女性部下や後輩と対話するときの「条件」

司会者:では、次の質問にまいりましょう。「女性部下や後輩とのコミュニケーション術」なんですけれども、こちらはもう池原さんからぜひという感じなんですが、引き続き。本でも書かれていまして、思いがすごくあると思うんですが、いかがでしょうか。

『女性部下や後輩をもつ人のための1on1の教科書』

池原真佐子氏(以下、池原):ありがとうございます。これは性別問わず、部下の女性にどこまで踏み込んでいいのか。特にキャリアだとライフプランとかプライベートなこと。もちろんね、男性でもどこまで踏み込んでいいのかというのがあると思います。

なので、まず1つ、よく管理職の方から聞くのが、女性に例えばリーダーを打診した時に、「『自信がない』と言われた」とか「断られた」とか、そういったところもあると思います。なので、大事なところというのは、「なぜそう思うのか」というところを「男だから」「女だから」というジェンダーのバイアス、そういったところなく、まず対話をしてみるというところかなと思います。

ただ、その上でどこまで踏み込んでいいかという質問で言うと、私たちがいつも答えているのが、基本タブーはないと思っています。ただ、いくつか条件があって、1つ目が興味本位で聞かないということです。「その人のキャリア形成を支援したいから聞くんだ」ということを添えて伝える。

その上で、「今答えたくないんだったら答えなくていい」という断る権利もセットで行うということ。プラス、あとは信頼関係があるということ。これがある前提であれば、プライベートの話であっても、向こうも本音を話してくれるのかなというふうに感じています。ピョーさん、いかがですか。

女性部下が生理休暇を誰も取っていない状況をどうするか

ピョートル・フェリクス・グジバチ氏(以下、ピョートル):いや、このテーマを男性から話すと、2~3名に誤解されるんですが、ちょっと物議を醸すことをまた言っちゃうと、「タブーがない」というのは僕はけっこう好きな表現です。確かに、タブーがなければ人間関係と役割の関係性が変わるんですね。

今思い出したいくつかのエピソードがあります。モルガン・スタンレーというGoogleの前で働いた会社で、生理休暇というのは当然あってGoogleもあるんですよね。ある時気づけば、システム上で僕のチームメンバーの女性たちは誰も取ってないんですね。

じゃあそれをどうするか。男性なので言いにくいかもしれないので、とりあえず1on1で伝える。ここで、別にいつどういう症状があってという話はしなくていいんですけれども、「もし生理痛などがあれば取ってください。言わなくていいけど、システムに入れて『とりあえず休みます』としてください」とか。

あと、他にも育児で僕のチームメンバーの子どもがアスペルガー症候群かもしれないという結果が出て、それでけっこうへこんで2~3週間ぐらい泣いたり、初めての子どもで自分はどうするかということがありました。

それもちゃんと1on1で言える状態であれば、僕は男性だし、子どもはいないんですけれども、彼女たちの置かれている立場、社会的あるいは物理的、女性として置かれている立場を、何らかのかたちでサポートをしてあげられる。

ただ一方、ジェンダーステレオタイプでお子さんの問題とか病気があったりすると、「じゃあ早く帰りなさい」という慈悲的差別にならないように、気をつけます。微妙なバランスを毎日毎日取らなきゃならないというのは、男性の立場からいまだに感じています。

バイアス抜きに「個人として」向き合うのが基本

池原:今のピョーさんの話で2つ思ったのが、1つは先ほどね、一人ひとり当然個人として違うので、バイアス抜きに向き合うといったところは基本かなと思います。一方で、日本の女性が置かれた構造的な部分というのを知識として知っていく。

例えば、なぜ就業人口で女性が45パーセントほどいるのに、部長になるとね、93パーセントが男性になるのか。本当に女性の能力だけなのかとか。あるいは、女性が陥りがちな心理状態としてインポスターシンドローム。これ、男性もあるんですが、出方が違うと言われています。昇進すると自信がなくなるとか。あとはリーダーシップのジレンマといって、女性のほうがリーダーという役割にジレンマを感じやすいとか。

そういったことを知識として知っておきながら、個人として向き合う。そしてバランス。これは男性も同じだと思うんですけれども、育児、家事、介護とか、あるいは体のこととか、そういったことを対話しながら微調整していくといったところが、こういったところのテーマにおいては重要なのかなと思っています。

司会者:ありがとうございます。冒頭にあった「成果」という観点で考えた時に、女性ならではの悩みとかいろいろな配慮も必要だと思うんですが、どこらへんを落としどころというか、どっちを大事にすればいいというのはありますか? 成果を考えた時に、あまり配慮しすぎてもとか、平等の調整ってなかなか難しいと思うんですが、お二人が意識していることがあったら教えてください。

ピョートル:個人的には男女を問わず、人を人として見る。その人は全人的にどうなっていて、じゃあ男性40代、女性30代とか、男性は2人の子どもがいて、女性は例えば独身であるという場合。 どんな課題があるだろうとか、どういう生き方をしているんだろうとか、もちろん突っ込んで何か個人情報を「これを教えてください」と聞くということではなく、エンパシー、共感を持って接することです。

周りを見れば、だいたいこういうペルソナで、こういう人だとこういう生き方で、こういう課題が出るんだろうとか、疲れたりもするし、奥さんに怒られるし、子どもが成績が下がるし、彼氏とうまくいかないしとか、それぞれのステージに男女を問わずいろんな課題があるんですよね。

その課題を想定として全人的に見ておけば、うまくいくと思いきや、その次の週に、仕事に来ないとか、病欠とか出ることもあります。あるいは、プロジェクトで残業が発生して、残業してくれると思いきや、「いや、今日は早く帰らなきゃならないんだ」と言われたり。

マネジメントの立場に立ったら、あまり期待しすぎない

ピョートル:特にマネジメントの立場に立つと、あまり期待しすぎないことです。人として見てあり得る、いろんな想定できるシチュエーションを頭の中に置いて、「わかった。じゃあ、例えばAさんが出れないなら、もう構造的にBさん、Cさんも出られるようにして、チームで動いておけばいい」と思うんですよね。

人を人として見るというのはポイントなんじゃないかなもちろん男性と女性とか年齢の差であったり、ぜんぜん違う課題、人生のステージの違う課題が見えてくるというのもあります。

池原:まったく同感で、一人ひとりのことを知るためにも、やはり対話。1対1でしっかりと対話しなきゃいけないし、業務のことだけじゃなくて、どんなライフイベントの課題を抱えているのかとか、何を感じているのか。もし問題があるんだったら、何かサポートできることはないかというところをまず知っておくというのが重要なのと。

どこかのことわざで、「1人で行くのは早いけど、みんなで行くと遠くまで行ける」ということわざがあると思うんですけれども、どんな年齢、どんな性別であれ、一人ひとりいろんなことを抱えているじゃないですか。なので、誰か1人に頼り切ったものではなくて、チームとして成果を出すための仕組みをそもそも整えておく。

24時間残業できる人がいることを前提にプロジェクトを組まないとか、そういったチームでの、男性だってね、うちのメンバーも男性社員は5時で帰っているんですけど、育児があるので。そういったことも前提として、チームで回せるようなスケジュールを組むとかっていうところが大事なのかなというふうに感じました。

司会者:ありがとうございました。はい、用意した質問は以上となります。

経験がないことへのサポートは「とにかく聞いてあげる」

司会者:ここからは、会場のみなさんや、またオンラインのみなさんからの質問タイムにしたいと思っております。たくさんあると思うので、ぜひ遠慮なくご質問いただけたらと思います。マイクも運びますので、ぜひご質問をお願いします。

お二人の中で、お話し足りなかったこととかあったりしますか? 大丈夫ですか? じゃあ質問に答えていただきましょうか。はい、お願いします。マイクケアをお願いします。オンラインの方も、ぜひチャットやQ&Aに書き込んでください。

質問者1:ありがとうございます。PR代理店で働いておりますヨコタと申します。ぜひ2つおうかがいしたいことがありまして、1つが特に大企業とかはアンコンシャスバイアスの壁ってあると思うんですけど、そのアンコンシャスバイアスがあるからこそ、今まで男性が活躍してきたという幻想にとらわれていると思うんですが、それを取り除くにはどうすればいいのかなというのが1つあります。

もう1つおうかがいしたいことが、やはり性の違いとか自分の年齢によって、あと、生まれてきた世代とかももしかしたらそうかもしれないんですけど、自分自身で経験したことがないことに対してアドバイスやサポートするために、ふだん何か意識して行動していることとか、こういう情報を仕入れているとかがあれば、おうかがいできるとうれしいです。

司会者:ありがとうございます。アンコンシャス・バイアスの壁と、あとは経験したことのないことへの質問ということで、どちらから?

ピョートル:じゃあ僕から。まず2つ目からいきます。経験がないことであれば、ケースバイケースなんですけど、とにかく聞いてあげるということですね。先ほどみなさんにお伝えした2つ目のケース。チームメンバーの子どもの状態で、チームメンバーのパフォーマンスが下がったという、2~3週間ぐらいですよね。

とにかく1on1をしてくれ、とにかく聞いてくれということで。聞いて、聞いて、聞いて、本人がいろんな自分の気持ちとか不安とかを吐き出すことによって……それは僕のおかげとかっていうのは言えないんですけれども、若干状態が変わってきたというのは1つ。

家族を「チーム」で考えなければ、職場の男女の問題は解決しない

ピョートル:バイアス、特にジェンダーバイアスですと、真佐子さんはドイツにも住んでたりしてたので、ヨーロッパの状況をよくご存知だと思うんですけど。ポーランドはけっこう男女平等が強いし、女性がすごく強いんですよね。

だから当然日本にきて、男女の不平等というのは気になってるんですよ。もう明確に見えるんですよね。それをキャッチアップするというのはたぶん20年、30年、40年、50年かかると思うんですよね。

家族の中で息子と娘がいて、未だに「息子が勉強して娘が食器洗いしてる」という家族があると聞いてるんですよ。要はもう家族の中の役割分担が決まってて、それは自分の役割のバイアスになって、自己バイアスになってしまって。自分が女性としてやれる・やれないこととかも決まってくるし、男性としても決まってしまう。

別に意図はないんですよ、気づかない。けど食器洗いしない旦那さんって、たぶんけっこういると思うんですよね。言われないとやらなくていいというか、頭の中に入らない。

それは例えば仕事に置き換えると、先ほどのインポスター・シンドロームなど「自分が女性なのもあるし、育児もあるし……」とか。でもちょっと待って。家族のユニット、チームでやってるから旦那さんの役割もありますよね。しっかり全部の自分の思考構造を立て直さないと、無意識的にやってしまうんですよね。

「早く帰って子どもの世話をします」と言っても、でもちょっと待って。例えば旦那さんに頼めば、今日は残業できるかもしれない、あるいは飲みに行けるかもしれない。その目的もそれぞれあるんですけれども。

どういうふうに家族というチームを見て、役割分担を決めてやっていくかというのが変わらないままであれば、職場の男女の問題が解決できないと思うんですよね。会社の問題ではないと僕は思ってて、家族の問題だと思ってます。

バイアスは無くすことができないからこそ、まずは知る

池原:今の話で思い出したのが、私九州出身で、本当に祖父母が保守的で。私は皿洗い、兄は勉強っていうかたちで育ちました。今どうなってるかというと、私がこんなふうになって、うちの兄は専業主夫をやってるんですけれども(笑)。ちょっとそれは置いておいて。

まず1点目で言うと、非常に根深いと思います。内閣府が出しているデータで言うと、日本の特にジェンダーバイアスの特徴というのは、同性に対して強いらしいんですね。もちろん異性も強いです。でも女性が女性に対して「女子力足りない」とか「ママなのに」みたいなことを言うし、男性も「お前男なんだから」って、同性のバイアスがまず強いと。

特にそれも職場で、年配の男性から感じることが多いというデータがあります。さらに直接的に「君、女なんだからさ」って言われるよりも、間接的に感じる……つまりお客さんが来たら男性社員はずらずらって座るけれども、なぜか女性社員はお茶汲みをする。会議のあとの片づけは男性はすぐに出ていく、女性だけ残ってしてる。あとは宴会のお酌とかね。そういったところが実は積もり積もって固定化されていると思います。

私たちも顧客に対してアンコンシャス・バイアスのサーベイを取ったことがあるんですけれども、男性側はバイアスないっていうふうにデータが出てるんですが、女性社員からは「名刺交換で女性は飛ばされる」とか「お茶汲みは女性しかない」とか、そういったことのコメントの羅列だったんですね。

そういったところを日々のちょっとした振る舞いの中で、無意識にやっちゃってないか。それこそ無意識ですね。なのでそういったところを解決するためには、まず知ることです。バイアスっていうのはなくすことはどうしてもできないので、私たちにはある。私もめっちゃたぶんあると思います。だからまずちょっと意識して、出そうになったら気をつけるとか、あるいは「男性だったらこんなこと言うかな」「これ女性にだったら言うかな」っていうふうに置き換えてみるとか。

あとは採用とかプロジェクトで言うと、仕組みにしてしまう。もう自分でバイアス乗り越えるのは無理だから、例えば採用の時は自分と違うタイプの人にいろいろ入ってもらって、最後決めるとか。そういうふうに仕組みで解決するっていうのも1つあるのかなと思います。あとは「データを見る」ですね。やたら女性に偏ってる、男性が少ないとか、いろいろデータを見れば出てくると思います。

課題を因数分解してみると、アドバイスできる領域はある

池原:2つ目は、自分が経験したことないものをどうやってアドバイスするか。まさにそこの書籍に書いてありますので、具体的にはそこをいろいろ見ていただければと思うんですが(笑)。1つは相手の話を掘り下げてみると、いろんな課題を因数分解できますよね。因数分解してみると、自分がこれまで経験してきたものでもアドバイスできる領域ってあると思います。

例えば介護の相談をされて「いや、介護経験したことないし」と思っても、介護の何が大変なのっていうのを掘り下げていくと、例えば時間管理かもしれないし、上司とのコミュニケーションかもしれないし、心の立て直し方かもしれない。そうするとみなさんの経験のどこかに、その因数分解の因数にヒットする出来事があるので。そういったところをアドバイスするっていうのがあるのかなと思っています。

司会者:ご回答いただきありがとうございました。

質問者1:ありがとうございます。

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