子どもに学ぶ、自律レベルを高めるヒント

神谷俊氏(以下、神谷):では、どうやって自律レベルを高めていけばいいのか。セルフマネジメントからセルフリーダーシップに展開していけばいいのか。

ポイントは「遊び」です。先ほど高い自律レベルは遊んでいる状態に近いという話をしました。子どもたちが遊んでいる様子を見ると、自律レベルを高めるヒントが見えてきます。

例えば赤ちゃん。ハイハイしている赤ちゃんを見ていると、急に立とうとします。本当はハイハイしたほうが効率的なのに、あえて立って不安定でグラグラしている状態を楽しんでいる。膝がガクガクいっているけど、顔は笑っているという。

それから、ガラガラと音が鳴るおもちゃも、最初は穏やかな顔で優しく振っていたのが、だんだん強く振り出し、投げて大笑いしていることがありますよね。また小学生たちがキャッチボールをしていると、キャッチボールの距離がだんだん開いていって、すごく辛そうな顔をしながら投げ合っている時が、一番楽しそうだったりするわけです。

幼稚園児の公園の遊びもそうです。高いところに登ったり、あえて変なブランコの乗り方をしたり、滑り台を逆さまに滑ったりしながら笑っている。なんで危ないことをしておもしろがっているのか。ここに自律レベルを高めるヒントがあります。

キーワードは「刺激」です。人のポテンシャルがどのように引き出されていくのかを、研究している研究者はたくさんいるんですが、その中にM.J.エリスがいます。エリスは「人はどうして遊ぶのか?」に関して研究している人です。

彼は「最適覚醒水準」という考え方を提唱しています。自分にとってちょうどいい刺激の量ですね。(スライドの)この領域が、自分のちょうどいい刺激の範囲だと思ってください。

ちょうどいい刺激の範囲に収まるような刺激を知覚すると、人はおもしろさや楽しさを感じて、ポテンシャルを発揮するようになってくるんですね。

これは人間の本能に組み込まれている機能です。動物は進化をする生き物ですから、自分の能力レベルを下げないために、常に危機と接する必要があるわけです。

危機と接する頻度を高めるために、人間は危ないことや新しいものを見たら興味を持ち「おもしろい」と感じるように、DNAにインプットされている。本能的に求める要素があると言われています。だから子どもたちは、進んで危ないことをやっているんですね。

刺激も挑戦も「ちょうどいい」がポイント

ただ重要なのは、「この領域を出ちゃうと、刺激は、好ましくない心理状態を生み出す」ということです。刺激が大きすぎちゃうと、緊張が高まったり疲弊します。子どもたちが高いところから飛び降りるのが好きだといっても、高すぎると膝がブルブル震えて、怖い思いをするわけです。

反対に、刺激量が低すぎてもダメです。つまらないと集中力が続かなくなって、パフォーマンスが落ちるわけですね。ちょうどいい刺激を生み出せると、人間はおもしろさや楽しさを感じる。つまり、高い自律レベルを発揮することができると言われています。

これと同じような論理を提唱しているのが、ミハイ・チクセントミハイの「フロー理論」です。チクセントミハイは心理学の研究者ですが、ロッククライマーやミュージシャン、アーティストを研究しました。彼らがパフォーマンスを最も発揮する時はどういう状態か、その状態はどうやって生まれるのかを研究したんです。彼はそれを「フロー状態」と呼びました。

先ほど私は「刺激」というキーワードを使いましたが、チクセントミハイは「挑戦」というキーワードで説明しています。自分の能力にちょうどいい挑戦レベルが目の前に現れると、人はポテンシャルを最も発揮しやすいということです。

これも「ちょうどいい」が1つのポイントです。「フィットしてないとだめ」ということですね。だから、刺激と同様に挑戦レベルが自分の能力に対して高すぎちゃうと、不安や心配、緊張を感じてしまって、思うようにパフォーマンスができません。

また、自分の能力レベルに対して簡単すぎる挑戦だと、結果をコントロールしようとしちゃう。例えば営業であれば、目標予算が低すぎると99パーセントぐらいで止めて、それ以上高い予算にならないようにコントロールしようする。

コントロールしようとして十分にパフォーマンスを発揮しなくなる。このちょうどいい挑戦、ちょうどいい刺激を生み出すことが、自律レベルを高める上で重要になってきます。

他の人から指示された挑戦は、単なるタスクでしかない

大企業に招かれた講演で管理職の方にこういう話をすると、みなさん、手を打って「なるほど、挑戦させればいいんですね」とおっしゃいます。「挑戦をさせれば自律レベルが高まっていくなら、明日からちょっと難しいことをやらせてみます」と。

でも注意してほしいのは、他の人から指示された挑戦は、単なるタスクでしかないんです。

上司がいくら挑戦と思っても、部下がそれを挑戦と思っていなかったら、「また上司が面倒くさい仕事を依頼してきた」と負荷になりますから。しかも上司から指示されたことは「やらなきゃいけない」という義務感が発生するので、むしろDriven to Workが促されて、自律レベルが低下してしまいます。

実は上司が挑戦を指示するのはNG。トップダウンで挑戦を指示するのは、やってはいけないことなんです。

じゃあどうすればいいのか。自分で挑戦を作らせるのが一番いいです。

いろいろなことを経験しながら、少しずつ学習していって「あ、なるほどね。こういうことなのね」と理解して「じゃあ次はこれをやってみよう」「その次はこれ」「次はこれをやってみたい」と少しずつ自分のハードルを高めていく。こういう階段を作っていくプロセスが必要になります。

義務感をなくし、メンバーの自律を促す新マネジメント術

大切なのは、最初のアクションが取るに足らない小さなアクションであっても、まずそれをやらせることです。ここが1つ目のポイントです。これ(スライド資料)の縦軸はアクションやパフォーマンス、自律のレベルなどの高さだと思ってください。

上司から見ると、最初は明らかに何もパフォーマンスに関係のないことをやり始めている。無駄なことをやってるように見えるかもしれないけど、本人がやってみて「やっぱり違うな」と学習したり、「どうしたらいいかな」と考えたりしていくうちに、「あ、これをやってみようかな」「あれが必要そうだな」とPDCAが回っていくわけです。

本人の中でPDCAが回っていって、新しい発見やアイデアが見つかって、それが刺激になって、少しずつおもしろさが生まれてくる。まず小さなアクションから始めるのは鉄則ですね。小さなアクションから学習が生まれて、大きなアクションへと変化していく。マネージャーはこのプロセスを意識してサポートするのが大切です。

多くの場合、ここ(アクション)から入っちゃうんですよね。意味のある有用なパフォーマンスに、有効な影響を与えるアクションを指示するところから入るわけです。これが本人の能力レベルにダイレクトにフィットして、本人にとって挑戦だとみなしてくれれば、有効に機能するんですけど、多くの場合は本人の認識とはずれますから。

それが自分の能力に見合わないものだったりすると、急に不安を感じたり、モチベーションを停滞させたりしてしまう。なので、ちょうどいい挑戦、ちょうどいい刺激を作るように、本人主体で少しずつ高めていくのが大切になります。

本人にオーナーシップを持たせることです。本人を主人公にして、本人が新しいことを考える、それを支援していくプロセスが必要になってくるわけです。