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なぜ、マネジャーは自分のキャリアを考えられないのか? ~マネジャーが未来に希望を見出すために必要な3つの視点~(全3記事)

なぜマネジャーになると自己効力感を失う人が多いのか? 忙しいマネジャーが「自ら自信を持つ」ために今始めたいこと

良い感情の連鎖を起こすことで人と組織の変革を支援するコンサルティング会社・株式会社ジェイフィールが、「マネジャーが未来に希望を見出すために必要な3つの視点」をテーマにウェビナーを開催。同社代表で『ミンツバーグ教授のマネジャーの学校』の著者でもある重光直之氏が、マネジメントの醍醐味や、自己効力感の向上につながる4つのポイントなどを語りました。

「自分の意志」を持ってマネジメントに向き合う

阿由葉隆氏(以下、阿由葉):ここで疑問なのが、じゃあ時間を作ってマネジャーに直接キャリア研修をやれば問題は解決するのでしょうか? ここも重光さんと考えていきたいと思います。。

重光直之氏(以下、重光):そうですね。やはり自分でキャリアを作っていくしかないだろうと思います。キャリア研修の時、私は2つポイントがあると思っていて、1つは「自分の人生の目的をしっかり育てる」。キャリアデザインはライフデザインです。自分の人生そのもののデザインにつながっていくと思います。

これは後ほど詳しく説明させていただきます。

もう1つは「今を有意義に生きる」。(スライドの)これはダライ・ラマ14世の言葉で、ちょっとみなさんと一緒に味わいたいと思います。良い人生とは、何かに意志を持つということです。

「人は金を稼ぐために健康を犠牲にして、健康を取り戻すためにお金を犠牲にする」。そして「未来を心配しすぎるあまり、現在を楽しめない。その結果、現在を生きることも、未来を生きることもできなくなっている。そして自分の命が永遠に続くかのように漫然と生き、真の意味で生きることがないまま死んでいく」。

かなりグサっとくる言葉ですけども。未来のためにも今をちゃんと生きることが大事かなと思います。

自分がマネジャーという職責をいただいたなら、「マネジメント」をもう一度見つめ直してみる。なぜ今マネジメントをしているのか。「会社に任命されたから」とか「給料がちょっと上がるから」じゃなくて、自分の意志を持ってマネジメントに向き合うことが大事だと思います。

私が尊敬するヘンリー・ミンツバーグは、「マネジメントというのはそう簡単にできる仕事ではないので、しっかりと心して立ち向かわないといけない」と言っています。自らの意志を持ってマネジメントをしていくことが必要なわけです。

では、そのマネジメントとはどういうものか。ミンツバーグは、マネジメントとは組織の中で何かを達成するためにメンバーが本来持っているポジティブなエネルギーを引き出すことだと言っています。

自分の思うところにメンバーやフォロワーを引っ張っていくのではなく、みんなで力を合わせて事を成すための後押しをする。背中をそっと押すのがマネジメントだとミンツバーグは言っています。

そのために、「エンゲージしてエンゲージされる」「コネクトしてコネクトされる」「サポートしてサポートされる」と言っています。

価値観も変わってきているし、もともと自分が思っていた疑問もあると思います。それを大切にして、マネジメントというものを見つめ直して、そこからリスタートすることが大事かなと思います。

マネジメントの醍醐味

阿由葉:人生全体に広げて考えるとか、先を見るとか、抽象的に描くのも大事ですけど、現実的な今のマネジメントを見ることも大事ということですね。

重光:そうですね。キャリアだからといって、将来のことだけを思い描くだけではなく、今とつながっていることが大事だと思いますね。

阿由葉:ありがとうございます。では、そんな視点を持ちながら、これから「マネジャーが未来に希望を見いだすために必要なことは何か?」というのをみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

(スライドの)3つを、今回新しい視点としてみなさんにご提示しながらお話ししたいと思います。1つ目は「醍醐味を味わう」。2つ目が「自らに自信を持つ」。3つ目が「仕事と人生をつなぐ」ということです。

まず、「醍醐味を味わう」。マネジャーの方もそうじゃない方もいらっしゃると思うんですけども、「マネジメントの醍醐味」とは何だと思いますか? ぜひチャットでご意見をいただければと思います。

重光:「自由」が挙がりました。もっと詳しく聞いてみたい感じがします。

阿由葉:意思決定の範囲が広いということですね。

重光:そういう部分は、あると思いますね。

阿由葉:「メンバーが成果を上げること」「自分次第で仕事も職場も良くも悪くもなるから」「自分以外のメンバーの力を結集して、より大きな仕事ができる」。みなさん、けっこうすごいな。

重光:確かに変化をもたらす機会ですね。成長とかいろんなことができる。

阿由葉:「チームで大きな成果を上げることができる」「自分の力だけではできないことをメンバーと一緒に実現していくことができること」「他者に変化をもたらす機会があること」「1人では成し遂げられないことを、チームで成し遂げられる」「1人ではなく、メンバーを含めてチームとして成果を出せる」「メンバーの成長に携われる」「物事を決められる」「仕事の喜びをメンバーと共有する」。

重光:仕事とか何か大きなことを成し遂げる系の話と、メンバーとの関わりみたいな大きく2つに分けられる気がしますね。

阿由葉:そうですね。

アンケート調査に見る、マネジャーのやりがい

重光:阿由葉さんは自分がマネジャーをやった時の醍醐味は何かありますか? 記憶に残っていることとか。

阿由葉:私の醍醐味と言われると、思い出すのは、成果とかそういうことではなく、人と人のつながりをすごく深く感じられた瞬間があったことですね。

当時私を入れて5人ぐらいの地方の小さな支店マネジメントをさせてもらったんですが、私の母親が病気をして、いよいよという時が2週間ぐらいあって、その2週間は私は早退して病院に行くというのを続けていたんですね。

「すごく迷惑を掛けているな」と思いつつ、亡くなって通夜などである程度休まなきゃいけないとなって、「またメンバーに申し訳ないな」と。本当に心から迷惑を掛けているので、「通夜とか葬儀とかは気にしないで本当に来ないでくれ」と話をしていたんですね。

当日、「本当に来ないな」「良かった。みんな仕事に集中してくれているんだ」と思ったら、(葬儀の)担当の方が香典を1つ持ってきて、「もう帰られたんですけど、香典が来ています」と。見たらメンバーからだったんですね。その時は「申し訳ないな」という気持ちと、本当にありがたいというか「仲間ってすばらしいな」と思える瞬間でしたね。

マネジャーだからかわからないですけど、僕と彼ら・彼女らの信頼関係が見えた気がして、そこから自分も「彼ら・彼女らのためにがんばろう」みたいな思いが湧いてきたので、あらためて考えるとあれが醍醐味だったのかなという感覚があります。

重光:醍醐味と言うと何かを成し遂げたとか、そんな感じがしますが、じわっと味わうのって、そういう人と人のつながりなのかなという気もしますよね。

「マネジャー、管理職としてのやりがいってどんなものですか?」というアンケート調査があるんですけども。(スライドの)赤文字で書いているのが組織の話なんですね。「自分の組織が目標より高い成果を上げた時」とか「仕事がうまくいっている」とか。

1位、4位、5位、6位が組織の話で、「部下が成果を上げた」とか「成長した時」とか「生き生き仕事をしている」「感謝された」。今の阿由葉さんの話は感謝なのかもしれません。部下に関することが、2位、3位、7位、8位、9位です。そのあと、10位、11位、12位が「自分自身が認められた」「自分が成長した」「自分が何か成果を上げた」なんですね。

メンバーとプロセスを共有する

阿由葉:意外ですね。「自分が」はけっこう低い。

重光:そうですよね。でも、そういうものかもわからないですね。先ほどのチャットでも、自分が何かを評価されたというのはほとんどというかぜんぜんなくて、やはり赤(組織)か青(部下)だったかなという気がしますよね。

阿由葉:そうですね。チャットのみなさんはほとんどですね。

重光:そうですよね。私もジェイフィールを立ち上げた時、クライアントや支援者の方を集めてミンツバーグと同じ壇上に立つことを夢として思い描いたんですが、それが何年か後に実現した時は達成感みたいなものがありました。

でも、後から聞いたんですが、前職で私がマネジャーをやっていた時に、メンバーだった人や一緒に働いていた人たちが、自分たちで「重光チルドレン」と名乗っていたらしいんですよ。

別に私がチルドレンと任命したんじゃないですが、何かを自分が受け継ぎましたみたいな感じですかね。「自分はそれで成長した」みたいなことを言ってくれたのかなと。こういった、なんかじわじわっと味わうようなものとの両方がたぶんあるのかなと思います。

阿由葉:ふと思ったんですけど、こういう上司の気持ちや思いがメンバーにもっと伝わるといいですよね。

重光:そうですね。

阿由葉:チャットに出ているみなさんのコメントも、周囲に伝わっているといいなと僕は勝手に思っていましたけど(笑)。

重光:そうですね。この項目のまとめとしては、「自分1人ではできないことを成し遂げる」。組織の成果もあるけど、「成果と成長を共に喜ぶ」とかね。チャットにもありますけど、「仕事の喜びをメンバーと共有する」とか、「チームとしての一体感が感じられるようになる」とか。

そのために、今忙しい中でも始めるべきことは、メンバーとプロセスを共有することです。リモートで離れていても、ちゃんとプロセスを共有することが必要だし、節目節目で振り返って、組織の到達点や成長をお互いに共有する。ここを丹念にしっかりやることが必要だと思います。

自己効力感の向上につながる4つのポイント

2つ目のポイントは、「自らに自信を持つ」。よく「根拠のない自信」とか言ったりしますが、マネジャーがどうやって自分に自信を持ったらいいのか。

心理学の用語で「自己効力感」という言葉があります。ある状況下で必要な行動を自分で認識し、うまく遂行したことで状況が変わったり、改善した。それによって、「状況を変える力が自分にある」と認識する。それが自己効力感です。

こういうものをしっかり身につけることが大事です。第一人者の(アルバート・)バンデューラは、自己効力感を「制御体験」「代理経験」「言語的説得」「生理的・情動的喚起」の4つだと言っていますが、これを順番に見ていきたいと思います。

「制御体験」とぱっと聞いてもわかりにくいんですが、自分を制御して「こうあるべき」という行動を取って、うまくいった経験ですね。「怒りがぐっと込み上げたんだけど、抑えて最後まで傾聴してみた」とか、「とても物が言えるような雰囲気じゃないんだけど、勇気を持って発言をした」とか。

そういう瞬間的なこともあれば、何かを身につけようと、努力して地道に勉強する。勉強の積み重ねで何かを成すことができたり、資格を取ったり。努力をした経験が自分の中で自信になっていくことですね。これが制御体験です。自分ができなかったものを越えていくということ。

もう1つ、我々が大事だなと思うのが「自分の強みを活かして達成した経験」です。自分では大したことではなく、自然に振る舞っているんだけど、他の人から見るとまねのできないこと。「そういう能力を発揮することはすごく意味があるんだ」と自分で自覚することが大事です。

「自分にはそういうところがあるんだ。よかったよかった」ではなく、無理のない自分の強みを自覚できたら、事あるごとに「これは自分が能力を発揮していったほうがいいんじゃないか?」と、意図的に発揮する場面や領域を増やしていくことが大事です。

できないことをできるようになることと同時に、強み・長所をさらに伸ばしていくという2つの側面があると思います。

例えば「いつでも明るくがんばれる」「プラスの側面を見ることができる」とか、「冷静に対処できる」「混乱している時に、自分はちゃんと二手三手先まで考える」とか。あるいは「『優しいね、ほっとするね』と言われる」とか。「対話が活性化するように自分のことを話して、場を和ませてみたり」とか。そうやって強みを発揮することができればいいのかなと思います。

マネジャー同士がプロセスを共有することの重要性

バンデューラが2つ目に挙げた「代理経験」は、自分が経験するのではなく、人が経験したことを自分の経験として取り入れていくことですね。

あるマネジャーが、他のマネジャーから「こういう状況で悩んでいるんだ」と悩みを打ち明けられる。共感をして「大変だね。でもこういうこともあるかな」とか「こんなことをしてみたらどう?」とか「僕はこんなことができるよ」と、共感してアドバイスや支援をする。

いろんなプロセスがある中で、最終的にそのマネジャーが何かを達成したり、いい結果が出たら、自分自身もすごくうれしいし、勇気をもらうような感覚があると思いますが、それが代理経験ですね。「自分にもできるんじゃないかな」という意識を持つ。プロセスの共有はすごく大事だと思います。

3つ目の「言語的説得」は、「あなたならできる」「君はできるよ」と言語で伝えること。4つ目の「生理的・情動的喚起」は、心身共にという健康経営の流れになるのかなと思います。

こういった4つのことを日常の中で特訓することで、「自ら自信を持つ」ことができるようになるのかなと思います。仲間の支援を得ながら挑戦したり、自らの強みを意図的に発揮して「すごいね」と褒められたり、仲間の挑戦に勇気をもらったりする。

マネジャーになって自己効力感を失う人が増える理由

スライドの「今、始めたいこと」ですが、マネジャー同士でちゃんとつながって、マネジメントの悩みや試行錯誤を共有することが大事ですし、お互いが持ち味を称え合うような場を作っていくことが大事だと思います。

阿由葉:自己効力感。そうですね。マネジャーと自己効力感って確かにあまり考えたことがないと思ったんですよ。プレイヤーとしては自己効力感を積んできた方々がマネジャーをやっていると思うんですけど。

重光:そうですね。

阿由葉:私が研修を見ていると、けっこう自己効力感を失っている方が多い気がしまして。マネジャーになった瞬間から、褒められることがまずないですよね。それはみなさん多く言っています。

研修の場で、マネジャー同士で話してもらった時、「ああ、それはすごいね」とか「そんなことをやっているの」と認められただけでうれしくなって力が湧いてくるみたいな話は聞きますけど、やはりこれって大事ですかね?

重光:そうですね。結果が出た時に褒められて結果が出ないとダメというのは、プロセスとか自分の試行錯誤や挑戦そのものが評価されないということなので、一番わかり合えるのはマネジャー同士だと思うんですね。等身大の自分が映りますから。

阿由葉:今チャットでもコメントをいただきました。「確かに褒められるというシーンは圧倒的になくなる」。本当にそうですよね。

重光:そうですね。

阿由葉:マネジャーが自己効力感をどう持つかは大事かもしれないですね。コメントで、「マネジャーになると『自己効力感』から『自チームの効力感』に広がるような気がします」。それはありますよね。自分とチームが一体化するような感覚ですかね。

重光:自分の思いがチームに行き渡る前の段階の「試行錯誤のつらさ」を、どうマネジャー同士が支え合うかが大事かなと思います。

阿由葉:ありがとうございます。

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