知識がすぐに手に入る時代こそ「実感」が大事

佐藤政樹氏(以下、佐藤):では、どうしようかな。ここから進めるか、質問タイムとしてみなさんとセッションするか、どうしましょうか?

司会者:また戻しますが、感想も含めてちょっとだけ聞いてみましょうか。せっかく佐藤さんが、本に書いてあることも本に書いてないこともお話ししてくれたので、感想や質問があればどうぞ。

参加者1:お話ありがとうございます。感想を一言。自分の実感を語るためには、自分の体験の鮮度をいつも保っておく必要があるなと思いました。

会社の中でも、研修をやったりクラスをやったりするんですが、繰り返すうちにちょっと劣化するというか、鮮度が落ちる感覚は確かにあるなと思って。それをいつも新鮮に語るというか、自分の本音であり続けるために、体験を常に新しくしていきたいなと思ってました。

佐藤:ありがとうございます。

司会者:今の話で言うと、私もちょっとコメントを言いたくなって。さっきの「実感」や「経験」とかって、同じことが起こったとしても、ちゃんと実感を持ってそれを考えられるかは人によって違うじゃないですか。あれが学習力というか、経験学習のレベルの差のような気がするんですね。

だから今、上滑りというのももちろんそうだけど、同じことが起こっても自分の中でちゃんと体験として、実感値を持って考えられるかどうかが大切だと思います。例えば「戦争が起こってます」と言っても、それをちゃんと実感値を持って考えられるか。

私も考えられてるとは思えないんですが、考えられる人と考えられない人って、それまでの人生の蓄積もあるかもしれないけど、学ぶことや深さが違ってきちゃう。

知識がすぐ手に入る時代だからなおさら、実感を持って手に入れられる何かが、すごく大切なんじゃないかなとは思いましたね。

営業の仕事を“戦力外通告”でクビに……

佐藤:例えば、掛布(雅之)というプロ野球選手がいましたけれども、「毎日バットの素振りを500回やる」と言っていたんですが、「500回やるなんてすごいですね」と言われると、「いやそんな、プロだから当たり前だよ」みたいな感じで返していて。

でも、ただなんとなく作業として500回振ったら、大変な筋肉がついちゃって余計に成績が悪くなるんですって。でも、今言ってくれたような実感の部分を自分の中で意識して、現場での実感の部分と当てはめながらやると、すごく精度が上がっていくそうなんです。

だから本を読むのも大事だけど、いかに行動して自分の実感ベースに落とし込んで学習していくのかは、やはりすごく大事ですよね。今、話を聞いていて思いました。

司会者:それは力ですよね。ほかにも、何かコメントはないですか?

参加者2:楽しいお話をありがとうございました。とてもワクワクしながら聞かせていただいてます。感想というよりも質問なんですが、最初の「超超氷河期」の近くの時期に、私もうろうろフリーターをしていたクチで、仕事にありつけなかったタイプなんですけれども(笑)。

その頃に「変わるんだ」と決めて行動されたというお話だったじゃないですか。「変わるんだ」と決めたきっかけは、実際に自分の顔が死んでいただけじゃなくて、ほかに何か背中を押したことはありますか?

佐藤:はい、あります。本にも書いていますが、僕、アルバイトをした時にクビになっちゃったんですよ。営業の仕事をしていたんですけど、いきなり「佐藤さん、もう来なくていいです。戦力外」って言われてクビになったんですよね。

転機となったのは、突然の訃報

佐藤:就職活動で内定を取れなくって、就いたアルバイトの営業の仕事も「もう来なくていい」「クビ」って言われて(笑)。本当に「なんだこれ」なんて思って、「もう生きていく価値がないんじゃないか」ぐらい思っちゃったんですよね。

まぁ、全部自分のせいなんですよ? 本当の問題を人のせいにして、社会から受け入れられてないと思っていました。

アルバイトをクビになって、「何をやっていいかわかんない」みたいな感じで、本当にさまよっていたんですよ。

その時、アルバイトの子の中にリーダー格の子がいたんですね。すごい就職難の時代だったのに、大手の広告代理店に即内定が決まっているくらいのすごい子だったんです(笑)。

僕がクビになってフリーターでさまよっている時に、彼が海の事故で亡くなっちゃったんですよ。仲間から連絡がきて、「えっ。この間まであんなに元気だったのに」ってすごくびっくりしました。

彼女と一緒に海に行って、2人で亡くなっちゃったんです。遺体はちゃんとあって、お葬式も開かれたんですよ。元の仲間だけじゃなくて、「クビ」って言った上司もいたし、社長もいたので(笑)、その場に行くのはつらかったんですけど、やはりお別れしたかったので行ったんです。

そうしたら、彼女と彼の合同のお葬式だったんですよね。棺の中を見たら、この間まで元気だった彼が亡くなっているんです。亡くなった彼の顔を見て、「うわっ」と思って。人生、1回じゃないですか。僕は今、生きてるじゃないですか。「変わらなきゃダメだな」と思ったんですよ。

恥をかいても失敗しても、1回きりの人生を生きる

佐藤:ついこの間まで元気で、すごくリーダーシップを発揮していて、内定も決まっていて、「さあこれから社会人として活躍していく」という時に亡くなっちゃったんです。それがものすごく衝撃的で、棺の中の顔が、いまだに僕の頭の中にずっと残っているんですよ。

彼を見て、「こんなんじゃダメだ。生きていることは当たり前じゃないし、一生に1回の人生だし、絶対に生きなきゃいけないな」と思ったんです。だからもう、本当に恥をかいても失敗してもいいと思って、決めました。

時間はかかりましたよ。でも、変わるんだと決めて、勇気がいりましたが変わりましたね。ありがとうございます。

司会者:インパクトのある、本当に「肚からの話」が出てきました。でも、佐藤さんは常にそういう感じですよね。

それこそオンラインでアクションラーニングをやっていた時も、YouTubeをやるとか、本当にいろんなことを自分でコミットしていましたもんね。すごいなと思いました。今の話も聞きながら、やはり「自分の体験」は相当強いんじゃないかとちょっと思いました。

「見る天国、やる地獄」な劇団四季の過酷さ

司会者:また、佐藤さんにお戻ししてもいいですか。

佐藤:はい。せっかくなので、劇団の時の話を軽くしましょうかね。

「頭・胸・肚」の話をしましたけど、僕が生きてきた劇団四季の世界でのお話をしますね。

(スライドを示し)これは『ライオンキング』を観に行った時の記念写真ですね(笑)。20年もロングランしているんですが、なぜお客さまを毎回感動させることができるのかというと、一番最初に言ったとおり、全員の言葉と態度と行動のベクトルが同じになる考え方や仕組みがあるからだとお伝えしました。

「見る天国、やる地獄」と言われてまして、見てるほうは楽しいですけど、やっているほうは地獄なんですよね。相当きついです。

年間200ステージから250ステージあって、1週間でだいたい8回やっていました。本当に極限状態になってくるんですよ(笑)。でも毎回、お客さまを感動させることができるんですね。なぜかと言ったら、その答えが(スライドを示し)こちらなんですよ。

仕事する前に、お客さまの前に一歩踏み出す前に「私は何のためにここにいて、なぜ一歩踏み出すのか」。これを必ず自分で自分に問いかけてから一歩踏み出すという、劇団四季のカルチャー・組織文化があります。

これが、お客さまが集まってくるのか・去っていくのか、一人ひとりの俳優がプロになっていくのか・アマチュアのままなのか、お客さまが感動するのか・お客さまが感動しない形骸化した舞台になるのか、紙一重の差なわけなんです。

たとえ“草の役”でも一切手を抜かない

佐藤:『ライオンキング』を見たことない方はぜひ見にいってほしいんですが、「Nants ingonyama bagithi Baba Sithi uhm ingonyama Ingonyama nengw' enamabala……」ってね(笑)。『ライオンキング』はいろんな動物がわーって出てきたりして、すごく楽しいんです。

お客さまが感動してくださって、「本当におもしろかった」と言ってくださる方は多いんですけど、「どんなところがおもしろかったですか?」って聞くんですね。劇団四季の『ライオンキング』の感動ポイントで、一番多いのは何だと思います?

「主役の人の歌がうまかった」「かっこよかった」「舞台装置がすごかった」とか、いろいろありますけれども、実は草とか木とかサボテンとか、誰も見ちゃいないような端っこ役の人が一切手を抜いていない役を生きて輝いていたというのが、一番多いんですね。これがお客さまの感動ポイントでもあるんですよ。

じゃあ、なぜそれができるのかと言ったら、草だろうが木だろうがサボテンだろうが、「私はなぜここにいて、なぜ一歩を踏み出すのか」を必ず自分に問いかけて、マインドセット、意義づけ・意味づけをしてから一歩を踏み出すという劇団四季のカルチャーがあるからなんです。

安定したパフォーマンスをするための秘訣

佐藤:幕が開けると、サバンナの大草原のシーンで、左側からチーターが出てくるんですよ。このチーターを見て、あまりにも動きが美しくて泣いちゃう方がけっこう多いんですね。

チーターの女性は、大前提としてこのシーンを1,000回とか2,000回やっています。本当に、1,000回も同じことを繰り返し、ルーティーンワークでやってるんですよ。

じゃあ、このチーターの女性が1,001回目にメイクして「今日も『ライオンキング』しんどいな、がんばろ。よし行くか」と思ったら……「にゃー」ってなっちゃうんですね(笑)。これだと、チーターの着ぐるみを着たお姉さんです。学芸会の舞台になっちゃうんですね。

すると、これは舞台として劣化している状態なんですよ。お客さまはそれを見て「おもしろくない、もう来ない」ってなっちゃうんですね。舞台は水物なので、これはけっこう紙一重の差なんですよ。こんな出来の波があっちゃいけないんです。ちゃんと安定したパフォーマンスをしなきゃいけない。

そのためにはどうしたらいいかというと、「私はチーターとして、なんでここにいて、なぜ一歩踏み出すのか」を自分に問いかけてから一歩を踏み出す。この思考習慣ですよね。意義づけ、意味づけの習慣です。

すると、(実演しながら)「お腹ペコペコ、2週間何も食べてない、どうしよう。子どもが2人いる。このままじゃ餓死しちゃう、どうしよう。……キリン見つけた、これでご飯にありつける!」って入るんですよ。雰囲気や緊張感が、ぜんぜん違うと思いません?

「ヤバい、目が合っちゃった。バレちゃったかな、まずい……。大丈夫、バレてないバレてない。……Garrr!」ってなるんです。そうすると、見え方がまったく違うんですよね。

草の役でも木の役でも「自分の役割」を認識する

佐藤:でも、実はこの紙一重の差を生むのが、「なぜその場にいるのか」を一歩踏み出す前に考えているか否か、ただこれだけなんですね。これが死活問題なので、劇団四季では共通認識として言語化しているんですよ。その言葉をみなさんに紹介したいと思います。

それが「ゼロ幕」です。四季では、1幕、2幕ではなく「ゼロ幕」。つまり、一歩踏み出す前にどう自分で意義づけできてるかどうかが勝負を決めます。それによって草も木もサボテンも、見え方がまったく変わっちゃうんですよ。

草としてプロの表現ができているのはなぜかといったら、一人ひとりが草として大地のエネルギーを感じて、草としてそこに生きているからです。1,001回目に「今日しんどいなー」と思うと、気が抜けた状態になります。

草だろうが木だろうがサボテンだろうが、みんな一歩踏み出す前に、自分の役割を認識し役をしっかりと生きているということですね。

じゃあこの「ゼロ幕」という考え方は、劇団四季だけの話なのかというと、絶対にそうじゃないと思うんですよね。

「ゼロ幕」思考の大切さ

佐藤:みなさんが会議やセッションに入る前に、「何のために自分はここにいて、なぜ一歩踏み出すのか」というマインドセットや意義づけの部分ができているか・できていないかで大きな差があると思います。発言や集中力も変わってきますよね。

全員がその共通認識を持っていたら、1時間かかっていた会議が30分で終わったりもすると思います。僕は、いまだにこの「ゼロ幕」にどれだけ助けられているかわからないです。

例えば、1,000人の前で話す時は逃げたくなりますよ。「間違えたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」「止まっちゃったらどうしよう」とか(笑)、どうしても内向き思考になっちゃうんですね。

内向き思考は自分都合の考え方です。お客さまからしたら関係ないんですよね。でも、それをいかに外向き思考に変えていけるのかがすごく大事です。どうしても人間はみんな、そういった局面を迎えると内向き思考になっちゃうと思うんです。

「目標達成できなかったらどうしよう」「契約が取れなかったらどうしよう」「これを売りつけなきゃいけないのかな」とかじゃなくて、本当は「人の役に立つ」「問題を解決する」「自分の経験談を通して相手のエネルギーを引き出す」「希望とか勇気を引き出す」とか、外向き思考の本来の目的があるじゃないですか。

こういった外向きの考え方に持っていくことができるのが、「ゼロ幕」という考え方だと思います。思考を「ゼロ幕」に変えられると、自分で自分のことを勇気づけられると思うんですよね。これが本当に侮れないというか、どれだけ自分の中のお守りになってるかわからないですよ。

嫌々で仕事をするのか、活き活きと働くのか

佐藤:一歩踏み出す前に、必ず自分の中で問いただすんですよ。昨日は新入社員研修の前、朝起きてトイレ掃除をしている時に「今日はどんなことを伝えられるかな?」って思うんですけども、「何のために僕は新人の前に立つんだろう」と考えるんですよね。

やはり、生き生きと働く社会人になってもらいたいなと思うんです。長く働いていくので、「つらいな」と思って嫌々仕事をするのか、それとも活き活きと働くのかは社会人にとって大きな差ですよね。

そのことを考えた時に、僕は活き活きとして働く社会人の背中を押していきたいなと思ったんです。だから、一番最初にそれを言おうと思うんですよ。「僕が今日来た理由は、みなさんに活き活きとした社会人になってもらいたいんです」と。でも、「ゼロ幕」の考えがなかったらその言葉は出てこないんですよね。

「今日も新入社員研修だ、よしがんばろう」だと、その言葉は出てこなくてぬるっと入っちゃうんです。ぬるっと入ると、ずーっとぬるっとした研修になっちゃうんですよ。

だから自分が初心に帰る上でも、毎回毎回「ゼロ幕」をしっかりと意識していくことはとても大事だなと思います。

演者にとっては日常でも、お客さまにとっては非日常

佐藤:また僕は、それが自分の言葉の実感値になると思います。「なんでそこにいて、なぜ一歩踏み出すのか」を自分の中で肚落ちさせていくことが、自分の内側からあふれる実感値になってくると思うわけですね。

「100円玉を1年間貯めて、地方から新幹線に乗って舞台を見に来る子どもが劇場にいるかもしれない」という言葉を言われたことがあります。出演者は、100回、200回、1,000回やってるんですよ。その中で「今日も『ライオンキング』だ」と思ってぬるっと入ると、何が起こるかというと、その子どもの努力を裏切ることになるんですよ。

子どもにとっては一生に1回のことなんです。つまり、お客さまにとっては非日常なんですね。シンプルに言うと、出演者が「今日も舞台だ」と、日常だと思ってぬるっと入っちゃ絶対にいけないということです。

お客さまの人生の背景にはドラマがあるんです。劇場に来たってことは、その行動の奥には必ず理由、つまり人生のドラマがあるんですよ。それを何も考えないでぬるっと入ると、その人たちの心を裏切ることになる。

だからプロは、毎回毎回初日と思って、「ゼロ幕」をしっかりとセットして届けていこうよということだったんですね。これが、僕はすごく学びになりました。

また、これをやることで、本当にプロになったなと思いますね。「どうやったら毎回毎回お客さまを感動させることができるか」を自分で考えて、自分で行動して、毎回精一杯、自分の「できる限り」をやっていくこと。それが「佐藤さん、またここでぜひ話してください」といったことにつながってると思うんですね。

フリーターから劇団四季の主役になった経験を伝えたい

佐藤:僕は、23歳のフリーターから劇団四季の主役まで上り詰めた経験を、1人でも多くの方に伝えたいという思いを持ってやっているんです。

赤坂のワンルームマンションから学生7人でスタートして、今みたいな感じでしっかりと自分の思いをセットして、毎回毎回初心と思ってやっていたら、「佐藤さん、ここで話してください」「ここで話してください」「ここで話してください」……って、どんどん呼ばれるようになっていきました。

そのうち「佐藤さん、これは企業のビジネスパーソンに話せますよ」と言われて、「僕はビジネス経験がないので、そんなの絶対に無理です」と答えても、「いや、絶対にいけますよ。一緒にやろう」という仲間が現れて、僕の経験をコンテンツ化してくれました。今はいろんな企業で話したりもしているんですよ。

なので僕は、フリーターから劇団四季の主役にまで上り詰めた経験を1人でも多くの方に伝えて発信していきたいと思っていますし、この本(『人を「惹きつける」話し方』)を通して、人の可能性や内なるエネルギーを引き出していきたいと思っています。まだ持っていない方はぜひ読んでいただきたいなと思います。

(本を)持っている方は、このセミナーを聞いた感想をAmazonレビューでアウトプットとして書いていただけたら本当にうれしく思います。今は50件ぐらいになりましたが、100件を目指しているので、よかったらご協力していただけたらと思います。