本を書いたきっかけは、介護が終わった時の心の葛藤

栗原和也氏(以下、栗原):ではここから、和泉さんとタナケン先生のダイアログセッションに進んでいただければと思いますので、このまま引き続きバトンタッチいたします。タナケン先生、どうぞよろしくお願いいたします。

田中研之輔氏(以下、田中):お久しぶりです、うれしいです。

和泉昭子氏(以下、和泉):ご無沙汰しています。久しぶりに聞いたけど、相変わらずパンチがありますね(笑)。

田中:(笑)。私が和泉さんとお話しできるのは、テレビで「あ、和泉さん出ている」みたいな。フジが多いよね。

和泉:最近、日テレも少し。

田中:日テレも多いの?

和泉:ありがとうございます。

田中:ハイヤーで迎えに来る?

和泉:それはね、昔。

田中:(笑)。

和泉:今は、テレビ局はお金がないから来てくれません。

田中:今はどうやって移動しているんですか?

和泉:タクシーを呼んで。

田中:タクシーで?

和泉:はい(笑)。

田中:それで最寄りのヘリポートから行くんでしょ? びゅーっと。

和泉:そうですそうです(笑)。よくご存じですね。

田中:ですよね(笑)。六本木ヒルズかなんかに着陸して、そこからテレビ局に行くというね。

和泉:はい(笑)。

田中:でもおめでとうございます。こちらの本は、どんな思いで書いたんですか?

『定年後のお金、なんとかなる超入門 インフレ時代のセカンドライフ』(KADOKAWA)

和泉:まずはありがとうございます。スライドを見てびっくりしちゃいました。わざわざ作っていただいて。私、ご存じのように介護をしていたので。

田中:そう、ちょうど理事になってくださった頃から、いろいろそういう話をうかがっていたからね。

和泉:(介護を)していた時は良かったんですけど。終わっちゃった後、なんか半年ぐらい、毎日泣いていて、寝てばかりいて、「仕事をやめようかな」と思ったんですよ。「お金は最低限の生活をしていく分でいいかな」と思って。

でも、なんか役割みたいなのがとりあえず終わった時に、「これで自分の人生はいいのかな?」と思って。それである日、「人生を動かす」とマジックで紙に書いて、「なんとしても動かすぞ」と思って、まず引っ越ししたんですね。

今いるのはもともといた家なんですけど、もう1つ家を買って。そうしたら、なんかいっぱい仕事が来て、動き始めちゃって。今は軽井沢と2拠点生活をしているんですけど、「行ったり来たりでのんびりのはずなのに、すごく忙しくなっちゃったね」と、会社の人たちに言われるぐらい動き始めたんですよ。

定年本を出すことになったのは、そういうお話しをいただいたからなんですが、ちょうど私自身がこのステージに入ってきて、周りの人もみんな定年で、大きく人生が変わるときだからこそ必要だなと思ったんです。

なぜ「働くこと」がアンハッピーなのか

和泉:さきほど伺っていて、いい言葉だな。私、『マネーシフト』という本、次はタナケン先生と書きたいわ」と思ったんですけど。

田中:ねえ。マネーシフトだなと思うよ。

和泉:そうですね。それで、お金に対する不安がすごく自由度を奪っている感じがしたんですよね。「すごく将来のことが心配だから、このくらいの生活」みたいな。不自由になっていくんですよ。やっと自由なステージになったのに。それで、私のだから格調高い本ではないんですけれども。

田中:いえいえ、読みやすいよ。

和泉:ノウハウを詰め込んだ本を、雑誌の編集者の人たちと一緒に作っていったんですね。

田中:今回読ませていただいてあらためて思ったのは、「マネーシフト」という言葉がふっと浮かんできたんですけど、やはり働く人。まず大前提として、2つの問題があって。

1つは、働いているのにアンハッピーであると。つまり幸せでないという前提ね。もう1つ解かなきゃいけない数式は何かと言ったら、働いているのに生産性と競争力が著しく低いこと。これはやはり解答していかなきゃいけないんですよ。

和泉:そうですね。

田中:その時に、なんで働くことがアンハッピーかと言ったら、「働く」イコール「対価をもらうこと」だと思っていると思うんですね。例えば初年次の給料、あるいは初年次の年収とかって学生たちはみんな気にするんだけど、「本当にそうか?」と。ただし、1社に長期雇用される場合で転職が良しとされない時代の、いわゆる伝統的なキャリアの時は、それにすがるしかなかったよね。

和泉:ほんと、そうですね。

田中:ようやく今にして、副業とか確定申告をやる人が増えたり、そしてフリーになったり、また戻ったりみたいな人も増えてきたから、ようやく本当に我々目線のキャリア形成ができるようになってきた。そこでテクノロジーも支えてくれる。だからすごく希望を感じているんですよね。

お金の勉強をしないことが「自立していない人の象徴」と感じるように

和泉:世の中が、すごく応援してくれていますよね。プロティアン型のキャリアをね。私はさっき紹介したように病気で会社を辞めて、それでフリーにいきなりなっちゃったんだけど、会社を辞めた後、年金手帳とかって、その時に会社から返してもらうんですよね。初めてみて、それで、「こんなのあるんだ」みたいな(笑)。

給料から何が引かれていて、社会保障のそれぞれに何の違いがあるのかとかぜんぜんわからなかったし、そういうのを勉強することって格好悪いことぐらいに思っていたんですけど、今は逆に自立していない人の象徴だなと思う。そういうことすら知らないでいたら、たぶんこれからの時代はやっていけないし。

今、私はいろんなところからお仕事をいただいていて、前と違うのは、個人事業主でもあるんですけど、給与を複数のところからいただいていることなんです。「給与」という名前で来るのね。それで、それこそどれが副業でどれが本業かよくわからないんだけど(笑)。

なんかこういうのって、私がずっと個人事業主だからできていましたけど、みなさんはたぶん会社員をずっとやってきて、主があって副みたいになるんだけど、きっとこれからは私みたいな感じにみんながなっていくんだろうなと。

田中:なっていくよね。

和泉:いろんなタイプの収入があったり、いろんな仕事をさせていただいて。最近自分ですごく信じているのは、歳を重ねるほど、いい人生になって成長し続けるという感じ(笑)。

田中:(笑)。いいね。本当にそう。

「1日1ドル生活」で感じた、お金が先ではないという考え方

田中:だから、みなさん例えば4月末までに、まず何か眠っている資産を売りましょうよ。まず経済資産に転換しましょうよ。和泉さんは何を売る? 服とか? ジュエリーとか?

和泉:私はもう売りましたよ。2022年、だいぶ持っていって。ジュエリーを売りました(笑)。金が高くなっていたから。

田中:ですよね? そうしたら、まず、なんか執着が外れていくと思うんだよね。

和泉:そうですね、外れますね。

田中:私がなんでお金に対して執着がないかと言ったら、アメリカにいる時の僕は、不法移民で2年間働いて、1日1ドル生活を2年間やっていたからなんですよ。だから要はサバイバルライフなことをやっているんだよ。

彼らの生き様ってすごいですよ。西海岸にはフリスビーコートがあるんです。フリスビーのゴルフコースみたいなのが。流行っているんですよ。リッチ層がみんなが来る。

そこで、フリスビーを投げるじゃないですか。するとドブ川に落ちるんですよ。ドブ川ってそんなに汚くないんだけど。そうしたら不法移民たちが、そのフリスビーを潜って取りにいく。1ドル、洗って5ドルで、10枚売って50ドルぐらいが稼ぐ。

和泉:へえ。

田中:だから、我々人間の創発的行為というのは、いわゆる組織の中で働くことに限定した、ある種の近代から転換しなあかんと思うの。だからお金が先じゃないし、絶対そうだと思うの。それをやはり和泉さんが教えてくださるから。

マネー戦略、キャリア戦略を考えるスパン

田中:ただし、今の経済資本主義の中でお金がマイナスになったら、やはり生活維持は厳しいと思うんですよね。じゃあ生活保護を受けてくださいと我々は言えないし、そういう生き方じゃないんだったら常にプラスにはしておかなきゃいけないよね。やはり単月でプラスと考えますか? マネー戦略は。

和泉:いや、ぜんぜん。中長期です。

田中:中長期。そこで言う中期というのは何年? 3年ぐらい?

和泉:3年ぐらいですね。短期で考えると、たぶんやることが真逆な答えになるんだと思うんですよ。

田中:おもしろい。なんで? 短期で考えるのね。

和泉:株とかでもそうなんですけど、短期で「これは儲かる」と思って動く情報と、中長期で儲かると思う状況って反対なので、どういうスパンで物事を捉えていくかを考えて、整理しておかないとダメだと思うんですよね。

世の中がすごく早く変化しているから、特にキャリア戦略なんかも、昔はすごく長く考えていたと思うんですけど、今は10年後なんて考えなくなってきていると思うんです。だからお金も若干短くていいかなとは思うんですけど。ただ、単月というのはダメかな。どんな時もありますからね。季節にもよるし。

田中:そうね。私もですね、iDeCoとか。金融商品は保険もそうだけど、会社のほうもあるから会社側でやってくださいとか、けっこういろいろ言われるじゃん(笑)。それで、ある種ディフェンシブとは言わないけど、2パー、安定的な利回りを狙えるような。株式投資もやっています。

だから、基本ほとんどやっているんですね。あんまりうまくいっていないんだけど(笑)。うまくいってなくはないんだけど。例えば上場株の株式投資だったら、今だってかなりガツーンと減っていたりするし。でも外貨建てなものからやっていて。

それはなんでやっているかと言ったら、私の場合はお金を増やしたいというんじゃなくて、その仕組みを知りたいから。けっこうそれが大きいんですよね。経済の仕組みの中に自分の身を置いてみるみたいな。

経済の“嗅覚”を磨くためのコツ

田中:だからみなさんも、直接和泉さんに聞いてみたいことがあれば、質問とかも受けながら、ちょっとあと残り10分、15分あるからいきましょうよ。

お金の話なのでチャットに書きにくいかな(笑)? いつもキャリアの話だと「イエーイ」みたいな感じで書けるんだけど(笑)。

和泉:(笑)。いやいや。まずお金は、先生がさっき「嗅覚を磨く」と言っていたじゃないですか。やはり経済のことをやると嗅覚が磨かれると思います。

田中:そうだね。

和泉:私が見ている経済番組とかって、やはり内容がほとんど技術の話とかばっかりですよ。別に株価がどうとか為替がどうとかというよりは、こういう技術がどうとか、それこそ一時的なのかそうじゃないのかとか。

私の場合は中期ぐらいで運用しているからというのもあるんですけど、世の中がどっちを向いているかということがわかる。それは資産も増えるし、私の仕事上の嗅覚とか、あんまり歳を重ねても古くならないようになるべくしたいと思っているんですけど、それに役立っている気がする。

まさにおっしゃっていた、経済の状況の中に身を置くという意味で、ただ経済ニュースを見ようと思ってもあんまり本気にならないから、お金も一緒に投入して、ドボンと入っているといいんじゃないかと思っているんですけどね(笑)。

田中:(笑)。

実はお金のことに時間をかけるのは嫌

田中:「今日からできる 和泉プロが教えてくれる なんとかする戦略」といったら、まず何をしたらいいですか?

和泉:ごめんなさい。NISAとかiDeCoの話をしておいて何なんですけど、私ね、そんなことを言っているわりに、お金のことに時間をかけるのは嫌なんですね。

田中:(笑)。

和泉:だから、ネットの金融機関に口座を開いているんだけど。私は、外貨を毎日毎日1,000円ずつ買っているの(笑)。

田中:ええ!?

和泉:上値の条件だけ決めていて。

田中:じゃあ入れておいて、ベットしてあって、自動で積み立てていくわけね。

和泉:そうそう。本当は130円とかだとドルを買いたくないんですけど、でもそれだといつまでも買えないので、いくらと条件を設定しておいてそれ以上になったら買わない。だから「今日は買えませんでした」とかもあるんですけど、毎日毎日自動で買っているんですよ(笑)。積み立てている。

田中:すごい。それ、何年やっているんですか?

和泉:何年か忘れましたが、ずっとやっていますよ。ハワイへ行ったりとかして引き出しているから、あんまり貯まってないけど(笑)。

仕事もプライベートも分けずにひっくるめて「ワンライフ」

田中:和泉さんとFacebookなんかでつながっている人なんかもけっこういらっしゃると思うから、私もちょくちょく「いいね!」を押させていただくんですけど、やはりお金との付き合い方がすごく豊かだなと思うんですよね。

つまり、なんかおいしいご飯を食べたり、うまくリフレッシュもする。あれもお金に対する捉え方、使い方。だからどっちが優先かといったら、さっき「ワンライフ」とおっしゃっていたっけ。

和泉:「ワンライフ」ね。

田中:「ワンライフ」というのは和泉さんの言葉?

和泉:ううん。もうだいぶ前から言われているんじゃないかと思いますけど、キャリアで言わない? 「ワークライフバランス」の次は、仕事もプライベートも分けずにひっくるめて「ワンライフ」だって。

田中:いや、我々はまだ「ワークライフバランス」と言っちゃうから。あの言葉がすてきだなと思って。だから、よく私も振り返るんだけど、3,000万円残して亡くなったってしょうがないし、1億円残して、残された人たちがいわゆる遺産相続でもめてもしょうがないしね。

やはりそれなりに、みんなでお金を分配しながら。ただし、やはりお金があればやりたいことの物理的な選択肢とか、意思決定の障壁はカバーし得るから、そういう意味で言うとチャレンジは必要だなと思うけどね。

和泉:先生がおっしゃったことばかりを繰り返して申し訳ないんだけど、メルカリでも何でも持っているものを売るというのは、すごく自分を身軽にして、今までずっと固執していたことを手放すのにいいんじゃないかなと思うんですよね。