目次


1 リスキリングとは?

2 リスキリングが注目されている背景

3 「アンラーニング」や「リカレント」との違い
 3-1 アンラーニング
 3-2 リカレント教育

4 社会人にリスキリングが求められている理由

5 リスキリング導入のメリット/デメリット
 5-1 リスキリング導入のメリット
 5-2 リスキリング導入のデメリット

6 リスキリング導入の4ステップ
 6-1 経営戦略や現状の課題をもとに、習得するスキルを定める
 6-2 プログラムを選定する
 6-3 従業員にプログラムに取り組んでもらう
 6-4 リスキリングで習得したスキルを実践する

7 リスキリングを行う際の注意点
 7-1 従業員のモチベーションの維持
 7-2 スキルを発揮する場の提供が必要

8 実際に導入した企業の事例
 8-1 三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)
 8-2 富士通株式会社
 8-3 ヤフー株式会社

9 まとめ


リスキリングとは?

リスキリング(Re-skilling)とは、簡単に言うと「新たなスキルを身に付けること」という意味です。経済産業省が発表した資料では「新しい職業に就くために、あるいは今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義されています。

リスキリングが注目されている背景

経産省の上記資料によると、「リスキリング」という単語のGoogle検索数は、2020年5月には1,470件だったものが2021年の2月には777,000件と、1年足らずで500倍以上に増加しています。これほどまでにリスキリングが注目されるようになった背景として、DX時代の人材戦略として効果が注目されていることが挙げられます。

日本における「リスキリング」の第一人者・後藤宗明氏は、欧米でリスキリングが注目されている経緯について、

デジタル分野、成長分野で新しい雇用がたくさん生まれているので、技術的失業は起きないという意見もありますが、実は新しく生まれるデジタルの仕事・職業に対して、なかなか労働者のスキルがついていかない。

自動化のスピードがどんどん高まり、スキルギャップが生じていく中で、技術的失業が起きると言われています。この技術的失業を防ぐ最大の解決策として、特に欧米でリスキリングが注目されている経緯があります。

と説明しています。

また、東北大学でAI教育者として教鞭をとる髙橋蔵人氏は、日本企業におけるリスキリングのあり方として

「じゃあリスキリングはどういうスキルが必要なんだろう」というのをデータの観点から見ると、データは外部のベンダーのものではなくて、みなさんが一生懸命汗をかいて、自分の事業で培ってきたものです。

最終的なポイントは内製化ですが、やはり自社で活かすには、営業やマーケをやってきた人たちが、これをどう活かすかを自分たちで捉え直す。その時には、やはりリスキリングして、スキルをどう活用するかをしっかり自分たちが学んでいって、内製化することが重要なのかなと思っています。

と語っています。

「アンラーニング」や「リカレント」との違い

リスキリングに類似した言葉として、「アンラーニング」や「リカレント教育」が挙げられますが、具体的には以下のような違いがあります。

アンラーニング

アンラーニング(unlearning)は、これまでに習得したスキルや常識の中で、現状には合わないものを一度捨てて、新たな知識を学び直すことを指します。

「学習棄却」と呼ばれることもあり、今まで学んだことを意識的に捨て去ることで、柔軟な発想を身につけることや、時代の変化への適応などの効果が期待されます。

リカレント教育

リカレント(recurrent)には「繰り返す」という意味があり、「社会人の学び直し」と呼ばれることもあります。

社会人になってからも、個人の必要に応じて仕事と教育を繰り返し、スキルアップにつながる知識を習得します。基本的には、一時的に就労から離れて学ぶことを指します。

リカレント教育|厚生労働省ホームページ

つまり、リスキリングがアンラーニングやリカレント教育と異なる特徴としては、下記が挙げられます。

・就業しながら学び、新たなスキルを身につける

・基本的には企業主導で行われることが多い

・スキルの「棄却」ではなく「獲得」を目的としている

社会人にリスキリングが求められている理由

OECD(経済協力開発機構)の調べによると、先進諸外国の中で、日本は最も大人が勉強しない国であるという結果が出ています。

リスキリングは、DX人材の育成など企業主体となって行う場合が多いですが、日本で勉強している大人が少ないということは、勉強したぶん個人としてのスキルアップに直結することも期待できます。

なお、リスキリングを研究するリクルートワークス研究所の大嶋寧子氏は、企業内で最初にリスキリングすべき人として「経営者」を挙げ、

(従業員に)「いかにデジタルの活用が必要なのか」「そのために、あなたにスキルを変えてもらう必要があるんだ」と説得していかなければいけない。それを説得できるのは、やはり経営者の方だけなんです。

DXで先行していらっしゃる企業の経営者の方に、私たち研究所としてお話を聞かせていただくと、必ず経営者の方がデジタルを学んでいらっしゃいました。もともとITやデジタルの分野で仕事をやられていた方を除くと、本当にイチから。なかには、まったく知らないITやデジタル用語を聞くたびに携帯にメモして、新幹線の中で1つずつ調べるところから始めた、という方も(いらっしゃいました)。

と語っています。

リスキリング導入のメリット/デメリット

ここでは、リスキリング導入のメリットとデメリットを考えます。リスキリングの導入に踏み切る前に、その利点と潜在的な課題を理解することは非常に重要です。

リスキリング導入のメリット

・スキルの更新と競争力の向上
リスキリングは、従業員が最新のスキルや知識を習得できる機会を提供します。急速に変化するビジネス環境では、古いスキルセットでは競争に勝つことが難しい場合もあります。リスキリングを導入することで、組織や個人は競争力を高め、市場での存在感を維持できます。

・従業員のモチベーション向上
リスキリングは、従業員のスキルアップに対する意欲を高める助けとなります。新しいスキルや知識を習得することで、従業員は仕事に対する自信を深めて、自己成長を実感し、生産性の向上や定着率向上につながる可能性があります。

・新たなビジネス機会の開拓
リスキリングにより、新たなビジネス機会を探求する能力が向上します。既存のスキルにとらわれず、新たな分野や市場への進出が可能になります。これにより、事業の多角化や新規顧客の獲得がスムーズに進む可能性が高まります。

リスキリング導入のデメリット

・費用と時間の投資
リスキリングは、費用と時間のかかるプロセスです。新しいスキルを習得するためには、トレーニングや教育プログラムへの投資が必要です。また、従業員は仕事と両立させるために時間を割かなければなりません。これにより、一時的な生産性の低下や経済的負担が発生する可能性があります。

・成果の不確実性
リスキリングの成果は保証されたものではありません。新しいスキルを習得しても、それがビジネスにどれだけ貢献するかは不透明です。市場の需要や競争状況に左右されるため、成功の保証が難しい場合もあります。

・変化への適応
リスキリングによって組織内に変更が生じることがあります。これに対する従業員の適応能力や組織文化への適合度によっては、適応が難しい場合もあります。これにより、組織内の不協和やストレスが生じる可能性があります。

リスキリング導入には明らかなメリットとデメリットが存在します。組織や個人の状況に合わせて、慎重な計画と戦略が必要です。次の章では、リスキリングの導入方法と注意点について詳しく説明します。

リスキリング導入の4ステップ

ここからは、企業でリスキリングを導入する方法を4つのステップで解説します。

1.経営戦略や現状の課題をもとに、習得するスキルを定める

リスキリングと一言で言っても、各会社の業務内容や目指すべき姿によって、必要となるスキルは異なります。

まずは現状の課題を洗い出し、社員にどのようなスキルを習得してほしいのかを具体化しましょう。どの部署で、どのようなスキルが足りておらず、どのようなスキルを習得してほしいのかを明確化することで、リスキリングで得たスキルを業務で効率的に発揮することができます。

2.プログラムを選定する

リスキリングの学習方法は、オンラインの学習サービス、e-ラーニング、外部から講師を招いての研修などさまざまな種類があるため、自社に合ったプログラムを選びましょう。

リスキリングには「これが正解」というやり方はないため、それぞれの会社に適したプログラムを選定し、社員のモチベーションを維持するためにプログラムの構成なども意識するとよいでしょう。

3.従業員にプログラムに取り組んでもらう

プログラムが選定できたら、従業員に取り組んでもらいます。ただし、リスキリングは「新たなスキルを身につけること」を目的としているため、少なからず従業員のストレスになることも懸念されます。

就業時間外の学習は負担になり、会社側から一方的に押し付けられてはやらされ感にもつながってしまいますので、従業員の意見ともすり合わせながら進めたほうが、より効果が期待できます。

4.リスキリングで習得したスキルを実践する

リスキリングはゴールではなく、あくまでも手段であり、実際に業務の場で活かすことが実施の目的です。習得した新たなスキルを活かせる業務内容に取り組んでもらい、必要に応じてフィードバックも行いながら実践していくことが大切です。

リスキリングを行う際の注意点

ここまではリスキリングの導入方法を紹介しましたが、実施する際には以下の点にも注意が必要です。

従業員のモチベーションの維持

どんなに質のいいプログラムを用意しても、会社からリスキリングを「やらされている感」が出てしまうと、従業員のモチベーションが低下する恐れがあります。

従業員に合った種類の学習方法を用意したり、従業員の意見も反映させつつ進めるなど注意が必要です。また、モチベーションを維持する具体策として、リスキリングが個人のスキルアップや自律的なキャリア形成にも効果があることを示すのもよいでしょう。

スキルを発揮する場の提供が必要

リスキリングで新たな学びを獲得しても、発揮する場がなければ、せっかく学んだことも忘れていってしまいます。

そのため、今までチャレンジしたことのない事業に参加する、学んだ知識を活かせるポジションを用意するなど、リスキリングの効果を発揮させる環境づくりが企業にも求められます。

実際に導入した企業の事例

・三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)

2021年3月から、全社員を対象に「SMBCグループ全従業員向けデジタル変革プログラム」を展開。デジタル研修を通じ社員の意識変革を図るなど、DX推進への積極的な姿勢を見せています。

・富士通株式会社

国内のグループ企業に在籍する12万人以上の従業員に対し、リスキリングを実施すると発表しています。オンデマンド型教育として「Fujitsu Learning Experience(FLX)」というプラットフォームを用意するなど、DX企業への転換に注力しています。

富士通がリスキリングで10万人規模の「学び直し」を行う目的とは?

・ヤフー株式会社

全社員を対象に、AIを業務活用することを目的としたリスキリングを実施。AI人材の育成を図ることで、新規事業の創出や事業成長につなげることを目指しています。また、プログラミング未経験者からエンジニアへのリスキリングを支援する「Yahoo!テックアカデミー」が、経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」に選ばれるなど、リスキリングに注力しています。

まとめ

リスキリングは、DX推進、デジタル時代に適応できる人材育成を行う上では効果的な方法です。ただし、実際に企業でプログラムを導入する際には注意を払う必要もあり、自社に合ったプログラムの選定や従業員をフォローする必要もあります。

また、企業だけではなく、不確実な時代を生き抜くスキルを習得するための手段として、個人のキャリア形成にも効果が期待できます。リスキリングには「これが正解」というやり方はないため、それぞれに適した学習方法を見つけて、取り入れてみてはいかがでしょうか。