他人のことを“完璧に好きになる”必要はない

高村ミチカ氏(以下、高村):さっきチャットに書いていただいた方の中にも、「同僚との関係に悩んでます」という人はけっこう多かったなと思います。

今、松下先生もお話しいただいてましたが、同僚との関係で悩んだ時ってどうしてますか? ぜひ聞いてみたいんですけど、松下先生からお願いしてもいいですか?

松下隼司氏(以下、松下):若い頃は言い合って言い合って、意見して意見して、「できへんの?」「知らんの?」とか、マウントの取り合い合戦みたいな感じでしたけど、今はもう下に下にですね。マウント合戦に入ったらまたしんどいだけなので、もう下に下に(笑)。本当、平身低頭ですね。

高村:なるほど。友紀子先生は、同僚との関係で悩んだことはありますか?

渡邊友紀子氏(以下、渡邊):すごくあります。

高村:そういう時、どうされてましたか?

渡邊:けっこう悩むんですけど、その時も含めて、私が基本的にすごく気をつけて意識してるのは「職員室の先生のことを、できるだけ全員好きでいよう」と思っていて。

高村:すごい(笑)。

渡邊:でも、その「好き」って、みんなを100パーセント好きって思わなきゃいけないというのは違うなと思って。「2人で飲みに行く」ぐらい好きな人もいるかもしれないし、「あいさつ程度の距離感だったら、この人のことを好きでいられる」っていう距離感だっていいわけです。

その塩梅を見つけて、「これくらいの距離感だったら、この人のこと好きでいられるな」っていうのを一人ひとりに見つけて、自分がその人のことを好意的に見られる距離を見つけるっていう感じですかね。

高村:いいですね。さっきの「ゆるさ」ともちょっと近いですね。完璧に好きになろうって思わなくてもいいという。

渡邊:そうですね。「どうしても無理」って思ったら、安心安全な場……家族とか、すっごく信頼を置ける人とかに「こんなしんどいことがあった」って言う。そういうのはもちろんしますね。

高村:なるほど。松下先生、頷きながら聞いてましたけど(笑)。

松下:(笑)。いやもう、素敵ですよね。

高村:本当に。

深夜12時に家庭訪問……保護者と向かう難しさ

高村:同僚のお話がありましたけれども、あとはよくある悩みが、保護者からいろいろと強く言われてしまうとか、その言葉をどうしても引きずってしまうとか。

こういう悩みもけっこうあるかなと思うんですが、松下先生は保護者との関係でお悩みだったことはありますか?

松下:あります。初任の頃、夜の12時に家庭訪問をしたり。

高村:えぇ、夜の12時?

松下:そうなんですよ。子ども対応とか、謝りに行ったりとか、保護者が帰ってくるのが遅いからとかね。でも、一番失敗だったのかなって思うのが、「子どもがこんなことを」って決めつけたりしていたこと。だから、そこは同僚対応と一緒ですが、謝って「すみません。ごもっともです。おっしゃるとおりです」という感じですね。

高村:なるほど。自分の本当のところと切り離して考えることが必要なんですかね。

松下:そうかなと思いますね。

高村:なるほど、ありがとうございます。友紀子先生は、なにか保護者との関係で悩んだことってありますか?

渡邊:悩んだこともすごくあったんですけど、向こうの立場を考えるというか、間違いなくお家の方にも宝物の我が子がいる。自分も親だから、我が子だからこそ周りが見えなくなってしまう時もわかる。

共感はしなくても理解は示した上で、「今、この人はどこがしんどいのかな」「私のどこが許せないのかな」というのを、客観的に見る自分を1人置いて話をするようにはしていますね。

高村:心から共感じゃなくて、ちょっと分析するみたいな。

渡邊:そうですね。だって、やはり自分もそんな鋭い言葉を言われたら、それに共感はできないって思うし。自分自身が傷ついてるのに、それに寄り添う必要はないとは思うけど、その人が「こういう気持ちなのかな」っていう理解はできないことはないと思ってます。

高村:なるほど。「なんでそう思うのかな?」ということを考えてみると、1個のヒントになりそうですね。

しんどい時は悩みを打ち明けて“失敗合戦”をする

高村:(視聴者コメントで)「年に1回ぶつかるものだと思って過ごしてます」と。とりあえず、「何もなかったらラッキー」ぐらいに思っていると。確かに、この気持ちの持ちようもすごく大事ですね。ありがとうございます。

あとは逆に、自分じゃなくて、「隣のクラスの先生が」とか、ちょっと同僚がしんどい気持ちになっていて、落ち込んでるのに出くわす場面もたぶんあると思います。

そういう時にどういうふうにしたらいいのか、事前の質問で複数いただいてたんですが、お二人はそういう先生方を見かけた時にどうされてますか? ちょっと聞いてみたいなと思います。松下先生、いかがですか?

松下:聞いたら逆にしんどくなっちゃうかなとも思うので、「僕のほうがしんどいですよ」って言います(笑)。「うちのクラスでもこんなんあった」とかね。

高村:なるほど。

松下:あとは、職員室にいろんなお菓子を置きますね。甘いもの。

高村:相談しやすい雰囲気を作るということですね。じゃあ、むしろ自分から悩みを打ち明けると。

松下:(自分から悩みを)言います。そうしたら「私だけじゃないんや」と思えて、「こんなことで怒っちゃいました」とか、失敗合戦みたいに(笑)。

高村:(笑)。「失敗合戦」って言葉、めちゃくちゃいいですね。ありがとうございます。

周りの人を「あえて頼る」意識を持つ

高村:まさに友紀子先生は「しんどい先生方へ」というメッセージを発信されていると思うのですが、そのあたりはどうですかね。

渡邊:私が特によくしていたのは「あえて頼る」です。自分がしんどい時って、学校のために何もできてないし、子どものためにも何もできてないし、「私ってここにいらないのかな?」って、どんどんそういう思考になっちゃう時が私もあって。

だから、(悩んでいる)その先生のすっごい負担にはならないけど、その先生が好きなことや得意なこととかで、「本当にすみません。私の教室の掲示、ちょっと一緒にやってもらっていいですか?」と、頼って一緒にやったりとか。

本当に助かるし、その時間で「すごく助かります」ってやりながらコミュニケーションをとることは、よくやっていたなって思います。

高村:いいですね。「やってくれてありがとう」という言葉を聞けたら、しんどさがすごくスッと抜けそうな感じがしますね。

渡邊:そういう時って、「自分は何も役に立ってないんじゃないか」「できないんじゃないか」って思うから、「この場所の一員だよ」というのを伝える。でも、あえて(タスクを)作って助けてもらうとかじゃなくて、本当に助けてほしい時にするのも、すごく意識してたなと思います。

高村:ありがとうございます。チャットで、さっきの「失敗自慢」の話がとても盛り上がってましたね。

家庭と仕事の両立、どうしてる?

高村:明日から本当に使えそうなお話がたくさん出てきたかなと思いますが、働き方に関する質問も少し来ていたので、ここから少し確度を変えていきます。

悩むタイミングでいうと、「家族ができました」「子どもが生まれました」というタイミングで、「この働き方は続けられないな」ってしんどさを感じる方もすごく多くいらっしゃるのかなと思います。

育休明けとか、子育てと先生、もしくはプライベート。家族と先生を両立していく働き方について、お二人がどういうふうにされてるのかを聞いてみたいなと思ったんですが、松下先生はいかがですか。

松下:僕も子どもができてから、ものすごく変わりましたね。子どもができるまでは学校で晩ごはんを食べて、また残って仕事をしたりしてたんですが、もうそれじゃダメやなって。

子どもができても、その名残があって(しばらくは残業を)やってたんですが、「あかんな」って気づいて、謝って逃げるようにこそっと「すいません」って今は帰ってます。そーっと帰ってます(笑)。

高村:チャットにも書かれてる方いらっしゃいましたけど、「子育てしてるから先に帰らなきゃ」というところが、すごく負担に感じるみたいなのってもったいないですよね。

松下:今は暖かく送り出してもらえるんですが、「もう帰っちゃうん?」「まだ会議中なのに」みたいに、そうじゃない職場の方もおられるかなって。なかなか分かれると思います。

高村:そうですよね。

誰かに支えてもらったら、その恩を次の世代に返す

高村:職場の雰囲気もすごくあるのかなと思うんですが、友紀子先生はそのあたりどうでしたか?

渡邊:本当におっしゃったように、職場の雰囲気はあるだろうなと思います。子育てされている先生がけっこう多い職場だと、「持ちつ持たれつだよね」みたいな感じになっているところもすごくあるなって思うんです。

働き方って、自分の内側の部分や考え方の部分と、システムの両輪かなと思うんですが、自分自身としては、本当にいろんな暖かい言葉をかけてもらって。

すごくベテランの先生から「私たちも、子育てで大変だった時に『いいよいいよ』ってやってもらってすごく救われてたから、私も恩返しをしていると思ってやっている。だからあなたも、もっとお子さんが大きくなって手が離れた時にやってあげたらいいだけのことよ」と言ってもらって。

私は「申し訳ないな」とばっかり思ってたけど、そうじゃなくって。「申し訳ない」って顔をしている子育て世代の先生に、今度は私が(同じように言葉を)かけてあげられる立場になった時に、今されてすっごくうれしかったことや、先輩に言われてうれしかったことを絶対に覚えていようって思っています。

でも、やはりどうしても「時間がない」というところもすごくあるなとも思ってます。だからこそ、いろんなグラデーションがあっていいなって思うし。

もちろん収入の面とか、いろんな状況は家庭でそれぞれ違うとは思うけど、例えばいったん正規を離れたとしても、自治体によっては10年以内に採用試験受けたら一次試験免除というのもあるし、いろんなことを考えていいのかなとも思ってます。

高村:良いループが回っていくといいですよね。(視聴者コメントで)「恩返し派です」って書いてくださってた方もいますけど、今はなかなか苦しいところに良い文化を作っていけると、きっとすごく素敵な学校になっていくんだろうなと、聞いていて思いました。ありがとうございます。

キャリアで悩んだ時のアドバイス

高村:時間が回ってしまったので、そろそろ最後の質問にしていきたいと思います。まさに今、キャリアについて悩んでたり、働き方について「これからどうしようか」と悩んでる先生方がたくさん集まってると思います。

キャリアについて悩んだ時に、「これをしておくといいよ」と思うことを、お二人からぜひうかがいたいと思ってます。松下先生、いかがでしょうか。

松下:辞める前に、次が決まってから辞めたほうがいいなと思います。超ベテランの60歳ぐらいの女性の先生に、辞めようか悩まれてる先生が相談したら、「ほんまに辞めて大丈夫?」と言っていました。次をちゃんと決めてから辞めたほうがいいかなと思います。

「しんどいから休養期間をとろう」とか、それぞれ先生方によって違うかとは思うんですけど、もし辞められる場合は、ある程度次の目途を立てられてからのほうがいいかなと思います。

高村:私も活用させていただきましたけど、先生って休職の制度がしっかり整っているところはあるので。本当に心がしんどくて働けないのであれば、まずはお休みして、冷静に考えられる自分の精神状態を作るというのは、すごく大事なことなのかなと思いました。

働き方は「続けるか・辞めるか」の2択だけじゃない

高村:友紀子先生はいかがですか?

渡邊:私自身はなんですが、(次の仕事が)決まってから辞められたらいいなとは思うけど、今の状況をいったん断ち切らなければどうしても難しい状態もあるかもしれない。

逃げてもいいし、辞めてもいいし、自分が自分のことを好きじゃなくなっちゃったり、自分自身をやめてしまおうと思わなければ一番いいなって思い続けてるので。

もしかしたら、自分の思うようにならないこともあるかもしれないんですが、だからその上で一番大切にしてほしいなって思うのは、「自分が何を大切にしたいか」というのを決めることなのかなと思っていて。

「子どもたちのために」「あんなになりたかった仕事なのに」「公務員だから、すごくしっかりしたキャリアだし」「お金が」とか、いろんなファクターがあると思うんですよね。

「その中で、私が大切にしたいことって何だろう?」「これから10年、20年を考えて、私はどうやって歩みたいんだろう?」というのを見つめる。

もしかしたら正規かもしれないし、正規じゃないかもしれないし、先生かもしれないし、先生じゃないかもしれない。そこを決められたらいいのかなって思ってます。

高村:まさにグラデーションの考え方ですよね。先生を続けるか・辞めるかという2択じゃなくて、きっと続けながら何かをやることもできる。まさに松下先生は、先生をやりながら演劇やダンス、それから本を執筆されてたり、先生をやりながらでも挑戦できたり、やれることはある。

いろんな選択肢があっていいのかなって、まさに一番最初にお話しさせていただいたクジラボの考え方とも、すごくつながるなと思っております。ありがとうございます。

1日5分でもいいから、自分のキャリアを見つめてみる

高村:では、これで最後にしたいと思うんですが、キャリアに悩む先生方へお二人からそれぞれ一言ずつメッセージをいただいて、終わりにしたいと思っておりますが、よろしいでしょうか。では松下先生、お願いします。

松下:僕もちょっと調べたら、クジラボさんはものすごくいろんな職歴の方のお話を聞けるから、キャリアに悩まれる方にはおすすめやなと思います。

高村:ありがとうございます(笑)。

松下:僕、小学校の先生はやればやるほど楽しくなってきています。友紀子先生が途中で言われたんですけど、完璧というよりも、自分であんまり仕事を増やさんようにしたり、減らす工夫をしたほうがいいかなと思います。

高村:ありがとうございます。友紀子先生、お願いします。

渡邊:どうしても教員って感情労働だし、「子どもたちのために」「地域のために」「子どもたちの先にいる保護者のために」とか、いろんな「ために」のためにずっと働いていて。だから、「自分のために」「自分の大切な家族のために」が、すっごく最後のほうになっていっちゃうところが、悩みの1つかなとも思ってて。

だからこそ少しでも、5分でも10分でもいいから、1日でもいいし1週間に1回でもいいし、「じゃあ自分は?」というのを考えて、キャリアを見つめていってほしいなと思います。

高村:ありがとうございます。お二人のお話を聞いていて、いろいろな人の考えを聞く中で、自分のキャリア観やこれからの人生観をブラッシュアップしていくことがすごく大事だなとあらためて感じました。

「こうじゃなきゃ」「完璧に」って、近視眼的に思っていると、自分がつらくなってしまうので。ぜひこういう場を活用して、いろんな人の考えを取り入れたり、誰かに話を聞いてもらうことでちょっと心がすっきりしたりと、ご活用いただけたらなと思っています。

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