繰り返すほど言葉は劣化していく

佐藤:例えば「おいしい」(という言葉)が『ライオンキング』の中にセリフとして出てきたら、1,000回中1,000回とも今のクオリティで再現しなきゃいけないんですね。

Aさんがやっても、Bさんがやっても、Cさんがやっても、今のクオリティをお客さまに届けないと商品が劣化していくんですよ。つまり、言葉って劣化していくんです。

みなさんは自分で気づいてないですけど、言葉って劣化していくんですよ! 人間は恐ろしいもので、特に同じことを何回も何回も繰り返しやっていくと、自分ではここ(腹)で言えていると思っていても言葉が上ずっていくんですよ。これを「言葉の鮮度」と、僕は本の中で言っています。

毎回、繰り返し同じことをやっていると、だんだん言葉が上っ面になって、上滑りになってくるんです。

(スライドの)青い線から下をしっかりとキープしていけるかどうかが、お客さまが去っていくのか集まってくるかの紙一重の差ということです。なので、青い線から下をキープするのがプロの仕事なんですよ。

じゃあ、プロの仕事として、青線から下をしっかりとキープするためにはどうしたらいいのかと言うと、「言葉の定義」をしっかりと決めて、それを全員の指針にしていくことが大切なんです。

“うまく話すこと”よりも大事なこと

佐藤:劇団四季の言葉の定義をみなさんに紹介します。それは「実感して語る」というものです。この定義を考えた人は、本当にすごいなと思います。

人が言葉を発する理由を実感できている時は、自分の中で本当に実感できている時です。「うまく話す」とか「きれいに話す」じゃなくて、自分の大切な宝物を相手にプレゼントするかのように語っている時です。それこそが、「あなたの言葉が肚落ちしている状態」です。

なので、劇団四季はこれを指針にしていて、「佐藤くん、今の言葉を本当に実感してる?」というふうに、フィードバックが入るわけですね。こうやって、自分たちが使う言葉を極めているのが劇団四季でもあるんですね。

みなさんは女優・俳優ではないので、この「実感して語る」を極める必要はないですよ。ただ、自分の使っている言葉はどうですか? 頭の部分で唱えてません? 胸の部分で何回も、何回も繰り返しやることによって形骸化しちゃって、上っ面になってません?

それとも、本当に毎回新鮮に、自分がその言葉を相手やお客さまに届けられていますか? 言葉を発する理由を自分の中で腑に落ちた状態で、しっかりと十分に届けられていますか? これはビジネスの現場でもすごく重要なことだし、大切なことじゃないかなと思います。

“言わされ言葉”で売上を出すのは難しい

佐藤:繰り返しますが、人間は何回も何回も繰り返し同じ言葉を発していると、だんだんと言葉が上ずってきちゃうんですよ。

自分の中では本当においしいと言っているつもりが、(実演しながら)「本当においしい!」となっちゃうんですよね。こういった感じで、言葉に対して意識を向けていくことがとても大事じゃないかなと思っているんですよ。

この視点を持って世の中を見てみると、すごくおもしろくて。例えば「いらっしゃいませ」というあいさつで言うと、コンビニエンスストアへ入って「いらっしゃいませ~。唐揚げいかがっすか」と言われたら、どうですか? 「この唐揚げ、買いたいなあ」と思うのかと言ったら、右から左に耳を抜けていくのね。

「いらっしゃいませ~。唐揚げいかがっすか」という言葉は、店長に言わされているだけなんですよね。言わされているだけの言葉は、やはり「頭」の唱えている言葉なんですよ。そこから売上が出せるかと言ったら、売上を出すのは厳しいですよね。

暗記しただけの言葉は、面接官に響かない

佐藤:次は「胸」の言葉です。ショッピングモールとかへ行くと「いらっしゃいませぇ。どうぞご覧くださいませぇ」とよく言われます。僕、普通にこの言葉を聞くと、なんかざわざわっとするんですね。普通に目を見て「いらっしゃいませ」「どうぞ私たちの商品を楽しんでください」でいいと思うんです。

コーヒー店なら「いらっしゃいませ、こんにちは。私たちのコーヒーをこの空間で楽しんでください」でいいと思うんですよ。「いらっしゃいませぇ。どうぞ、ご覧くださいませぇ」と言うのは、「言葉を歌っている」とも言ったりするんですけど、まさに言葉が形骸化して上ずっている状態だなと思っちゃうんですよね。

でも、普通に目を見て「いらっしゃいませ」という言葉を実感しながら、自分の言葉を相手にプレゼントしていく意識を持っていくと、おもしろいんじゃないかなと思います。

エンターテイメントとしてセリフでやってみましょうか。僕が『人間になりたがった猫』でライオネルを演じた時に、「本当に妙な気持ちなんだ。なんだか胸が締め付けられるみたいで」というセリフがあったんですよ。

今日も学生さんがいると思いますが、よく面談で自己紹介、自己PR、あとはガクチカ(学生時代に力を入れたこと)について、自分の中でスクリプトを暗記して間違えないように話すのとけっこう似ています。

自分の中で間違えないようにセリフを覚えると、(実演しながら)「本当に妙な気持ちなんだ。なんだか胸が締め付けられるみたいで」となっちゃうんですね。

じゃあ、1万円を払って観に来たお客さんの前でそれをやったらどうなるかと言ったら、「お金返せ」となるんですよ。伝わらないんですね。なので、自分の中で暗記した言葉をいくら伝えても、やはり面接官や聞いている人に響く部分は少ないと思いますよ。

誰かから“借りてきた言葉”も相手には響かない

佐藤:次に「胸」。慣れてきたり、ベテランになってきたり、人前で話すことがちょっとうまくなってきたりすると「胸」になるんですよ。人間っておもしろくて、特に話す機会が多い方、人前で話す機会が多い先生の方は、慣れてくると「胸」になってくるんですね。これが恐ろしいところです。

演劇の経験があったり、ベテランになって自分に役が付いてだんだん上の立場になったりしてくるとどうなるかと言ったら、「ようし、伝えるぞ」という気持ちが先走るんです。すると「本当に妙な気持ちなんだぁ。なんだか胸が締め付けられるみたいで」となります。

「あぁ。俺の芝居、最高」と言って帰ってくるんですよ。これがさっき言った「自分が伝えている」という状態。「うわぁ、最高」と自分では思うけど、相手はそう受け止めていないギャップですね。自己満足です。主観と客観の違いを生み出しちゃっている状態なんですよ。

今日はせっかく学生さんがいるのでお伝えするのですが、例えばこれが自分の言葉じゃなくて、人の言葉を借りてくる。これはまさに「発声」と「発想」が一致していないということなんですよ。

人の言葉を借りてきて、あたかも自分のように話すこととか、よくありません? これって実は、発声と発想が一致していないんですよ。だから聞いているほうには、いまいち響かないんですよね。

言葉を伝えるには「いかに嘘を消せるか」が重要

佐藤:じゃあ発声と発想が一致するためにはどうしたらいいのかと言ったら、唱えるのでもなく、胸の部分で借り物の言葉を上っ面に話すのでもなく、なんでその言葉を話すのか、自分の中で腑に落ちている状態にするんですね。

セリフで言ったら「本当に妙な気持ちなんだ。なんだか胸が締め付けられるみたいで」ということです。やろうとか見せようとか、そういうものを全部消すんですよ。「なぜこの言葉をお客さまの前で発するんだろう?」と考えるんです。

恋をしたことのない少年ライオネルが、女性を見て胸がときめいてドキドキして鳥肌が立って、雷にどかーんと打たれて「え、何これ? 何これ? 今まで経験したことがない。何だろうこれ? これが、人間が言っている『恋』ってやつなんだ。不思議だ……」ということをただただ感じながら、言葉を届けるだけなんですね。

すると、こうなります。「(実演しながら)本当に妙な気持ちなんだ。なんだか、胸が締め付けられるみたいで」。

「本当に妙な気持ちなんだぁ。なんだか胸が締め付けられるみたいで」と違いませんか? 前者のほうが、よっぽど説得力がありません?

このように、いかに言葉を実感して、また自分の言葉として相手に届けることができるのかどうかが大切です。本当に人に伝えたり、人に話すっていうのは、嘘を消すことだと思います。「いかに嘘を消せるかだよ」と、劇団四季で習いました。

人前で話すことは“裸になること”

佐藤:そして、何回も何回も繰り返すことによって、上っ面で浮足立った言葉をいかに肚に落としていけるのかどうか。

多くの人は、人に伝えたい気持ちが湧くと盛っちゃうんですよ。大きく自分を見せようとすると、例えば木に粘土をこうやって付けていくように、どんどん盛っちゃうんですよね。

じゃあ、感動の本質は何かと言うと「そうじゃないんだ。うそを消していくことなんだよ」と習ったんですね。削ぎ落とし、削ぎ落とし、削ぎ落とし。

木で言ったら、木を工具を使って削ぎ落とした結果、中からオブジェが出てくるじゃないですか。このオブジェこそが、本当のあなたの姿です。この「素のあなたの姿」というものを見て、人は感動するんですよ。

素の姿をしっかりと出して、ありのままの自分としてその場を生きていくことが、実は劇団四季がとても大事している考え方でもあったんですよね。

その瞬間をいかに自分として生きるのか。盛って、いくら別人を装ってもばれちゃいます。人前に立つ・人前で話すことは、“裸になること”なんだよということだったんですね。

自分にしか話せない体験談を増やす

佐藤:じゃあ、みなさんが実感して語るにはどうしたらいいのかというと、シンプルに、自分が経験してきたことを、いかに本当に伝えたいことにひも付けて話せるかどうかです。

ここはうまい・下手じゃないんです。自分がどれだけ経験してきたことを、本当に自分が伝えたいメインメッセージにひも付けて話せるかどうか。ここなんですよね。

一般論とか、誰もが言えることではなくて、自分でしか話せないこと、自分でしか語れないこと。学生の方だったら、これからどんどんいろんなことにチャレンジして、この経験談の引き出しをどれだけ持てるかどうか。

人から「無理」と言われていたことが、できるようになるといったことですよね。「絶対に無理だよ」と言われたこととのビフォーアフターの差が大きければ大きいほど、ビフォーで悩んでいる人にとって、ものすごく響く内容なんですよ。

だから、どれだけ自分が「今できなかったこと」をこれからできるようにしていくのか。日々の中でアンテナを張って、いろんなことを吸収して実践して自分の血肉にしていくのか。これこそが自分の生きた言葉なんですよね。

“経験談のストックづくり”が重要な理由

佐藤:また、これからはAI時代ですよね。Alexaはすごく話すのがうまいですけど、表面的じゃないですか。人間がそれを越えられるのは、やはり「実感」じゃないかなと思うんですよね。

その人しかできないこと・話せないことこそが、まさに「経験していく」ということだと思うんですよね。

今日は(参加者に)学生さんが多いので、コロナでなかなか経験できなかったかもしれませんが、これからコロナが明けて“鎧”が外れましたので、ぜひいろんな経験をどんどん積んでいってください。

どんどん経験していくこと、チャレンジしていくこと、実行していくこと。その経験がおもしろければおもしろいほど、自分の枠組みをどんどん突破していけると思います。これが非常に重要なことではないかなと思っています。

経営者の方にも、たまにプレゼンテーションを見せてもらうことがあるんですが、どれだけ経験談をシンプルに伝えて、メインメッセージやゴールにひも付けられるかどうかが非常に大事じゃないかなと思っているんです。

なので、経験談の引き出しを自分の中でストックしていくこと。頭・胸・肚で言ったら、経験談は自分でしか語れないストーリーなので、肚に自分の中のデータベースをためていく感じだと思っています。そのためには、いかに自分が実践できるかどうかが非常に重要だと思います。

話下手な人ほど、まずは「書く」ことがポイント

佐藤:僕の本(『人を「惹きつける」話し方』)の中で、「経験したことを書きましょう」と言っています。「書く」のは発声と発想を一致させる行為なので、漠然とした思いを書くという行為によって言語化して、頭の中で発声と発想を一致させるのです。

だから、話し下手や口下手な人には「まず書きましょう」と言っています。書いて思考をしっかりと固めて、発声と発想を一致させて、自分のストックとして肚に落としていって、肚にデータベースをためていく。そして、書いたことを自分で見返したり、人に話す習慣を繰り返したりしていくと、内側から(言葉が)あふれ出てきます。

だから、人を惹きつける言葉は意図するものじゃなくて、無意識に出てくることだと思っています。特に未来有望な学生さんは、ふだんからどんどんチャレンジして、経験談を集めていくことが非常に重要だと思います。

ちなみに、僕は書くことをおすすめしているんですが、うまく書くとか、きれいな文章を作るのが目的ではなくて、自分の中の発声と発想を一致させて、思考を整理して肚に落とし込んでいくことが目的の作業だと思っています。

“経験・書く・話す”のループを繰り返す

佐藤:あと、本ではカットされちゃったんですが、「経験して・書いたことを話す」というループを繰り返していくことがすごく大事だと思っています。

ただ書いて終わりではなくて、しっかりと言語化されて残ったものを自分の言葉で人に話してみる。これを繰り返すと、この輪が内側から外側にどんどん広がっていくと思うんですよ。

この輪が広がっていって、それに共感してくれた人こそが、自分の言葉や話で人を惹きつける人じゃないかなと思うんですよね。

なので、「経験する」「書く」「話す」のループを繰り返すと、絶対に言葉で人を惹きつけることができますよ。「次のネタは何だろう?」と考え始めるんですよね。なので、ぜひみなさんもやってみていただきたいなと思います。

せっかくアクションラーニングのことを学ばせていただいたので、それと絡めてといいますか、客観的に、みなさんとは違う角度で、僕の視点から何か届けられたらいいなと思います。

(ボードを示し)「頭」「胸」「肚」とあるじゃないですか。僕がアクションラーニングをやっていると、質問することによって、その人の意識(頭)からここを(肚に)掘り下げているなと思うんですよ。これも本ではカットされちゃったんです。

「聞く」とは何かと言ったら、胸から肚に掘り下げること。多くの人が生きている中で、ここ(胸と肚の間)でせき止めちゃっていると思うんです。

せき止めちゃって、本人の中に本当にある答えや本当に言いたいこと、本当の問題に本人が気づいてなかったりすると思うんですよね。

「人を惹きつける言葉」を生み出すプロセス

佐藤:僕は、質問したり相手に話を聞いたりする時、胸と肚の間が水道管のようになっているのをイメージします。水道管の中は、ばーっと土や砂が埋まっているので、多くの人がここでせき止められちゃっているんですね。

これを僕はアクションラーニングで質問して、質問して、質問していく。問題をみんなで質問する。質問しかできない状態で質問することによって、その水道管を掘っているなと思います。

そして、掘って掘って掘っていくと何が起こるかと言うと、(胸と肚の間の)青い線がぱーんって割れるんですね。

青い線が割れると「あ!」と思って、胸と肚が直結する。アクションラーニングのワークは、まさにこれをやっているんじゃないかなと僕は思うんですよ。こう思うと、おもしろくありません?

本人の中にある、その答えや本当の思い、本当の問題、本当の原因、気づいてなかった問題が、「確かに!」というように、こうやってあふれ出てくることこそが、本人の中の自分の言葉や、人を惹きつける言葉につながってくるんじゃないかと思います。

まずは相手との信頼構築が大切

佐藤:ちなみに、僕は人が話していて「うわ、すごくこの人の言葉は響くな」「すごく感動するな」という時、(ボードを示して)この絵が見えて、肚から言葉が湧き出ているのがビジョンとしてすごく見えるんですね。

なので、この状態こそが、プレゼンや話で言ったら人を惹きつけている状態(だと思います)。また、アクションラーニングのワークは、ここを引き出そうとしているプロセスなんじゃないかなと思ったりもします。みなさんはどうでしょうか?

清宮さんは、氷山に例えますよね。「氷山が沈んでいる底の部分を、いかに上げていくのか」と言われていましたけど、僕もそう思います。本当にある肚の潜在的な部分を、いかに掘って掘って掘り下げて、引き出していくのかが重要です。

こういったことを、質問しながら「掘り出していくぞ」みたいに考えると、けっこうおもしろくないですか? 「玉ねぎの皮をむく」みたいに言っている方もいましたが、掘って掘って掘っていくためには、やはり信頼関係がとても大事ですよね。

ふだんから信頼関係を構築するという意味でも、ちゃんと話を聞くことがとても大事じゃないかなと思っております。