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My Lean In Story 関美和さん 〜広告代理店→投資銀行→法学部→翻訳家→起業家!? 通説を疑う! わりとノープラン!? な自由なキャリアのストーリー(全3記事)

女性の社会進出より、劣っているのは「男性の家庭進出」 関美和氏が指摘する、日本の男女格差の“真の問題点”

ベンチャーキャピタリストや翻訳家など、複数の仕事で活動する関美和氏。新卒で広告代理店に入社した関氏が、現在の仕事に至るまでの「ノープラン」なキャリア遍歴をひもときながら、自由なキャリアの築き方のヒントを探ります。本記事では、さまざまな仕事を経験してきた自身のキャリア観をひもときながら、関氏の“人生のテーマ”を明かしました。

みんなが「ダメ」というものに潜む“原石”を探したい

古城佑希氏(以下、古城):関さんはもともと、キャリアについて計画されていなかったというお話だったんですけれども、振り返られると3つテーマがあるということで、それぞれについて詳細をお聞きできればと思います。

関美和氏(以下、関):いつもこういう講演や取材では「ノープランです」「行き当たりばったり」と言っているんですが、今になってこの30年間を振り返ってみると、「自分の判断や選択の軸になっているものがあるんじゃないかな?」と考えたことがありました。

でも、若い時はそれを意識していたわけではまったくなくて。振り返った時に「こういう軸があったのかな?」と思ったことを講演用にまとめてみましたという感じなんですけれども(笑)。なので「後付けです」と断っています。

1番目は、世の中の9割ぐらいの人が「A」と言っていることはだいたい正しいんですけれども、その中にたま~に「なんか違うんじゃないか?」と思うことがあったら、その隠れた真実を掘り起こしたいということです。

投資の観点はまさにそれで、世の中の人がみんな「ぜんぜんダメ」と思っていることの中に、もしかしたらダイヤモンドの原石のようなすごく良いものがあるかもしれないから、それを探したいと思っています。

逆のパターンもあるかもしれないんですけれども、投資も投資以外のことでも、いつもそういう視点を持ってキャリア選択をしてきたかもしれないなというのが1つです。

2番目は、キャリアの選択にけっこう直接関係していることで、自分の身の回りで「不便だな」「フラストレーションがたまるな」と思っていたことを、自分で解決してみることです。私の場合は、それがけっこう仕事につながっています。

3番目は、こうやって自分が牢屋にも入らず、ホームレスにもならずに生き延びているのは、別に優秀だからとかがんばったからとかではなくて、本当にたまたまなので。たまたま受けた幸運は、たまたま幸運が足りない人たちに大きく返したいなということです。この3つが、自分の人生のテーマです。

日本人は英語のスピーキング・リスニングが苦手

:「隠れた真実」の通説その1について。例えば、今日いらっしゃる方の中で「英語の読み書きはけっこうできるんだけど、話すのはちょっと苦手なんだよね」と思っている方ってどのぐらいいますか? 手を挙げていただけますかね。けっこういるみたいですね。

古城:何人か手を挙げていただいていますね。

:じゃあ、これはわりと通説だと言ってよろしいでしょうか(笑)? 例えば、TOEFLのスコアや4技能を見てみると、確かに(日本人の)スピーキング・リスニングはアジア三十数ヶ国で比べた時に、下から3番目ぐらいなんですね。日本の下はタジキスタンとラオスの2ヶ国で、教育資源のまったくないところなんです。

でも、読み書きのスコアがすごく良いかと言うと、実はみなさんが思っているよりもできていなくて、同じぐらいなんですよ。

なんで「できている」と思っているかと言うと、たぶん読み書きは時間をかければできるからです。聞く・話すは、その場で時間がかけられないんですけれども、読み書きはゆっくりできるんだと思うんですよ。

ただ、おそらくそのスピードが「できる」と言うには本当に遅いんだと思うんですね。私もそうなんです。

今はそうでもないんですけれども、母語に比べて英語を読むのは倍、もしかしたら今でも3倍ぐらいかかるかもしれないです。例えば、そういうところが1つの気づきで、これはキャリア的にも気づきにはなっているかなと思います。

問題なのは、女性の社会進出より「男性の家庭進出」

:通説その2の「男女格差を解消するためには女性の社会進出を後押ししなければならない」については、みなさんはどういうふうに思われますかね? 古城さんはどうですか? これも通説かなと思いますし、Lean In Tokyoの精神のような気がするんですけれども。

古城:そうですね。今はやはりどこの会社も、この課題をなんとかしなければということで、それこそ女性管理職の比率を目標に掲げています。

:女性活躍ですよね。

古城:はい、そうですね。

:私はちょっと違うと思っています。男女格差といった時の、賃金ギャップや管理職比率を各国を比較すると、例えば「女性の就業率」という点で見れば、決して日本は低くない。もちろんパートタイムも入るので、数字のあやはあるにしろ、就業率だけ見るとOECDの各国に比べて平均より上です。

昔言われていた、第一子を生んだ後に仕事からドロップしてしまうという意味の「M字カーブ」も、だんだん平らになってなくなっている。

そういう意味では、日本は決して他の先進国から大きく劣っているわけではないんですけれども、おそらく一番劣っているのは、男性の家庭進出の部分なんじゃないかなと思っていて。

例えば、最近では「男性の育児休業率」の開示が始まりましたけれども、そこを後押しするような、男性の無償労働負担という部分が著しく低いことが、男女格差のすごく根本的な原因になっているんじゃないかと思っています。

もちろん今も、政府や企業がすでにいろんな政策を考えていらっしゃるんですけれども、そこがけっこう重要なんじゃないかなと思っているところです。

もしかしたらそれがビジネスにつながるかもしれないし、つながらないかもしれないんですけれども、そういうことを考えています。これが、1番目のテーマ(隠れた真実を探す)の事例です。

身の回りの“不便”を自分自身で解決してみる

:2番目のテーマの事例です。これはわりと直接キャリアにつながっていることなんですが、自分がこれまで読者として「翻訳本って読みづらいな」と思ってきたところを、自分で解決できるんじゃないかと思ったことが、翻訳を始めた1つの大きなモチベーション・きっかけになっています。

実際にやってみたら、試行錯誤はあったけれどもできたような気がして、少しは貢献できたんじゃないかなという気がします。

先ほど申し上げた「(英語を)読み書きできると思っているんだけど、実はみんなが自覚しているよりも著しくスピードが遅い」ということと、おそらくつながっていて。

(これまでに)翻訳をいっぱいしたんですが、一生やっても自分が翻訳できる量には限りがあります。そこで、「あ、そうか。みんなが英語で読めるようになればいいんだ。そうしたら自分は翻訳しなくてもいいな」というのが一番良い解決法だと思って。

「じゃあ大学で英語を教えてみよう」と思ったり、スライドには書いていないんですけれども、子どもが小さい時にベビーシッターさんの確保がすごく大変だったので、ベビーシッター会社を作ったこともあります。

(ベビーシッターの会社は)売却したんですけれども、そういう自分の身の回りの不便を解消するためだけでも(会社を)やったりしました。

法学部に再入学したきっかけは離婚話

:離婚話が出た時にいろいろな弁護士さんと話したけれども、どなたもあんまりピンとこなかった。結局は頼んだんですが、自分でも弁護士になれるんじゃないかと勘違いして法学部に入り直しました(笑)。司法試験まではぜんぜん行っていないので失敗例なんですけど、そういう感じですかね。

金融業界、特にVCやスタートアップ業界は男性ばっかりなので、それにもすごくフラストレーションがありました。だから「じゃあ女性だけでやってみよう」という感じで会社を立ち上げているので、本当に自分の半径50メートルぐらいの不便と不満を解消することが、キャリアにつながっているのかなと思います。

最後に、私は福岡県の田川市という炭鉱の町で生まれ育ちました。大学に行く人もとても少なく、たぶん小学校の同級生で高等教育まで進んだ人は少ないんじゃないかなと思います。

そんな中で、たまたま大学のみならず大学院も出るような幸運に見舞われたのは、別に自分が偉いわけじゃないので、そういうバックグラウンドの幸運さをいつも感じています。

ハーバードのビジネススクールに行った時にも思ったんですが、人種、性別、宗教、国など、一見多様に見えるんです。

でも、たぶん多くの方が中流以上のご出身で、もちろんそうじゃない人もいるけれども、すごく少ないと思います。ビジネススクールだからというのもあるのかもしれないんですが、そういう意味ではすごく同質だなと感じました。

人生のテーマは、これまでの幸運を社会に返すこと

:子どもが本当に小さい時に、マリアさんというフィリピン人のナニーさんにちょっと来ていただいていたことがありました。ナニーさんは私と同じ年ですごく聡明な方したが、故郷に5人の子どもを残して親戚に面倒を見てもらって、自分が稼いで仕送りをしているという状況でした。

その方が「ちょっと前借りをお願いできませんか?」と言って、何回か(給料の)前借りを頼まれて。何回目かに、私はたぶん嫌な顔をしたと思うんですね。すぐには出さなかったような気がする。

そうしたらマリアさんが「マダム、私も『お金を貸してください』と頼むほうじゃなくて、頼まれるほうになりたかった」とおっしゃったんです。

わかってはいたつもりだったけれども、もし彼女が教育を受けられるような環境に生まれていたら、私と立場は逆転していたかもしれない。私が彼女だったかもしれないし、彼女が私だったかもしれないということを、その時には感じました。

それ以来、いろんな人の中に自分を見るというか、ホームレスの人を見ても思うし、いろんな方を見て「自分だったかもしれない」と思うので、たまたま受けた幸運を返していきたいなと思っています。

古城:参加者の方からのコメントにもあったんですけれども、関さんの中で「振り返ってみると点と点がつながっていて、キャリアの考え方の軸になっている」部分をおうかがいできて、なるほどと聞いておりました。ありがとうございました。

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