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“暮らしのとなり”でビジネスをはじめる方法(全4記事)

破格の物件も“野菜のおすそ分け”も、田舎ならではの醍醐味 地方ビジネスで、周囲との「関係構築」がもたらす好影響

パンと日用品の店「わざわざ」の平田はる香氏と、薬草園蒸留所「mitosaya」の江口宏志氏が、「暮らしのとなりでビジネスをはじめるための方法」について語るイベントに登壇しました。両氏がものづくりに込める思いや、地域コミュニティとの関わり方について明かします。本記事では、地方でビジネスを展開する上でのポイントや、お客さんや地域の人との関係構築の重要性について語ります。

事業が先か、ビジョンが先か

あかしゆか氏(以下、あかし):事前の打ち合わせの中で盛り上がったテーマで、「事業を先行させるか、ビジョンを先行させるか」。

先に事業戦略を立てて、そこに向かって事業を行っていくビジネスのあり方か、それとも今ある自分たちのものを大事にしながら事業を行っていくやり方か、どっちなんだろうね? みたいなお話が出ていたと思います。

平田さんはこの間「よき生活研究所」というものを始められていて、けっこうしっかりと事業を決めて始められた印象があるんですが、そのあたりについておうかがいしてもいいですか?

平田はる香氏(以下、平田):そうですね。本当に、最初は「あることから、できることから」だったんですが、取得した倉庫というのが、近隣の蕎麦の製麺所だったところなんですね。

お蕎麦の製麺所と言っても、ただのお蕎麦屋さんの側の製麺所じゃなくて、乾麺の製造所だったので相当大きい工場です。「よき生活研究所」のところだけで、床面積が100坪ぐらいあるのでめちゃくちゃ大きい。

江口宏志氏(以下、江口):おお! 大きいね。

平田:土地自体も500坪ぐらいです。そこに「わざマート」というコンビニ型店舗と、「よき生活研究所」というのが2つ建って、本社機能もそこに作ったんです。全部で250坪弱ですね。

これを買い取ることが決まった時に、「先を見据えてやらないといけない」っていう、今までとはぜんぜん違うビジネスの仕方になったんですよね。

今までは、需要と供給を合わせただけで拡大していった感じだったんですが、今度はちゃんと成功するプランを描いて、それに向かって作っていくフェーズに入っています。

日用品をお試しできる「よき生活研究所」

江口:よき生活研究所というのは、どういう場所なんですか?

平田:わざわざは小売業なので、お客さんとはずっとお金を介在したやり取りしかしてないんですよ。「これを100円で買う」とか「100円をもらう」っていうだけだったんですけど、それだとちょっとつまらないなというのはずっと思ってたんですね。もっと購買の関係性を深くしたいと考えていて。

よき生活研究所は、「この水を買うべきなのか、それとも他の水を買うべきなのか」とか、それを考えるところから一緒にお手伝いしたり。

例えば、よき生活研究所には、わざわざで売っている日用品や食品などが、衣食住みんな配置されてるんですよ。大きい家の施設なんですが、玄関があってキッチンがあって、ランドリールームがあって、ランドリールームにはコインランドリーが入っているんですが、コインランドリーごとに違う石鹸が入ってるんです。

江口:へえ!

平田:木村石鹸さん、松山油脂さん、ねば塾さんと入っていて、ユーザーの方々はそこのコインランドリーの中で石鹸も選ぶことができるんです。

江口:本当にそこで洗濯ができるんですね。

平田:本当に洗濯ができます。汚れ落としする染み抜き剤とかもフリーで置いてあって、全部使えるので、「これが良かったら買ってくださいね」と検討することができる。気に入らなかったら買わなければいいんですよね。

会員型の施設なんですけど、施設に入館することで(商品の体験が)できたりします。

江口:そうか。じゃあ、入るのにはお金がかかる。

平田:入るのにお金がかかります。1dayいくらとか、月間いくらみたいな。

施設では、仕事も食事も洗濯もできる

平田:書斎があって、そこはワークスペースにもなっていてフリーWi-Fiが飛んでいます。この間来てくださった方は、出張中に洗濯物を持ってきて、洗濯を入れてからワークスペースの書斎でずっとお仕事をされてました。お昼になったら、パンとかもキッチンに全部置いてあるんです。

江口:それも食べられるわけ?

平田:ドリンクも全部フリーです。

江口:へえ! そこでちょっとした生活ができるんだ。

平田:できるんです。コーヒー豆も置いてあって選べるようになっていて、自分で挽いたりミルも選べるんですよ。グラスも全部選べるので、好きなセットで、好きな場所で食べたり飲んだりできるんです。自分でお茶碗を洗って、洗濯物ができたら取って畳んで、またワークして帰ってました。

江口:へえ! おもしろい。

平田:その方は2日連続で来てました(笑)。

江口:住み着いちゃう可能性だってあるよね。

(一同笑)

あかし:しかもその隣に「わざマート」という、わざわざのコンビニがあるんですよ。

平田:気に入ると、その食材が全部横で買えるんですよ。

江口:なるほど。

平田:うまいことやってるんです(笑)。

江口:うまいことやってるんですね。

平田:だけど誰も知らないので、施設にはまだほとんど入館してこない感じなんですが。

江口:ちなみに入館料はいくらなんですか?

平田:1日で3,000円です。

江口:3,000円。30日いても9万円だ。

平田:そうなんです。午後に入ると、時間が短くなるので2,000円です。でも、1ヶ月(月額プラン)だと3万円なんですよ。

江口:え、そうなの? 月額会員もあるわけ?

平田:月額会員があるんです。

江口:夜になったら追い出されちゃう。

平田:追い出されちゃいます。

江口:寝ることはできない。

平田:寝られない。

江口:ベッドはない。

平田:ない。だけど、ホットカーペットっていう、ホテルオークラや帝国ホテルに引いてあるウール100パーセントのカーペットが敷き詰められてるので、寝られます。

江口:わー、すごいおもしろい。

平田:すごいです。今は「Zoom​​会議とかはできないね」という話になってるので、個室を作ろうとしてます。

江口:これ、もうやばいね。

ユーザーとの関係性を深めるための施設

あかし:「拡大するぞ」と決めてからの在り方と、今までの在り方で、気持ちややり方の変化はどうですか?

平田:今の話をすると、はっきり言って、よき生活研究所は何のお金にもならないんですよね。物を売るわけじゃないし、そこに100人とか入るわけでもないので、年間ではぜんぜん儲けが出ないんです。だから銀行にも融資を切られちゃったんですけど、そこでは稼がないんですよね。

だけど、その施設があることで、「わざわざで買いたい」「わざわざだったら安心だ」とか、ユーザーの方々が「いろんなお店の中から、なぜわざわざを選択するのか?」という時に効いてくると思っていて。

そこへ行けば、誰かが何か教えてくれたり、買ったもので壊れたものがあったら、そこに相談すれば修理をしてくれるとか。いろいろと関係性を深めていくことで、わざわざの選択肢が出てくるというか、より強固になるんじゃないかと考えてるんですよね。

江口:それだけの場所を作って、使った上で選んでる商品なんだっていうことが伝わるわけだもんね。

平田:そうですね。「そうなったらいいな」ってことなので、あんまりそこでは収益化を考えておらず、わざマートにがんばってもらう予定です(笑)。

あかし:なるほど。

清澄白河に充填所をオープンした背景

あかし:江口さんはいかがでしょうか。「これだけの事業をやるぞ」って決めてされるということは、今後考えられますか?

江口:そうですね、どうなんだろう。僕は基本的にはビジョン先行型でしかないんですが、最初に言ったとおり、お酒を作るにはある程度事業として作らないといけない。

リアルな場所を作ることは、やはり事業を考えた上では始めなきゃいけないので、そういうのを両方やりながらだと思います。

この間、清澄白河に充填所を作ったんですよね。今日ここにある「CAN-PANY」は、(読み方は)カンパニーでもキャンパニーでもいいんですが、「缶を充填する仲間」という意味でCAN-PANYという名前をつけました。

自分たちで缶飲料、瓶飲料で作るという目的もあるんですが、もう1つは、いろんな人に施設を使ってもらって、飲料を作ってもらうことも大きな柱になっていて。

素材があって、レシピがあって、それを作る工場や製作する人がいて、その先にお店があって、お客さんがいるというのが、ものを作る流れだと思います。

今までは、それを全部大きくやる企業があったり、それぞれを単発でやっている請負の業者がいたりしたと思うんだけど、素材は本当にいろんな場所にあるし、それこそ常用品や未利用品もある。今まで使わなかったものが、素材としてどんどん活きてきている。

“今まではお客さんじゃなかった人”を取り込んでいく

江口:レシピでいうと、今までは各メーカーで秘伝の門外不出だったものが、レシピや作り方、料理でも手芸でも、ものづくりにしてもなんでもそうですが、今は本当にいろんな人がいろんな作り方をSNSとかで公開しています。

そういうものがどんどん広がっていて、自分で作るぐらいはできるけども、ある程度商売としてやるぐらいの規模感でものを作る場所がないなと。

逆に、それがあれば素材もレシピもかたちにできるし、自分で(商品を)売ってもいいし、ちっちゃくてもおもしろいお店もある。その間の製造所を作ることで、今までは「作ってもかたちにできなかった」という人たちと一緒にものづくりができることが考えられるなと思って。

平田:これ、本当にすごいと思います。とにかく量が必要なので、今まではできなかったですよね。

江口:そうなんですよね。

平田:あと、免許がないとか。

江口:確かに。

平田:田舎だと、農業の法人みたいな感じで、小さなりんごジュースを充填してくれるところとかはあるんですが、ラインに乗せないといけないので、自由なレシピでは作れなかったんですよね。

例えばジュースだと、糖度が何パーセント以上じゃないとパッケージした時にかびるリスクが高いので、自動的に砂糖を何パーセントか投入してしまうとか。

だから、好きなレシピで作って充填することができなかった人たちもいたと思うんですよね。でも、そういう人たちが江口さんの作ったCAN-PANYを知ったら、すっごく喜びますよね。

江口:喜んでくれるかな。

平田:くれます。

江口:ああ、よかった。

(一同笑)

江口:事業性という話で言うと、今までお客さんじゃなかった人をお客さんにするというのが、一番確実で新しい事業だと思うんですよね。そういう意味では、今までは自分のレシピで充填して、缶に入れて売ろうなんて思ってなかった人こそがお客さんになってくれるといいなっていう。

平田:すごくチャンスが広がっている、すばらしい施設だと思います。行ってみたい。

江口:ぜひ。

平田:うかがいます。

あかし:ありがとうございます。

地方でビジネスをする上でのポイント

あかし:図らずとも、これからのお二人のお話になったなと思いました。では、最後のトークテーマで、地方でビジネスをするところもみなさん気になると思うので、ぜひ聞いていければと思います。

長野と千葉の房総でビジネスをされてみて、「地方だからこれができた」とか、地方だからこそのアドバンテージや、逆にデメリットだったり、そういったリアルなところをおうかがいできればと思います。

平田:東京でも大変だと思いますよ。すごく人がいますからね(笑)。いっぱいいる中で一番になるのと、地方の誰もいないところで売上を立てることって、同じぐらいの難易度だとは思うんですよね。本当に、やり方がぜんぜん違うなって思います。

だから、それぞれの良さとかを生かしてやっていくしかないと思うんですが、私は東京でビジネスをしたことがないので、地方でやってどういうことが良かったかなと思うと、家賃とかが圧倒的に安いので、まず運営のコストが低いですよね。

あと、野菜とかの資源ですね。産直の野菜もめちゃくちゃ安いので、東京とは段違いの安さでおいしいものが買えます。

江口:くれるしね。

(一同笑)

平田:めちゃくちゃもらいますからね。

地域のイベントごとは、誘われたら断らない

平田:朝起きて、ドアがなんか重いなと思ったら、大根がすごく山積みにされてるとか、そういう現象があるぐらい。みんな(野菜が余っていて)困ってるからくれるので。

江口:今の時期は、そら豆なんです。

平田:そら豆なんですか(笑)。

江口:そら豆、めっちゃもらう。

平田:そうですよね。都会でお金を出して得ようとしたものがそのまま手に入ったり、先ほどの工場の話もありますけど、破格の価格で(物件を)譲ってくれる人が現れたり、応援してくれることがすごくありがたい。

知らない新参者がまったく知らない土地に入って、信頼を得ていくまでは大変かもしれないですが。

江口:そういうの、ありました?

平田:いや。正直、うちの地域はすごく良い人が多くて。

(一同笑)

江口:ないんだ。

平田:でも、「なんだかわからない人がやってきた」っていうのはあるじゃないですか。だから町内会とかも全部出ましたし、婦人会のバレーも7年ぐらいやってました。

江口:ええ!?

平田:毎週、ママさんバレーに行ってましたから(笑)。

江口:意外。この本(『山の上のパン屋に人が集まるわけ』)にはそんなの書いてなかったです。

平田:そっか。誘われたら断らないって決めてたので、そういうのは全部出ましたね。役員とかも嫌がらず受ける。

江口:それって関係性の構築もあるけども、バレーが上手になるとか?

平田:それはなかったですね(笑)。

江口:なかった。何か良いことはあったわけ?

平田:そうですね。知ってる人が増えるので、「誰だか知らない人」ではなくなるというのが、やはり一番良いことなんじゃないですかね。周りの人に安心感が生まれる。

余ったパンは近隣住民におすそ分け

平田:あと、パンが余った時は近隣の人にずっとお配りしてたんですよ。

知らない人のうちもピンポンして、「どこどこでパンをやっている平田と申しますが、良かったらこれ、お召し上がりください。何曜日は空いてますので」って。

江口:すばらしいな。

平田:その時は、お野菜をいただいたりするお礼って思ってましたけどね。うちはパンしかあげるものがないから、余分になった時は配ろうと思って、いつも配っていて。でも、「こんな高級パンをいただけるなんて」って、すごく感謝されたんですよ。実は今もやっています。

近隣の方々にも、何かが余った時にはお礼として(パンを)お配りしてます。畑を耕してもらったお礼にパンを、お野菜をもらったお礼にパンをって、私がやらなくても今はスタッフが自動的にやってくれることになってます。

あかし:すごいです。

平田:「何々さんのお家にパンを持っていくので、一斤キープします」ってLINEが流れてきて(笑)。そういう関係性を構築するまでできたら、良いこともすごくたくさんあります。

ただ、さっき言ったように、やはり人が来ない。もともと人口が少ないので、基本的に売上は上がらないですよね。だからうちは、地元の人はそんなに来るわけじゃないというか、人口が少ないので、県外からわざわざ来ていただかないと成り立たない店なので、そういう努力をしましたね。

あかし:ありがとうございます。

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