2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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福田典子(以下、福田):お二人が心待ちにしていました、質疑応答の時間に進みたいと思います(笑)。
枡野俊明氏(以下、枡野):そうですか(笑)。
福田:ここまでありがとうございます。それでは、お時間の許す限りご質問にお答えいただきたいと思います。最初の質問です。「お二人に質問です。お互いに違う道で活躍をされておりますが、対談をされて一番心に残った気づきなどはありますか?」ということですが、いかがでしょうか。
松重豊氏(以下、松重):枡野先生に、自分が1人で抱えていたことも聞いて、それに対して答えていただいたことが全部書籍になったわけなんです。でも、それ以外にも、先生の作られた庭をバックにしながら聞いたあの空間の庭の佇まいと先生とが、僕の心の中に宝物のように残っているんですね。
だから、言葉を越えた意識みたいなものが、あの時間にはあったなと思います。抽象的ですが、それが僕にとっての宝物です。
福田:ありがとうございます。
枡野:私はですね、お話がどんどん進んでいくにしたがって、「松重さんは、俳優というものを通してご自身の人生を極めようとされている」というのがよく伝わってきたんですよ。
たまたま「俳優」というものを借りて、(もしかしたら)他のものでもあったかもしれないんですが、それを通して生き方を極めようとしているところと、やはり禅は生き方を極めるということですから、そこでぽーんと化学反応したんですよね。
枡野:先ほどもお話がありましたが、禅では「不立文字、教外別伝」と言いまして、一番大事なものは言葉や文字にならない。
ですから、会話になると最後は沈黙になっちゃう。それから、私たちがやる空間作りや絵だと弱くなっちゃうんですよ。例えば、その考え方が能楽とか動きのあるものになりますと、所作と所作の間の「間」になるんです。
福田:なるほど。
枡野:だから、(松重さんが)「あの空間にいただけで」と言ったのは、まさにそうなんですよ。
松重:結局、こういう質問にも意味を求めてしまう意識はあると思いますし、それが質疑応答だと思うんですが、意味にならない・言葉にならない空気や空間も、人生の中で「大切なもの」だとして捉えないともったいないなと思いますね。すべてが「意味」で片付けられるものじゃないと思います。
福田:ありがとうございます。
福田:次の質問にまいりたいと思います。「働いていると出世や昇給などに野心が燃えます。そのおかげで成長もできていますが、一方で疲弊している自分もいます。野心との上手な付き合い方はあるのでしょうか?」。いかがですか。
松重:野心というか、いい仕事・いい役職に就きたいという。
福田:芸能界は、特に野心が渦巻いているようなイメージがあるんですけれども。
松重:そうですね。自分がやりたいような役を誰かがやっていると、当然「ああ、僕だったらこうやれたのに」って思うことはままあります。ただ、正直この仕事だけが僕のすべてじゃない。
自分の興味はもっといろんなものにあるし、お寺の庭を見て「うわあ、気持ちいい」「心がすごく澄んでくる」とか、いろんなものに触れていれば、自分が抱えている仕事なんてほんの一部に過ぎないと思えるので。
野心というものが、自分の心の中を占める一部分であってもいいと思うんですが、それがすべてになると、いろんな悪い気持ちがどんどんはびこっていくと思います。
うまい付き合い方で、いろんなものに興味を持っていろんなものを見ていくと、そこのパーセンテージが少なくなっていくんじゃないかなとも思うんですが、どうなんですかね?
福田:(枡野さんは)いかがですか?
枡野:野心をどう捉えるか。まず、人間には「意欲」という欲がありますよね。もう一方で「我欲」というのもあるんですよ。「私が、私が」という我欲が強くなると疲弊します。でも、意欲は前へ進める原動力になりますから、同じ「欲」でも(意欲は)いいんですね。
ですから、「私は自分の技術を使って世の中にどう貢献できるのか?」ということを考えて、「この方向へ進むんだ」という意欲を燃やしていく。そうすると、結果は後からついてきますよ。結果を先に置いてしまうから疲れるんです。
福田:なるほど。
枡野:そうすると、我欲になっちゃうんです。
福田:「これを通してどのようにしていきたいか」というところなんですね。
枡野:そうです。
福田:それでは、続いての質問にまいりたいと思います。「日常の『マインドフルネス』に活かせるようなおすすめの方法はありますか?」。
枡野:これ、私から1つよろしいですか。マインドフルネスというのは、実はお茶や茶道なんかで言うと、家元からすれば「禅の分家筋」なんですね。ところが、分家した時にちょっと異なってしまったところがある。
アメリカ・フロリダの臨済の禅センターに、ジョン・カバット・ジンという大学の先生が行かれて、座禅を体験されたんです。「なんかこれ、体にいいぞ。医学的に解明してみよう」といって解明を始めたら、ものすごくセロトニンが出るとか、α波が出るとか、血流が良くなるとか、いいことがいっぱい起きることが結果でわかっちゃったんですよ。
「座禅はこういう結果が出るからやったほういいぞ」といって生まれたのが、マインドフルネスなんです。(本来の)禅は、そういう結果や効果を求めるんじゃなくて、やっている時に後から勝手にそれがついてくる。
だから、先にニンジンがぶら下げちゃっているのは、本家筋からするとちょっと違うぞと。ただ、座禅を通して心の穏やかさを求めていくことは(本来の意味から)もちろん外れてないんですが、そこの違いがありますよという認識は、みなさんにお持ちいただきたいと思います。
みなさん、30分でもいいから朝早く起きていただいて、5分や10分ちょっと座るだけでもぜんぜん違います。腹式呼吸をされると、心がものすごく穏やかになります。マインドフルネス流に言うと、血流も良くなりますし、それから脳の伝達物質、幸せ物質と言われるセロトニンがものすごく出るんだそうです。
ものすごく心が穏やかになるということは、実はものの見方にものすごく柔軟性が生まれるんですね。「こうあらねばならぬ」じゃなくなるので、固執しないんですよ。そこは(効果として)大きいと思います。
福田:今、みなさんの姿勢がすっと良くなるのが見えましたね(笑)。
枡野:そうですか(笑)。
福田:さあ、続いての質問です。「お二人はご自身が十牛図のどの段階にいると思われますか?」。この方は、十牛図をよく知っていらっしゃるみたいですね(笑)。
枡野:これ、難しいですね。
松重:十牛図はプロセスにはなっているんでしょうけど、「7だったのに5に戻ってるな」「もしかしたら俺、もう1かもしれない」とか、行ったり来たりしてもいいと思うんですよね。
だから正直、最終的に自分が悟りに達するとまでは思ってない。「そこに行くにはどうしたらいいかな?」と思っているから、日々自分の中でも「迷いの中でどの段階かな?」というのを測る指針・目安にもなるので、十牛図はおもしろいぞと、今回のお話のテーマにしたんですね。
福田:悟りのその先まで描かれているものですよね。
枡野:そうですね。悟りがあるから迷いがあって、迷いがあるから悟りがあるんですね。人間は生きているから、迷いがあって当たり前なんです。
でも、「この迷いってこういうことか」と、自分の中で腑に落ちる経験は何回もあると思うんです。それを積み重ねていくことによって、見方や自分の生き方が確実に変わります。
最後にどーんと大悟することもあるんですが、これにはなかなかいかない。大悟というのは、例えば掃除をしていて、ほうきで掃いた石ころが竹に当たってどーんと悟りを開く人もいるし、転んで頭をぶつけた時に悟りを開く人もいるんですよ。
なかなかそこには至らないんですが、いろんなものを積み上げて進んでいくと、「やっぱりこうだよね。こういう生き方をしていくのが人生として大事だね」ということに気づくんです。それをまた、自分の拠り所に生きていくということでしょうかね。常に道半ばです。
福田:さて、続いての質問です。「時代や文化によって宗教もかたちを変えていくものかと思います。AIの発展で著しい変化が予想される現代や未来において、仏教や禅宗が果たす役割とはどういったものでしょうか?」。
枡野:ちょうど今、大きく世の中が変わる変革点に私たちはいるんですね。これは好む・好まざるにかかわらず、私たちはそこにいるんです。多くのことがAIでどんどんされていく世の中になっていきます。
ただ、心の問題や感情・完成をAIが全部解き明かしていけるかどうかと言うと、たぶんAIではなく人間にしかできないものがあるんですね。禅も宗教も仏教も、そこに手を差し伸べていかなければいけないと思います。
福田:ちょっと難しい質問ですが、松重さんはどう思われますか?
松重:日本という国だけじゃなくて、世界中でもこれから先はいろんな価値が変わってくるでしょうし、本当に大転換期です。
僕らの俳優という仕事においても、「テレビでいい役に就きましたから、あなたは成功ですね」と言われるようなビジネスモデルじゃなくなるのは、間違いないことだと思うんですね。
「先輩たちに聞けばなんとかなる」という問題じゃなくなってくるし、仏教や禅の教えといったものは精神的な拠り所みたいなもので、自分も(それによって精神を)保つことができたという経験もありますので。
そこを踏まえて、そういう哲学に触れて、今のAI技術や進んだテクノロジーと向き合うことができるんじゃないかなと思いますけどね。
枡野:AIは機械ですから、膨大なデータを蓄積して、そこから今までの経験に基づいた答えを導き出してくる。これがAIの得意とするところですよね。
人間は、独特な発想力だとか、データにないものを提供していく。お互いに、「データの部分はAIから借りましょう」「独創的な発想は我々で描いていきましょう」という時代になってくるんじゃないですかね。
福田:先ほどおっしゃっていた、「間合い」だったり「空間」のお話も、人間が感じられるところはありますものね。
枡野:そうですね。
福田:お時間となりましたので、質疑応答が終了となります。最後にお二人には、ご参加いただいているみなさまへ「乗り越える」というメッセージを一言お願いしたいと思います。枡野先生からお願いします。
枡野:今回のテーマになっているのは「Climbers」という壁ですよね。人間は、生きている時は何度も壁にぶち当たると思います。でも、そこで諦めてしまうのか、ひたすらに挑戦していくのか。生きている以上、一歩でも一歩でも前へ行く生き方が、僕は大事だと思っています。
禅語に「三級浪高魚化龍(さんきゅう なみたこうして うお りゅうとかす)」という禅語があるんです。大きな滝がありまして、それは人工的に治山治水でできちゃった滝なんですよ。昔は鯉が自由に登っていた川にものすごい滝ができてしまって、何万匹に一匹しかそれを乗り越えられるものがいなくなってしまった。
乗り越えることを「登竜門」「龍門瀑」と言うんですが、乗り越えた先にまた新しい世界がまた広がってくる。みなさんは、それを常に目指して進んでいかれたらよろしいと思います。
福田:ありがとうございます。松重さん、お願いします。
松重:こうやって枡野先生の横で質問して、それに答えていただける機会をご縁によっていただいたことが、非常に僕にとってはありがたいです。
先ほども言いましたが、日本にはいろんなところにコンビニより多い数のお寺があって、そこにはどんな世の中になっても生きるための知恵が詰まっていると思います。まずは、それと触れる機会が与えられているということに気づく。そして最初のほうでも言いましたが、毎日細かく掃除をする。掃除は大事だなと思いますね。
福田:はい、がんばります。
松重:掃除をしているうちに、「あ、そういえば」って気づいて乗り越えることだってあるかもしれません。そうですよね(笑)?
枡野:私、今日も雑巾がけをやってきました(笑)。
松重:僕もやってきました。そういうことだと思います。
福田:まずは掃除からがんばりたいと思います(笑)。松重さん、枡野さん、ありがとうございました。みなさん、どうぞ盛大な拍手でお送りください。
(会場拍手)
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