2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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角勝氏(以下、角):続いては、セッション3の「新規事業お悩み相談室」です。実際に新規事業に携わっている方々からお寄せいただいた質問やお悩みに、数々の新規事業の現場を見てきたスペシャリストの村上臣さんと蛯原健さん、そして私・角勝が相談員としてズバッと回答するコーナーです。
さっそく1個目の質問を見ていきたいと思います。食品メーカー・Aさんです。「イントレプレナーになるべきか、アントレプレナーになるべきか?」という相談です。
「社内のビジネスコンテストがあり、セミファイナルで落選してしまいました。今後、あらためて起案をブラッシュアップしてビジネスコンテストに挑むべきか、個人事業主としてやるか迷っています。昨今VCでの資金調達が難しくなる中で、個人事業主は法人よりも資金調達が難しいと聞き、さらに迷っています」ということでございます。こちらは、どうでしょうかね。
蛯原健氏(以下、蛯原):さっきの臣さんの議論にも通じるような気がするんですけど、中でやるつらみもあるし……(笑)。
(一同笑)
あと外で一本立ちすれば、フルリスクでやるので。結論どっちが良いということではないですよね。どちらもプロコン(賛成反対)・メリデメ(メリットデメリット)両方ありますよね。
私の意見を言うと「VCからの資金調達が難しくなってきた」みたいなお話はおっしゃるとおりでして。それもありますがともかく本質として、まずは外部調達しないで事業を作る計画をいったん立ててみることが重要だと思います。軌道に乗ってきたのでよりスピードアップしてエクスパンション(拡張)するために、資金をあとから調達するぐらいの気持ちで。
まずは調達とか考えずに、事業計画を作れるかどうかが1つのミソです。それがもしノーだったら社内のリソースを使うことによってできるのか。そういう順番もありではないかなと思います。
角:臣さん、いかがでしょうか。
村上臣氏(以下、村上):私からは、解像度を上げたほうがいいと思います。やろうとしていることが、具体的にいつ、いくら必要なのかというレベルで考えたことが、まだないのではないかと思うんですよね。
「最初にやっぱり5億必要です」となったらば、個人では難しいので(笑)。会社のリソースを使うとか、もしくはがんばって調達するかたちになるじゃないですか。
やろうとしていることのもうちょっと具体的な事業計画を、「この時点で何人必要で、なんでこの人が必要で、その人たちは何をするのか」とラフでいいので作る。で、「給料レベルがこうでこうだから、掛け算するとこのぐらい必要で、バーンレートはこのぐらいになりますよね」みたいなレベルで落とし込んでみると、直近の具体的なゴールが決まるじゃないですか。
個人でも、けっこう国から借りられますので(笑)。創業支援制度とかやると、デットファイナンスで2,000万円ぐらいは引けるわけですよね。プラス個人でもう1,000万円くらい引けるとしたら、2,000~3,000万円は誰しも創業する時にデットが引けるわけですよね。
その中でできるのか、できないのかによって、やはり道が分かれてくると思うので。そのへんをもうちょっと解像度を上げたほうがいいかな、と思います。
角:どんなことをされようとしているのかがわからない中で、質問に回答するのはすごく難しいにもかかわらず、お二人がすごくズバッと答えていらっしゃるので、僕が付け足すようなこともあんまりないんですけど……。
僕の場合は、さっき臣さんがおっしゃっていましたけど、とりあえずラフに1回作ってみること。アクションプランというか「実際に起業して、どういうことをするのかをまず考えてみなはれ」と。
僕がやった中で言うと、モノづくりの「WING BINDER」という、今クラウドファンディングをやっているものは、100均で1回作ったりしているんですよね。100均にあるもので、600円で2時間ぐらいで作ったもので1回やって、ほかの人の反応を見ることから始めました。そういうことをまずされてもいいかもしれないな、と思ったんですね。
また、「セミファイナルで落選」というのがかなり微妙な感じがするんですよね。伝わっていないからなのか、ダメだと思われたからなのかがわからないんですよね。伝わっていないのであれば、もうちょっと伝える努力をしてもいいんじゃないかなという気がしました。1個目の質問からいきなりガチで回答する感じ、いいですね(笑)。
(一同笑)
角:続いて、2個目の質問にいきます。金融機関・Bさんからのご相談です。
相談事項は「立ち上げて少し大きくなった(1→10の中盤くらい)事業が、競合参入や外部環境の変化により成長鈍化した際に、勝負に出る、ピボットする、撤退するといった判断をすることが難しいと思っています。何か良い判断軸や考え方があれば教えていただきたいです」。
相談の背景や理由もちょっとお読みすると、「事業がうまくいかない・頭打ちが見えているような後ろ向きな状況での判断が特に難しいと考えています。サービスの改善に取り組み続けるために投下できるリソースにもいずれ限界がくるため、どこかで判断をしなければならないのですが、そのタイミングや判断に悩まされています。
シンプルにKPI未達という理由でピボット・撤退を決めるのも1つですが、KPI設定時からピボットを繰り返したり、外部環境が大きく変化したりすると、意思決定がしにくい状態に陥ってしまっています」というお悩みです。
蛯原:なるほど。前提が、いまいちわかるようなわからないような。1から10の中の5ぐらいって「けっこうイイ線いってんじゃん」という感じもするんですけど(笑)。
(一同笑)
村上:だからこそ悩むのかもしれないですね(笑)。
蛯原:一方で、「事業がうまくいかない」とはどうなんだろう。どっちかというとあまり良くない状況なのか、悪くはないけど伸び悩んでいるのかが、ちょっとわかりづらいかな。それによると思うんですよね。
村上:会社の期待からは下回っているけども、事業として見るとそこそこ運営できているのかな、みたいな感じですかね。
角:リソースとしてはだいぶかかっているんじゃないかと思うんですよ。企業の中で立ち上げた事業なので、その事業にかかる中間的なコストというか、総務部門とかいろんな部門が追っているコストまで全部足すと「ぜんぜん赤字じゃねぇか」。だけど、「一応売上は立っています」みたいな感じかなと思いました。
蛯原:あとこちらは金融機関の、たぶん支援側の方なので。どういうアドバイスを支援対象側に対してしたらいいのかとか、これ以上支えきれるのかとか、そういう感じですかね?
角:この方はおそらく、金融機関としてやっている事業だと思います。
蛯原:なるほど。となると話は別だな。
蛯原:これがもしスタートアップだったら答えは明確で、「とにかく黒字化しなさい」、以上なんですよね今は。
角:(笑)。
蛯原:今の外部環境はもうこれしかないです。四の五の言わず、どの会社でも例外なく、レイトステージだろうがアーリーステージだろうが黒字化に全精力を注ぐ。それができないんだったらやめるしかない。
ちょっと厳しいですけど、でもこれが今のスタートアップを取り巻く環境の実態なんです。なぜなら資金調達が極めて厳しくなってきているので。
逆に言うと、黒字化できるとか、できそうであることがかなり外形的に・ロジカルに説明できる会社は資金調達もできるので。だからがんばってそこまで持っていくと。
ただこの会社さんは大きい金融機関さんなので、別に死ぬの生きるのという話にはならないんだとすると、そのスタートアップの前提が当てはまらない。だからこれはもう、やっている実質的な経営者であるところの、この新規事業ご担当責任者の腹積もり1つではないですかね(笑)。
村上:どれぐらい張り続けるのかというね。
角:(笑)。だからそこに悩んでるんだろうと思うんですけど……。
村上:大企業の中でやる新規事業で、僕が相談を受けた時に必ずおすすめしているのが、「偉い人のスポンサーを2人以上つけろ」です。役員クラスの人。1人だと、その人が異動した時に終わるんだよね(笑)。よくあるんだけれども。
「常務肝いりでやっていたプロジェクト」みたいなのだと、その人が違うところに行った時に、もう1人いないと継続性が担保されない。新しい人は、必ず新しいことをやりたがるので。そうすると前にやっていてイケてる感じじゃないものは、いったんお取り潰しにあうというロジックもあるんですよね。
なので、まず「どういう状況なのか」によると思いますが、基本的に大企業で言うとやはり張り続ける体力はあるので。偉い人が人材育成の研修プログラムだと思えば「まあ、やっていればいい」となる。
そうではなくて「事業なんだから、少なくとも中間コストはサンクコストだから除いたとしても、ネットの部分で見て黒字化していないと事業としてはダメなんじゃない」と言われたら、まぁおっしゃるとおりだと思うんですよね(笑)。
角:僕は、黒字化するイメージがぜんぜんつかなかったらもう、やめるしかないと思うんです。僕が思う黒字化がつくイメージとは、まず環境の変化がそっちに向こうとしているのかが1つ。それと本人たちの、チームとしてのケイパビリティが成長して、その成長が黒字化につながるか。
そのイメージがつくためには、たぶん理屈がいると思うんですよね。理屈、ロジックがあるからイメージがつくと思うんですけど、そのロジックがまったくなかったら黒字化するイメージがつかないから、やめるしかないのかなと思うんです。そしてそれはこれまでのエビデンスがほぼ証明する気がするんですよね。合ってるかな……。
蛯原:あと競合が出てきた云々とおっしゃっているので、それなりに産業というか、分野自体はきっとテイクオフしつつあるんでしょうね。そういう中で「思ったほど儲かるマージンが厚いビジネスでもないな、どうしようかな」みたいな状況なのかなと想像しますけどね。
角:これもよくはわからないままでの回答ですけど、競合が参入した時に競合に勝てるようなビジネスを生む、そのマネタイズの一番コアになるような強みが発見されていない雰囲気が、この文章を読むと見えてくる気がするんですよね。
競合の参入に際して「おい大丈夫か」という社内のいろんな人たちの声に、明確な回答ができない状況なのかなと。
村上:もしくはむっちゃニッチなところでやっているかですね。基本的に競合が参入することは別にいいことで、マーケットができ始めていて、そのマーケットが広ければ、大きな市場は基本的には3社ぐらいでバランスが取れるようになるので。各社ともそこまでは伸びるわけですよ。そのカテゴリーができてくるという意味では、非常に良いことだと思う。
ただすごく市場自体が、いわゆるTAM(実現できる可能性がある最大の市場規模)が狭いと、1社しかそれを享受できない。価格競争を仕掛けられたら終わります、みたいな話かもしれないですね。
蛯原:あと撤退かピボットか勝負に出るかで言うと、あらかじめ撤退ラインを設けて、そこにヒットしてしまったらもう四の五の言わず撤退するのが教科書論だと思うんですけど。ここでこういう設問がされているということは、たぶん定めていなかったんだと思うんです(笑)。
そういう場合はよく、これまた教科書論で「今その事業をやっていなかったとしたら、今から始めたいですか?」という質問をしなさい、というやり方があるわけです。で、この方はご自身でその質問をしたら、たぶんやりたくない、となるんじゃないかと……(笑)。
(一同笑)
村上:それはもう道は1つですよね(笑)。
蛯原:そうにじみ出てる感じがする(笑)。
角:今のはすごくいいなぁ(笑)。「今からこれ始めたいですか?」という質問をするんだ。
蛯原:僕らが支援してるスタートアップでも、めちゃめちゃ七転八倒して苦しんでいるけどでも、起業家っておおむね「これ絶対できると思う」と思ってるから絶対やめたくないんですよ。
もちろん対外的なプライドとか、失敗が決定することが怖いとか、いろいろあるとは思うんですけど、でもやはり「絶対できる!」と思って信じている人はやめたくないと思う。(質問者は)やめたい感じもにじみ出ているなとは、ちょっと感じますね(笑)。
角:(笑)。なるほど、わかりました。ありがとうございます。でも「今から始めたいですか?」という質問を頭に浮かべた時の答えが、ほぼその答えなのではないかとは、非常にわかりますね。
本当は3問ぐらい回答したかったんですけど、もう時間がきてしまっているので(笑)、そろそろラップアップとさせていただきます。おもしろかったので、今日用意していたほかの質問は、タイミングを改めてこの3人で集まってわちゃわちゃさせていただく感じでも大丈夫ですか?
村上:はい、大丈夫です。
蛯原:ぜひぜひ。
角:ありがとうございます。それでは、ご視聴いただきありがとうございました。
蛯原、村上:ありがとうございました。
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