「新しいビジネスを考えつく力」を構成する2つの要素

細野真悟氏(以下、細野):このあとも今井さんのいろいろな話を聞いていけたらなと思うんですが、先に前半のお話にあった、ゼロイチから100までのフェーズのどこを聞いていくかが、僕はやはり興味があります。

今井さんはどうやって思いついて、どうやってそのグッと伸ばしていく設計を、どういう順番で考えて実践されているのかを、今日、明らかにできたらすごいなと思っています。

それを私は「ビジネスセンス」と言い切っちゃっているんですが、このビジネスセンスって何なのかということを、フレームワークで1回提示させていただいて、それを下地にいろいろな話が聞けたらいいなと思っています。

このビジネスセンスを「ビジネス発想力」とも呼んだりしてるんですが、これってかみ砕いて簡単にいうと、新しいビジネスを考えつく力だなと思っています。構成要素としては着眼点とソリューションの2つになります。

1つ目が目をつけるという話になるんですが、何に目をつけるかという目の良さが、1つ目の構成要素だと思っています。世の中の問題や機会、例えば「こうやったらもっと楽しい」とか、「もっと幸せになる」ということに対して、自分がそれをやりたいという意思を持つこと。

やりたくないと意味がないんで、やりたいという好奇心を持って、「自分が取り掛かるか」という、この目と姿勢をセットで着眼点と呼んでいます。

「おばあちゃんが困っている」じゃなくて、「どこどこに住んでいるこういうおばあちゃんがこのぐらい痛みを感じている」とか、「このぐらいうれしそうな顔をしている」みたいなことを、どれだけ解像度高くイメージできるかが1つ目のポイントになります。

ビジネス発想力が豊かな人は、組み直し続ける知的体力がある人

細野:2つ目はソリューションです。そのような問題や機会をどうやって実現するのかという、まさに打ち手の話ではないかなと。この2つの掛け合わせが発火した時に、ビジネスアイデアが思いつくと思っています。

ソリューションのほうは、ある問題や機会があった時に、どうすればそれが実現できるのか、どうすれば解決できるのかということをどれだけ知っているかという引き出しですね。武器の引き出しの数をどれだけ持っているかという、この2つの掛け合わせで発火していくと。

つまり、ソリューションに関しては、どれだけ世の中の問題や機会の解き方を知っていて、それを組み合わせられるかになります。これが1個のうちは解決できないことが多いのですが、増えれば「この2つ、3つを掛け合わせるといけるんじゃない」というふうにひらめく瞬間があります。

しかも最初の仮説って外れることがあるんで、組み直し続ける知的体力というか、「これが駄目なら次はこれだ」みたいなかたちで組み合わせ続けることによって、問題や機会を解決することができます。

私はこの一つひとつを組み木、あるいは打ち手と呼んでいるんですが、それを組み合わせて、問題や機会を貫くためのコンセプトを作って、それによって問題や機会を貫いて解決する。これを頭の中でできる人がビジネスセンスがある人、ビジネス発想力が強い人というふうに、仮説として定義させていただいています。

みんな大好きIKEAの例でよく話すんですが、IKEAは消費者の「優れたデザインと機能性を兼ね備えた家具を安く買いたい」という思いを、機会として捉えていますよね。

「買えなくて苦しい」といっているわけじゃないので、機会と呼んでいるんですが、これを創業者の方が「なんで美しい家具って一部の人向けなんだ」というふうに問題意識を持ち、それを自分が解決したいという意思を持って、ソリューションとしては有名な分解式家具とか、自分で組み立ててコストを下げ、互換パーツでコストを下げ、グローバルサプライチェーンで安いところから仕入れ、倉庫兼ショールームでさらにコストを下げています。

つまり、おしゃれで低価格というものを消費者が納得するレベルまで、コンセプトを貫いて解決したのがIKEAじゃないかなと(思います)。最初からこの5つ全部を思いついたわけじゃなく、最初は2個、3個を思いついて、それで始めてみて、後半にいろいろなものを組み合わせて、さらに強くしていったと。

これができる人を、ビジネス発想力が豊かな人、センスがある人という定義で考えております。

アイデアを考えるのが得意じゃない人は「着眼点」で評価する

細野:今井さん、どうでしょう? 先ほどの今井さんの整理とは、またちょっと違った角度でこういう話をしてみるとおもしろいなと思ったんですが。

今井裕平氏(以下、今井):すごくおもしろいです。前提として、僕は細野さんの書籍も読ませていただいたんですが、本当に同じ言葉を使っていたり、例えば顧客開発とか。最近、顧客開発とかはあまり使わないじゃないですか。

細野:そうですね、使い続けたりしないですよね。

今井:でも、僕もずっと使っていたり、共通点がすごく多いなと思っていて。一方で、たぶんジャンルが少し違うところもあります。ビジネスデザインという大枠は同じなんですが、たぶん細野さんはどっちかというと、サービスやデジタル、Webとかをずっとやられていたじゃないですか。

僕は真逆で、どっちかというとプロダクトや空間などで、あまりデジタルをやっていなくて、そこの部分が違うというところだけは、今日お話を聞いていただく人には、前提としてお伝えできればと思っています。

細野:そうなんです。同じビジネスデザイナーと名乗っていても、ジャンルが被っていないので、今までお会いしたことがなかったのは、なんだか親は一緒の生き別れの兄弟に会ったような、不思議な感覚があります。お互いにたぶん、見える視点にちょっと違いがあると思うんで、そこを突っ込み合いながら話せると多重的に見えるかもしれません。

今井:このフレームワークでいうと、やはり近いなと思っているんです。僕もアイデアを考える時に、いきなり具体アイデアを考えるのがうまい人はいっぱいいるから、やはり着眼点で勝負したほうが、アイデアを考えるのが得意じゃない人には分があるんじゃないかということをお伝えしています。

中小企業の強みを活かす2つのパターン

今井:僕のアイデアの発想のところでいくと、あとはやはり、ゼロから考えるところ。基本的に僕はクライアントワークなんで、ゼロから考えるのは難しくて、クライアントが起点になるのは間違いないんですね。

その時、大きく2つあるなと思っていて、1つは僕の場合はその企業の強みです。もの作り企業さんなんで、技術がけっこう多いんですが、その固有技術をどう固有と規定して、そこからどう固有の価値を作るかというのは、パターンの1つですね。

細野:なるほど。

今井:もう1つ多いのは、ここで書かれているWILLのところですね。担当の方がなんらかの構想というか妄想を持っていて、それがすごくおもしろいんですよ。

その妄想をどうやってビジネスまで(もって)いくか。実は、さっき紹介したコクヨの例などがそれに近いんです。

担当の方が同じ大学の研究室の後輩で、すごくおもしろい妄想を持っているんですけど、「確かにそれはそのまま事業にするのはムズいな」みたいな。それを一緒に並走しながらかたちにできたというのがあります。

細野:コクヨさんの場合は強みを見出してというよりかは、その方の妄想があってスタートしたという感じになるんですか?

今井:そうですね。厳密には彼女がリーダーで、そのチームで「これからの住まいってどうすべきか。コクヨとしてどうやるべきか」みたいなことを、たぶん1年ぐらいかけて検討されていて、そこから、もういよいよ具体化しなきゃいけないという時に声をかけてもらったというところですかね。

細野:なるほど。実は今、着眼点、ソリューションの順番でお話ししたんですが、これについて矢印が両方あるなと思っていまして。お話にあった中小企業の強みを活かすというのは、解決策から始まると思うんですよね。

「やたらと水を吸う布を作っている、これは何の問題が解けるんだ?、何の機会があるんだ?」とか、右から左に行くのがさっきの「wemo」さんとか、「STTA」さんとかはまさにこっち側だなと。

いわゆるなんか「顧客の課題を見つけにいけ」みたいなパターンと、こっち側から入ってソリューションを探すパターンの両方がありますね。

今井:確かに。

細野:たぶん今井さんがやられてきた中小企業さんの看板商品というのは、右から左に行くというパターンのイノベーションなのかなと、今聞いていて思いました。おもしろいですね、両方ありますよね。

「おもしろい」と「ウケる」はトレードオフになっている

細野:続いては、今井さんはヒット商品をどうやって思いつくのかという、今井さんの頭の中をちょっと教えていただく特別開示コーナーに入りたいと思います。じゃあ、今井さんにまたボールを渡します。

今井:ここのスライドをご用意したので、ちょっとお待ちください。

細野:こんなのなかなか聞けないですよ、みなさん。

今井:「ヒット商品はどうやって思いつき、どうやって組み立てたのか?」というお題をいただいたので、「ビジネスデザインをどうやったら成功か」とか、「どうやるとうまくいくか」みたいなことを考えました。僕の中では一応、こういう結論に至っています。

ユニークなことと市場性、つまり、たくさんのお客さんが支持してくれるか。これってトレードオフにあると思うので、そのトレードオフを解消できたら、それはたぶん良いアイデアだろうというのが一番のコアですね。

細野:なるほど。

今井:「イメージとしてはめちゃくちゃおもろい」という話と、「すげぇみんなにウケる」というのを両立させなくちゃいけません。これだけだとちょっとイメージが湧きにくいと思うので、図で説明します。

細野:詳しく教えてください。

今井:おもしろいとウケるというのが、トレードオフにあると思っているんです。例えば、マニアックでシュールなお笑いって、「一部の人にしか受けないけど、そのかわりめっちゃおもろい」みたいなところがあるじゃないですか。

あとは、すっごくベタなやつで、老若男女みんな、ちっちゃい子どもからおじいちゃんまでウケるネタもあるじゃないですか。そういうのが、ちょっとトレードオフになっているなと思って。

それが曲線なのか直線なのかはちょっとわかんないんですけど、ちょっとこんな絵だとして。

細野:反比例していると。

今井:そうですね。ビジネスラインでやらなきゃいけないのは右上だと思うんです。デザインだけやったら左上でいいんですけど、ビジネスとして成功させなきゃいけないので、右上をどうやったらアイデアとして考えられるかというふうに、僕はいつもやっています。

右上を狙うにあたっては順番が大事だと僕は思っています。まずは左上の、とにかくユニークネスを突き詰めるというのを僕はやっていますし、おすすめしています。

ジャンプしてアイデアを作りたいなら「ユニークネス」から

今井:その上で、さっき顧客開発といいましたが、お客さんがどうやったら増えるかを考えて、右へ右へと、どんどんアイデアを磨き込んでいくというのが、いつもやっていることですね。

僕の場合はどっちかというと、フラグシップを作るというアプローチがイコール看板商品で、唯一無二というのがあるのですが、そのアプローチを企業さんがやるんだったら、右下からやらないほうがいいかもしれませんというのはお伝えしています

なぜかというと、ニーズって正しいので、ここを先に考えてしまうと、そこからのアイデアってなかなかジャンプできないからです。「ジャンプしてアイデアを作りたいんやったら左上から」とお伝えしているのが、このフレームワークになります。

細野:なるほど。まずは左上から考え始めないと、看板商品にならないですもんね。少なくとも尖らないと。

ちょっと挟み込んでいいですかね?

今井:どうぞ。

細野:本当に何も示し合わせていないんですけど、2年ぐらい前に僕がFacebookに投稿した絵がありまして。

今井:マジですか(笑)。

細野:ちょっと今、震えながら聞いていたんですけど。

今井:ほんまや、一緒や(笑)。

細野:これは縦がおもしろい、右が儲かる。

今井:そうですね。まったく一緒じゃないですか(笑)。

細野:でしょ? 「左上から始めて、下手すると右下の儲かるけどやる気がなくなっちゃう、尖っていない。そんなふうになっちゃうのを、どうやって右上に持っていくかが僕の伴走です」って言っていたんですよね。

今井:ほんまに一緒じゃないですか(笑)。

細野:「気持ち悪い!」と思って(笑)。やはり生き別れの兄弟だったなってことが今判明しました。これは今聞いていてすごくおもしろかったなって思いました。ありがとうございます。

良いアイデアをどうやって作るか

細野:今井さんのスライドは、いったんここまでですかね?

今井:そうですね。あと、1・2の詳細とかはあるんですけど。

細野:ちょっとそれも軽く触れながら。

今井:本当ですか? わかりました。

細野:みなさん、これまでだと残尿感がすごいと思うんで、ぜひ聞きたいのでは。

今井:それじゃあ、続きをお話します。1のほうは結局ユニークなアイデアなので、アイデアをどうやって作るかという話に行き着くと思うんです。僕は別にオリジナルのアイデアを持っているわけではありません。世の中にはもう死ぬほどアイデアの出し方って出ているんで、それをもうちょっと俯瞰的に見て、このような構造でみています。

良いアイデアを出すには「N」、つまり数ですね。アイデアをたくさん出すか、確率を上げるかの両方をやる必要があります。

前者は、ちまたで言う100本ノックですね。これまで様々なクリエイターに話を聞きましたが、これをやっていない人はいないですね。

というのも、コピーライターの方でもグラフィックの方でも空間の方もみなさん、アイデアをたくさん出されていて、これをやらないという選択肢はないんじゃないかと思っています。

あと、パーセントのほうは、「どうやって質を上げるか」です。たぶん、一番有名なのは「発散させる」と「収束させる」やと思います。

これもやっぱり、どんどんと確率を上げていくための方法です。もう1つ、抽象と具体を行き来するみたいなことも、やはり確率を上げる方法です。あとは、細野さんが提唱されている脱・平凡発想も……。

細野:僕じゃないですよ。濱口さんの言葉を拝借しているだけなので、今井さんには恥ずかしいんですけど。

今井:いえいえ。「確率をどう上げるか」というためのアプローチとして僕は理解しています。このへんは、いろいろな人がいろいろなことを言っているので。

良いアイデアを出したかったら、「グッド」の要件を決める

今井:「あと残されているのはどこや?」と思った時に、「いや、ここが残っているな」と思って。

細野:え⁉ どういうことですか?

今井:僕は最近、アイデアだけじゃないんですが、プロジェクトやビジネスなどでも、ゴールの規定の解像度がむちゃくちゃ粗いというか、そもそも議論されていないなと思っていて。

細野:いや、いいですね。

今井:良いアイデアを出したかったら、まずこのグッドの要件を決めなきゃいけないじゃないすか。これがほとんどやられていないと思うんですよ。みなさんがどういうことをふだんされているかわからないですけど、例えばネーミングを決めるといっても、何を良し悪しとするかってほぼ議論されていないと思うんですよね。

細野:確かに。

今井:それはコンセプトしかり、戦略ですら、何をもって良い戦略とするかって本当はプロジェクトごとに議論しなきゃいけないのに、何をやるにしても、そこがかなり割愛されているなというのが僕の印象です。

「変数が多い」ことを全て要件にしてしまう

今井:これをなんで話題に上げているかというと、ビジネスデザインの場合、この要件のスコープが圧倒的に広くなるじゃないですか。これが例えばプロダクトデザインプロジェクトだったらプロダクトのことだけを考えたらいいと思うのですが。

細野:変数が多いということですね。

今井:そうです、まさに。だから変数が多くなるというところは、ビジネスデザイナーのほうが得意なんで、このへんを強みにしながらやっていったほうがいいなと思っています。

なので、この良いアイデアというので競争するとしたら、僕の場合はやはりこの要件のところで、ほかの人が設定しない要件とかも全部要件にしてしまって、ビジネスの成果を規定しながら出そうと思っています。

細野:例えばどういうことですか? あぁ、出てきた(笑)。

今井:さっきの話に戻ると、細野さんは「一網打尽」ってあの本でも使われていたじゃないですか。まさにその話だなと思っています。何か1つを解いたところで、やはりそれはそこそこのアイデアであって、要件を広げて変数がたくさんある中を、これらをできたら全部一発のアイデアやコンセプトで解決するのがいいなと思っていてですね。それで出てきたものがグッドアイデアだというのが、ここ2年、3年の経験です。

でも、僕の場合はデザイン教育や建築教育を受けてきたのですが、すごい建物やプロダクトとかって、たぶんこういう話だと思うんですね。だから、日常的にやられているデザイナーや建築家のように自分のフィールドでやりたいなと思ってやっています。

ビジネスデザイナーに求める「顧客開発」の考え方

今井:もう1個、②のところですね。さっきお伝えした顧客開発という言葉は、もっと使われていいと思っているんです。

細野:意外と流行らなかったですね、これなんかね。

今井:はい。でも、すごく良い考えだなと思っています。製品開発に対する顧客開発だから、自分のやっている活動でお客さまが増えるかどうか、その1点で考えましょうという話だと思うんです。

デザイナーの方でビジネスデザインを目指される方にお伝えしているのは、網羅して考える時の手っ取り早いやり方は、顧客のプロセスをいったん書いてしまうというものです。それぞれのプロセスで漏れがないようにデザインしていけば、8割方満たせるので、これを書いています。なんかありましたよね、広告のフレームワークでAIDMAとか。

細野:AIDMAとかAISASとかそういうのですよね。

今井:そうです。ただ、固定化するのは良くないなと思っていて、あれさえ使えばOKという話じゃなく、顧客プロセスはそのビジネスによっても、BtoCとBtoBでも違うので、それぞれで規定するのが自然だと思っています。

細野:ありがとうございます。1個目の一網打尽のページをちょっと見せてもらっていいですかね。もうちょっと感覚をお聞きしたいなと思ったんですけど、この左側をいじるという時点で、もう一瞬「えっ、良いアイデアって『数×確率』じゃないの?」ってみんながドキッとしたと思います。

そんなことを言いながら、「良いアイデアって何なのか」ということに関して、誰も考えたことがないという盲点を今突いていただいたと思うんですけど。

これは実際にいろいろなプロジェクトに取り組む際、最初にお客さんと握る時にここらへんを定義しにいく感じなんですか? 良いアイデアってどういうアイデアなんでしょうか。

今井:そうですね、握るプロセスはやっています。ただし、握るほどではないけど、自分の中では「こうなったほうがいいな」「これは解決できたほうがいいな」みたいなことも、アイデアを考えていく中で出てくるので、それらを頭の片隅に置いて、プロジェクトとして解けたらなと思っている感じですかね。

細野:なるほど。