コロナ禍を過ごした学生のつらさ

中須賀真一氏(以下、中須賀):やはり、コロナの時はしんどかったですか?

久保勇貴(以下、久保):しんどかったですね。特にTwitterとかで、「なんで年寄りは」「若者は菌を撒き散らしているんだろう」みたいなものをいろいろ見て、苦しくなったり。

行動が制限されて、学生として・研究者としての大変さも当然ありましたけど、それ以上に精神的にけっこうきつかったですね。

中須賀:それは何年? ドクターの頃?

久保:D1の終わりですかね。博士1年の終わりぐらいかな。

中須賀:ああ。でも、一番しんどい頃やな。研究もしんどい頃や。

久保:です。「1年終わったけどやばい」みたいな。

中須賀:研究者は、本当に最後はやばいよね。

久保:(笑)。「もう1年終わった」みたいな。

中須賀:わかるわかる。コロナに当たったから、そういう時期だったということだな。みなさんはコロナの頃ってどうでした?

久保:学部生でああいうことになったら、本当に何もできなくなります。

中須賀:大学に入ってね、しばらくまったく人と会う機会がなかった学生さんもいる。3年ぐらいになってようやく会ったとか、ちょっとかわいそうだったよね。

待ち望んだイベントがほぼ中止に……

杉山大樹氏(以下、杉山):(参加者に向かって)今、4年生だと、かなりそのあたりじゃないですか? どうですか?

参加者1:私は5年生なので。

参加者2:私は、モロその代でした。

杉山:そうでしたか。

久保:1年生からコロナ?

参加者2:1年生で、7月入学の前の3月に始まったので、がっつり入学時からコロナでした。入学式もなくて、ありとあらゆる楽しみにしていたイベントがどんどんなくなっていった感じで(笑)。

杉山:全部消されていったと。

参加者2:なので、いつの間にか3年生になっていましたが、そこから大学生活が始まったような感じになって、4年生の今、やっと大学生らしいことをできているという感覚になっています。

久保:やっと飲みに行けたりとか。

参加者2:はい(笑)。

久保:本当にそうですよね。大学1年生、2年生の時って、本当にそういうことばっかりやっていましたもの。

中須賀:うちの研究室も、夏冬と合宿に行くんですよ。夏はスポーツ合宿に行くんですが、僕はスポーツが好きなので、朝10時ぐらいに集まって、まずは軽くテニスを2時間ぐらいやって、昼飯を食った後の1時から5時までは野球とサッカーをやる。

久保:(笑)。すごいな。

中須賀:翌日の朝にもう一回テニスをやって、(合宿所が)海のそばだったら、時間があれば海に入って帰ってくる。冬はスキー合宿。それができないのが本当に残念だよね。

オンラインを経験してわかった、対面での「熱」

久保:最近は復活しました?

中須賀:ようやく久しぶりにスキーに行ったんです。飲み会も復活して、やはりいいね。

杉山:いいですよ。

中須賀:オンラインでつながっているのと対面で会うのって、やはりなんか違うよね。本当を言うと、オンラインやITの技術が、対面と同じだけのレベルにまだ達してないんだよ。

久保:そうですね。まだですね。

中須賀:テレプレゼンスのような、そこにいるかのように感じる技術とかも、世界では開発をいろいろやっているから、それをもっとやるべきだと思うけどね。

久保:今こそ求められていますからね。

中須賀:(オンラインとオフラインを)誤解して「どっちがどっちかわからない」みたいな感じになれば本当は違うんだろうけど、やはり対面の熱は違うよね。

久保:博士論文の審査の時も、僕の代はまだオンラインでやっていたので。

中須賀:オンラインだったね。

久保:けっこう怖いというか。先生方の顔が見えずに画面に向かってしゃべって、「もしこれが終わった後で、画面の奥でしかめっ面をしていたらどうしよう」みたいなことを思いながら、必死でしゃべっていて。

中須賀:しかめっ面してたよ。

杉山:してたんかい(笑)!

(一同笑)

久保:じゃあ、オンラインで良かったです。

中須賀:ええ。見なくて良かったんじゃないかなと思っていて(笑)。オンラインでいいこともある。

杉山:ありますね。

コロナ禍での経験を「どう活かすか」が大事

中須賀:いろいろあるけど、コロナで僕が感じたことは何かと言うと、今回はコロナという名前の病原菌が広がったけど、これが将来また起こらないはずはないんですよ。今起こったら、また次も違うもので起こる可能性がある。

そうした時に、また今と同じことをやって、何も勉強しないでゼロから経験するんですか? と。「今回の経験をどう活かすか」を考えなきゃいけない。これ、どうしたらいいと思います?

ちょっとこの本とは離れるけど、「セル社会」といういろんな地域ごとに閉じた社会を作る。例えば、東京一極集中時代じゃなくて、いろんな県にわっと人が集まるような町が何個かある。

そこで遠隔で生活をしながら、会社はインターネット上にあって、そことつながりながら各地域で仕事をすればいいわけですよね。「本社」なんてないわけ。

どうしても現場でやらなきゃいけない人たちは動かなきゃいけないですけど、それ以外の人はみんなそれ(ネット上)でつながって、遠隔で教育ができたり、遠隔でエンターテイメントができたり、球場には行けないけど野球場の雰囲気が遠隔でも味わえるとか。

久保:確かに。今はまだ難しいと思いますけど、技術が伴ってきたり、今(実際にリアルの場に)いると錯覚するような状態になるかもしれないですね。

再び訪れるかもしれないパンデミックに備える

中須賀:せっかくコロナで勉強したんだから、そういうのに向かってもっともっと研究をする。コロナ(のようなパンデミック)が何回か起こっても、そういうことをちゃんとやった国が、他の国が停滞している中でも常にぐぐぐっと伸びていく。

これ、日本にとっては1つの大挽回のチャンスじゃないかなと思うので、やらなきゃいけないなと思うな。

杉山:(今後もコロナのようなパンデミックは)絶対にありますからね。

中須賀:みなさんは若いから、生きている間にまだ何回かあると思います。その時に、今よりもっと賢明に生きられるかがすごく大事です。だって、3年間こんなことが起こるわけで、本当にかわいそうだよね。「もう一回、私の青春を取り返してよ」と思うでしょう?

久保:本当にそうですね。

中須賀:また同じことが起こって、また同じようになったら、何の勉強もしていないことになるから、これはやはり変えるべきかなと思いますね。ちょっとこの本とは違うけど、コロナの話が出てきたからそんなふうに感じましたね。

数列が生み出す、美しい偶然

中須賀:話は変わるけど、フィボナッチ数列が好きなの?

久保:数列が好きかどうかはわからないですけどね。

杉山:(時間的にこのトークテーマを)最後にします。

久保:ああ、そうですか。じゃあ、最後はフィボナッチで。

中須賀:まずは、ちょっと説明してあげないとわからないね。

久保:そうですね。フィボナッチ数列ってご存じですかね? もしかしたら理系の方は高校受験でやるかもしれないですが、数列といって数字の並びです。前の2つの数字を足したものを次の数字にするという規則で、どんどん作られていく数列です。

杉山:「1、1、2、3」ですね。

久保:そうそう。最初は「1+1=2」、次に「1+2=3」、「2+3=5」と、どんどんつながっていく。そういうルールで、ある種無機質に作られたものなんです。

その「1、1、2、3」という並びで円をつなげて描いていくと、実はそれが自然界に存在する渦巻きの形と同じようになったりとか。

中須賀:(本の中では)「銀河の渦巻きになる」と書いてある。これは知らなかった。

久保:本当ですか。これも正確に沿っているかはわからないですけど、自然界にナチュラルに存在するようなものです。

無機質に、科学や世界が勝手に決めた物理法則で決まったものだけど、偶然美しい法則になってしまったものはけっこういろいろあると思っていて、まさにフィボナッチ数列もその1つです。

そもそも数学とかって、もともとは算術や数字の計算、お小遣いを計算したりとか、そういう話で作られていた実用的なものだったわけです。

そこから「じゃあ、虚数みたいなものを考えたらいいんじゃない?」というふうにしたら、実は虚数を使った公式が見えてきたり、それが工学的にはこういうふうに使われて……とか、いろんな美しい法則が見えてくるわけですよね。

夏に訪れる「静寂」の美しさ

久保:それから、季節となぞらえている話ですね。

中須賀:「(フィボナッチ、)鹿児島の夏」ですね。

久保:そうですね。

中須賀:鹿児島生まれじゃないよね?

久保:福岡生まれですが、父親の実家が鹿児島なんですよ。(「フィボナッチ、鹿児島の夏」の章では)祖母との思い出を書いてます。

理科で習いますが、地球の自転軸はちょっと傾いているので、日本が太陽側に軸が傾いている時は夏になって、逆に太陽と反対側に傾いていると冬になるんです。

夏とか冬って、偶然地球が傾いたから生まれてしまったものなわけですけど、ただ、夏ってなんか「美しいもの」になってしまったというか。美しくしようと思ったんじゃなくて、偶然軸が傾いたら美しくなっちゃったみたいな。

中須賀:「夏が美しい」ってさ、みんなわからんよ。「暑いのは嫌」という人もいるけど、夏が好きなんだね。

久保:夏ってけっこうアクティブなイメージがあるじゃないですか。僕がここで書いている好きな夏というのは、静かな夏なんですよね。

僕が夏を好きだなと思うのは「暑ぅ〜」という時じゃなくて、冷房のかかっている部屋で、冷房を消した時にふわって訪れる静寂とか、そこで感じる風とか。急に静寂が訪れる瞬間って、けっこう夏の特徴なような気がして。

中須賀:なるほど。

久保:それが美しいなと僕は思っていて、それを書いていますね。

四季は、人間にとって大きな恵み

久保:夏は好きですか?

中須賀:僕はどの季節も好き。それぞれに良さがあるからね。

僕が夏を好きなのは、夏の終わりに、ヒグラシの「カラ、カラ、カラ、カラ」という夏を惜しむように鳴く声を夕方に聞くと、わっと盛り上がった夏がすっと落ち着いていくような、郷愁というか愁いみたいな気持ちが大好きなのね。

久保:けっこう似ているかもしれないですね。

中須賀:だから、いつも箱根になるだけ行くようにしていて。

久保:いいですね、箱根。

中須賀:箱根にはセミがいっぱいいるからね。8月の終わりから9月の頭ぐらいに行って聞くと、とてもいいんですよ。だから、本当に季節というのは、我々に対するすばらしい贈り物みたいなものだよね。

人間って基本的に、同じ状態だとだんだんそれに慣れてしまって、変化がすごく楽しいのね。季節というのは、変化を年に4回ももたらしてくれる。

最近はどうも「春と秋がなくなってきた」ともよく言われてるけど、それでも季節の変化がある。これは僕らにとってはものすごく大きな恵みであって、もっともっと人間は楽しむべきだと思うね。

旬を感じながら、変化を楽しむマインドを持つ

中須賀:例えば、イチゴの旬って春だけど、温室で育てれば1年中食べられるよね。

これはこれで、1年中ショートケーキが食べられるというメリットはあるんだけど、春にできるイチゴを待って、イチゴが出てきて食べる喜びってさ、ずっと食べられるよりも、もっと喜びが大きいんじゃないかと思う。

だから、この変化を楽しむマインドを、僕らはもっと持ったほうがいいと思う。夏が好きだとか、夏の終わりが好きだとか、いろんな好きなものがあるけど、これをもっと楽しんだらいいと思うな。そういうのが、人生をどんどん豊かにしていく1つのきっかけになると思いますね。

杉山:「『枕草子』ですか?」っていう感じがします。

中須賀:よく知っているね。「春はあけぼの」。

杉山:ええ、もちろんもちろん。僕も一応東大生ですから(笑)。

久保:そうですよね。

中須賀:(笑)。

久保:確かに、変化ってなくなってきているのかな。

中須賀:いや、ないことはないんだよ。変化に対しての敏感な感受性がなくなっているのかもしれない。だから、もっと変化を楽しむ感受性を持ったほうがいい。

人間は、慣れると「喜び」が薄れていく

中須賀:これは食べ物もそうなの。贅沢なもの・おいしいものを同じようにずっと食べ続けていると、だんだんこれが当たり前になって、そんなに喜びはなくなるわけだよね。「もっと喜ぶためには、もっといいものを」となって、もっと上に上がっていく。

これは、人間が進化することの源だったから悪いことではないんだけど、キリがないわけですよ。じゃあどうするかと言うと、一回落とすんですよね。これは生協には怒られるけど、僕は何をするかと言うと、生協で飯を食うんですよ(笑)。

杉山:(手で口を押さえながら)やばい、やばい(笑)!

(一同笑)

中須賀:いやいや、生協がまずいわけじゃないですよ。あの値段だったらあれでいいわけ。

久保:学生が安く買えるために。

中須賀:生協が悪いと言っているわけじゃなくて、コスパはいいわけですよ。

久保:今、必死でフォローしています(笑)。

杉山:(笑)。

中須賀:一回リセットしてからちょっといいものを食べると、すごく感動するんです。そんなことない?

杉山:もちろんありますよ。あるけど、あんまりちょっと言えない(笑)。

クロージングトーク

杉山:名台詞が聞けたのでいいんですが、あと5分しかないので、締めに移ってもよろしいでしょうか。

中須賀:任せます。これから5分しゃべっていいよ(笑)。

杉山:いやいや。

久保:あっという間でしたね。

杉山:本当に最高だったと僕は思っていて。みなさんもぜひ、感想を拡散していただきたいです。本当におもしろかったんじゃないかと思います。またいろんなかたちで出させてもらいますし、ログを残してもらったり。

久保:アーカイブは出るんですかね?

杉山:出すことも考えてます。

中須賀:生協のところは消しておいてね。

久保:(笑)。

杉山:はい。そのへんは、またご検討させていただきます。

中須賀:生協が「うん」と言えばいいから(笑)。

杉山:生協は、たぶんいいという顔はしてますけどね。

中須賀:そうそう、コスパがいいからね。

杉山:(イベント会場にいる生協の方は)書籍部なので、若干どうかわからない。

久保:食堂の方はちょっと怒っているかも。

杉山:うん、違うかもしれない(笑)。ということで、めちゃくちゃおもしろかったなと僕は思っています。

『ワンルームから宇宙をのぞく』をもっと広めたい

杉山:みなさんにぜひご協力いただきたいと思っていまして、僕の野望を1個だけ説明させてもらいますと、『ワンルームから宇宙をのぞく』は、もともと東大UmeeTで連載していたものがあります。これを、バチクソ売ると。

「バチクソ売る」の第1弾として、まずはこの東大生協で「一番売れました」という称号を取ります。そうすると、教育ママとかがわけもわからずこぞって買うと。

実際ね、これは価値があると思いますよ。なんとなくこれを読むだけで、「確かに学びたいな」という気持ちになるんじゃないかなと思うんですよね。そういうのも狙っているので、ぜひバチクソ買っていただけると。そうすると今度は、東大UmeeTが……。

久保:「いい連載やっているね」というね。

杉山:そういう話になるし、これを復活させたいというか、「知らないなんて申し訳なかったな」と思わせたいんですよ。また売るので、ぜひまた本にしたいなということまで思って、今回やっているところもあって。

まずはこれを読んでもらうこともそうですし、UmeeTのことも知ってもらえたらいいなと思って、そういう企みの中でやらせてもらっています、ということでした。

連載から始まり、多くの人の目に留まるように

久保:もともと僕は、大学4年ぐらいからブログを書いていたんですよ。その時にブログの文章を杉山さんに読んでもらって、「おもしろいからうちで書いて」と。

中須賀:これ(UmeeT)に連載をしていたんだったね。

久保:はい。「本当に自由に、思うように好きに書いてくれ。場所だけは用意するから」ということでやってくれて、それがいろんな人の目に留まってこの本につながっているので、本当に恩人です。

中須賀:なるほど。

杉山:すみません、最後にリップサービスをいただいてますが、ありがとうございます。

久保:(笑)。

杉山:ということで、本日はオンラインでも本当に多くの方が見てくださっていて、オンラインのところに熱がどれぐらい行っているかはわかりかねますが、ぜひ思いを受け取っていただければと思います。会場に来ていただいたみなさんも、本当にありがとうございます。

久保:めちゃくちゃ楽しかった。

杉山:めちゃくちゃおもしろかった。(中須賀先生にも)「ちょっと連載を書いてくださいよ!」という気持ちではありますけれども。

久保:でもね、本当にお忙しい方ですから。

中須賀:単なる宇宙科学者ですから。

杉山:ということで、みなさん拍手でお願いいたします。

中須賀:どうもありがとうございました。がんばってね。

久保:はい、ありがとうございます。またお願いします。