

宇井吉美氏(以下、宇井):こんにちは、abaの宇井です。私たちは、においで排泄がわかるセンサーを提供しています。きっかけは「おむつを開けずに中が見たい」という言葉でした。

まずはこの写真をご覧ください。30年前の老人病院の様子です。寝たきりで意思疎通の取れない高齢者に、ずっとおむつ交換をし続けています。そして、この様子は令和の今の時代もまったく変わっていません。夜だけでも、15時間以上もおむつ交換を職員さんはされています。その20、30パーセントは空振り。そして、尿や便が漏れれば洋服やシーツまで交換しています。

私たちは、おむつを変えてほしい高齢者と、おむつを開けずに中が見たい介護職をつなぐために、この「ヘルプパッド(2)」を開発しました。

このヘルプパッド、いつもどおり洋服を着て寝てるだけで、なぜか排泄してることがわかります。実はシートの中ににおいセンサーが入っていて、においで排泄がわかるんです。

実際のデモ動画を見てみましょう。尿に模した液体をかけていくと、においセンサーの値が上がって検知できるのがわかります。空気清浄機などに使われているにおいセンサーを使っています。

「なんだ、簡単そうじゃないか」って見えますよね。違うんです。人の排泄って、人ごと、日ごとにぜんぜん違うんです。このグラフを見てください。ぜんぜん形が違いますよね。私たちはこれを集めるために7年間、毎晩実験者を派遣して、正解データを集め続けました。それで作ったのがこのAIです。

「必要な時に必要な分だけ」、おむつ交換回数が半分になった施設も

本当は、今日はここにベッドがあり、ヘルプパッドもあるので、やはり私がここで排泄するのが一番いいんですけど……嫌ですよね。残念!なので、動画で我慢します。

今から私が排尿をします。見てください。排尿しますと、においセンサーの値が上がってきて……AIで検知しました。尿検知です。こういったかたちでやっています。

では、使い方です。まずこのふわふわマットの中にセンサーを入れます。次にこのカバーの中に入れます。最後に、こう寝て、終わりです。めちゃめちゃ簡単じゃないですか? これで終わりですよ? しかも薄いので、センサーがあることがわかんないんですよね。

じゃあ次に、排泄通知を受け取ってみましょう。まずログインします。ログインをすると、ヘルプパッドを敷いている人全員がわかります。色がついている人が排泄をしている人です。もう全員(おむつを)開ける必要なんてないんです。色がついてる人だけ行けばいいんです。終わったら対応ボタンを押せばいい。これによって、定時でおむつ交換に行っていたものが、必要な時に必要な分だけで済みます。

このヘルプパッドを使っておむつ交換回数が半分に減った施設さま。皮膚の状態がすごく良くなった施設さま。そして、データが蓄積されると予報を出すようになります。排泄予報です。そのおかげで、そもそもトイレに連れて行けるようになった、そういった施設さまも出てきています。

体に機械をつけない「シート型センサー」に苦戦

他社はどうしているかというと、体に機械をつけます。もしくは便の検知ができない。どれも片手落ちです。我々は便検知ができて、体に機械をつけない製品です。

そんな私たちも最初は苦戦しました。これは初号機です。最初は、シート全体で空気を吸い込んでいました。そうしたらどうなったか。シートとこのグレーの機械の中すべてに尿便が詰まってしまって、職員さんたちに洗わせてしまってました。

だから、今回のヘルプパットは空気を吸うことをやめました。空気を吸うことをやめたので、めちゃめちゃメンテナンスが簡単になりました。大幅改良に加えて、特許も出願済み。もう追従できる企業は基本的にいないです。

とはいっても、汚れていく製品なので、我々はマットとカバーだけは交換をしていく、ハードウェアで珍しいサブスクモデルを提供しています。介護業界は(基本)売り切りモデルなんです。こんなこと、今まであり得ませんでした。

初月10万円、それから月数千円いただいたとしても、1年ほどでヘルプパッドの費用はペイしてしまいます。今、予約がものすごい殺到していて、もうすでに設置都道府県は20以上です。ちなみに、地方からの問い合わせが多いです。「どうせ来ない人間に採用費をかけるんだったら、ヘルプパットを買いたい」。地方の施設の方はみんなそう言います。

それだけではありません。ノルウェー、シンガポール、世界からもすでに問い合わせが来ています。当然ヘルプパットが広がれば、データ量も急上昇。データ保有量ももう誰にも負けません。データが集まればAIの精度はますます良くなり、個別ケア、予測の介護、そして一人ひとりに合わせた必要な時に必要なケアができるようになります。

「シート型」に織り込まれた、日本の介護職さんの理念

それだけで終わりません。プロダクト進化はまだ止まらない。まず今回、尿と便を識別できるようになったのは、世界で私たちabaだけです。これのおかげで便を早く駆けつけてあげることができる。それだけじゃなくて、最後は「病気を見つける」というところまでいきます。体調が悪い時、尿便のにおいって変わりますよね? あれをテクノロジーで実現するんです。

年間市場規模です。国内20パーセントの対象者に届けただけで、年商150億円。その後、海外も入れて4.5兆円です。みなさん、4.5兆円ですよ? ヘルプパッドだけで。それもそのはず、世界の市場規模は300兆円。日本の市場だけでも30兆円がケアテック市場なのです。

大学で介護ロボットを研究開発し、その後3年間、土日に介護職をやってきた私たちだからこそたどり着けた15年です。世界の介護者9億人、日本の介護者900万人。人類総介護時代なんです。

ところでみなさん、なんでヘルプパッドってシート型してると思います? 世界中でシート型は私たちだけなんです。

それは、日本の介護職さんが「絶対に機械を体につけたくない」「生活支援の場でそんなこと絶対にしてほしくない」と言ったからなんです。このシート型には、日本の介護職さんの理念が織り込まれているんです。

家族介護者になって、「こんなもん人間がやることじゃない! 介護ロボットを作りたい!」と思って自暴自棄になっていた私に、介護のすばらしさを教えてくれたのは、日本の介護職さんです。このシートは日本の介護職さんの分身なんです。

地方の人材不足を解決し、世界でもう一度競争力を取り戻す力がヘルプパッドにあります。日本の介護、日本の技術で世界に発信します。abaの宇井でした。

(会場拍手)

司会者:プレゼンありがとうございました。