マネジメントに起因する従業員の離職

岩澤雅裕氏(以下、岩澤):本日のアジェンダの2つ目「リーダーによって防止できる離職」。逆の言い方をすると、マネージャーによって引き起こされる離職にはどういうものがあるのか。4つありますので、それぞれ見ていきたいと思います。

まず1つ目。「姿勢のルールを順守していない状態」。どういうことか。私たちは同じルールの下にいると、同じコミュニティの一員であるという感覚を持ちます。ルールが所属の意識、仲間意識を醸成していくということですね。そういったものがなかったり、曖昧だったりすると、自分がコミュニティの一員ではなく、個であるという意識が強くなります。

「姿勢のルール」とは、組織にとっての当たり前の基準のことです。私たちルールを、「姿勢のルール」と「行動のルール」の大きく2つに分けています。

「姿勢のルール」は、誰もができるルール。できるできないが存在しないルールです。例えば新入社員でもできること。挨拶とか身だしなみとか出社時間です。

一方「行動のルール」は、できる・できないが存在するもの。自分の能力や経験、またはお客さまなどの相手がいることによってできる・できないが発生するものを、「行動のルール」と呼んでいます。

「姿勢のルール」は組織にとっての当たり前の基準で、組織の中にいるものとして最低限守るべきルールになります。管理者の方にとって、「姿勢のルール」を守らせることは最低限の仕事になります。

所属の意識をしっかり作るためにも、誰もができる「姿勢のルール」を明確に設定してメンバーに守らせることで、自らの位置を認識させることが重要です。

こういったものがないと、個の意識が強くなり、組織から自己の利益に反することを求められていると感じると所属することの有益性を感じられず、結果として離職につながりやすくなります。

当たり前のルールがなかったり、曖昧であったり、管理が不十分な場合は、時に離職が起こりやすくなるということです。

従業員の離職につながる接し方

そして2つ目。「目標が不鮮明」。目標は曖昧だったり、求めていることが不明確だと、部下が「できた」という水準が上司から見て「できていない」というふうに見えてしまう。

私たちは上司が考えるゴールを「他意設定」と呼びます。他者が設定するゴール。一方、部下が自分で設定するゴールを「自意設定」と呼んでいます。(スライドのように)ここにずれが生じます。

そうすると、上司が何を求めているかがわからず、部下としては一生懸命がんばっているのに、がんばりが評価されないという状況が起こります。結果として、ここにいても評価されないのではないかと感じ、離職につながるということですね。

上司は目標を明確に設定したと思っても、部下にその達成プロセスが見えていなければ、どうすればそこにたどり着くのかがわからない。これは不鮮明な目標になり、同じくがんばっているけど評価されないということになると離職につながります。

3つ目は、「結果に対する評価、吟味が不十分」。これは、意識上の区切りや期限の区切りがない中で、ひたすら仕事をするという状況です。意識上の区切りがあれば、私たちはそこまで集中して物事に取り組むことができます。

例えば、決まった試験日に向けて試験勉強をするとか。大会の日取りが決まっているので、そこまでに厳しい練習をするとかです。こういった期日がない中で、厳しい練習、厳しい勉強をしても持たないですよね。

意識上の区切りがないと、今のしんどい状況が未来永劫続くんじゃないかと思って、集中力をキープできずに離職につながるというかたちです。

管理者・リーダーのみなさんは、意識上の区切りを作れるように評価の期間やゴールの設定に関する期限を明確にする。

そこまでしっかり走って、区切りをつけて、またリセットして走っていく。そういった意識上の区切りをつけていくことが、離職を減らす上では有益になります。

最後の4つ目は、「不必要な恐怖(感情的なマネジメント)」。「俺だったら」「普通は」などのフレーズや、「怒る」「困る」「笑う」などの状態ですね。

上司からの指示や命令に、感情が入っていると部下が感じるとどうなるか。上司と部下の「役割」としての会話ではなく、個人と個人の関係性の中での会話だと部下が認識するようになります。

特に、怒鳴るとか威嚇するといった感情的なマネジメントは、上司部下という役割、位置関係が消滅して、1対1の個人対個人の意識になります。そうすると「嫌いな上司に従いたくない」と、部下が選択権を持つように錯覚し、結果として離職につながりやすくなるというかたちです。

組織が成長する過程での、やむを得ない2つの離職

以上の4つが、管理者によって発生する離職です。「姿勢のルール」。当たり前の基準がないと仲間意識が生まれずに辞めやすくなる。目標が不鮮明だとがんばっても評価されないんじゃないかと思って辞めてしまう。

期の区切りがないと、いつまでこれをやり続けなければいけないのか、未来に対する不透明な状況ができて離職しやすくなる。そして、不必要な恐怖が起こるようなマネジメントをしてしまうと、個人対個人の関係性の中で、この嫌いな上司の下にいたくないと離職が起きるということですね。

こういった離職が起きていれば、それは管理者側に原因がありますので、マネジメントの仕方を見直すことが重要です。

アジェンダの3つ目ですが、組織の成長の過程でやむを得ない離職もあります。2つありまして、1つ目は先ほどもお伝えした「姿勢のルール」を守らないメンバーの離職ですね。

組織の成長のためには、会社が個人に合わせるべきか、個人が会社に合わせるべきか。やはり個人は自分で選んで会社に入っているので、選んだ組織のルールに合わせることが求められるということですね。

会社が個人に合わせにいくと、人数が増えてくるにしたがって、「なんであの人だけ特別なんですか」といった無駄なコミュニケーションが増えてくる。組織がまとまらずに無駄な時間が増えるということですね。

なので、組織を選んだ以上は「組織のルール」に合わせることが求められるということです。もちろん会社のルールを変えることもできますが、変えたルールにも合わせに行かなければいけないということですね。

「姿勢のルール」は、誰もが守れる当たり前のルールです。これを守っていただけないということは、そもそも組織に合わせる姿勢がないということですね。誰もができること、最低限のことに関してはしっかり守っていただく。これが組織に所属するという意識につながります。

こういった当たり前のことが守れない方が離職されるのは、やむを得ない離職になります。

もう1つが、「適正な競争による離職(他者評価の拒絶)」。組織は明確なルールで運営され、明確な役割、結果が設定されています。分け隔てなく平等な采配が実施され、リーダーとメンバー間の距離感が適正である。誰かだけ特別に距離感が近いとか、そういったことがないと適正な競争が起こります。

適正な競争が起きると、どうしても勝者と敗者。できる人とできない人が出てきます。できなかった人はそれを受け入れて、「次はしっかりとできるようにしていこう」と改善していく。こうして、再び競争が起きてくる。切磋琢磨できる環境が作られてくるということですね。

ただ、人によっては自分が敗者であることが受け入れられずに、離脱してしまう人が出てきます。これに関してもやむを得ない離脱と私たちは捉えています。

組織と個人の成長を確認できる環境づくり

ここまで3つのアジェンダでお話をさせていただきました。組織と個人は「成長」「所属」に互いにメリットがあるので、関係性を続けていくことができる。リーダーや経営層のみなさんは、こういった環境を作っていただくことが大切です。

2つ目は、「マネジメントに起因する離職」。組織としての当たり前の基準である「姿勢のルール」が整備されていない。もしくはそれが管理されていないと、個としての意識が強くなって離職が起きやすくなります。

そして、どうすれば評価が得られるかがよくわからない「目標が不鮮明なケース」や「結果に対する評価、吟味が不十分」。いつまでにどういう状況を作ればいいのか。期限、意識上の区切りが不明確だと、このしんどい状況が続くのではないかと思って離職につながる。

そして上司の部下に対する感情的なマネジメント。怒鳴ったり威嚇すると、上司部下の役割ではなく、個人対個人の関係性の中で動くことになり、時に選択できるという疑念から離職につながるということですね。

もしみなさんの組織で、こういうリーダーによって防止できる離職が起きていれば、マネジメントの在り方を見直していただきたいと思います。

一方で「やむを得ない離職」。組織としての当たり前である「姿勢のルール」が守れないメンバーや「他者評価」を受け入れられないメンバーが離れていくことは、組織運営上やむを得ないこととご理解いただければと思います。

根本に立ち返った時に重要なことは何か。リーダー・マネージャーのみなさんには組織と個人の成長をイメージいただいて、そこに至るルールとゴールを明確にした上で、組織も個人も成長しているかを認識できる環境を作っていくこと。これができていないと、時に離職につながりやすくなることをご理解いただければと思います。