2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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久保勇貴氏(以下、久保):今のは愛に限定した話ですけど、人間全体もある種のシステム設計だと思うんですよ。本(『ワンルームから宇宙をのぞく』)でも書いていますけど、それこそ人間って完成したシステムの1つの具体例なわけですよね。目が2つあるのも……。
杉山大樹氏(以下、杉山):実は3つあるよりもすごいと。
久保:もしかしたら本当は、後ろにあったほうが外敵からも身を守れたり、いろんなことがあるかもしれないけど、システム的には(何かを)切り捨てることも設計の1つなので。だから、人間はそういうのはなしにして、2つの目で、こういう体であることが、1つの完成されたシステムなんですね。
当然、取り込めるエネルギーは限られていて、その中で成り立つように循環して、ちゃんと命をつないでいけるようにシステムとして成り立っているものなので、人間全体も宇宙機みたいなシステムだと思っていて。
中須賀真一氏(以下、中須賀):そうだね。システム設計全体の重さが限られた中で、信頼性とかを上げていこうとする時って難しいわけ。なぜかと言うと、同じものを2個置いて「こっちがダメでもこちらが対応できますよ」というのを、「冗長系」と言うんです。
こういうのを入れれば、1個がやられても(もう1個が)強いから強くなるわけね。人工衛星の中にはそれを入れていて「これだけは壊しちゃいけない」というものは部分的に2個持っていたりする。彼が言ったように、それは人間の体でも同じことが起こっている。
杉山:確かに。
中須賀:そうでしょう?
中須賀:限られたリソースの中で、あるいは食べる量が限られているとしたら、その中でいろんな臓器を生かしていかなきゃいけない。例えば、腎臓は2個あるよね。
久保:確かに冗長だ。
中須賀:胃は1個しかないし、一番大事な心臓も1個なんだよね。だからいろんなふうに考えてみると、人間の体がどんなふうな最適設計をしたのかって、これは工学的には、たぶん福岡(伸一)さんとかも研究をやっているかもしれない。
久保:まさにそうですね。
中須賀:そういうのは、けっこうおもしろいなと思うんですよね。腎臓のほかに、2つある臓器って何?
久保:何だろう。
中須賀:でも、実は腎臓って1個でもいいんですよ。1個でも死なない。
久保:あれは本当に冗長ですよね、
中須賀:なのに、なぜ2個あるんですか? 心臓って1個やられたら死ぬじゃん。でもなんで1個なの? こんなにすごく大事な臓器なのに、なんで1個なの?
杉山:2機あったほうがいいですよね。
中須賀:でもたぶん、2個あったらぎゅっと(血液を)出す時に……。
久保:システムに干渉がありそう。
中須賀:干渉して、血流がぶつかっちゃうよね。
杉山:ああ、そうか。
中須賀:というふうには思うけれどね。
中須賀:だから、人間の体でもう一回考えてみると、なんで1個のものと2個のものがあるのか。肺は2個だけど、1個なくても生きている人もいるから1個でいいよね? というふうに考えて。
じゃあ、なんで目は2個か。彼が言ったように、なぜ3個じゃダメなんだと。2個あるからステレオ視ができるし、奥行きが多少わかる。でも実は、3個あるともっといいことがあるかもしれない。あるいは(目が頭の)後ろにあったほうが、後ろから来た敵がわかったりする。
体というのは、いわゆる自然淘汰という「こういうものを作ったら、自然の中でどれだけ強いか」ということを、遺伝子がどんどん試しているわけ。
試して、一番強いものが生き残って今の体になっているから、ある程度合理的なはずなんですよね。今言った臓器の数とかを考えたら、これはなかなかおもしろいよね。これ、衛星の研究をやる時はいつも考えているから。
久保:本当に似た話ですよね。
中須賀:そうそう。
久保:冗長の話は確かにそうだな。「余裕ができると愛のリソースが増える」というのも、同じような話な気がしていて。
頭の中のいろんなリソースは限られているわけです。例えば、キャリアのことを考えなきゃいけないとか、生活をしなきゃいけないとか、いろんなことがあると自分の愛のリソースが小さくなってしまう。
中須賀:“悪者”に占有されちゃうから。
久保:(リソースは)有限なので、他のものに余裕が出てくると、愛のリソースがもうちょっと大きくなっていくのかなと思いましたね。
中須賀:これからは、そういうものも実践していってよね。日頃の訓練とかも必要かもしれないね。
中須賀:僕らの年になると、むちゃくちゃ仕事が多くなるんですね。もう、山のようにいろんな仕事が入ってきて。
杉山:(周りから)声が掛かって。
中須賀:雑用から、研究・教育の仕事があり、今は政府の仕事もいっぱいやっているし。そういった時に常に余裕を持つためのやり方は、やってない仕事のリストを減らすというか、来たらどんどんやっていく。
とにかく、「これをやらなきゃいけない、あれをやらなきゃいけない」と思う状態を作るのが、精神上一番良くなくて。そうすると余裕がない状態になって、かえって効率が下がる。
杉山:確かに。
久保:わかります。
中須賀:だから、とにかく(仕事が)来たらやり切って、早くToDoリストが少ない状態を作ることを最近意識してやっている。
久保:それが、なかなかできないんですよね。
杉山:(周りを見渡しながら)これ、一番頷きが多かった気がしますからね。
久保:(笑)。「そうだなぁ」という。
杉山:「それ、できないけど!」と、みなさんも思われている。
中須賀:だから、そういうのも生きていく1つのコツかもしれない。
杉山:実は、僕も編集部にめちゃくちゃ言っているのが「さっさと出せ」。「下手でいいからさっさと出せ。周りが何でもコメントするし、そうしたら絶対に良くなる。あなた1人で考えてたら、ぜんぜん良くならないから」と、めちゃくちゃ言っているんですよ。
中須賀:若いうちはね、なんか後に延ばそうとするんだよ。僕も昔を振り返ると、「後でもできる」と思ってやらないんだけど、年を取るとせっかちになってくるんだよね(笑)。
だから、即決しないとだんだん嫌になってくるから、自分の仕事が来たらどんどんやっていくようにしたらすごく楽。
杉山:僕、ずっとそうだけどな。
久保:(中須賀)先生、メールとかも早いですものね。
杉山:めちゃくちゃ早いので、めちゃくちゃ助かってます。
中須賀:そうなの? 俺は別に早くはないよ。
杉山:いやいや。
久保:他の先生方はもっと遅いので。
中須賀:そういうのも含め、常に余裕を持っておく。先ほどの話に戻ると、愛が入ってくる余地を作るとか、いろいろクリエイティブな仕事をする。そういうのは、生き方として、ある種の訓練としてずっとやっていったらいいんじゃないかなと思いますね。
そんなことを考えながら、重量リソースの章を読みました。おもしろかったね。
杉山:(愛の話から)仕事論まで来ましたね。
中須賀:いやいや(笑)。いろいろと日頃苦労しているからね。
中須賀:あとはボイジャーの話も、(彼女と)別れる時の話に多少関わってきているんだよね。
久保:そうですね。これが、復縁をした時の実話ですね。
杉山:あら。
中須賀:そうなんだ。
久保:あんまり言うと、なんかプライベートがどんどん……(笑)。
杉山:でもね、めちゃくちゃ(プライベートなことも)書いているからしょうがないんですよ。みなさん、ちょっと予習の範囲を超えましたけれども。
中須賀:紅茶とパンの好きな……それが今のあれ?
久保:(無言で口に人指し指を立てる)。
中須賀:あ、違うか(笑)。
杉山:(笑)。
久保:いや、ええと、そうです(笑)。
杉山:ここからはノロケしか聞けないかもしれないです。
中須賀:「ボイジャー」という衛星を知ってますか?
久保:いつ頃の話ですか?
中須賀:1977年にアメリカでボイジャー1号・2号が相次いで打ち上げられて、これはでっかいロケットで打ち上げられたんだけど、木星エンカウンターといって、木星に一番近づくのが1979年の夏だったんですよ。これが、僕が大学に入った年だったので、ものすごく強烈なイメージだった。
木星に近づく時に、木星のきれいな映像を送ってきてくれる『コスモス』という、カール・セーガンという宇宙の科学者がいろいろ解説をしながら見せてくれる番組があって。その時、うちの家は白黒(テレビ)しかなかったんです。
久保:ああ、そうか。
中須賀:下宿で、まだ白黒テレビだった。白黒テレビ、見たことないでしょ?
杉山:ないよね。
中須賀:白黒テレビしかなかったので、友だちの家に頼み込んでカラーを見に行ったら、きれいな木星の画像を送ってきてくれた。超感動しましたね。それが、僕の宇宙への思いをさらにかき立ててくれた。
だから、ボイジャーにはある意味非常に感謝しているというか、強い印象を持っている。木星は輪がないと思われているけど、輪があるんですよ。
久保:描かれる時、土星は輪があるんですけど、木星はあんまり描かれないんです。
中須賀:木星の輪って見ないでしょ? でも、木星にも薄いけど輪があることがわかったり。
中須賀:それから、木星の周りを回っている小さな衛星がいっぱいあるんだけど、イオというところに火山が見つかって。
久保:火山がすごいんですよね。
中須賀:火山活動はボイジャーが見つけたんだよ。でもって、エウロパというところに水があることがわかった。水があるということは、もしかしたら生命がそこにいるかもしれないということなのね。
杉山:衛星ですかね?
中須賀:衛星。
久保:木星の周りの。
中須賀:まだ予測だけど、周りのエウロパというところは上が氷で、氷の下に水があるんじゃないかと。
何キロという氷を掘って水のあるところまで行けば、もしかしたら生命がいるかもしれないというのが、NASAの大きなプロジェクトになろうとしていて。だから、氷を何キロ掘るのをどうしたらいいか考えてみてください。これ、難しいよね。
久保:まさにNASAが、いろいろ考えていますよね。
中須賀:宇宙研はやってない?
久保:宇宙研は、まだ具体的にはないですね。研究レベルでは、たぶんいろいろ提案が上がっていると思うけど。
中須賀:ということで、ボイジャーは1979年に木星にエンカウントして、その後土星、外の天王星、海王星を全部見て、太陽系の外に出ていったという大成功したプログラム。しゃべっていて、今も鳥肌が立つくらい。
中須賀:この間オーストラリアに行ったんですけど、ティドビンビラというところにディープスペースネットワークがあるわけ。いわゆる深宇宙局が世界に何局かあって、これが連携して、ボイジャーのような遠くに行った衛星からの電波を受け取って、「今どうなっているのか?」っていう運用をしているんだけど。
今から6年ぐらい前にティドビンビラに行った時、「今日の運用」と書いてあるところに「ボイジャー」と書いてあって(笑)。
久保:ボイジャー、まだいるんだ。
中須賀:ボイジャーって太陽系の外を出ているんだよ。それがまだ運用しているんだよ。それを見た瞬間に超感動して。
杉山:「あいつまだやってんぜ!」と。
中須賀:そう。1秒間に1ビットしか来ないからすごく遅いんです。「1か0か」という情報が1ビット。でも、運用している。だからボイジャーが生きていることがわかるし、これを積み重ねれば、今ボイジャーが見ているものの情報が送られてきているわけ。
そんなことが、今もまだ行われているわけ。1977年打ち上げだから、2018年(当時)で言うと41年後ぐらい。まだ生きているんですよ。そういう、ボイジャーという壮大なプロジェクトがあって。そんなプロジェクトをやりたいよね。
久保:リアルタイム世代の言葉はやはり違いますね。僕らは、教科書で見た、いわゆる「こういうものがあって」みたいなので書いているだけなので、リアルタイムで見たらすごく衝撃だったんですね。
中須賀:そうですよね。
中須賀:すごく時間がかかるけれども、強烈な印象を一般の人に与えるようなミッションを宇宙でやりたいんだよね。僕にとっては「はやぶさ」がそうだった。
久保:はやぶさ。そうですね。
中須賀:はやぶさ、みなさんは見た? はやぶさはおもしろかった。1号機はご存じのようにすーっとは帰ってこなかったし、途中で死ぬようなことがいっぱいあった。
久保:命からがらですよね。
中須賀:みんながあの手この手を考えて、根性でなんとか帰ってきた。最後はカプセルだけを地球に送り返す予定だったのに、そんな余力がなかったから、胴体ごと大気に突入して、カプセルだけ燃えないで地上に降りた。胴体は全部燃え尽きたわけ。その映像があるよね。
久保:鮮烈な。
中須賀:2010年に帰ってきた。
久保:ちょうどあれは僕が高校1年生ぐらいの時で、それこそ僕ら世代は、先ほどのボイジャーと同じく「やはりすごいな」と。宇宙といえばNASAとかだったんですが、「ちゃんと日本にも、トップに立てるようなものがまだあるじゃん」みたいな、鮮烈な出来事でしたよね。
杉山:そこに(今は自分が)いるわけですからね。
久保:そうですね。
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