成果をとらえる軸としての「種類」と「レベル」

伊達洋駆氏:続いて私からお話をさせていただきます。

「成果とその評価をどう行うのか」を3つの観点から読み解いてみる。これが私の講演のテーマになっています。それぞれ異なる次元の3つの話を論点として出させていただきます。より実践に寄り添った話ですね。

1つ目に「仕事の難易度で成果のレベルを定める」という観点についてお話しします。まず「成果」とは何だろうかと考えた時に、成果をとらえる軸として「種類」と「レベル」があります。

さっきに黒住さんのお話もあったとおり、成果にはさまざまな側面があります。成果には、いろんな構成要素・種類があります。これが「種類」です。それに対してそれぞれの種類の側面がどの程度の高さなのか。「レベル」という軸もあるわけです。

これはイメージで見るのが一番わかりやすいと思います。例えばタスクパフォーマンスとコンテキストパフォーマンスは、種類です。他方で、「タスクパフォーマンスが低い」という状態から「中ぐらい」「高い」という感じで、レベルもあるんですね。この種類とレベルの組み合わせで、成果を評価していくことができます。

そう考えると、黒住さんが紹介してくれたパフォーマンス研究は、成果の種類について深く掘り下げている議論だと理解することができます。黒住さんが挙げてくれた8つの分類、2つの分類、3つの分類。いくつかの分類で種類を出してもらったんですが、いろいろな分類の仕方があるんですね。

ここにもパフォーマンスに関する細かい分類があって1個1個は読みませんが、「パフォーマンスの種類としてこんなものが挙げられてますよ」というのを紹介します。例えば「目標と計画を立てて、不測の事態に備える」というパフォーマンスもあれば、「社外に対して良い組織イメージを示す」というパフォーマンスもあります。

パフォーマンスには本当にいろいろな種類があることが、これまでの研究で示されているんですね。(スライドの)こんな感じで「その3」まであるぐらい。(数えると)2、4……6個なので、18個の種類があるわけです。

「仕事の相対的な難易度」をレベルとして設定してきた

パフォーマンス研究を見ていくと、今まで成果の種類については掘り下げられている。その一方でレベルはどうなんだろうかと考えると、レベルはなかなか難しい問題なんですよね。どうなれば高いと言えるのか。これって絶対的な基準があるわけではなく、必ずしもパフォーマンス研究で十分に検討されているわけではないんです。

これでは困ってしまいますよね。成果を評価する時には、種類だけではなくてレベルも考慮する必要があるからです。このレベルの問題をどう考えていけばいいのか。少し検討していくために、日本企業が種類とレベルに対して、従来どんなアプローチをしてきたのかを考えてみましょう。

これは1つの方法なんですが、「仕事の相対的な難易度」をレベルとして設定してきていたのではないかと。かつ、そのことで、組織内で成果を可視化しようとしてきたんじゃないのか。これが大きな方向性として言えます。

これだとなんかちょっとわかるようでわからないと思うので、もう少し具体的にイメージを掘り下げていきます。例えば「あの人は高い成果を発揮しているよね」とみんなが評価する人は、こんな感じではないでしょうか。

難しい仕事が付与される、それに対してその人がうまくやり遂げる。そうするとさらに難しい仕事が付与される。そしてまた、それもうまくやれば、また難しい仕事……となって、仕事の難易度がどんどん上がっていくんですよね。

そうなると「難易度の高い仕事をしているあの人は、高い成果を発揮しているんだ」とみんなが思う。本人も思うでしょうし、周囲も思う。このように、仕事の相対的な難易度をレベルにしながら評価が行われていきます。

仕事の相対的な難易度での評価は、メンバーシップ型雇用の賜物

他方で、高評価ではない例も挙げておきたいと思います。例えば易しい仕事が付与され、ほどほどに実行する。そうすると再び易しい仕事が付与されて、またほどほどに実行する……となっていると、確かに仕事は遂行しているんだけれども、難易度が低い仕事を行っているので「あの人は高い成果を発揮していない」と評価される。

従来の日本企業の中では、日々担当する仕事の相対的な難易度が、成果のレベルになっていたわけですね。

このレベルの設定にはちょっと良い部分があります。本人だけではなくて、同僚や上司も「あの人はちゃんと高い成果を出してるよね」とわかるんですね。ある意味(評価が)一目瞭然である点がわかりやすいところかなと思います。

仕事の評価をしていく時に、種類とレベルがある。レベルの1つの考え方として、仕事の相対的な難易度を採用しているところが多かったのではないのか。

もちろんこの方向性は、唯一の解ではないとは思うんですね。ただし「なるほどな」と思う部分もあるわけです。現場の英知だなと思います。

ただ仕事の相対的な難易度というレベル設定は、メンバーシップ型雇用の賜物だとも思います。業務内容について大きな制限がないからこそ、運用できる仕組みだなと思います。

またなんとなく運用されているケースが、実際には多いかと思います。例えば、仕事の相対的な難易度をもう少し整理していく必要があるだろうと思います。その上でアサインを行っていく。相対的な難易度の整理と、アサインの慎重な運用は欠かせないだろうなと思います。

まず1個目として成果には種類だけじゃなくて、レベルというなかなか難解な軸がある。それに対して1つの考え方として、仕事の相対的な難易度で成果を評価していくことができるのではないか。1つの切り口を出させていただきました。

上司と部下が共同で成果の基準を作る「MBO(目標管理)」

では2つ目ですね。「ルーブリックで共同的に評価基準を作る」というものです。先ほど冒頭で申し上げたとおり、成果主義のお話でも触れたんですが、成果を客観的な基準で評価することは非常に難しい。種類の問題も難しいし、レベルの問題も難しい、二重に難しい問題があるわけです。

じゃあもう成果を評価するのは無理じゃないか。そんな感じがしてしまうんですが、少し考え方を変えていく必要があります。「第三者が作った基準によって、評価者が被評価者を評価する」のではない方向性を考えていくことはできないだろうか。少し模索してみたいと思います。

具体的には、評価者と被評価者が一緒になって、共同で成果の種類やレベルを定義していけばいいんじゃないのか。そうすると、成果を評価しやすくなるのではないのか。そういう考え方ですね。

これは、評価者と被評価者が成果の評価を共同で作り上げていく実践としてとらえる方向性です。ちょっと抽象的ですよね。ただこれって、有名な取り組みが1個あるんです。

それはMBO(目標管理)ですね。目標管理制度は、この考え方のもとで行われています。例えば、期初に上司と部下がすり合わせを行って目標を立てる。そして期末にはその目標にきちんと到達できたのかどうかを評価する。

評価者である上司と被評価者である部下が、共同で成果の基準を作っているわけです。このように「共同で作る」という方向性は、成果の評価という時にも考えられます。

つまり評価者と被評価者が共同で成果を評価するという方向性は、もっと掘り下げられるんじゃないのかなと思うわけです。今回は「ルーブリック」をもとに、少し掘り下げてみたいと思います。

パフォーマンスと評価を整理する「ルーブリック」

ルーブリックってみなさん、ご存知でしょうか。ルーブリックとは高等教育などで時々使われるものです。ルーブリックの定義を見ておきますね。「特定の課題に対する一連の評価基準で、それぞれの基準に対するパフォーマンス品質のレベルを説明したもの」というのが定義です。これでは、さすがにわかりにくいですよね。

一応の定義なので紹介させていただいたんですが、もう少し具体的に見ていきます。ルーブリックとは「ある課題に取り組んでいく時に、どのような種類のパフォーマンスがどの程度発揮できていれば、どの程度の評価なのか」を整理した表のことを指します。

課題があって「こういうパフォーマンスをこれぐらい発揮できてたら優秀です」「これはダメです」と定義していくんですね。これがまさに先ほどお伝えした種類とレベルが関係してくるんですが、ルーブリックの場合は「次元」と「尺度」と呼びます。

例えば高等教育であれば、なにか授業を通じて「これを調べていきましょう」という課題が出されます。企業の場合はある仕事やプロジェクトが、課題に値するかもしれません。課題を遂行する際に発揮すべくパフォーマンスの種類が次元として挙げられます。

そして先ほどレベルと呼んでいたものが、ルーブリックの世界では尺度と呼ばれます。ルーブリックでは、この組み合わさったセルにそれぞれ「この次元のレベル1はどんな状態なんです」ということを記述していきます。

ルーブリックのイメージをさらに持っていただくためには、実例を見るのが早いかなと思います。これは経済産業省が主導するプロジェクトで、私たちビジネスリサーチラボも関与して作った越境体験についてのルーブリックです。こちらにリンクを貼っておきますので、関心がある方はぜひ見ていただきたいと思います。

ルーブリックの枠組みは、仕事の成果の評価に使えるのではないのかと考えています。すなわち部下が取り組む課題に対して、成果を評価するルーブリックを、上司と部下で一緒に作るのはどうでしょうか。そんな提案です。

そうすると、さっきパフォーマンス研究で挙げられていたいろいろな次元が、ルーブリックの次元(種類)として使えます。尺度(レベル)は、上司と部下ですり合わせながら決めていくことができる。そして、ルーブリックを参考に一緒に成果の基準と評価を行っていくことができる。評価者の上司にとっては「評価の手引き」ができるんですね。

被評価者の部下にとっても、自分の成長や(自分が)どれぐらい達成できているのかを把握できるので、自己調整型の学習が可能になります。成果を評価しながら学習にもつなげていけます。

上司と部下の間での評価が、ほかの人には伝わらない問題

では3つ目の論点に移ります。ここは特に明確な答えがあるわけじゃなくて、みなさんを迷路に迷い込ませるような論点になっているんですが(笑)。

評価者と被評価者が一緒に成果とその評価を作り上げていくルーブリックのような方向性は、いわば「成果の評価の民主化」と言えると思うんですね。一見なかなか良さそうだと思われた方もいるかと思うんですが、ただ限界もあるんです。その限界を指摘しておきます。

限界は何かというと「成果とその評価が、評価者と被評価者の間で閉ざされてしまう」ということです。ある上司と部下の間での評価が、ほかの人には伝わらないという事態が起きてしまう。例えばある職場で「Aさんがこういう成果を収めましたよ」と誰かが言ったとして、別の職場の人からしたら「それってどれぐらいすごいことなのかが、ぜんぜんわかりません」となってしまうわけです。

そうすると社内で困ってしまいますよね。「この人は果たして優秀なんだろうか、どうなんだろうか」とわからなくなってしまうからです。なぜこういったことが起こるのか。

評価者と被評価者が共同で成果とその評価を作っていく実践は、ローカルなものなんです。せっかくある人が成果を上げたとしても、それが社内のほかの職場には、翻訳しないと通じません。

対策として、社内で議論を積み重ね、社内全体で共通の種類とレベルを定義することができたとします。これはめちゃくちゃ大変だと思うし、しかも「果たしてすべての基準でできるのか」と思うんですが(笑)、仮にできたとします。

できても、今度はまた問題が起きるんですよ。「Aさんがこういう成果を上げましたよ」と言ったら、会社の中では「なるほどね、そういう成果を上げたなら、Aさんはすごいね」とわかる。ただそれを社外に持っていくと「それってすごいの? どうなの? わかりません」となってしまうんですね。

これは何かというと、成果が社内……つまり内部労働市場では通じるんですが、社外、外部労働市場に出るとわからないという問題です。労働市場においては困ってしまう問題で、労働者の移動が妨げられるリスクがあります。日本経済全体にとっては問題となり得ることかもしれません。

成果の基準の「標準化」の難しさ

こうした問題に対応していくために、例えば企業間や業界内で調整したり、あるいは政府や行政が成果の種類やレベルを取りまとめていったりするなど、いろいろな努力が求められることになるかと思います。一見ローカルな、共同的な実践として成果の定義を行っていくのは良いことではあるんですが、「標準化」を巡る難しさがある点を指摘しました。

今回、私の講演では、まず「何を単位に成果をとらえていけばいいんだろうか」ということで、仕事を単位にすることを紹介しました。次に「どのように成果の基準を作り出せばいいのか」では、ローカルに評価者と被評価者が一緒に作り出す方向性をアイデアとして出しました。

最後に「成果の基準の標準化は難しいですね」という問題では、明確な解があるわけじゃないんですが、ただ重要なテーマだと思ったので出させていただきました。以上で私の講演は終了です。もう一度黒住さんに戻ってきてもらって、質疑応答の時間にしたいと思います。