精神科医が解説する「言語化」のメリット・デメリット

樺沢紫苑氏(以下、樺沢):みなさん、こんばんは。精神科医の樺沢紫苑です。ご紹介ありがとうございました。それでは、始めさせていただきます。

『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』について、みなさんに説明していきたいと思います。20分ちょっとなので、すごく足早になってしまいますね。

『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』(幻冬舎)

この『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』は、今回のビジネス書グランプリ2023で自己啓発部門賞をいただきました。今、動画を視聴していただいている方で、投票してくださった方もかなりたくさんいらっしゃるんじゃないかなと思います。本当にありがとうございました。

また、今回こういうすばらしい賞を準備されてきたグロービス経営大学院、flierさんなど、協賛企業の方にもすごく感謝の意を表したいと思います。

今回、自己啓発部門賞をいただいた『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』ですが、実は総合でも第2位でした。もうちょっとで総合グランプリにいけたかな? というギリギリのところがあったんですが、まだまだ力不足を感じる今日この頃であります。

「言語化の魔力」について、みなさんと学習していきたいと思います。『言葉にすれば「悩み」は消える』というサブタイトルでも、ほぼほぼ説明されていることなんですが、じゃあ言語化するとどういう良いことがあるんですか? ということを最初にお伝えします。

まず、悩みが消えます。ストレスが消えます。ネガティブ感情が消えます。コミュニケーションが円滑になります。人間関係が深まり、メンタル疾患が治る。と、いいことづくめですね。

みなさん、言語化ができていない人がけっこう多いなと思うんですけど、逆に言葉にしないとどういう不都合が起きるんでしょうか。そういった場合、言葉にしないから悩みが深刻になって、ストレスが増えていきますよね。ネガティブ感情も増えていく。

そして、言葉にしないわけですから、コミュニケーションで行き違いなども起こってくる。そして、人間関係が悪化する。そうすると、それが原因でメンタル疾患になったり悪化してしまう。メリットよりもデメリットを見ると、「言語化の魔力」がちょっと恐ろしいなと、たぶん思うと思います。

勇気を出して言葉にすることで、現実がプラスに変わる

私はかれこれ42冊の本を出してきました。累計で(発行部数は)226万部まで来ておりますが、私のビジョンというものがあります。

私も精神科医なので、精神科医・作家と名乗らせていただいておりますが、情報発信でメンタル疾患を予防する活動をしております。情報発信って何かというと、インターネットの情報発信と、このような出版の合わせ技ですね。

最近はコロナもあまり心配なくなってきたかなということで、マスクを着けない方も増えてきていますが、しかしながらここ3年間、コロナ禍でいろいろ大変な時代がありました。実際、あまり家から出ないとか、飲み会もなくなっちゃったとか、「お茶でも行こうよ」と友だちを誘うのも、ちょっと難しいような時期もあったと思う。

あと、マスクを着けて人と話さなきゃいけないということで、コミュニケーションが非常に不足しているし、コミュニケーション自体が非常に難しいものになってきている。

今、「マスクは外してもいいよ」と言っても、「いや、外したくないです」「なんか恥ずかしいな」「表情を人に見せるのがつらいな」という人もいるくらいですね。

今はせっかくコロナも明けてきたので、こういう時代だからこそ、もうちょっと積極的に自分の気持ちを伝えたり、あらためて言葉にしていくことで、みなさんが仲良くなるというか、つながりを回復してほしいなと。ちょうど今から1年ほど前に『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』を書いている頃に、こんなことを考えていたんですね。

まずは「言語化って何ですか?」という話があると思うので、それについて説明します。みなさんは「なんとなく自分の気持ちを理解してくれているかな」と思うかもしれないですが、言葉にしないで黙っていると、基本(自分の気持ちは)伝わらないんですよ。

でも、「私はこう思うんです」というふうに言うと、「ああ、なるほど。そうなんですね。それはいいと思いますよ」と、言葉にするから共感や賛成が得られる。あるいは、アドバイスや助言が得られる。(言葉にして伝えることで)初めて現実が変わるんですね。

みなさんがずっと黙っていても何も進まないし、何も現実は変わらない。いいことは何もないですね。だから、勇気を出して言葉にしていくことで、現実がプラスのほうに変わっていくというのが「言語化の力」ですね。

言葉にしないと伝わらない。逆に言うと、言葉にするだけで伝わる。これが『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』の一番重要な部分なので、みなさんが思っている本当に重要なこととか、困っていることを言葉にしていったら、けっこううまくいきますよというのが、一番のポイントの部分です。

4人に1人は「悩みがない」

さて、「言葉にすれば『悩み』は消える」というふうに書いているんですが、「じゃあ、悩みってどうやって消えるのよ。そんなもん消えないでしょうよ」「いろんな人間関係も大変だし、今の会社を辞めようかと迷っているんですよ」とか、いろいろな人がいます。

私のYouTube『樺チャンネル』は、ちょうど昨日(2023年4月時点、登録者数が)43万人を超えたんです。2014年からYouTubeをやっていまして、苦節9年ですね。今、5,500本の動画が上がっています。

この5,500問の悩みを分類してみるとーーたぶんExcelファイルで10万件以上あるんですが(笑)。今まで寄せられた悩みに答えたのが5,500問ですが、送られてくるやつは、20問に1問答えていたりすると10万件でしょ。だから10万件くらいあるんですが、それを分析してみたら、ほぼほぼ同じような質問が寄せられてきているんですね。

例えば、「もっと話が上手になりたいです」「内向的なので外向的になりたいです」「人前で緊張しないようになりたいです」「自分の欠点を変えたいです」「人間関係で悩んでいます」という同じような悩みが、とにかく何回も、何十回も、何百回も、何千回も送られてくるわけ。

ちょうど編集の人と相談していた時に、1冊の本で5,500もの悩みすべてに対応できるような究極の解、答えが得られるような本があったらすばらしいよねと。

(そんな本があったら)「困っている人が世の中からいなくなりますよね」「コロナ禍でいろいろな心配や悩みが多かった時代なので、そういったものもすべて解消できますよね」「そんなすごい本ってできないのかな?」ということを考えながら作った本が、『言語化の魔力 言葉にすれば「悩み」は消える』なんですね。

そもそも、みなさん悩んでいるのかな。たぶん、すごくたくさんの人が悩んでいるに違いない。90パーセントくらいの人が悩んでいるに違いないと思っているんですが、本当か? と思って、Twitterでアンケートをとってみたんです。

「あなたは悩みがありますか?」というのに対して、「悩みがある」と答えた人は75パーセントで、なんと「悩みがない」と答えた人が24パーセント。つまり、4人に1人が「悩みがない」と答えたんですよ。

これ、みなさんはどう思います? すごく多くないですかね。私は、90パーセントくらいの人が悩みがあって、10パーセントくらいの人が「悩みがない」と答えると思ったんですが、意外と悩みがない人が多かった。

4人に1人は「悩みを解決できる人」

今度はちょっと質問を変えてみまして、「あなたは自分の悩みを解決できますか?」というふうに違う質問を投げたんですね。そうすると、ほとんど同じ割合の答えが返ってきたんですね。

「悩みが解決できない人」が77パーセント。比較的簡単に解決している人が22.6パーセントです。つまり、「悩みを解決できない」という人が悩みを持っている人であり、「悩みを解決できる」という人が悩みがない人である、と言っていいでしょうね。悩みが解決できない人は4人に3人で、悩みが解決できる人は4人に1人ですね。

悩みが解決できない人というのは、「どうしよう、どうしよう」「困ったな」「つらいな、苦しいな」「わー、誰か助けて」「ああ、でもつらいな」ということをずっと続けていくわけですね。だって、解決できないんだから。

解決できる人というのは、何かを調べたり、人に聞いたり、人から助けてもらったり、いろいろなことをしてなんとか動きながら、なんとか解決していく。壁はあるんですけど、そこ(悩み)の前で「ううーん」と唸っている人と、いろいろやりながら潜りながら超えていく人と、2パターンに分かれる。

4人に1人は悩みを解決できるから、それは自己成長につながりますよね。同じような悩みが来た場合、今度は楽に超えて行ける。

今度は、また違う次元の大変さや悩みが来るかもしれないけど、階段を上るように、悩みがあるごとにどんどん自己成長していくわけですね。つまり、悩みというのは成長の糧であるんですね。ハードルを乗り越えれば乗り越えるほど、いい状態になっていく。

一方でそれを乗り越えられない人は、永久に一番下のところでうごめいているという、残念な状態になっているのではないかというのが、私の考察ですね。

「悩み」の3つの特徴

今日はこれから悩みを解消する方法をお伝えするんですが、4人に3人の悩んでいるみなさんの場合、これをやっていただけると自己成長のスパイラルに入って、毎日が楽しくなり、いろんなことができるようになってきます。

仕事も楽しくなってくるし、言語化が上手にできるようになると人間関係も広がってくるので、毎日が楽しくなってきますよね。そうなっていただきたくて本を書いたわけです。

そもそも「悩み」とは何だ?ということで、悩んでいる人がどういう言葉を言うのかなと調べてみたら、「つらいです」「苦しいです」「逃げだしたいです」「死にたいです」と、実際に精神科の患者さんはこういうことを言うんです。つまり、精神的につらい状態が間違いなくあるでしょう。「私、楽しいです」という人は、悩みはないはずです。

「悩みの特徴」の2つ目は、「あー、どうしよう。どうしよう」「どうしたらいいかわからないよ」と、必ず言います。つまり、対処法がわからないのが悩みの1つの特徴ですね。

もう1つが、「何もできない」「前に進めない」。つまり、どうしようもないという状態なんですが、これは停止・停滞と言っていいでしょうね。動けないんです。

つまり「悩み」の特徴は、「精神的につらい」「対処法がわからない」「停止・停滞」という状態です。なので、精神的に楽になって、対処法がわかって、前に進んでいければ、悩みはなくなる。こういうふうに考えられます。

ここで重要なのは、原因がどこにもないことです。みなさんが「悩み」を解消するといった場合、「悩みの原因を取り除かないと、悩みって解消できないんじゃない?」と、99パーセントのほとんどの人が思っていると思うんです。

だけど実は、悩みの原因を取り除かなくても悩みは解消できるんですね。「借金1,000万円あるけど超ハッピー!」という人が悩んでいますか? というと、悩んでいないですよね。

言葉にできない=ストレスが掛かった状態

悩みの具体的な対処法に行く前に、そもそも言語化とは何ですか? ということをもう1回言いますと、「言語化」ってもともとは心理学の用語なんですね。メンタル(疾患)の患者さんとかは、「つらい」「苦しい」「どうしよう」「何で苦しんだろう」「わかんないな」という状態にあるわけね。それを言葉にできない。

例えば、「自分って人前に出るとすごく緊張しいだな」ということを言葉にできたら、「そうか。人前に出て緊張するのがつらい原因だった」とわかるので、「じゃあ、人前に出ないようにしよう」「いや、人前に出る練習をしよう」とか、対処法も全部わかってくるんですね。

だから、言葉にできないと原因もわからないし、現状もわからないし、整理もできない。感情もうごめいているだけで、「よくわからん」という状態ですが、もし言葉にできたら「そういうことか。じゃあこうすればいいんだ」というふうに、すべて解消に向かっていきますよね。

言葉にできないというのは、みなさん方も常に経験していると思うんだけれども、「なんかつらいんだけど、なんでだろう?」という状態は、つらい・苦しい状態です。つまり、非常にストレスが掛かった状態ですね。

それを言葉にして言えるだけでスッキリするんです。癒しなんですよ。だから、おしゃべりをしたらスッキリするでしょ? あと、いろいろ愚痴ってもスッキリするかもしれませんけどね。