社員を育てるのではなく、育つ環境を整える

徳留慶太郎氏(以下、徳留):「人を育てる」というよりも、人が育つ、人が成長していく、学んでいく。

その環境を与えることのほうが、経営者としては重要であって、「その環境をどう作るか」と「人事評価」が、また連動していくと考えたほうがいいのですよね。

白潟敏朗氏(以下、白潟):そうですね。育つ環境を作った結果、育った人が適切に評価されるというところで、評価制度はつながります。「人事評価シートを作って、評価面談をやったら育つぞ」というのは、かなり無謀な感じですからね。

先ほど徳留社長がおっしゃっていましたが、強みを活かすことが一番大事ですよね。なので、育てるよりも育つ。もっと言うと、活かすとか、いかにその社員を活かしているか。なので、最後は「活かす」だと思うんですよね。

活かすのは強みしかないので、部下の強みをしっかり把握して、「この強みだったら伸びるんじゃないか。じゃあ、この仕事をやってごらん」というかたちで仕事を与え続けると、部下が活きてきます。その結果、強いチーム・強い会社になっていくんだろうなと思いますけどね。

部下の強みを記録する「褒め気づきレター」

徳留:今、まさに「活かす」とおっしゃいましたが、一人ひとりの個性や強みを活かしたり、伸ばす環境を作るのも、社長の役目だと。

白潟:そうですね。もちろん、上司の役目もありますけどね。

徳留:ええ。最終的には社長が一人ひとりを見て、そこを伸ばすことで、結果的にそういうかたちで会社を伸ばしていくと。

白潟:そうですね。従業員が10人以下であれば社長になってしまうという話ですが、社員が10人、20人、30人になってくると、社長と譲れない思いが同じ管理職・幹部が、部下の方を社長と同じように見ていくと。

徳留:ありがとうございます。でも、なかなか社長自身、あるいは人事のみなさんで一人ひとりの個性を活かそうと思っても、つまずくケースも多いと思うんですよね。

白潟:そうですね。人って、どうしても弱みばかり気になるんですよね、なので、強みを見る癖付けをしないといけないんですよね。

これも本で少し紹介しましたが、私どもの会社ですと、3ヶ月に1回部下の方の強みを教えていて、それをきちんと書いています。

「褒め気づきレター」というベタな名前なんですけど、まずは褒めるところの1つの要素として、「こういう強みがあるよね」というのを3ヶ月に1回追加していくんですよ。

なので、4~5年目くらいになってくると、強みが60個とか70個になるんですよ。毎回1番から読み上げて、「これ、活かしている?」という仕掛けを入れないと、なかなか上司が「強みを見る」というふうにはならないですよね。

徳留:なるほど。そうやって具体化して言葉にして、しっかりと見える化までしていくと。

「できないこと」に、つい目が行きがち

徳留:言葉で「強みを活かそう」と思っても、どうしても抽象的になってしまう。

白潟:弱みばかり見てしまう。

徳留:弱みというか、「できないこと」のほうがわかりやすいですからね。

白潟:まさにそうなんですよね。むしろそうなりがちなので、意識させる仕掛けは必要かなと思います。

徳留:なるほど、本当にそうですね。そういうかたちでやりたいですね。これだけ「多様化」と言われていますが、結局、多様化というのは、個々の強みが原点だと思います。

白潟:まさしくそのとおりですね。

徳留:みんなができないことができるようになるだけでも、多様化になってしまいますから(笑)。

白潟:そうなんですね。

徳留:ありがとうございます。ここまで白潟先生のお話をいろいろ聞かせていただいていると、人事評価はもちろん「人」ですよね。

今日も、経営者の方々にたくさん参加していただいていると思います。人と一緒に何かを成し遂げることはとてもすばらしいことであり、難しく、しかもいつもメンテナンスしていかないといけないなと実感しますね。

白潟:そうですね。短期ですぐに効果が出るというよりも、長くやり続ける世界ですよね。

徳留:はい。白潟先生がおっしゃっていますが、その中で一番大事なのは、遠くを見続けること、強みを活かしてあげること。そのために重要なのは、特に人事評価面談の話です。

評価面談は、半年に1回ではなく「3ヶ月に1回」

徳留:本書(『人事評価制度17の大間違い』)の中では詳しく書かれていますが、社長やリーダー、上司、マネージャーが、常に一人ひとりと対話をすることがとても大事だと。やはり、それくらい1対1での評価面談は大切なものなのでしょうか。

白潟:そうですね。白潟人事評価制度には、「人事評価シート」「評価者」「評価面談」と大きく3個の要素がありますが、やはり評価者と評価面談に時間を割くやり方のほうがいいのかなと思います。

評価面談は、3ヶ月に1回やらないと年間4回できないんですね。半年に1回だと年間2回ですけど、中間は1回しかないんですよ。そうすると、途中で「このまま行くと給料下がるよ」と伝えても、リカバリーするチャンスは1回しかないんですよね。

ところが中間段階で3回言えると、「このまま行くと点が数良くならなくて給料が下がっちゃうけど大丈夫?」「そうですね」「じゃあ、残り9ヶ月がんばろうよ」と、一緒にリカバリー計画を作ってがんばるじゃないですか。

また3ヶ月経って、「半年経ったけど、あまりリカバリープランをやっていないようだが、やばいぞ。もう残り半年なのにどうする?」と。そしてまた再リカバリー計画を作って、「がんばります」と。

9ヶ月経って、「おいおい。あと3ヶ月しかないけど、再リカバリー計画やっていないじゃんかよ。このまま行くと本当に給料上がらないよ。もしくは下がっちゃうよ。残り3ヶ月、最終リカバリープランを作ろう」と。

そして1年経ちましたと。最後にお給料を決める評価面談になった時に、「俺、3回一緒にがんばるって言ったよな。〇〇さん行動したかい?」「いや、すみません。マネージャーにいろいろやってもらったんですけど、私の行動力が足りませんでした」「そうだよなぁ。だから今回は、もう給料は上がらないぞ」と。

これはある意味、納得感が高いんですよ。これを半年に1回行うのでは、リカバリープランが1回しか作れないのでダメなんですよね。

徳留:なるほど。

評価に対する納得感を高めるために

白潟:今のは一番よろしくない社員のイメージですけど、ノーマルな社員であれば、1回目、2回目のリカバリープランで行動してリカバリーしていくので、給料が上がっていくんですよね。

なので、やはり3ヶ月に1回ぐらいの期間で、1人1時間以上くらいは「今までどうだった? ここは良かったね。でもここはさらに成長が必要だね」という話をしていくのは大事なのかなと思います。

徳留:そうすると回数そのものというよりも、しっかりと3ヶ月という単位で、必ず進捗状況も含めて確認したほうが、評価面談は効果を発揮すると考えたほうがよろしいですかね。

白潟:そうですね。私どもの会社は、人事評価シートは昇格要件だけの言語化はしていますけど、昇給を決める評価シートはまだ言語化していないんですね。でも、納得感は極めて高いんですよ。それは3ヶ月に1回、1人2時間の評価面談をしているからです。

なので、3ヶ月に1回上司はヘトヘトになりますけど、「社員の人生・給料を決めることに、そんなに優先度はないのか?」「目標達成も優先度が高いけど、同じように3ヶ月に1回、この優先度を上げないでどうするの?」というところで、うちの上司はみんなそれを理解しているので、ある意味喜んで1対1の評価面談をやっています。

先ほど言った「強み」をプレゼントすることも含めて、「でも、ここはがんばらなきゃダメだよね。一緒にやろうね」というふうにやっているので、(社員が評価に)納得してくれているんだろうなと思うんですよね。

“評価する側”の人材をどう育てるか

徳留:ただ、3ヶ月に1回2時間の評価をする評価者も大変ですけど(笑)。逆に言いますと、そういう方々をどう育てるかも中小企業の大きな悩みだろうなと思うんですね。

白潟:そうですね。なので、そこまで行くと採用になりますけどね。入り口の段階からそういうのがOKな上司候補を採用しないと、「冗談じゃないよ」となりますよね。

徳留:ええ。そうですね。

白潟:なので、「この指とまれ採用」という言い方をしていますが、先ほどお話ししたように、ミッション・ビジョン・バリューに賛同する人を採用するかたちを取らないと、なかなかうまくはいかない気はしますけどね。

徳留:ありがとうございます。本当に、今の人事評価の話って奥が深いんですね(笑)。

白潟:そうですね。

徳留:「好き嫌い」と言いましたけど、それはやはり、ミッション・ビジョン・バリューといった、会社・社長の譲れないものがしっかりとある。

さらに、公平な判断ができない。でもやはり、経営者・リーダーは人を評価せざるを得ない。

社員の人生が大きく関わってくるものですから、こちらも3ヶ月に1回、きちんと一人ひとりと向き合って、しっかりと時間を使って対談をしていくこともとても重要になってくる。大変だけど、やっていかなければならない。そうしたものがあって、人事評価シートと言われるものがある。

白潟:そうですね。

徳留:まず、「便利ですぐに評価できるようなものはない」と諦めたらいいんですけどね(笑)。考えても難しいということですよね。

時間をかけて、一人ひとりの「強み」を見つける

白潟:すばる舎さんの企業理念で私がすごくいいなと思ったのは、「脳みそに汗をかく」です。上司側は、脳みそにも体にも汗をかかないとダメですよね(笑)。

徳留:(笑)。そうですね。おっしゃるとおり、それくらい大変なものだからこそ、逆に言えば人事評価は尊いし、真剣にやらなければならないものだし、安易に考えてはいけないということですね。

白潟:そこまでやると、逆に上司から部下への愛がわかりやすく伝わるんですよね。評価面談をすると「目標達成への仕事ができない」となるんですが、それでも1対1で命がけでやってくるので、「自分は本気で愛されているな」「自分の成長を本気で考えてもらえているな」と、部下にも思ってもらえる。

なので、結果に納得してくれるんじゃないかなという感じですね。

徳留:それが伝わることが何よりも大切ですね。冒頭でもモチベーションの話がありましたが、それが伝わるとゼロが上に行きますよね。

白潟:まさにそのとおりですね。

徳留:期待してくれている、成長を願ってくれる。そういう人が自分の上司だったり、近くにいてくれれば、やはりモチベーションも上がっていく。

そのためにも、対談する機会を設けたり、一緒に話をする。時間を使って、一人ひとりの強みを見つけていくことが大事ですね。ありがとうございます。

白潟:ありがとうございます。

徳留:短い間でいろいろとお話しさせていただきました。本当にどうもありがとうございます。

白潟氏の「経営コンサルタントとしての喜び」

徳留:最後に、人事の話にもあったんですが、白潟先生にズバッと答えていただきたいのですが、「経営コンサルタントとしての喜び」というのは何なんでしょうか?

白潟:社長からもらう評価の言葉というか、お褒めの言葉というか、「白潟さんのおかげで組織が潰れなくて済んだよ」「白潟さんのおかげで5年経って会社が5倍に成長しちゃったよ」とかいう言葉をかけていただける瞬間の喜びは、もうやめられないですね。

徳留:(笑)。会社の中では白潟先生も社長なわけですから、社長としても、一人ひとりの社員とそのような結びつきがあるし、今度は経営コンサルタントとしても、いろんな社長とそのような関係がある。

さらに、人事評価面談ではないのですが、いろいろな経営者の方々と話をしながら、それが経営に跳ね返って、どんどん会社が発展していく人事を作れるようになってきた時がとても幸せだということですよね。

先生の話を聞いて、とても勇気が湧いてきました。どうもありがとうございます。

今回、本書の出版記念セミナーというかたちで開催させていただきました。本日参加していただいているみなさまには、いろいろな立場の方がいらっしゃると思いますし、経営者の方もいらっしゃると思います。

社長のみなさんは、一人ひとりが会社の発展を願って、人事を考え、会社のことを真剣に考えていらっしゃる方ばかりだと思います。

短い時間ではありましたが、今日の話をきっかけに、またお話を聞きたいということがあれば、セミナーや白潟総合研究所にお問い合わせいただければ幸いです。

さらには、お願いばかりで申し訳ないのですが、本書『人事評価制度17の大間違い』を応援していただければと思っています。本当に長い間でしたが、白潟先生、どうもありがとうございました。

白潟:こちらこそ、ありがとうございました。