定めただけで忘れてしまいがちな「MVV」

川島高之氏(以下、川島):組織を緩ませず、でもワークライフバランスもできるようなダイバーシティな組織にするためには、一体感のある組織にする必要があります。

そのためには、課長なら課の、部長な部の、支店長なら支店の、もちろん会社社長なら会社の独自の大儀、存在意義、ビジョン、スローガン、有り姿、何でもいいんですよ。一致団結する御旗を立てることが何よりも大事です。

「あの山を登っていこうぜ。エイエイオー」となったら、多少厳しくても、むしろ厳しいほうがみんながんばるし、一体感も出るし結果も出ます。

「どこに向かっているのかわからない」となったら、厳しく言われたら辞めちゃいます。どこに向かっているのかがわかる、しかも部下たちが腹落ち感のある御旗を立てる必要があります。

最悪は、組織のミッション・ビジョン・バリューを定めただけで終わっちゃうことです。部下たちは知らないというか、すぐ忘れちゃったり、上司も(MVVを)言えない。何のために定めたんですか? というね。

一致団結する、向かわせる、ちょっと厳しい岩の山でも登り乗り切れる覚悟を持たせる。そのために御旗を立てるということですね。

「権利主張の前に職責を果たす」

川島:他にもあります。部下同志で得意を交換し合うような、不得意と得意を交換し合うような組織にすること。

組織横断的で、でも組織全体の課題解決につながる。中小企業だったら、会社全体の課題解決につながる横断的なタスクフォースを、部だったら部全体の課題解決につながるような横断的なタスクフォースをいくつか作る。やはり、「自分も組織に関与しているんだ」と、参画意識を持たせることはとても大事です。

上司は幹部と部下たち、横の部署と部下たち、お客さまと部下たちの間を連結する役割なんですよ。連結役、一番大変ですからね。でも、覚悟を持ってやりませんか? このようなことが大事かなと思います。

最後は「全員の心得」ですね。これは、部下指導としても使ってきたことです。一番私が意識したのは、抽象的ですけど「権利主張の前に職責を果たす」という意識付けですね。

普通に職場でワークライフバランスを進めると、ぶら下がり型、権利主張型が増えます。一定数そういう部下が増えると、組織が緩んでしまう。緩んだ組織を元に戻すのは大変です。私は、緩ませたまま元に戻らなかったという苦い経験があります。

ワークライフバランスというのは、私生活を死守しながら仕事の信頼を失わないという、二兎追うことを言います。だから、緩いところがむしろ厳しい、厳しいから得ることも倍あるんだよということを、しっかりと意識づけする。

そのためには(スライドの)左側ばかり言っている部下に対しては、「このままで大丈夫? 右側になっちゃうよ」と。言い方はちょっと工夫しますけども、時々左側ばかり言っている部下がいますので、「右側になっちゃうよ」という指導をします。

ワークライフバランスは「与えられるもの」ではない

川島:与えられた締切の2割前には、自分の締切りを設定する。そうしたら、家庭のことや趣味のことで急な予定が入っても、締切りに間に合わせることができます。

「仲間の力を借りるようにするんだよ」というのは、自分としては仲間の力を借りるために、ふだんから恩を先売りするとか、ヘルプサインを出す。

仕事というのは、「いつまでにどんな成果を出すか」という旗を立てる。旗を立てたら、逆算するマイルストンが必要です。

こういう逆算型マイルストンがある、逆算型の仕事リストを作って整理整頓しておくとか、明日の予定は前の日に定める。しかも出来る限り、前の日に予習しておくのもとても大事なことです。

受け身で仕事をやっていると、私生活の予定を入れづらくなります。入れていてもキャンセルせざるを得なくなりますよ。仕事は自分でできる限りコントロールするんです。そのためには能動的裁量権を取りに行くんだよと。

だいたいセミナーの最後にはこれを言っています。仕事と生活の両立、働き方改革、ワークライフバランスというのは、自分から取りに行く。与えられるものじゃないんです。

取りに行くと決めたら、できない理由を言うのは止めませんか? できる手段を考えませんか? 考えを実行しませんか? 何のため? それは、自分の人生を豊かにするためです。

自分の人生を豊かにするためだったら、厳しさに耐えられます。厳しさに耐えられるような職場じゃないと業績は出ないです。あるいは、むしろ残業続きになっちゃいます。

私生活の時間をしっかり取りながら、しっかり業績も出す組織にするためにも、今日お話ししたようなイクボス的な考え方を上司としては持ち合わせ、行動することが必要かなと思います。

ちょうど時間になりましたので、飛ばし飛ばしになっちゃって恐縮ですが、終わらせていただきます。ありがとうございました。

日々のコミュニケーションはタスク化する

中川雄司氏(以下、中川):川島さま、ありがとうございました。30分ちょっとでは短すぎると言いましょうか、もっともっと長い時間を取ってしっかりお聞きしたい内容だったのですが、ここから質疑応答に入っていきたいと思います。

みなさま、いかがでしょうか。すべてはお答えできませんので、いくつかピックアップしてお答えしていきたいと思っております。

みなさまに記入いただいている間に、私からご質問を1個よろしいでしょうか。「配慮はするけど遠慮はしない」というところ、けっこう私は響いた内容なんですが、実際にやろうとすると、部下をよく見る必要があるかなと思います。

あとはもちろん、ふだんからの信頼関係も重要だと思うんですが、それを最終ゴールとした際に、最初の第一歩目はどこからやるべきでしょうか?

川島:「どこから」というのは、やはりコミュニケーションを取るところからですね。信頼関係もコミュニケーションがないと生まれないし、部下を知ることもコミュニケーションがないとできないのでね。

いわゆる1on1のミーティングをやればいいってもんじゃない。あれは、ちょっと形式的なところもあるんでね。「コミュニケーションはタスク化」と言いましたが、朝会った時のあいさつ、移動時間、ランチ、会議の始まる5分前、あるいはレクリエーションをやる時とか。

もちろん今だったら、また飲み会が復活しているから飲み会なんかも含めて、できる限りコミュニケーションをいろんな場で取る。当たり前なんですけどね。

中川:ありがとうございます。

会議の冒頭で、社員の「長所」を見つけ合う

中川:もう1個、図の中に「WBCみたいなオールスターじゃなくて、いろんな制約のある方々でチームを作っていって、そこでどう成果を出すか」という話があったかと思います。

強みを活かそうとしても、部下自身が強みに気づいていないことも多いかなと思うんですが、そのあたりを気づかせるために、ふだんどういったことをされていますでしょうか。

川島:部下が10人いた課長の時を思い浮かべると、10人集めた会議をやるんです。その10人で中川くんという部下がいたら、「今日は最初の5分は、中川くんの強みや長所をみんなで言い合おうぜ」みたいな。

本人も「ええ!?」なんていうこともあるし、言われてうれしいし、言っているほうも「こういう強みがあったんだ。長所があったんだな」と、意外に他の人の意見を聞いて気づいたりする。次回のミーティングや会議の時は、「今度は加藤くんの強み・長所をみんなで5分間披露」みたいなことやりましたね。

けっこう盛り上がるし、お互いに気づきになるし、お互いが尊重し合う。私自身はそれによって、「あ、中川くんってそうだったんだ。こういう評価を受けているんだな」とか、強みもしくは長所を知るために、私はそれをやっていましたね。

中川:他者からの視点を入れるようなイメージですかね。

子育て中の部下に対するアドバイスのコツ

中川:(視聴者からの質問で)「私生活、育児を優先して、仕事はそこそこでいい」と主張する部下がいらっしゃるとのことです。どのような意識改革を促せばいいでしょうか。

川島:そうね。これも状況によりますよね。そうならざるを得ない時期もあるかもしれないのでね。

例えば、夫が何もしてくれないワンオペだったとか、子どもがちょっと大変だったとか。あるいは、両方でうまくバランスを取れないタイプの人もいるじゃないですか。それは、やはり配慮してあげないとダメかなと思いますよね。

ただ、その人にも、「人生の中でワークライフバランスを取ろうよ」「WorkとLifeとSocial、全部できればやらない?」という言い方をよくしましたね。

「今はどうしても育児優先で、気持ちも時間もそっちへ行っちゃう。だけど君は能力があって、その能力に僕は期待しているから、できる限りワンオペにならないように夫としっかり話すとか。あるいは精神的に安定して子どもが成長したら、もうちょっと仕事への配分を増やしてくれない? 人生の中でワークライフバランスやらない?」という言い方をしてますね。

中川:一緒に先のキャリアを見ているイメージが浮かびました。

川島:時間軸を長く持たせるというね。

中川:なるほど、時間軸ですね。ありがとうございます。

まずは信頼関係の構築が重要

中川:あと、もう1つ質問です。「部下にいろいろ聞くと、ハラスメントと言われてしまうんじゃないか」という声が所属長から届きます。

「所属長自身のことも話してコミュニケーションをとると、部下も自分のことを話してくれますよ」とアドバイスをしていますが、他にいいやり方があれば教えていただきたい、ということです。

川島:「聞く」という言い方や、感覚をまず止めてもらうことが大事ですよね。「聞き出す」という気持ちは止めたほうがいいです。

ご質問者のおっしゃるとおり、所属長自身も自己開示して自分のプライベートな話をすることが大事だし、さっきも言ったとおり、いろんな機会でコミュニケーションをとる。朝の挨拶、移動時間、ランチ、コーヒーブレイク、いろんなところで取れるので、チョコチョコっと軽く話しをするのも大事ということですね。

中川:「聞く」という意識が、部下の方にちょっと誘導と言いましょうか、目的を考えてしまうようなことなんじゃないかと。

川島:「ちょっと君のプライベート教えてくれ」「君の子どもの状況を教えてくれ」なんて言われたら、「ええ!?」と思っちゃいますもんね。

もう1つ重要なのが、やはり信頼関係にもつながるのが、場合によってはちょっと言いづらいことを、部下は言わざるを得ない時があるかもしれないじゃないですか。

例えば、多い例が年上の部下の親の介護ですね。親の介護があるということは、部下もそれなりの年齢にあるわけで、今後「戦力」として数えていいのか? ということになります。部下もナーバスになる点ですよね。

でも、そういう年上の部下に親の介護を言いやすいようにするには、信頼関係を築くことが必要ですよね。

「親の介護なので」と言った時に、イコール「こいつはダメだ」と言われたり、万一それを言いふらされたりなんていう危険を感じると、部下は話してくれないので、「あの人だったら言っても大丈夫」と思わせる信頼関係を築くことが、何よりも大事かなと思います。

中川:ありがとうございます。

部下からも正直にダメ出しをもらう

中川:では、最後に1つだけ。これはまさに中間管理職の方ですね。日々部下への接し方や教育にトライ&エラーで臨んでいますが、上司から自身のフィードバックをもらうのは難しく、どう自分自身を振り返り見つめていけばよいのか悩んでいらっしゃる。自分自身をどう振り返るべきかということですね。

川島:自分自身が、どういう中間管理職をやっているかのフィードバックを欲しいと。単純に、部下に聞いたらどうですか? 中間管理職ということは、部下がいらっしゃるわけですよね。

「こういうことをやっているんだけど、実は私もまだよくわからなくて、試行錯誤で日々悩んでいる。まだまだ至らない中間管理職なので、私の接し方や教育の仕方がいいかどうかちょっと教えて。直すべきところは直すし、直すべきじゃないところは直さないんだけど、とにかく率直に教えてくれない?」と、むしろそこは部下に教わってもいいんじゃないかなと思います。

私はよく部下にダメ出しをしてもらいましたね。「ちょっと俺のダメなところを3つぐらい挙げてよ」「正直に言って。その時はむかつくから顔色が変わるかもしれないけども、でもいい。教えて」と。やはり、これも信頼関係がないと教えてくれないんですが、そうしたらけっこう教えてくれて。

「また川島さん、上から目線で言っていましたよ」「川島さん、いつも『傾聴』と言いながら8割しゃべっていましたよ」「またやっちゃったか」みたいな。率直に聞くと、けっこう教えてくれたりしたもんですね。

中川:わかりました。とてもいろいろ質問していただいていますが、お時間ですので、こちらで以上とさせていただきたいと思います。ありがとうございます。