マーケットが悪い「冬の時代」に、なぜ上場したのか

鹿島幸裕氏(以下、鹿島):我々noteとしては(スライドの)右の冬の時代のリアルを取らざるを得なかった。ただ、マーケット環境によって資本政策とかIPOの政策を変えるのは、そんなに不自然なことではないと思いますので、適応して上場しました。

この中でいろんな投資家さんから聞かれたのが、「マーケットが悪い中で、何で上場したの?」ということ。もちろん別にIPOが絶対ではないので、いろんな選択肢がありました。1つの選択肢はそのまま上場するという、我々が選んだ選択肢。

もう1つは、上場を延期する。延期するのも、数ヶ月から1年くらいのショートタームの延期と、あとは2、3年がっつり延期しますというパターンがあると思うんですけど、これも延期する期間の長さによってその後の戦略が大きく変わってくる。

あとは、IPOではなくM&Aを模索する会社さんもいて、結論、私はどれを選んでも正解、不正解というわけではないので、会社にとってベストなものを選べばいいと思います。その中で、noteの場合はそのまま上場するのがベストだと思って上場をしております。

その時の考慮要素として(次のスライドの)右側(『主な考慮要素』)、これも一部ですが、いろんな考慮要素がありますよね。例えばValuation。マーケットが悪いとValuationがつきにくいとか、あと会社固有の資本政策とか財務状況ですね。お金がない場合、上場延期した場合は、どこかで(資金を)調達しないといけないのでそれをどうするとか。もちろん上場を延期すると、事業計画にも影響があり得ます。

あとは、既存の株主さんですね。スタートアップに投資されている投資家さんは、どこかでイグジット機会を模索されています。

既存株主でも、ベンチャーキャピタルと事業会社ではぜんぜん考えることが違いますし。アーリーステージに入った会社さんとか、ミドルステージ、レイターステージに入られた会社さんでもインセンティブが異なってきます。

レイターステージの会社さんは自分たちが投資した時のValuationが下がっていると、それってどうなのと思う方ももちろんいらっしゃるでしょうし。このいろんな複雑な方程式を解いて、上場するか、延期するか、判断することになるのかなと思っています。

「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッション

鹿島:noteは結論上場しましたけれども、なぜ上場したかについてはこれらの方程式を踏まえた少し複雑な話になります。ただ一番重要なことをめちゃくちゃシンプルに説明しますと、noteは誰もが使うインフラのようなサービスになりたいと思っています。

ここにいらっしゃる方はnoteを見たことがある方とか、もしかしたら使っていただいている方もいると思うんですけれども、まだまだ日本人全員がnoteを知っていて、noteを見て、noteを使っている状況には、もちろんなっていないと思います。

当社は、「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを掲げていますので、本当の意味で誰もが使うようなインフラのようなサービスをつくりたいと思っています。noteはちょっと便利な投稿サービスを作ろうとしているわけではなくて、情報とかコンテンツのディストリビューションと、ファイナンスを担うインフラになりたいと思っていることを、ここの(スライドの)図で説明しています。

例えば、既存メディアは出版とかテレビとか新聞とかたくさんあるんですけど、どれもディストリビューションとファイナンスの要素がすごくしっかりしていて、強力な流通手段、強力なマネタイズ手段を持っていて、それらのエコシステムに支えられてすごく栄えてきた歴史があります。

それが、インターネットでこのエコシステムが崩れている。インターネットでもディストリビューションとファイナンスはできるんですが、例えばネット広告によるマネタイズだとちょっと収益性が弱いとか、従来のエコシステムと比べて欠点がある。

例えば今、芥川賞作家さんがネットのブログに新作を投稿して、広告でマネタイズするようにはなっていないですよね。それはネット広告の収益性が低いから。芥川賞作家さんだったら今はまだ本を出して、全国に流通させたほうがマネタイズ手段として優れているから、そういう選択肢を取る。

上場はあくまで「手段」

鹿島:ただこれは、今でも既存の出版社さんで本が売れなくて苦しんでいる方もいらっしゃいますし、インターネットの世界がどんどん広がっていくと、芥川賞作家さんが書かれるような優れたコンテンツが、生まれにくい状況になってしまってしまう。そこでnoteは、誰でも発信できるというインターネットの良さは残しながら、ディストリビューションとファイナンスを担うようなプラットフォームにしたいと思っています。

特にファイナンスですね。noteはクリエイターが有料でコンテンツを販売し、読者がそれに課金することができるんですが、課金モデルのいいところは、非常に高い収益がクリエイターに還元されるところです。ネット広告だと1ページビュー0.何円という世界ですけれども、課金モデルだと自分で値付けができる。私のコンテンツは千円とか、5千円とか1万円とかそういう値付けができて自分でコントロールできるので、非常に高い収益性が得られる。

そうすると、時間と手間とお金を掛けた本気のコンテンツがインターネットでも流通するようになる。そういう世界観を作っていきたいと思っています。例えばNetflixにはすごくクオリティの高いコンテンツがあって、みなさんも課金されていたりすると思うんですけど、あれはやはり時間と手間とお金を掛けていて、クオリティが高いのでみなさんお金を払う。十分な収益が得られるから、作品作りに投資ができる循環がうまれる。noteもそういう世界観にしていきたいなと思っています。

ですので、当社はちょっと便利な投稿サービスを作っているわけではなく、当社にとって上場は、こういう創作、コンテンツのバリューチェーンをどんどん広げていって、たくさんの大企業とか重厚長大な企業とも、アライアンスとかパートナーシップを結んでいく必要があると思うから行ったことです。

今日ここにいらっしゃらないようなネットに関心が薄い層。あるいは年齢が高い層にも、noteが広まる世界観を作っていきたいと思うので、そのインフラを作るために上場する。

上場はあくまで手段です。上場してパブリックなマーケットで潤沢な資本市場にアクセスできるようにして、そこで知名度も上げて、信頼性も向上させて、大企業とか信頼性の高い企業とも取引をして、成長させていきたいなというのが、最終的にnoteが上場しようと決断した背景です。

「冬の時代だから上場する、しない」ではない

鹿島:まとめです。スタートアップ冬の時代における上場というタイトルになっていますが、上場はそもそもゴールではなくて手段なので、私は別に会社によって上場してもしなくてもいいかなと思っています。

そもそも上場マーケットと未上場マーケットは相互に連動していますので、上場マーケットが好調な時は、スタートアップのValuationも高くなるし、去年みたいに冬の時代と呼ばれる状況の時は、スタートアップの未上場時のValuationも下がる。

実際未上場で資金調達している会社にいろんな話を聞くと、ダウンラウンドとかフラットラウンドで調達されている会社もたくさんあるので。冬の時代だから上場するしないではなくて、冬の時代は外部環境なので仕方なくて、その上でじゃあ自分たちの会社、ミッションに照らして、資金調達あるいはIPOが必要かどうかを考えていく必要がある。それが本質的かなと思っています。

noteの場合は、繰り返しですが「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」というミッションを掲げていまして、そのためにはインフラのような存在になる必要があるので、上場を選びました。

時価総額で悩むより、ミッション達成のために「上場」を考える

鹿島:こちら、最後のスライドですけれども、よく我々はnoteを「街」と形容しています。

noteという街に、個人のたくさんのクリエイターさんやユーザーさんが集まってくる。そこに法人の方も賑わっている街に出店したりとか、あとは公共教育機関とかお役所なんかもどんどん集まってくる。

そこで、いろんな人の活発なインタラクションが行われて、創作活動とか経済活動とか文化活動が行われて、どんどん発展していく。そういうモデル、街作りを実現したいと思っています。これは一朝一夕ではできないと思うので、当然長い時間を掛けてやることです。

そのために上場は早くしたほうがいいよねというのが、我々の考えでした。今、実際に上場して良かったことは、こういう場に呼んでいただけるのも、上場した効果の1つだと思いますし、そこでみなさんとインタラクションできるのも、やはり上場した効果だと思います。

別に上場自体が正義ではないんですけれども、おそらく悩まれているスタートアップの関係者の方は、たくさんいらっしゃると思います。上場時点の時価総額で悩むというよりは、ミッション達成のために上場が必要かどうか、に立ち戻って考えていただくのがいいのかなと思っております。

短い時間になりましたが、私の講演は以上とさせていただきます。あとでまた交流会があるようなので、もし質問等ある方はそちらでご挨拶させていただけたら幸いです。今日はありがとうございました。

司会者:「スタートアップ冬の時代の上場のリアル」と題しまして、note株式会社取締役CFO、鹿島さんでした。ありがとうございました。今一度大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)