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池原真佐子『女性部下や後輩を持つ人のための1on1の教科書』ピョートル・フェリクス・グジバチ『心理的安全性 最強の教科書』 刊行記念イベント(全4記事)

キャリアは「階段」ではなく「ジャングルジム」 テンプレートに囚われない、「管理職」になる時の心構え

TSUTAYA BOOKSTORE MARUNOUCHIにて行われた、『女性部下や後輩を持つ人のための1on1の教科書』著者の池原真佐子氏、『心理的安全性 最強の教科書』著者のピョートル・フェリクス・グジバチ氏の対談の模様をお届けします。チームのパフォーマンスを上げる信頼関係の築き方や良好なコミュニケーションの取り方について語られた本セッション。最終回の本記事では、参加者からの質問に両氏が回答しました。

人の話を聴くには、まず自分が余裕を持つこと

司会者:もう一方いらっしゃいますか? じゃあすいません、先に手を挙げていただいた奥の方にお願いします。

質問者2:ありがとうございます、すごく勉強になりました。今人事コンサルの会社で新規事業、30人ぐらいのチームのリーダーをやらせていただいてまして。本も読ませていただいて、すごく勉強になったと。今日もお話を聞かせていただいて、すごくリアルに使えるというか、勉強になったなというところがあるんですけども。

部下とのコミュニケーションだったり1on1みたいなところで、お二方のお話を聞いてると、すごく極めてらっしゃるなっていう感じがするんですけど。そんなお二人でも、そういうことに対する課題みたいなものって持ってるのかなっていうのを、ちょっと聞きたいなと思って。

司会者:これ語り出したら長くなりそうですが、コンパクトに(笑)。

池原真佐子氏(以下、池原):いっぱいあります(笑)。こんな本を書いておきながら、もちろんできてないこともまだまだありますし。プロのメンターを育成する立場でありながら、なかなかふだん「難しいな」と思うことがあります。

『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』

やはり聴くというのは本当に難しいです。こういう仕事をしていても、メンバーとの1on1の時につい話の腰を折ってしまったり、折りそうになったりするので。聴くというのは日々鍛錬だなと思うと同時に、自分に余裕を持つということですね。意識的に余白を作らないと人にも優しくなれないですし、人の話を聴けないので。

みなさんお忙しいと思うんですが、やはり……「ワークライフバランス」という言葉、私好きではなくて。「ワーク」と「ライフ」と「セルフ」だと思うんですね。そのワークもライフも、真ん中にセルフという、私という個の自分に向き合う時間がないと、やはり人と向き合えないので。そういったところを作るのも1つ、プロフェッショナルとしての大事なところかなと思ってます。ピョーさん、どうでしょう。

人と話す時は「うまくいかない」という前提で話す

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、ピョートル):いやもう、そのとおり。僕はポーランド出身で、昔ホロコーストの前に、ポーランドはすごくユダヤ人が多かったんですよね。とある神話があるんですけれども、ラビというユダヤのプリーストがいるんですけど。

いつも大きなコートのポケットに手を入れてるんです。弟子に「なぜポケットに手を入れてるんですか」と聞かれると……猛スピードで話すとちょっとメランコリックな部分が飛んでしまうんですけど(笑)。「自分が忘れちゃいけない大事なメッセージをポケットに入れてます」「教えてください」という時に、紙を2枚出すんですね。

1枚に「私は神さまだ、なんでもできるんだ」ということが書いてて、もう1枚に「私はクズだ、意味がない存在だ」というような意味のことが書いてあるんですね。先生は「その両方を保って、両方忘れちゃいけないんだ」と言うんですよね。

要は自分が偉いとか、自分がいつもできるんだとかと期待せず、なんでもあり得るものをなんとか処理しようという覚悟をして、うまくいかないという前提で人と話したほうがいいんですよね。そうすると当然うまくいかないとか、言ったことが誤解されちゃったとか、聞いても答えが出ないとか。今日は元気でいろいろ考えてくれると思いきや、向こうが「頭が痛い」ということであれば、完全に期待してたより良い結果が出せると思います。

うまくいかない前提で会話をしてるっていうのは、自分の傾向です。ただ起こることに対して「おもしろいんだ」と、ちょっと好奇心を持って集中すればなんとかなります。毎日コケてます、コケてます、という感覚しかないです。

司会者:ありがとうございました、回答になっていたでしょうか。ご質問ありがとうございました。

キャリアは「階段」ではなく「ジャングルジム」

司会者:またオンラインからも質問があったので、こちらに答えていただけたらと思います。

「自己認識から自分のキャリアを管理職に就くことにつなげていくということがうまくイメージできないのですが、そんな中でどのように目線を上げていける会話ができるでしょうか。アドバイスいただきたいです」ということですね。これは部下の方という認識でしょうか。自分の自己認識を高めることができないんだと思います。そういう場合どうされてますか?

池原:ありがとうございます。じゃあ先に、端的に答えると、キャリアって階段じゃないと思うんですよね。別に一直線で上に上がるだけが人生ではないので、ジャングルジムのようなもの。上に行ってもいいし斜めに行ってもいいし、下に降りてもいいし、休んで横に行ってもいいし。そんなものだと思ってます。

ただ、なったことがないものに対して最初から恐怖心を持ったり、諦めたりするっていうのも逆にもったいないかなと思います。中原淳先生という立教大学の先生が書いてらっしゃったのが、管理職手前の人が一番自信がなくなるそうです。でもなってみるとすごく自信が高まったり、自分の裁量・権限、あるいは時間のコントロールができるようになるので、満足度が高まると言われてます。

これ実際にお客さんに聞いても、課長より部長というふうに役職が上がっていくと、わりかし満足度が高い。もちろん責任も大きい。なのでなにか1つの仕事をしてみる、キャリアをしてみる、あるいは職業人としてやってみるっていう中で、マネジメントというのも1つおもしろいチャレンジというふうに、ある意味気軽にとらえていただくというのもあるんじゃないかなと思います。

そしていろんな人と対話してみて。リーダーの多様性って大事だと思うので、テンプレートのマッチョなリーダーだけじゃないと思うんですよね。そういったいろんなタイプの人と話してみると、目線が上がるかなと思います。

「自分はこういう人だ」というのは決まっているわけではない

司会者:ありがとうございます。ピョートルさんもあれば。

ピョートル:じゃあまず自己認識から入ると、日本に来て「何型ですか?」って血液型聞かれて、わからなかったんですよね。結局33歳ぐらいに検査してもらって、とんでもない結果が出た。「B型です」と(笑)。

司会者:(笑)。すいません、笑って。

ピョートル:「自分はB型だ」というのが自己認識だというのを、ちょっとやめていただきたいんです。「自分はこういう人だ」というのは決まってるわけではなく、その瞬間、行為で決まります。自分が何が欲しいんだろうとか、何を得ようとしてるんだろう、何を避けようとしてるんだろう、何を大切にしてるんだろうって、日によって変わるかもしれない。毎日好奇心を持って自分の行動を観察してみれば、パターンが見えてくるんですよね。

例えば「自分が嫌いなのはこれ。なんで嫌いなんだろう」と考えると、こういう経験があって、こういう挫折、マイクロアグレッションもあったかもしれない。あるいは「自分が欲しいのは何? 何のために欲しいんだろう」とか「誰が欲しがらせるんだろう」とかいろいろ考えると、もしかしたらかっこいい腕時計ではなく、子どもと遊んだほうがいい、旅行に行ったほうがいい、というのが見えてきます。

答えは変わるという前提で、自分がプロセスだということを前提にして、自分に問いをし続けることが自己認識だというのが僕の考え方です。今日の自分と明後日の自分は変わるかもしれないんですけど、それはおもしろいんですよね。自分が変わってきてるんだとか、相手も変わってきてるんだとか成長してるんだとか、転換してるんだというのがとても大事ですね。

管理職が管理するのは「人」ではない

ピョートル:あと上司、「管理職」というのは僕はあまり好きじゃない言葉ですが、実際英語のmanagementでは管理職っていう意味もあるんですけど、管理をするというのは目標とかリソースとか、プロセスとか時間とかを管理するということ。人を管理するんじゃなくて、人は人として見るしかないんですよ。

だから結局、上ではなく下ですよね。「下司」ですよね。自分がチームのために働いてるんだ、人を支えるんだ。そうすると自分がどんな支え方が一番得意なんだということを考える。もしかしたら強い性格でみんなを引っ張るということもあるし、ちょっと控えめで後ろに立ってみんなの背中を押すということもあるし、みんなのためにお茶を作るというのもあるかもしれない。

自分がみんなのために何ができるんだっていうのが、リーダーシップですよね。自分が貢献したことによって、チームの成果が変わればいいんじゃんっていうことだけで、あまり考えすぎる必要はないと思うんです。

『心理的安全性 最強の教科書』

司会者:強いメッセージをいただきありがとうございました。まだまだうかがいたいんですが、ちょうどお時間になってしまいましたので。でも一言ずつ最後、みなさんにメッセージをいただけたらと思うんですが、いかがですか? 急にですが(笑)。

ピョートル:確かに急ですね(笑)。いろんなかたちで言ってると思うんですけども、好奇心と集中が大事です1on1なのか対話なのかチーム作りなのか、やはり観察しなきゃならないんですよ。監視という悪い言い方もあるんですけど、細かく見ないと人の欲求とか希望とか気持ちとか、わからないんですね。

そもそも人が複雑すぎるからわからない。「何が起きてるんだろう、もう良くなったと思いきやまた喧嘩を売ってきた」とか。「何があるんだろう」という好奇心・関心を持って集中すれば、長期的に人間関係が当然に良くなるんですよね。それはプライベートでも仕事でも。

そうすると先ほど言ったように、その人のために何ができるんだというのを考えておけば。場合によってぜんぜん真逆な立場でもいいんですけれども。場合によっては引っ張る、場合によっては押す、場合によってはもう放っておくとか。場合によってはチョコレートをあげる、というのもあるんですけれども(笑)。

マイクロマネジメントというのは悪い言葉にしか聞こえないんですけど、でも実際に瞬間瞬間っていうのはすごく大事なんじゃないかなとあらためて考えたんです。

1on1は、やっている側の成長にもつながる

司会者:ありがとうございました。池原さん、いかがでしょうか。

池原:もうピョーさんがすばらしいクロージングをしたので、私何を言おうと思ってちょっとハラハラしてたんですけれども(笑)。キャリア1on1の書籍っていうのが私の本だったんですけれども、これは1on1をされる人だけがメリットがあることではまったくないと思っていて。

人に向き合うということ、そして「この人の中にどんなものが眠っているんだろう」っていうのを、観察じゃないですけれど深く見ていくことは、それをやっているみなさん自身の人生、キャリア、あるいは愛情のタンクじゃないですけれども、そういったものがすごく大きくなる作業だなというふうに思っています。

なのでいろんな人生があると思うんですけれども、人は人によって生かされるし、人によって傷つきもすれば、人によって豊かになったりすると思うんですね。本当に人に生身に向き合うということは、その先にいる多くの人とも向き合っているとか、社会を変えるということになると思っているので。

ぜひ1on1とか、あるいは心理的安全性を作り出すということをみなさんが体感いただいて、みなさん自身の人生とか、いろんなものが豊かになればいいなというふうに思っております。

司会者:すてきなまとめをありがとうございました。お二人、メッセージありがとうございました。本日お集まりいただいたみなさん、ありがとうございました。オンラインのみなさんもありがとうございました。では拍手でお二人をお送りいただけたらと思います。池原さん、ピョートルさん、ありがとうございました。

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