「困った時は幽体離脱」のマインド

司会者:今回すごくたくさんの参加のお申し込みをいただきまして、申し込みの際にもご質問を受け付けさせていただきました。その中からすべてはご紹介できないんですが、いくつか取り上げてここでお答えいただけたらと思います。

勅使川原真衣さんに聞いてみたいことです。

「本のプロローグで、『足元とすぐ隣に目をやってほしい。今ここで、すでに生きている自己と他者。それ以上に何を望もうか』のところから、今に焦点を当てることが大事かなと思いました。とはいえ、自分が望む未来、やりたいことのために、自分のスキルを高めることも必要だと思います。マインドの部分になると思いますが、切り替え方法があれば教えていただきたいです」ということです。

『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)

勅使川原真衣氏(以下、勅使川原):わお! おっしゃるとおりですよね。とてもいいご質問をいただいてありがとうございます。「今を生きつつ未来を見据える」のは、どっちも欠かせないですよね。どっちも大事です。今ご質問くださった方は「切り替え」という言葉を使っていらっしゃると思うんですが、切り替えは必要なのかな。

ただ私が1つ思っているのは、幽体離脱がヒントになるんじゃないかなと。どっちも大事なものを意識的にコントロールしながら、自分で舵を切っていく時に使えるのは、やはり自己客観視なんじゃないかなと私は思っています。

これを本の中では「困った時は幽体離脱」と書かせていただきました。今、自分はどっちが大事で注力しているのか。こっちは大事だと思っていないにせよ、頭の中のマインドシェアをすごい奪われているなとか。

完全に自分の状況に没入しないで、ちょっと斜め上から俯瞰しながら、今、自分はどっちのモードに行こうとしちゃっているのかをまず眺め直す。それがすごく大事なことじゃないかなと思っています。それで切り替えるのか、切り替えないのか。切り替えるとしたらどっちに行くのかが原点になるんじゃないかなと思っています。

司会者:ちょっと俯瞰してみるということ。「幽体離脱」という言葉は表現としてもすごくわかりやすくて、ちょっと離れて見ようかなと。確かに自分のことも、1回自分じゃない人になって見てみたいと思うことも(笑)あるかと思うので。

勅使川原:そうですね。

司会者:すごくいいヒントをいただけたかなと思います。ありがとうございます。

昭和スタイルからの脱却にはまず「何を変えるべきか」を特定する

司会者:次に、池原真佐子さんに聞いてみたいことをいただきました。「現在、数少ない女性管理職として勤務していますが、育児中でないことが前提であるような業務量です。この昭和スタイルから脱却するにはどうしたらよいでしょうか」と。

池原真佐子氏(以下、池原):まずはお疲れさまです。がんばっていらっしゃるなと思って拝見しました。本当に、その様子が目に浮かびます。いろいろなお客さまがいらっしゃいますし、毎日いろいろなケースを見ておりまして、こういった女性の管理職の方々のケースは、すごく多いなと思っています。

まず、このご質問からすると、育児をしながら男性が多い組織で管理職として奮闘なさっていると読み解いているんですが、それで合っているかな。

いくつかポイントがあると思います。ぜひ取捨選択していただければと思うんですが、まず何を変えるべきかを特定するのがいいんじゃないかな。

業務量を減らしたいところが前提だと思うんですが、業務量を減らすために【変えること】【変えられること】【今は無理だけどちょっと時間をかければ変えられること】【絶対に変えられないこと】をまず分けていく。その中で【変えられること】から着々と手をつけていくしかないのかなと思っています。

その中の1つに上司との関係性かもしれないし、部下への仕事の振り方かもしれないし、あるいはパートナーとの関係性かもしれないし、関係性という観点からも何が変えていけるだろう。そして自分からというところを整理してみると、脱却というか一歩ずつ、少しずつ変わっていくんじゃないかなと思います。

自分が発したものに対して返ってくる反応が関係性の要素だと私は思うんですよね。例えば上司に「こういったスタイルについて非常に困っている」と言ってみる。その言い方もいつもより変えてみる。

反応が変わってくる積み重ねで、1個ずつ変えていかれるといいのかなと思いました。突然ハイジャンプで「明日からすべてが理想どおりです」ということはないので。でも本当にがんばっていらっしゃるので、すごく応援したいなと思っています。

司会者:ありがとうございます。何を変えればいいのか、変えたいと思っているのか。そこから一歩ずつですね。

仕事だけが「働くこと」ではない

司会者:では次に対談者どちらかということではなくて、お二人におうかがいしたいことをいただきました。

「お二人が目指す理想は、誰がどのように働く姿でしょうか。お二人が目指す未来を聞きたいです」未来のお話をいただきました。

池原:真衣さんからぜひ。

勅使川原:ありがとうございます。池原さんの著書を拝読していても、けっこう近しいものがありそうな気がしていますが、あえて私から発言をさせていただくと……。「働く」とは「人が動く」と書いていて、まず今思っているような仕事だけが働くことじゃない。家事、育児も非常に重要な仕事です。理想の1つは、ケア全般が大事な仕事だと認識される世の中であってほしいなと思います。

あとは本の中でも書いたことですが、さっきの木の話じゃないですけど、「どの木が最高ですよね」と人を選んでいく発想じゃなくて、今もうここにあることをみんなでセレブレート(祝うことが)できる。そして組み合わせて「見たことのない景色を一緒に見て行こうよ」と、恥ずかしげもなく当たり前に発言できて、体現していける社会であってほしいなと本気で思いますね。

おそらく自分が先立つとして、今小学生の息子がいるんですけれども、息子が「お前は使えねぇな」と言われて、社会に出て行くことが怖くなってしまうなんて、見ていられないですよね。たぶん私、呪縛霊、地縛霊で出ちゃうと思うんですよね。

池原:(笑)。

勅使川原:「あいつは控えめだけど、こういうところがいいよね。じゃあこういうことをしてもらおっか」と当たり前になってほしいです。真佐子さん、いかがですか?

「モヤモヤ」と共存しながらマネージしていく

池原:ありがとうございます。私も本当に勅使川原さんと一緒のところがあります。みんないろいろな事情を抱えて働いているんですよね。超すごい能力と家柄と財力ばかりで「何の制約もありません」という人もいると思うんですけど。

病気があったり、ちょっと悩みがあったり、そんな状態でも自分の存在意義をちゃんと感じながら誰かと関わって、新しいものを生み出していける。常に「こういう社会だったらいいな」と思って日々仕事をしています。

ちなみに、私の父は、父の姉と母を介護をしながらずっと私たちを育ててくれました。、また私の母も当時女性管理職は少ない中、大変な思いをしながら働いてきたことを見てきて、そういう自分の育った過程が原体験になっています。いろいろな事情があっても、持っている能力をちゃんと出せる。そんな社会にしたいなと思っています。

勅使川原:うーん、いい話。このテーマも「モヤモヤ」とつけちゃいましたけど、やはりモヤモヤはあるという前提で共存しながら、いかにマネージしていくかは、大事ですね。

池原:本当にそうですね。昔父に「人生は何かが完璧に完結していくことはないから、すべて並行して生きていけ」と言われたんですよ。

勅使川原:お父さん! そうだわ!

池原:やはりモヤモヤもスッキリとなることもありますけど、全部抱えながら並行して走る、歩く、止まる? わかんないですけど大事かなと思います。

勅使川原:うわー、ありがとうございます。幸せの定義も、少しリニューアルしていったほうがいいかもしれないですね。

池原:そうですね。

勅使川原:曇りないものを求めると、しんどいかも。

池原:曇りのないものはないですね。

勅使川原:かもわかりません。

司会者:今、リアルタイムで30名以上の方にご参加いただいているんですが、実際に今ご参加いただいている方からもご質問いただければと。ご質問がある方、挙手でもかまわないですし、チャットに入れていただいても大丈夫です。チャットに書いているとお時間がかかるかもしれないので、その間にできる限り事前にいただいたご質問にお答えいただけたらと思います。

対話の前提は「誰も正しくなく、誰もが正しい」

司会者:もう1つ先ほどのご質問よりはかなり具体的と言いますか、現実的なところで、「世代間のギャップをどう埋めるのか? 上の世代は若い世代に自身の価値観を押しつける傾向が強い」。日々感じていらっしゃるのか、訴えのようなご質問をいただいたんですが、いかがでしょうか。

勅使川原:世代のお話ですけど、世代に限らないなと思って拝読しました。デモグラフィック(人口統計学)上の属性の違いによって、やはり前提が違うんでしょうね。思考の解釈や前提が違ってずれちゃうことなんだと思います。「ずれているよね」を当たり前のこと、1つの曇りとして、ただ「こう思っちゃっていますが、どうしましょうか」から対話が始められるといいなと思いますよね。

どっちが正しいかにしていくと、ジハード(聖戦)になってしまうので、誰も正しくなくて誰もが正しいみたいな感じで、なんかごちゃごちゃ議論できたらいいんじゃないかなと思うんですが、どうでしょう。

池原:そうですね。それもすごくあると思います。「今の上の世代は若い世代に……」というと、脳の老化なのかなとちょっと思ったりするんですね。

勅使川原:やばい。耳が痛い。

池原:やはりこれは、歳を取るとちょっと脳の認知機能によって、人の話を聞くのが堪えられなくなる。私もそういうところあって、耐えられなくなってきたり、経験が蓄積されればされるほど、ちょっと聞いたらすぐ言いたくなったりします。上の世代になってきた私たちは、そういうのがあるんだなと意識して、「相手から学ぼう」という姿勢で向き合うほうがいいし、下の世代はあえてそういった違いも楽しむ。

「こんな価値観もあるんだな」と受け止めながら、それを使うか使わないかは別。そうやって関わるのもあるんじゃないかなと思います。ただ関係性にもよるので、「もっと聞いてくださいよ」とはっきり言える関係だったらもっといいですよね。

勅使川原:確かに。上の世代の側も、1回主体を受け止めてもらえる場所があるといいですね。ボヤっていい場所というか(笑)。

池原:そうですね(笑)。ボヤっていい場所。

勅使川原:今、聞いていて、(上の世代も)1回受け止められれば「そういえば、それが100パーセントじゃないよな」となりそうな気もしました。なるほどなぁ。

理想の対話は、不完全なもの同士が不完全な会話を楽しめること

司会者:今のご質問は、上の世代が押しつけているという言い方だと思うんですが、次にいただいた質問が、今度は「プレーヤーが管理職になった。自分が上の立場になった時に、変わるべきか、変わらず自分のやり方を見出すべきか」というご質問をいただきました。立場が変わったら変わるべきなのか。

池原:立場が変わることは、やはり関係性も変わっていく。役割も変わって関係性も変わっていくので、変わるべき・べきじゃないというよりも、もっと場を観察してみる。何か変えるところがあるんだったら柔軟に変えてみるし、変えないほうがいいんだったら変えない。あまり「べき」論にもっていくべきではないという、「べき」を使ったりして(笑)。

(一同笑)

勅使川原:めっちゃいいことおっしゃっている。本当にそう思いますね。なんだったら、変わろうとしても変われない自分の特性を知った上で、変えられる部分はどこかを考える。真佐子さんがおっしゃるとおり役割は違うので、役割に合わせていく思考のプロセスがいいのかなと、今、聞いていて思いました。言ってもそんなに変わらないですからね(笑)。難しいから。

司会者:続いてもチャットに質問をいただきましたので、ご紹介をさせていただきたいと思います。「現在、社内で新入社員のメンターを担当してます。根っこの部分では決して相性がいいわけではないと思うのですが、基本的に相手に合わせて接しています。一方でたまに『その考え方はどうなんだ?』と思うことがあります。自分の考えを通すのと相手の考えに合わせてあげること、そのバランスはどのように調整するのが良いでしょうか」といただいています。

勅使川原:これ、『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』にめっちゃヒントがありましたよね。

『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』

池原:ありがとうございます(笑)。

勅使川原:ごめんなさい。対話の素人から見てなのかもしれないですけど、「こう見えちゃったんですけど」と言って意見を返すとか、そういう話ですかね。違うのかな。

池原:そのまんまです。そうなんですよ。意見が違うのはもちろん他人なのでそうだし、みんながみんな、相性が合うわけではない。人は言っていることや言葉の裏に意図があって、そこに価値観があると思うんですよね。「なんでこの人はこう言っているんだろう」と意図を汲みながら、まずは相手を観察する。

プラス、もし自分の助言やアイデアを伝えたほうがいいのであれば、いったん受け止めてその上で「じゃあちょっと僕の考えを言ってもいい?」と言って伝える。「こんな考えもあるけど、君はどう思う?」と言って、対話をしてみるといいんじゃないかなと思います。

勅使川原:めっちゃそれだー! ちょっと先に幽体離脱をしてもいいかもしれないですね。

池原:そうですね。

勅使川原:「今、ちょっと心がザワッとしちゃったんですけど」「自分でも今、言語化できないんですけど、何かザワザワしています。何だろう」というような、不完全なもの同士が不完全な会話を楽しめるといいですよね。

池原:いいですね。すごくいいと思います。

勅使川原:バチっと言ってやろうと思うと言えないですよね(笑)。

池原:刺さる名言。

勅使川原:すごくわかります。少しは役に立ちますでしょうか。

司会者:ありがとうございます。ちょうどお時間になってしまいました。たくさんのご質問をいただきまして、みなさんありがとうございます。本日は勅使川原さん、池原さん、ありがとうございました。

池原:ありがとうございます。

勅使川原:こちらこそありがとうございました。