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新しい価値の創造と才能をマネタイズすること(全6記事)

週末だけの開催ではなく、毎日、全国の飲食店をこども食堂に 相対的貧困や子どもの孤食に向き合う、フードテックの取り組み

東京・立川を拠点に起業に関連したさまざまなイベントを開催しているStartup Hub Tokyo TAMA。本記事では、CDセールス8,000万枚以上の人気音楽プロデューサーでありながら、起業家としてフードテックGigi株式会社を立ち上げた今井了介氏が登壇したイベントの様子をお届けします。相対的貧困や子どもの孤食という社会問題や、こども食堂のデジタルプラットフォーム化について語りました。

企業・社員・飲食店の共存共生

今井了介氏(以下、今井):(飲食店を社食にように利用できる)「びずめし」は最近コンビニでも使えるようになりましたが、20万店舗ぐらいで使える。まあだいたい地の果てまで行っても、何がしか食事がみんなに均等に提供されますよというサービスです。

司会者:すごい。

今井:どういうニーズがあるかというと、例えば東京の本社には立派な社食があるけど、大阪、福岡、札幌、名古屋のブランチには社食がなくて、社員全体から見た時に、「福利厚生になんか格差がある」って。

司会者:そうですね。公平じゃないみたいな。

今井:不満につながったり。あとリモートワークが増えて、そもそも会社に行かないので、社食があってもありつけるタイミングがない。

それから、これだけリモートが当たり前になった時代で、今から社食を作るのもちょっとコスパが悪いのではないか。SDGsをうたう企業が社食でフードロスを起こしちゃうこともあって、非常にもったいないんじゃないか。

それから「社員においしいものを食べてほしい」とか「健康経営」でも、食事で解決できる問題はあるんじゃないか。企業は社員満足度を上げることができる。地元の飲食店とつながることで「地元の経済を地元の企業が回していこうよ」となる。

社員満足度が上がることで、採用コストや離職率の軽減につながっていく。社員さんは食事手当がつくので、もちろんうれしいですよね。あとは自由な場所で食べられる。先ほどから口酸っぱく言っているように、飲食店の手数料はゼロですから、飲食店も当然うれしいわけですよね。

こういった地域で、社員さんと企業さんと飲食店が共存共生する社会を作っていくことが1つの目標になっています。

使い方は本当に簡単です。社員さんは自分のスマホで「びずめし」に登録されている近くのお店を選んで出向き、食べ終わったらこのチケットを消し込むだけです。これだけでもう食べれちゃうんで、社員さんにとっても非常に楽な仕組みです。

相対的貧困や子どもの孤食という社会問題

今井:今日一番話したかったのは、実はここなんですが、ここまででもう30分以上経っちゃったんですね。すみません。これが今日一番話したかったこと。テストに出ます(笑)。

2023年7月から「こどもごちめし事業」を全国的にかなり大きく展開する予定です。私たちは子ども食堂のデジタルプラットフォーム化、DXと呼んでいます。そもそも「こども食堂」という言葉自体は聞いたことありますかね? 新聞などの報道でも、今よく聞くワードだと思います。

日本はすごく豊かな国だと思われがちですが、実は7人に1人が相対的貧困だと厚生労働省が調べを出しています。けっこう多いですよね。ちなみに貧困の定義ですが、一応世帯年収が300万円以下ですと貧困のゾーンに入ると、国が定義しています。

あとは隠れ貧困という言葉があるんですが、生活コストが高い都心に住んでいたり、パパ・ママで世帯年収は500万円はあるけど、子どもが5人いたりする場合。子ども1人あたりで使える額も変わってくるでしょうし。

そういった単純に世帯年収だけでは見えない隠れ貧困が、実はすごく深刻であると言われています。それから一人親家庭の貧困率が48.1パーセントという統計も出ています。

さらには孤食の問題。パパ・ママがお仕事に出ちゃって家で一人寂しく食事をしている子が、全国に22万人ぐらいいると言われています。これも非常に社会問題になっています。

今、全国でこども食堂がどんどん増えています。毎週土曜日にパパ・ママが自分たちで食事を作って近所のお子さんを呼んで集めて、セルフオーガナイズドで運営しているところが多いんです。

ボランティアでやっているので人手が足りない、自分たちの資金を持ち出しでやっている方が多く、資金が不足しがちで、毎日の開催は難しい。平日は働いていらっしゃいますから、貴重な休日の土曜日を使ってこども食堂とやられています。

こども食堂のデジタルプラットフォーム化

今井:その方々の想いやボランティア精神は、とても美しいしすばらしいことであるのは間違いないんですが、毎日食事が提供できないのはけっこうクリティカルなところがあります。

そこで、私たちはさっきの社食と同じく、これを仕組み化していこうじゃないかと、この6月に新しいNPO法人を立ち上げます。名前を「Kids Future Passport」と呼んでいます。例えば「こども食堂を応援したい」という協賛企業さんや支援者さん、自治体さまからは補助金やふるさと納税をこども食堂に使ってもらって、食事代を寄付いただくという導線です。

お子さまは中学生以下であれば、先ほどの孤食の問題もあるので「登録されたいろいろな飲食店でご飯が食べられますよ」というかたちになります。スマホの消し込みがあるので、できればお母さんと一緒に行っていただきたいところではありますが、地域の飲食店に行くと、無料でご飯が出てきます。

なぜ無料で提供されているかというと、寄付を原資に私たちが飲食店に食事を分配するからです。これによって地域の飲食店やお子さんのパパ・ママから、支援者さんに対して「寄付をいただいてありがとうございます」という感謝の気持ちが起こる。こういった流通も含めた全体の仕組みを「こどもごちめし」と呼んで、この6月から大きく取り組んでいこうと考えています。

こども食堂でボランティアが何十人も動いているような状態だと、どうしても運営コストがかさみますが、それをデジタルプラットフォーム化することで、10パーセントの手数料だけで、残りの90パーセントが子どもたちの飲食代になるというNPOを作ろうと思っています。

今あるこども食堂だと会場は公民館や公共スペースですが、それが地域の飲食店になります。人手がボランティアだったところが「必要なし」に。飲食店では来たお客さまにふだんどおり食事を提供するというフローなので、エキストラな人手や人材がいらないということで(スライドに)「必要なし」と書いています。

開催頻度も飲食店さえ開いていれば、自分が行きたい日にどこかに行けるわけですね。資金的にもみなさんの手弁当で出していたものが、寄付や協賛、自治体の財源で、先ほど申しあげたとおり90パーセント以上がお子さまのもとに届くので、経済効率も非常に高い。

衛生面でも、パパ・ママが自分たちで食事を提供しているのは本当にすばらしいことだけど、やはり夏場の食中毒や火の元、どうしても素人が作って提供するのにはリスクがあります。

それに対して飲食店は基本的に、調理師、開業免許を含めて、きちんと衛生士がいるかたちで運営されているはずなので、安心じゃないですか。飲食店を使ってデジタルプラットフォーム化することで、解決できる問題がいろいろあるんじゃないかと考えています。

2年間で5万7千食を提供した事例

今井:先ほどの「びずめし」と同じで、デジタルチケットを登録いただいたパパ・ママは、スマホを持って飲食店に行って、支払いが終わると協賛いただいた企業さまのロゴが(スマホに)表示されます。自分たちのSDGsやお子さまの支援の取り組みが表示されることで、企業さま側も協賛しやすくなる。

お食事提供の際は、企業のロゴがスマホの中に掲示される。パパ・ママ、お子さま、飲食店の方が企業ロゴを目にする機会をたくさん創出できることで、「SDGsの取り組みしていますよ」という企業のCSRにもなります。

そして利用者であるお子さま、パパ・ママが、ご飯を食べたら「おいしかったです」とご飯の写真を上げて(フィードバックを)送ると、次の1食がまた食べられるようになります。

これは、協賛者の方々に「どんな子たちがどんな気持ちで食べたとか」というレポートを年に4回出すんですが、唯一集めにくいのが子どもたち、パパ・ママのフィードバックなんです。個人の飲食店でこども食堂をやっていたら、ポストイットに子どもの感想を書いてもらったり集めやすいんですけど。

なので「感想を書いてくれたら次の1食も召し上がれますよ」とすることによって、継続的にお子さまに食事が行く。協賛者さまはフィードバックを受ける機会を得られるということですね。(食事をした子どもたちが)メッセージを書くことで、再度「こどもごちめし」をいただける仕組みにしています。

NPOを作る前から私たちが取り組んできた中で、一番大きな事例があります。茨城県境町という人口2万人くらいの町で、この2年でふるさと納税を使って、地元の飲食店さんにこども食堂として5万7千食を提供していただいています。

パパ・ママが土日に自分たちでやっていたら、絶対この食数の提供はできないですよね。2万人ちょっとの町なので実食値ではないですが、お子さんの数でいったらおそらく2,000人とか2,500人くらいだと思うんです。

2年間で5万7千食を提供できるのは、手弁当ではなくてプラットフォーム化することによって生まれた食数、流通量だと思っています。茨城県境町のような事例を、これから全国で展開したいと思います。

万が一これを見てくれている自治体の方がいたら、コスト負担がかからないでできる仕組みなので、ぜひコンタクトいただきたいと思います。ちなみに、内閣府からもこの仕組みが一番サステナブルでいいのではないかと優秀事例として表彰していただきました。

三方よしの仕組み

今井:こういった食に係わるSDGsの問題を、飲食店を通じて解決しようと取り組んでいるのが、私たちの事業です。先ほど言ったとおり、ギフトで来ても、社食で来ても、こども食堂で来ても、飲食店はこのチケット盤面だけ見て「はい、お客さんが来た」ということで対応してくれます。

悲しいことですが、こども食堂の会員証をカードにすると、ほかの子どもたちからいじめられちゃうんですって。あえて嫌な言葉を使うと、「お前んち貧乏なんだろ」と心無い言葉を子ども同士で掛けちゃうんで、そういうものがなるべくわからないようにしています。

それがいいところの1つです。スマホを持って消し込むだけ。PayPayなどで支払っているようにも見えますし、ギフトで食べに来た人、社食で食べに来た人、まったく見分けがつかない食べ方ができる配慮もできています。

飲食店(の手数料が)ゼロで参加しやすいため、「ごちめし」は非常に新規性が高い。音楽で、今まで誰もやっていなかったことをやりたいという「新規性」と同じです。何かの置き換えのDXではない。

予約やデリバリーの置き換えとは違った、新しい価値をギフトする。お食事をギフトするという新しいマーケットにタッチする。飲食店の手数料がゼロというところも新しいと思います。

先ほど言った地域貢献や社会問題の解決が唯一できるプラットフォームでもあります。そして飲食産業や飲食文化の味方であろうと、三方よしの仕組みも生み出しています。「ごちめし」は新規性や新価値創造を重視した事業となっています。

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