「ただ儲けさえすればいいのか?」という疑問

中村直太氏(以下、中村):グロービス経営大学院の中村です。このコーナーでは、心に響いた言葉をシェアしながら、仕事やキャリアに役立つヒントをひもといていきます。

今回の言葉は、「正しい儲ける姿」です。みなさんはこの言葉、どのように受け取られたでしょうか。

「儲ける」と聞くと、お金のにおいがしてきて、どこか後ろめたい気持ちになる方もいるかもしれません。ただ、その感覚がそのまま「儲けることは悪だ」とつながるわけでもないはずです。組織においても、個人の生活においても、儲けること、つまり利益を出していくことは必要かつ重要なことです。

組織であれば、利益は設備や技術など未来に投資することや、社員、株主へ還元すること、税金を納めること。あるいは内部留保で体質改善を図ることなどにもつながります。

それは個人であっても同様で、自分を含む家族への投資や、貯蓄で不測の事態に備えられる安定した状態を作ることにもつながります。

ビジネスでも生活でも、ある営みを続けていくためには儲けることが大きな支えとなります。その上で、「ただ儲けさえすればいいのか?」という疑問は残ります。

これに対してはいろんな考え方があると思いますが、「そうではない気がする」という感覚を持たれる方が大半なのではないでしょうか? ただ儲けさえすればいいわけではないとしたら、どのように儲けるのがいいのか? 今回の言葉は、「正しい儲ける姿」です。

柳井正氏が考える、経営者としての「正しい儲ける姿」

ユニクロを展開するファーストリテイリング社長の柳井正さんが、経営者として「正しい儲ける姿」についてのお考えを述べている本がありました。経営者にとっての「正しい儲ける姿」とは、約束したことを成果として実現した上で儲ける姿だと言います。

さらには、「約束したことが実現できていないのに儲けが上がっているとしたら、経営者としての仕事はできていないと思わないといけません」と続きます。そして、「約束する成果を考えるにあたり、大切なのが使命。つまり社会における自分たちの存在意義だ」とおっしゃいます。

つまり、「正しい儲ける姿」とは、「使命につながる約束した成果を実現させた上で儲けている姿」なのだと思います。

そうなると、「ただ儲けさえすればいい」と儲けることが目的になったり、その結果、「儲ける手段は何でもいい」ということにならず、あくまで使命に近づいていく営みを前提としながら、その上で儲けていくということです。

ファーストリテイリングは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」という使命を掲げていますが、「LifeWear(究極の普段着)」というコンセプトの下、より快適で質の高い生活を実現するための服のインフラを、世界中の人々に提供することで儲けていると言えるでしょう。

社員の「モチベーション」につながる、正しく儲けるための順序

「使命と結びつかなくても、結果的に儲かっていて、人をだますなど悪いことをしていないのであれば、誰かの何かの役に立った結果と言えるので、それでいいんじゃないか」という意見もあっていいと思います。一方で、それでも使命を大切にするのはなぜでしょうか。

同じ書籍の中に、その前提となるようなお考えが示されていました。「会社は社会の役に立って初めて存在が許されます。だとしたら、自分たちはどういうことを通じて社会に貢献するのか。これをよく考える」ということです。

つまり、「会社というのは使命があり、その実現に向けて動き、社会の役に立っているから存在することが許されている」とお考えなのだと思います。使命とは約束の源泉であり、その約束の相手は、顧客や社会、株主、地域、従業員などのステークホルダーです。

まず約束を果たし、その結果として儲けが出て、その儲けを原資にまた約束を果たしていく。この営みを通じて、一歩ずつ使命に近づいていくことが経営だという見方をされているのでしょう。そしてこれが、柳井さんが考える「正しい儲ける姿」であり、この順序で考えるから、儲けることが許されるんだと教えてくださっているように思います。

私たちは、毎日仕事に精を出す中で、使命につながる約束した成果を実現することを意識しているか。あるいは、単に儲けることや与えられた目標数字を追い掛けることだけを意識しているのか。それによって、仕事をする私たちの毎日のモチベーションややりがいの実感度合いも大きく変わってくるのではないかと思いました。

「正しい儲ける姿」という言葉をきっかけに、ビジネスをすることや働くことの根本にある姿勢と向き合う機会を作っていただきました。

まとめます。あらためて、今日の言葉は「正しい儲ける姿」でした。「会社は社会の役に立って初めて存在が許される」という前提に立ち、使命につながる約束した成果を実現させた上で儲けている姿のことだという考え方を一例として挙げながら、「正しい儲ける姿」とは、どのような姿なのかを考えてみました。

こんなことが考えられるかもしれません。「みなさんにとっての『正しい儲ける姿』とは、どのような姿なのでしょうか?」。ピンとくることがあれば、考えてみてください。

今回も最後まで聞いていただき、ありがとうございました。今日もすばらしい一日をお過ごしください。