思わないとできないし、やらないと変わらない

松岡永里子(以下、松岡):中村さんのお話をうかがっていて、あらためて会社ってけっこう人なのに、会社というモンスターみたいなものを想定して話す会話って多いなと思った。「会社はこうだから」とか「会社のせいだ」と。でも、それってけっこう一人ひとりが会社を作っている。結局人の集合体が会社なんだよなというのを感じました。

中村英泰氏(以下、中村):そうですよね。

松岡:(笑)。なので、一人ひとりの変化が会社を変えていくというのは、本当にどんな大きさであれ忘れちゃいけない視点だなと思っております。

中村:いやあ、ありがとうございます。

松岡:あともう1個。『憧れを超えた侍たち』を観に行ったんですけど。映画ですね。

中村:ああ、ご覧いただいておりました?

松岡:観ました観ました。私、初日か次の日くらいに観に行ったんですが、あらためて本当にまさにMBB(Management By Belief)で、栗山英樹監督が一人ひとりに、「頼むよ」とか「こういうことを期待しているんだ」とちゃんと伝えて、主将を置かずにチームをマネジメントしていた。

観ていて、「これはまさに今の会社・組織にも使える!」と思っていたのに、観ている間に感動して忘れちゃっていたのを中村さんの話で思い出しました。すみません、ちょうど自分が言いたかったことです。

中村:だから、偶然というのは“たまたまの話”じゃなくて、私たちの行動の集積で起こるはずなんですよ。組織というのはそれに必ず満ちあふれているんですが、それを誰が信じて行うかということですね。よく言われる、「月に行こうと想像して、月にいけると信じ、月に行くための一歩を踏み出さなければ、依然として月は見上げる対象のままである」ということだと思うんですよ。

松岡:なるほど。

中村:「そんなバカなことを」と思っても、「うちの会社ってもっと良くなるんじゃない?」というふうに思う人がいないと変わらないと思いますね。

松岡:確かに。まさにおっしゃる通りですね。思わないとできないし、やらないと変わらないし、そのぐるぐるのところの基点がまず思うところからなのか、もしかしたらあいさつするところからなのか。

中村:そうそう(笑)。「この人とつながりたいな」と思うこと、必要じゃないですか。

松岡:そうですね。確かに文句ばかり言っていて。文句を言うことも1ついいのかもしれないですけども。

中村:(笑)。確かにそうですね。

松岡:ありがとうございます。

「関係性」という言葉が放置されてきた理由

松岡:ここからQAをいただいたのを答えつつ、私もちょっと気になったところを、2つテーマを持ってきていてですね。

中村:ありがとうございます。

松岡:1つ、関係性の質というか、あいさつするのもそうだし、声を掛けていく、半径5メートルの方に接していく。あとお話にあった「ゆるい職場」とちょっと近い部分で、「なかよし倶楽部」みたいな、仲良しな会社になっちゃうんじゃないかという考え方を持たれる方もいるのかなと思いまして。

中村:なるほど。

松岡:メリハリのつけ方というか、「ここは押さえておこうぜ」というものがもし中村さんの中であれば、おうかがいしたいなと思います。

中村:ありがとうございます。いや、とても重要な問いだと思います。長らく「関係性」という言葉が放置されてきたのは、いわゆる得体が知れない、「それって仲良し?」と思われてきたから。

だから、メンバーシップ型というもののメリットよりも、どちらかと言うとデメリットが強調されるのは、そのあたりをおそらくあまり科学していないところからの発言なんじゃないかなと思うんですよね。

イノベーションは必ず「ペア」から起こる

中村:重要なところの1つをお伝えさせていただくと、そもそも……。これは考え方ですよ? 方法論の前に、まずマインドとしてとても重要なのは、イノベーションというものは、今どの職場においても、どの組織においても、どの企業においても不可欠ですよね。必達になっていると思います。

「この数年の間に起こさないと、うちの会社はまずいんじゃないか?」と感じていらっしゃる。今日ご参加いただいている方の中にいらっしゃるんじゃないかなと思います。

イノベーションってどこから起こるかと言うと、シングルじゃないんです。ペアなんですよね。スティーブ・ジョブズも言っていますよね。スマートフォンを世に出したきっかけになるのは、ジョブズとスティーブ・ウォズニアックという2人のスティーブがいて、そこで喧々諤々になるんです。馴れ合いになるのは、たぶん遠慮をしているからだと思います。

僕たち、プロフェッショナルじゃないですか。「おかしいじゃないですか?」ということを言える関係性と、それに対して「いや、こうなんだ」ということでしっかり対論を述べられる。そのためにはやはり主体性が必要ですよね。そこに座っていない人と話をしていても一向に解決しないですね。まずは、そのためにも自分が座る。

そして、どうしても組織というものは大きくて、いろんな目的で座っている人がいるので、すべての人を同義で捉えずに、まずはそういう同じ温度感が合った人を見つけていって、少しずつオセロのようにひっくり返していくことが重要です。

松岡:なるほど。オセロのように、周りの人がその影響をちょっとずつ受けるようにということですかね。

中村:そうですね。うんうん。

すべてを本音で話そうという「心理的安全性」の言葉の罠

松岡:逆に言うと、離れた人でそういう遠慮がある中で、例えば共通の目的がない中で無理やり距離を近づけたとて、やはりちょっとゆるいというか、ただの仲良しになっちゃう。

けれども、椅子に座っているというのは、主体的に何か目的意識を持って仕事に携わっている方とは、喧々諤々にやっていけば、自ずとメリハリというか、ゆるい職場、なかよし倶楽部にはならないという考え方ですかね。

中村:ただ、「何もかもすべてを本音で話そう」というのはなかなか、心理的安全性という言葉の罪だと思うんですが、職場があれば心理的安全性ではなく、制度を整えたら心理的安全性でもなく、僕らはたぶん語り合うことによって心理的安全性を創り上げられるわけじゃないですか。

そう思った時に、そこをどう整えていくのかということが1つ重要だと思うんですが、常にじゃないと思うんですよね。「誰に対しても」というのは、やはりちょっと遠慮する可能性がありますし、私たちも組織の中で長くやってきて、積み上げて来た信用を明日から失うなんてのは、とても危ういと感じますよね。

だから、1つはそういう考え方として、どこに視点を、いわゆる基点を置くのか。軸ですね。そこから一緒に歩める人をどうやって見つけ出すのか。必ず職場に仲間はいると思いますよ。

松岡:確かに。

テイカーからギバーに変わるタイミング

中村:心配だったら、僕は、エンファクトリーの回し者じゃないですけど、一度、越境して、「僕が言っていることっておかしいかな?」というのは他の場所で確認してみるといいですよね。

松岡:そうですね。この間、「野球も、海外のメジャーに行ってきた人たちって、すごく性格が良くなって戻ってきているんじゃないか」という話もちょっとしていて、それも越境の効果、成果かなと思って。

中村:ああ、いいですね。

松岡:例えばダルビッシュ選手も、いいお兄ちゃんとして、メンバーに働きかけているのを見ていて。やはり海外を知って、苦悩もあって、客観的に見ることができて、自分の役割を全うされているのかなと、勝手に野球絡みで越境の効果というのをちょっと思っていたりします。

中村:なるほど、そうですね。だから結局これは組織論のところになるんですが、会社の中に長くいるとなせるわけでもなく、一定の職に就くとなせるわけでもないんですが、必ず人というのはどこかのタイミングで、テイカー(多くを受け取る人)からギバー(人に与える人)になっていかなければいけないんですよね。

少なくとも僕たちって、現状ではほとんど、いわゆる私たちの先人が残してくれたプログラムに乗っかっているんですよ。これ、テイカーです。

これは僕たちが作ったゲームじゃないから、やはりゲームを作った人に対して、ゲームフォロワーとかいう立場からすると、不満が出るのは当たり前ですよね。ただ使命としても、いつかはやはり僕たちが自分で作っていかなきゃいけない。その瞬間からギバーになっていくはずなんですよ。

組織を通じて、仕事を通じて、他社を通じて「自分を開く」

中村:これを組織云々だけの話ですすめて行くのではなく、組織を通じて、仕事を通じて、他者を通じて、できるだけ自分を開いていくことが重要です。そこの感覚を持ってくると、ボーダーラインをどこかで引くような感じではなく、これは自分の中に持つことができるようになります。

ただ、突然行うのは簡単ではないので、だから、それこそやはり環境を越えてみるとか、一回揺らしてみるとか、ほぐしてみるとかは、僕たち自身が持ち得ていくことが必要なんじゃないかと思います。特にマネジメント層は重要ですよね。

松岡:なるほど。いろいろ自分で見つめ直すとか、あとは一定のものじゃないという意識も大事かもしれないですね。

中村:そうですよね。

松岡:見直すというか。

中村:それは必要だと思います。

松岡:ありがとうございます。ZoomのQAでも「Management Buyoutの原則を外さなければ、なかよし倶楽部にはならないんじゃないかと、お話を聞いていて思いました」というお声もいただいております。まさにそうですね。

中村:そうですね、確かに。ありがとうございます。

松岡:ありがとうございます。もう1つ、時間的にいけるかなと思うので、お伝えさせてください。

中村:お願いします。

社員が「やる気をなくす」のは、ほとんどが環境か関係性

松岡:書籍(『社員がやる気をなくす瞬間』)にどーんと出ている「やる気を失う」というキーワードに対して。今日は人事の方の参加が多いので。

中村:ああ、ご参加ありがとうございます。

松岡:働きかける側として、やる気を失った社員に、本当に今日、今からできること。先ほどのあいさつみたいな話なのか、「ぜひこれをやってみるといいよ」というものってありますか?

中村:「やる気をなくした」というのは、ほとんど環境か関係ですよね。環境でやる気をなくしているのか、関係でやる気をなくしているのか。このあたりの見極めは重要だと思います。

ただ、見極めと言っても、ずっと見ていて表に出てくるわけではないので、ほとんどの人が言わないので。それはやはり僕たちが、まさにバウンダリーのところですよね、関係性をどう整えていくのか。

ただ、関係性というものは、すごく酷なのは、いわゆるマネージャーも、いわゆるリーダーも、人格者であり完璧なパーフェクトヒューマンではない。そう考えた時には何をするかと言ったら、誰かに任せるとか誰かに委ねるとか、そういう考え方って重要なんじゃないかなと思います。自分が苦手なこととか。

必ず人というのは、発達的な考え方なんですが、きっかけさえ整えば自分で何かをやってみようと、ほとんどの人がやはり幸せのために自分の行動をしていて、誰かの役に立ちたいし、自分自身が必要とされる1つになりたい。最近、「ユニークでオリジナル」と言うんですが、そういったところを目指しているので、そこを信じて、自分で難しかったら誰かに任せてみる。

あとは問いかけ方や場面を変えてみるとか、職場という中でのいろんなリソースを見ていくと、限りなく方法はあるはずなので。今までやってきた方法でたぶんダメだったというだけだと思うんですよね。そこはぜひ、最後になりますが、本(『社員がやる気をなくす瞬間』)を読んでいただけると。

『社員がやる気をなくす瞬間 間違いだらけの職場づくり』

松岡:(笑)。いい感じに。ぜひ読んでいただけるといいのかなと思っております。ありがとうございます。お時間の都合上、QAとここのテーマセッションはいったん以上とさせてもらえればと思います。中村さん、あらためてありがとうございました。

中村:いえいえ、今日は本当に多くの方にご参加いただきありがとうございました。またよろしくお願いします。

松岡:ありがとうございます。書籍(『社員がやる気をなくす瞬間』)もよかったらみなさんご覧ください。

中村:ぜひ、そうですね。ありがとうございます。

松岡:ありがとうございます。