「グローバルキャリア」について考える

司会者:お集まりいただきありがとうございます。「日本企業が今、直面するグローバル展開への重要な挑戦『グローバルキャリア』の考え方とは?」ウェビナーをスタートさせていただければと思っております。よろしくお願いいたします。

本日の流れのご説明でございます。最初に対談者と会社のご紹介をさせていただき、対談テーマ、昨今の日本のスタートアップ企業のグローバル展開に対する潮流、そして日本で働く人が考えるべき「グローバルキャリア」について、最後にお二人が今後グローバル展開において取り組んでいくことについてお話しいただきます。

最後にQ&Aの時間を設けております。ではさっそく対談者のご紹介をさせていただきます。一橋大学名誉教授の石倉洋子さまです。では石倉さま、ご挨拶のほうをよろしくお願いいたします。

石倉洋子氏(以下、石倉):みなさんこんにちは、石倉洋子です。今私はフリーターというか、なにもしていないというのが正確なところです。世界3拠点計画を持っていて、世界の3ヶ所で2ヶ月ずつぐらい暮らそうと思っています。

これまでグローバル戦略とかグローバル人材とかが中心でした。それについては本を何冊か書いたり、ブログとかをやっていたんですが、いろいろな理由でやめちゃって今に至るという感じですね。

司会者:ありがとうございます。では続きまして、弊社代表徳重より会社のご説明をさせていただければと思います。

徳重徹氏(以下、徳重):テラドローンの徳重でございます。よろしくお願いします。今私はテラドローンが中心なんですけど、3つのベンチャーを同時でやっておりまして、とにかく新産業で世界で勝つというところをテーマにしております。

テラドローンは創業当初からグローバル展開を進めており、現在では、オランダとベルギー、それからインドネシアとサウジアラビアに拠点を持っています。

1年前ぐらいの話なのですが、Appleに続く世界で2番目の時価総額のサウジアラムコというの企業があるんです。石油の王様みたいな会社ですけど、そこがグローバルコンペティションをやって、そこでトップになって、アラムコのVC Wa’edから18.5億の出資も受けました。アジア初ということになっています。

こんな感じで、3年間ぐらい常に世界のドローンのランキングでトップ2には入るような会社になっております。空飛ぶ車の航空管制、ドローンから始まっているんですけど、そういうところも今やっているような状況でございます。

なので単に会社を設立しましたというわけではなくて、いろいろ挫折、苦労もあるんですけど、EVの時代を含めてもう2010年、だいぶ昔から海外の展開をやってきています。今日はよろしくお願いします。

司会者:はい、ありがとうございます。では続きましての対談テーマに移らせていただければと思います。

スタートアップ企業の「グローバル」に対するハードル

司会者:昨今の日本のスタートアップ企業のグローバル展開に対する潮流というところで、最近岸田総理も5ヶ年計画というところで、グローバル展開に注力していますが、こちらは石倉さんはどういうふうにお考えでしょうか?

石倉:スタートアップをもっともっと推進しよう、グローバルに進めようというのは「もう何十年前から言っているの?」という感じがありますね。ですからそんなに、それ自体が新しいという話では私はないと思いますが、本当にまともにしっかりやるのかな? というところがいつも一番の疑問だと思いますね。

それを実行する人がいるか。やりたい人がだんだん増えてきていて、そういう意味ではグローバルですよね。スタートアップは日本だけでやっていてもこれからは本当にしょうがないとみんなわかっているわけで、「日本ってこれから成長のポテンシャルがないよね」と。

それだったらグローバルでやるほかないじゃないというのと、それからテクノロジーによって国境がなくなっているので、そういう意味でもグローバルに対するハードルは低くなったと思いますね。

スタートアップ企業についても、すごく奨励をしているし、昔よりはリスクを取ることに対してあまりためらいの気持ちがなくなったというのはあるんですけれども、それでも日本はリスクを「避ける」という、そういう社会だから。

また1回失敗するとなかなかそこから立ち直れないところがわりとある。「なにしろ失敗は勲章です」みたいなところとぜんぜん違うので、そこはよっぽど覚悟してやらないとダメなんだなという感じはしますね。

ただ私は基本的には、良い方向には向いていると思っていて、それがすごくゆっくりだなというのが印象ですね。「もうこのへんでいい加減にちゃんとやったら?」という気はするので、それはこういう機会にどんどんやったらいいんじゃないかなと思います。

海外と比較してわかる「スピード感覚」の違い

司会者:ありがとうございます。徳重さんは起業してずっとグローバルに挑戦されていると思いますが、どういうふうにお考えでしょうか?

徳重:そうですね、今の石倉さんが言ったのは本当にそのとおりで、何点かポイントがあるんです。まずは圧倒的にスピードが遅いですよね、感覚的に。僕、1ヶ月海外に行ったり来たりしていた時が、コロナの前とかずっとあったんで思うんですけど、ぜんぜん違うんですよ、スピード感が。

中国は特に早いじゃないですか、「もうやってしまえ」みたいな感じなので。なんでこんな違うのかなと。特に新しいテクノロジーとかイノベーションってそれがすごく重要で、やってみて見えることが多分にあるじゃないですか。僕らはそのノリでやっているんだけど、でも日本に帰ってくるともうぜんぜん感覚が違うので。だから日本だけに長くいると、本当に感覚がずれちゃうんですよね。

よく「ガラパゴス化」って言葉があるじゃないですか。今もっとガラパゴスで、どんどん変なふうに進化していて、より海外で生き残れないような感じになっているんじゃないかなという感じはしていますけど。

石倉:そうですね。スピード感のなさはね、海外から帰ってくると「これどうなってんの?」というぐらい。スピード感が今の鍵だから、それを実感として持っていないと、「じゃあスピード感を持ちます」と(言ってできる)いう話じゃないんで。

徳重:石倉さんは、もともとマッキンゼーとかでやられていらして、そういうところでたぶんそういうのを大企業の偉い方に経営戦略で「ダメよ」ってたぶん言っていたと思うんですけど、なかなかご理解されないんですか?

石倉:スピード感覚があまりないのはね、いろんな分野でありますね。しっかりゆっくりという。それは社会全体の感覚だと思うんですけど、あとは「完璧にしよう」というね。ちゃんとやろうと思っていると、できないですよね。今そういう時代じゃないんでね、バンバンやって、やっているうちにわかることがたくさんあるでしょ。

意思決定する人が「肌感覚」を身につける重要性

徳重:本当に僕もそう思っているんだけど。デイリーの業務は(完璧主義の)それでいいと思うんですけど、新規事業ってまったく違うんですよ。海外のやり方もそうなんだけど。

新規事業においてはまったく違う生き物だから、やり方も変えなきゃいけないのに、なんでわかんないのかなというのが僕は不思議で。僕も一応大企業に5、6年ぐらいいたので彼らの感覚もわかるんだけど、よりそれがカチコチになり。

僕は23年ぐらいずっとベンチャー・スタートアップをやっていて、いろんなところを立ち上げたんですけど、新規事業も一緒なんだけど、9ヶ月もマーケット調査をやるんだったら、とっととやってしまいますね。調査した分の人件費だとかをマーケティング費用に落とせばいいのに、なんでそれができないのかなと未だに不思議なんですよ(笑)。

石倉:そうなんですよね。あれ、なんでなのかな? もっとぜんぜん、小さいスケールの話でも「こういうことやろうかな」とみんな思うんだけど。すぐやらないとダメよねという、そこがね、なんとなくわかんない。

例えば、「みんなで会いましょうね」とかね、中心になる人が「やりましょうね」と言ったら、それを言ったところからすぐメール出したり、すぐみんなに働きかけて「じゃあ次いつやる?」って決めちゃったらいいのに、そこがなかなか手が出ないんです。それがすごい不思議。

徳重:僕たちも一番最初の海外展開って2013年ぐらいで、もともとEVの別会社でテラモーターズというのがあるんです。それで最初、ベトナムに。ベトナムは二輪をやっていたんで、フィリピンの入札があり、今はインドでやっているんですけど。

実際に現地に足を踏み込んでやってみて、いろんなことが見えてくる。もちろん一応僕もMBA的なのは取っているし、卒業しているので、理屈は考えるんだけど、だけどそれどおりにはいかないんです。まぁだから海外というのもあるし、新規事業、だからダブルで難しいですよ(笑)。

石倉:そうですよね。

徳重:だからやってみて、「肌感覚」を意思決定する人が身につけるというのは、僕はすごい大事だと思いますね。

日本の会社のプラス面が、スタートアップではマイナス面になることも

石倉:そうですね。そこはどうなのかな、年齢にもある程度関係するし、経験にもよると思うので。そういう経験がない人もいるじゃないですか。今までずっと決まったところで、やってきた人たちばっかりだと、そう言われて、わかったような気がするんだけど、本当はわからないという。それはすごくあると思うんですよね。

一部の人は、そのへんがなんとなく感覚としてわかるから説明しなくてもいいんだけど、説明しないとわからない人は、説明してもたぶんわからないと思うので、そのあたりってどうしたらいいのかなというのは、あまりよくわからないですね。

徳重:新規事業も説明が大変難しいし、だから海外なんてもっと難しい。しかも同じ現場に行って、データとか市場とかお客とか競合とかを見て言っているんだったらいいけど、紙の中で話しているので、わかっていない人が適当なこと言って、それをくそ真面目に考えなきゃいけないという。そうするのもすごい大変なんじゃないかなというのは思っています。

石倉:そうですね。だから簡単に言ったら無視しちゃえばいいんだけどね、「あんたたちわかっていないんだから、勝手にやりますよ」みたいな。責任も取らなきゃならないからそこがけっこう面倒くさいんだけど。

徳重:僕は海外立ち上げの時に、まず一番最初に自分が行くんですよ。それでおもしろかったのが、よくあるパターンなんですけど、インドとか行くじゃないですか。それで行ったら、(現場には何人かくる想定で)ペットボトルが5個ぐらい並んでいるんですよ。いつも1人で行くから、向こう入ったら「1人で大丈夫なの?」みたいな顔をされるんですよ(笑)。

石倉:なるほど(笑)。

徳重:「いや、俺代表だから大丈夫だよ」と言ったら「すげえな」「日本人のくせにおもしろいな」みたいに思ってくれて。そこから向こうの関心を引く。ありがたいことでもあるんですけどね。

本当に日本の会社とか日本人って、未だに尊敬もされているしあれなんだけど、逆に判断が遅いとか、決められないとか、誰が主導なのかよくわからんとか、どうやったら決めてくれるのかよくわからないみたいなので、プラス面がマイナスになって。

特に新規事業とかスタートアップって、向こうの人からしたらもう生きるか死ぬかみたいなところがあるので、時間がすごい大事じゃないですか。だから「いつまで待たせんのよ」というのはあるかなと思うんですけどね。

石倉:それはありますよね。イノベーションが盛んな国とかにみんな行くんですよ、日本の企業はね。エストニアもそうだし、イスラエルもそうなんだけど、みんな話を聞いて帰ってくるんだけどなにも起こらんと。「もうこの人たちを相手にしてられないから、来ないでちょうだい」って言われちゃうというのが、わりと最近の傾向。だからもう会ってもくれない。

だって「どうせなんにも起こらないんでしょう」と。一部の人はそこがよくわかっていて、それの間を縫っていろんなことをやっちゃうんだけど、全体としてそういう感じはあります。

「なんでもかんでもやりたい人」だから、うまくいかなくてもなんとかなる

徳重:僕らみたいな海外で戦っている起業家はまだわかるんですけど、石倉さんみたいに......もともと聞きたかったんですけど、すごく立派なキャリアで、きれいに歩んできているわけじゃないですか。なんでそういう発想ができるのかなと。すごい柔軟というか斬新というか、本質を突いたというか。普通の先生方だと、すごくお堅いじゃないですか(笑)。

石倉:どうしたのかというか……。

徳重:もともとそんな感じだったんですか?

石倉:たぶん子どもの時から海外は行きたいなと思っていて。海の向こうはどうなっているのかを知りたいという、わりとどうでもいいような理由だったんですよ。それで大学3年の時に行ってみたらば、「なんだ、思っていたのとぜんぜん違うじゃんこの国は」という、そういう経験がけっこうあったり。それで鏡を見てみると自分だけ黒い髪で、ほかの人はぜんぜん違うので「えっ、こういう話なの」という、そういう経験がけっこうあったり。

徳重:それは大学の時ですか?

石倉:そうそう。それからあとはいろいろ、あまり真剣に考えないんですよね。

徳重:それはないと思いますけどね(笑)。

石倉:わりといい加減に考えるから、一生懸命考えてもわからないことはわからないし、本当に良いものを作ろうと言ってすごく時間をかけてやっても、そのとおりにはいかないじゃないですか。そういう話がたくさんあったから、「あっ、そういうものなのね。じゃあそれでもいいわ」という感じで。

だから「石倉さんっていい加減なんだ」って言われているんですけど、そういうことはわりとありましたね。だからちゃんと作ろうとあまり思わないのよね、たぶんね。ちゃんと作ろうと思うかもしれないけど、そのとおりにいくのは基本的にあまりないんだなと、いろいろな経験からわかった。

だから、なんでもかんでもやろうと。なんでもかんでもやりたい人で、そうするとそんなにうまくいかないじゃないですか。だいたいいろんなことってうまくいかないから。思っていたのと違うとかね。そういうことをやっていくと、「まぁ、それでいいか」と。

徳重:でもそこでへこまないんですね。それがすごいですね。

石倉:すごいことをやっていないからね。起業したとかってそういう話じゃないから。転職は散々やっていますし、当然うまくいかなかったこととかあったから。

勝手に難しく考える日本人に必要なのは「楽観的前向きさ」

徳重:僕たち起業家はだいたいうまくいかないのが普通なのがその理由の1つで、やってもやってもうまくいかないから、起業家はメンタルをやられていくんですよね。

石倉:そうですよね。

徳重:僕は理系なので、体の線はもともと細いんだけど、挫折を何度も繰り返してくると勝手にタフになってくるんですね。そういう蓄積があって今みたいにおかしくなっちゃうんだけど(笑)、先生の場合は今聞いたみたいに、好奇心みたいなところがありますよね。

石倉:そうですね。あまりよくわからないで始めるから、そのとおりにいかないのは「まぁ当たり前かな」みたいな感じ。あまり「こういうふうにどうしてもいこう」と思っていないというのはあるので。

徳重:僕も思います。今こそ日本にその「楽観的前向きさ」みたいなのはすごい必要だと思いますね。勝手に難しく考えるから。

石倉:そうですよね。

徳重:海外もそうだし、新規事業もそうだし、本当にもったいないんですよ。ポテンシャルはあるわけで。なのに勝手に、僕の感じで言うと手足を縛られて相撲するとかね、そういう感じなんですよ。すごくもったいないなと思って。それで経済が成長しているんだったらいいんですけど、どんどんダメになっていく状態ですから。

石倉:そうですよね。日本ではみんなわりと暗い顔をしていますね。まぁ年寄りが多いからね、日本に帰ってくると「灰色だなこの国は」とかって、自分の歳を棚に上げてね。アジアに行くと若い人のエネルギーを感じるから、それと比べると「なんだこの国は」という感じはするけど。

そういうのが多く、そういう人たちが相変わらず力を持っている。力を持っているというか、若い人たちはそんなの無視してやればいいんだけど、そこまでいかないというところがあるんじゃないですかね。

若いうちに「外の世界」を見る経験

石倉:「失敗したら大変だ」とか思っちゃっているから。私時々ね、「根拠のない自信」って必要だ(って思うんですよ)。根拠はないんです。でもよくよく考えるとね、昔からやっていてうまくいっているわけじゃないので、だけど「なんとかなるでしょう」という……。

徳重:僕もよく親父から言われたことがありましたけどね、「なんでお前はそんなに自信があるんだ」みたいな。僕も一応反省はするんですけど、自信があるというか、やらなきゃいけないみたいな(使命感があって)、そういうところから僕はきているのかもしれない。

僕は『坂の上の雲』が大好きなんですけど、「まことに小さな国が、開化期を迎えようとしている」と。日本も歴史的に、ああいう時代のところまで戻れば、士農工商だった世界があるんです。それが「来年からは身分がなく、がんばれば何にでもなれる」みたいな。

新興国とか中国とかもよく行っていたので、インドもそうですけど、全体がそういう(開化期のような)雰囲気なんですよね。

先生も若い頃に外に出ていて、僕も大学の頃に留学に1回出たことがあるんですけど。留学というか遊びに行っただけなんですけど、若い時に早く出ていって外の世界を見るというのはすごく大事かなと。

石倉:そうですね、それはあると思いますね。そうすると今まで思っていたのと違うというのが実感としてわかるから。それがすごい大事で、みんな今情報過多だから、みんな知っていると思っているんだけど、行ってみたら「なにこれ?」ということがすごく多いから。

徳重:おっしゃるとおりですよね。