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中小ベンチャー企業がハマる 人事評価の「ワナ」「落とし穴」とその回避法/立て直し方(全4記事)

人事評価は評価シートより「評価者と評価面談」に時間をかける 1on1で納得感を醸成するために最低限やるべきこと

白潟総合研究所株式会社代表で『中小ベンチャー企業を壊す! 人事評価制度 17の大間違い』著者の白潟敏朗氏と、『起業の科学』著者の田所雅之氏による対談の模様をお届けします。テーマは「人事評価の『ワナ』『落とし穴』」。中小ベンチャー企業の経営者に向けて、人事評価に対する悩みを解決するために最も大切なポイントについて語られました。本記事では、部下の納得度を高める評価面談、評価しやすい評価シートのポイントについて解説されました。

部下から信頼を失う20の言動

白潟敏朗氏(以下、白潟):信頼に関しては、部下から信頼を失うチェックリスト20問(があります)。これは3,000人の部下の方々に「何をやってしまうと上司への信頼をなくしますか?」というアンケートを取って、多かった20項目を出しているんですね。可能であれば、部下の方に評価してもらって検証するのも1つかなというところです。

このあたりも活用いただいて、やはり評価者は1番から20番までは基本絶対やらない自信があるという状態になるくらいまで、人間力を高めておいたほうがいいのではないのかなと。それぞれは当たり前のことではあるんですが、ついつい上司としてやってしまいがちなところも中にはあったりするので、このあたりは田所さん、いかがですか?

田所雅之氏(以下、田所):耳が痛いところ、けっこうありますね。僕が支援しているスタートアップの場合、平常時と非常時がけっこうあって、コロナ禍が起きた時はやはり一気に資金調達が止まって、あと6ヶ月でバン(破産)してしまうというのがあった。その場合だと、それまでティール型、ネットワーク型でやっていたところも、完全に指令系統を整えてやっていく。

なので、ストレス耐性的なところや生き残るためには手段を選ばない的なところは、実はスタートアップにあったりする。逆にそうなってしまうと、会社が潰れる、全員が職を失うよりも、言い方が悪いんですけど、10パーセントくらいが納得せずに辞めてしまうことがやはり起きてしまう。

信頼関係が持てていないと困る、非常時のマネジメント

田所:すごく優れた経営者、例えばいわゆるインバウンドのことをやっていたある経営者も、売上が98パーセント落ちて、そこから部下を一気にPRやコンサルに振って売上10億円を作ったんですが、とは言ってもやはり2割くらいは辞めてしまった。

スタートアップは何が違うかって、年間で半分くらい非常事態が起きて、やはりストレス耐性みたいなところがあるのかなと思いますね。

白潟:そうですね。

田所:そこはあんまり考えずにけっこう素の自分が出てしまう。『リーダーの仮面』という本がありますが、ペルソナをまとわずに素を出してしまうので、けっこう後悔する場合もあるのかなって思ったりしますね。

白潟:そうですね。非常時でかつお互いが信頼関係を持っていれば、ある意味、非常時のマネジメントで発生する事象に関して、部下側が信頼を失うという行為はない。そんな状態になっていれば一番良いのかななんて、今お話をうかがいながら思いました。

田所:でも、やはりこれもエントリーマネジメントはすごく大事で、お互いリスペクトできるかどうかとか、カルチャーフィットしない人だと、どうしても遠心力というか、そっちのものが走ってしまうので、まあそこはしょうがないというのはあったりしますけどね。

白潟:そうですね。エントリーマネジメントも大事ですね。

評価面談でやったほうがいいこと

白潟:あとは、もう1つ評価面談ですが、これも私どもでご提案している要旨をこの1枚にまとめました。

評価面談は、一般的にある程度組織ができてきたら半年に1回くらい(やること)が多いと思うんですが、四半期に1回くらいはやったほうがいいのかなというところがまず1つ目。

やはり1回あたり1時間くらい時間をかけてあげないと、「自分の給与・賞与を決めるのに、そんなに短い説明でいいんですか」と思われてしまうので、ここらへんは基本的なところとして押さえておいたほうがいいのかなと。

あとは、自己評価を部下にさせて、そのあと上司が評価をして評価面談に入る。例えば5段階評価で部下が4点、上司が2点。こういう状態で面談を始めると「どうして4点をつけたの?」と、ある意味説教から始まるリスクがどうしても上司側にはあるので、それは部下評価よりも上司評価が高いところからほめてあげる。最後に逆転しているところを気づかせるというアプローチで、ほめることからスタートしてはどうかなと。

評価結果の給与への反映の方法を明確にしていないところもけっこうある。「最終的に今回2ランクアップって聞きましたが、どうしてそうなるんですか?」「いや、そこはちょっとよくわかんないんだよね。社長が決めているみたい」という話になると、部下からすると不透明感が出るので、「こういう基準でこうなったので2ランクアップですよ」というところは決める。

もしくは人事評価シートがない世界であれば、頭評価、評価会議で決めているので、「それ以上でもそれ以下でもないよ」という伝え方をする。そんなところが必要なのかな。

仮にMVVに賛同していて、本人が納得していないケースがあった場合は、もう1回面談してあげるというケアをしてあげたほうがいいんじゃないのかなというところが、評価面談での「やったほうがいいかもしれませんね」というご紹介です。田所さん、このあたりはいかがですか?

お金と時間をかけるべきは、評価シートより評価者と評価面談

田所:おっしゃるとおりですね。スタートアップでよく言われる「経営者は4割くらい採用に使え」というのもあると思うんですが、採用はたぶん成長には大事なんですけど、とは言ってもすでにオンボーディングした人に対してマインドシェアの部分がやはりすごく欠けているなって思います。

やはり僕は1on1に勝る納得感の醸成はないと思うので、「四半期に1回」という話がありましたけど、必ずやったほうがいいのかなというのはありますね。

白潟:そうですね。評価シートを変えるよりも、評価者や評価面談の改善から入ったほうが、結果成功しやすいんですよね。そのまま社員の方に「人事評価シートを変えます」という話をしてしまうと、みんなが自分の給料が上がるって期待しちゃうので、期待を一切持たせずに淡々と「評価面談が半年に1回だったのを四半期に1回に変えますね。以上」というくらいの発信でやっていったほうが(いい)。

結果的には、社員からすると「自分のことをしっかり見てくれている」「しっかりフィードバックをもらった」「異論に対してもちゃんと答えをもらって納得ができた」という世界が作りやすいですし、尊敬・信頼されている上司が評価面談をしてくれるのであれば、なおのこと納得感はかなり高まる。

やはり評価シートにお金や時間をかけるよりも、評価者と評価面談にお金と時間をかけたほうがいいんじゃないのかな。

「自分のために1時間投資してくれた」という意味づけ

白潟:いろんな会社を見ていてすごく思うのが、評価面談の時期って期末や四半期末とか、どうしても目標をガンガン達成するために最後にがんばらなきゃいけない時期なので、上司としては時間がほぼないんですよね。

業績の向上・目標達成に上司が時間を使いすぎて面談の時間を短くすると、「結局うちのマネージャーって、私の人生にとって一番大事な結果を伝えるよりも、目標達成にいっちゃうんだな」と(思われる)。

もちろん致し方ないこともありますが、「そこまで追い込まれている上司が、自分のために1時間投資してくれた。かなり貴重な投資だ」というふうに理解してもらえると思うので、1時間はなんとかがんばってやってみたほうがいいのかな。かつ、毎月ではなくて四半期に1回なので、というところでございます。

田所:そこで言うと、ちょうど先々週、村上臣さんという、もともとLinkedInの日本の代表をやられて、今は某外資系の幹部をやられている方と(対談を)やったんですが、さっきの時代背景として、やはり組織で働く意味づけってすごく大事かなと思っている。

今って、副業人材とか業務委託人材が当たり前になってきたと思うんですよね。「1時間の時間を空けてあげる」とおっしゃった中で、ある意味それって個人のいわゆる人生における意味づけをする場だと思うんですよ。

今だと特に優秀層と言われるスキルある人は売り手市場なので、引く手あまただと思うんですね。そういう中でコミットしようとなった時に、いかにしてその方々のモチベーションやエンゲージメントを高めてパフォーマンスしてもらうのかがめちゃめちゃ大事かなと思っています。

ひたすら人が足りない時代の「意味づけ」の価値

田所:僕も今、スタートアップ業界にいるんですが、この業界はずっと右肩上がりで毎年40パーセントくらい伸びていて、ひたすら人が足りないんですよね。

そうなった時に、白潟さんの『知らない人を採ってはいけない』という本に書かれていますが、やはり自社の魅力化もそうですし、ポジションの魅力化もそうですし、あとは自分のいる業界・産業の魅力化もそうですし、そうすることによって意味づけがすごく大事かなと思っています。

そこで言うと、時代背景がすごく変わってきたなと思っていて、個人の領域になってきている。

リンダ・グラットンも言っていますが、これまでは3ステージ(教育、仕事、老後)だったのが、やはり今だとリスキリングやアップスキリングがあって、仕事、週末起業、仕事という感じで、たぶんこれが80歳まで続く。今40歳だったらおそらくあと40年続きますし、今30歳の方はもう90歳まで続くかもしれない。

ただ単に1ヶ所にいてそこで昇るんじゃなくて、その都度、先ほどおっしゃったいわゆる自分の「Will」を発見していくことによって、実はその後のライフステージの中で、そこを最大化できるんだと思うんですよね。

最大化していくのがすごく大事なのかなと思っていて、企業に対してあまりにもマストの要件が抜けちゃったらダメなんですが、ただ「Will」の部分とオンの部分は尊重していかないと。

どうしても人生のプライムタイムに捧げるというところで、今はわからないですが、5年、10年いるところにやはりハマっていかないし、パフォーマンスが上がらないとちょっと思いました。時代背景からして、特に10年前に比べて白潟さんの論がすごく大事になってきたのかなと思いましたね。

白潟:ああ、そうですね。ありがとうございます。

「実態にあっていない評価シート」の改良案

白潟:では戻らせていただいて。「評価者と評価面談が大事だ」とお話ししましたが、人事評価シートがつけにくいとか、評価しにくいという課題に関しては、やはり課題を解決するようにやったほうがいいのではないのかなと。

「評価シートが評価しにくい」「実態に合っていない」「社長が評価したい項目が入っていない」といった場合に関しては、評価シートの改良は課題解決的にはありなのかなということです。

私どもでよくご提案しているのが、「5段階評価じゃなくて3段階のほうがいいですよ」と。ほとんどの会社さんが5段階なんですが、5段階だと「2」と「3」、「3」と「4」で、上司と部下がある意味喧嘩しちゃうことが増えるんですよね。

全部「1・3・5」「○・△・×」にするとギャップは起きない。「1」と「5」がたまに出れば差がつくので、昇給とかに差はつけられる。圧倒的につけやすくなりますし、基本3段階にされるくらいの改良はあったほうがいいかなと。先ほどご紹介したとおり、「評価項目が多い」のもやはり大変。

あとは「評価しにくい表現」ですね。定量的な表現、具体的な表現、小学生でもわかる表現、セリフを入れたりする。例えばなんですが、(スライドの)左側をご覧いただいていいですか? 固く作っていらっしゃる会社さんの人事評価シートを見ると、こんな表現がけっこう多いんですよね。ものすごく美しい文章なんですが、評価者からするとつけにくくてたまらないですね。

どうしても評価誤差が出てしまうので、「環境の変化に対応し創造的で有効な企画を立てることができる」を「企画書の提案の件数が何件あった、採用されたのは何件あった」と定量にしたほうが簡単です。

「職務に対する責任を自覚し、最後までやり遂げようとしてる」は、「どんなに辛い仕事でも途中で投げ出さなかった」。上司は絶対に記憶と記録がしっかりしているので、こういう表現に変えちゃったほうが点数はつきやすいんじゃないのかなというご紹介でございます。

大事なのは「解釈のブレ」が起きないこと

白潟:このあたりは田所さん、よろしいですかね?

田所:まさにそうですね。おっしゃるとおり、いわゆるSMART(スマート)と言われるみたいに、具体的で測定可能で実現可能で、関連しているというところがあって、やはり解釈のブレがないのが非常に大事かなと思っています。

プロダクトマーケットフィットをさせる時でも、僕は優れた起業家を見極める時に「お客さんの成功はどういうふうに定量化しますか?」と質問するんですよね。フワッとしている人は「いやなんか、売上立っています。喜んでいます」という感じなんですが、結局そこがより具体的とか定量的だと、よりアクショナブルだと思うんですよね。

なので、1番の場合でも「企画書の提案が半年に何件」という時に、平均してさらにブレイクダウンすると3.6件だったというのを、例えば4.8件にすることもできる。

お客さんのところの場合でも、カスタマーサクセスでただ売上を立てるわけじゃなくて、例えば1週間でログインを5回しているのか、4回しているのかだったり、もしくはNPS(Net Promoter Score)を取った時に9点をつけているのか、10点をつけているのかというところの先行要素ってやはりすごく大事かなと思うんですよね。その部分がスマートって言ったんです。

ここがないと再現性がないのかなと思っているので、再現性がないとブラックボックス化しちゃうのもあるし、結局必要なアクションが見えなくなる。これはエンプロイーサクセスもそうですし、カスタマーサクセスも本当に同じなのかなと思って見ていました。

白潟:ありがとうございます。評価シートも一部を改善すれば、先ほどのマイナスをゼロに持ってくるところまでは良くなることはあるのかなというご紹介でございました。

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