「人間性がいい人」と「運がいい人」の行動は似ている

福田聖輝氏(以下、福田):稲盛和夫さんとか、中村天風さんとか、栗山英樹さんとか、いろいろな方が格言を言われています。中村天風さんは、結局心の持ち方1つが人生の運命を決定するんですよと、自分の心の持ち方がいかに大事かと言われていますね。稲盛さんも同じようなことを言われています。

じゃあ運と人間性の関係ってどんなことがあるんだろうと考えてみますと、運がいい人に共通する特徴がいくつか挙げられているんですね。

いろんな方がいろんなことを書いていますけれども、やっぱり笑顔であったり前向きであったり、自分を大事にすることであったり。夢や希望を持っているとか粘り強くがんばるとか、気遣いや感謝。こういったことが挙げられるんですね。

今度は人間性がいいと言われる人の行動にはどんなことがあるかというと、思いやりの心だとか、気遣いだとか、愛情だとか。約束をきちんと守るとか、感情の起伏が穏やかだとか、前向きでポジティブだとかですね。周りのことを考えるとか、向上心が高いとか、目標が明確だとか、あとは感謝の気持ちを持っている。

運のいい人の行動とけっこう似ているということが、だんだんとわかってきた。

もう1つ、IQ、EQ、SQとかありますよね。IQはご存じのとおり知能指数です。EQは心の知能指数と言われていて、感情面とか情緒面において健康で、かつ人間関係を適切にこなせる人格的な魅力です。これはトレーニングによって高められると言われています。

このEQが人間性に大きく影響している。だから同じようなもんじゃないかなと言えるんじゃないかなって。特徴的に言うと、運のいい人の行動と、人間性の高いEQとかSQの高い人の行動はほとんど一緒なんですね。

だから、やっぱり人間性の高い人が運を引き寄せられる。EQの高い人が運を引き寄せられる。そういうことになるんじゃないかというのが私の考えです。

「人間力」が高い人とは

それからもう1つ、人間力という言葉があります。みなさんもよく聞かれると思いますが、実は私も言葉は知っていましたが、それを内閣府が2003年に定義しているとは知らなかったんですよ。

内閣府による人間力の定義では、知的能力と社会・対人関係力、それから自己制御をバランスよくできる人が人間力が高いと言われています。

ここに知力についていろいろ書いてありますが、全体的に言うと、知力はIQの部分だと思うんです。

やっぱり国の仕事ですから、内閣府がこういうものを出しますと、(それに対して)経済産業省や厚生労働省、文科省はこういうことをやりますと出ているんですね。

文科省から出ている学習指導要領の中に「生きる力」という項目があるんですね。これはまさしく人間力で、国としてもこういうのが大事ですよと言っていますし、学校でも生きる力は大事なんですよと教育していかなくちゃいけない流れになっているんです。

2003年に(内閣府から「人間力戦略研究会報告書)が出てから、いろいろ調べてみたんですけども、その後どうなったのかがよくわからなくて。やっぱりここはもう少し力を入れて取り組んでほしいと思っています。

人間力は「能力」と「人間性」の掛け算

福田:ちょっと早口でおわかりにならなかったかもしれないですが、私が考える人間力は、やはり能力と人間性の掛け算なんじゃないかな。稲盛さんが言っている掛け算の理論によく似ているんですけども。

能力が縦軸にあって、人間性とか人間的な魅力、EQ・SQの部分が横軸にあります。例えば能力が8ぐらいあっても、人間性的にはいまいちだなぁ、もう少し人に優しくしてやればいいのになぁとかね。もっと人に感謝が必要なんじゃないかとか思われる人がいる(平均以下の3)。この人の人間力は、24ぐらい。

一方、能力は平均的で5ぐらいしかないけど、あの人はやっぱりみんなから好かれてすばらしいよね、だから人間力は8ぐらいあると。すると、この人の人間力は40ぐらいあると言えるんじゃないかというのが私の考えです。

これを、みなさんの近くのいろんな人に当てはめて考えてみてくださいよ。だいたい当たっているんじゃないかと、みなさんも感じると思いますから。

能力は先天的なものもありますし、伸ばそうとしてもなかなか伸ばせない部分もありますが、この人間性というものは、自分が気をつけていけば伸ばせる。そうすると総合的な生きる力は上がってくるんじゃないかと思っているわけです。

EQの高さと仕事能力の高さには相関性がある

福田:さっき人間性とEQが同じだという話をしたんですけれども、社会で必要とされるEQには、当たり前ですが勤勉性とか好奇心とか、コミュニケーション力、協調性、セルフコントロールがあります。いろんな方がこのEQの重要性、人間性の重要性を言っているんですね。

少しだけ紹介しますと、リーダーシップ研究の権威でありますウォーレン・ベニス氏は、EQはIQや専門知識よりも重要な要素で、仕事の成功理由の80パーセント以上はEQによるものだと。IQが高いからといって特別な存在にはなれないけど、EQが高い人ならば特別な存在になれるというようなことを言っています。

それから、EQの高さと仕事能力の高さには相関性があると言われている方もいます。また、日本電産(現・ニデック)の会長・永守(重信)さんは、IQよりもEQのほうが大事であり、EQの高い、もしくは高くなる性格の人を選んだほうが会社はうまくいくと言われていますね。

決して私がIQが低いからこんなことを言っているわけじゃなくて、やっぱりEQは非常に重要だと言われています。

瀧澤中さんの言葉にもありますけども、優れた才能があっても人生や仕事に失敗する人と、特別な才能がなくても大きな仕事を成し遂げる人の違いは、この人についていこうと思わせる人間的な魅力。すなわち、人望力の差にあるということです。

渋沢栄一さんは「私は人を使う時は、知恵の多い人より人情に厚い人を選んで採用している」と。中村天風さんは「人間が生きていくために一番大切なのは、頭の良し悪しではなく、心の良し悪しだよ」「人としてこの世に生まれて一番大切なことは、人に好かれる人間になることだよ」というお話もされています。

「人間力」を指標に入れた、トヨタ自動車の人事評価

福田:人間力の話に戻りますと、最近記事で見たんですが、トヨタ自動車が2020年から人間力を人事評価に入れているらしいですね。

具体的には、自分以外の誰かのためにがんばっているかとか、自分はできていないと理解し、学ぼう、成長しようと努力をしているか。相手を思いやり、当たり前のことを当たり前のようにできる。これを4段階で評価するそうなんですね。

2022年に、その結果がどうだったかをインタビューされた方がいるんです。やはり(導入の背景としては)、謙虚に周囲から学び仲間作りをして乗り越えていかなくてはならない、その基礎力として人間力を評価しましたと。

その結果、周囲から頼られ、信頼される人物になるための意識向上、努力促進が組織内に顕在化するとともに、職場活性化につながっていますとお答えされていました。この人間力が、他の会社でも評価に取り入れられていくのかなぁと思っております。

今まで長々と早口で話してきましたけども、人間力が大事ですということは、もう十分誰でもおわかりになっていると思います。

人間力を高めるために大切にしてきた12項目

福田:私は若い頃から(生きていく)途中でプラスしていった、これだけは生きていく上で大事だよねという項目が12項目持っています。その項目をみなさんにご紹介して、参考にしていただければと思います。

私がなんでこれに取り組もうと思ったかというと、私は20代後半ぐらいの時に、半年ほどデール・カーネギーのセールス・コースを受講していたんですね。

その時に、人をどうやって動かしていくのかについてのいろんな法則をずっと学んでいました。それを1個ずつでも実践していこうと考えていまして。

この12項目は、私が完全にできているものではありません。こうありたいなと思って、人よりもちょっと努力したかなという程度のものなんですが、やっぱり大事だなと思っております。

それは、一つひとつを大事に、一人ひとりを大切にしましょう。考えることは重要ですよ。仕事には疑問を持ちましょう。経験することは大事です。挨拶も大事です。ありがとうと感謝する気持ちが大事です。

人が嫌がることも進んでやったほうがいいですよ。人の悪口は言わない。笑顔は大事です。それから情熱と継続、謙虚に、という12項目です。

仕事の課題・問題は放置しない

福田:1個ずつお話ししていきたいと思います。1つ目は、一人ひとりを大事にする。仕事に課題や問題はつきもので、いろんな問題が起きます。その時に、そういった問題を放置してはダメだと思うんですね。

いろんな方が上司からこう(言われて)自分で考えるわけですけれども。やっぱり自分の問題として考えていく習慣をつけることは非常に大事だと思うんですね。

だから、例えば隣の部署で起きた問題であっても、もし俺だったらこういうふうに解決するんだということを、何かあるたびに考える習慣をつけていくことが、非常に大事なんじゃないかと思っています。

一つひとつについてきちんと自分の考え方を整理し、解決策を作り上げていく。そういう習慣をつけていくことが、後々非常に大切になるんじゃないかと思っています。

2つ目の一人ひとりを大事にするということは、いろんなところで言われています。人は性格も感性も価値観もそれぞれ違うわけですよね。そういう一人ひとりにどう向き合うか、どう真摯に受け止めて対応していくか。これを積み重ねていくことが非常に大事だと思います。

例えば私も、今でもいろんな方が相談に来てくれますけども、きちんと一人ひとり対応しながらお話をさせていただいています。これについて、高倉健さんのおもしろいエピソードがあります。

薬師丸ひろ子さんが初めてテレビに出演した時、高倉健さんから「がんばってるな」と声をかけられて「その一言で、私はここまで伸ばされたんですよ」と。

高倉健さんは、若手のスタッフにもよく声をかけていらっしゃったそうなんですね。励ましの言葉をかけられた。その一言で、スタッフのみなさんは、高倉健さんと一緒に仕事をしていい映画を作るんだとモチベーションが上がったんだと話されていました。まさしく、そういうことだと思うんですよね。

「一人ひとりに向き合う」ことの重要性

福田:それから、これはYahoo!のニュースで見た心温まるエピソードです。当時、鹿児島県在住のある少年が「どうしたらパイロットになれますか」といくつかの航空会社に(手紙を)送ったらしいんですね。

スカイマークでは、ある機長さんに「あなたがお答えしなさい」と(返事を)割り当てたんだそうです。その機長さんは手紙を書いたり、メールをやりとりして、その少年が小学校から航空大学校に行かれるまでずーっとフォローされていたらしいんです。

その少年は、いつしか航空大学校を卒業し、パイロットとして内定が決まったと。そして、その機長さんが操縦している飛行機に(少年が)乗られていることをアナウンスされたというエピソードがあって。

「小学校6年生だった少年が、今この飛行機に乗っているんです」というようなアナウンスをされ、それが非常に話題になりました。これはまさに、一人ひとりをどこまで大事にしていくかという話じゃないかと思います。

私もよく気をつけていることとしては、例えば採用の面接をする時に、必ず褒めるようにしているんです。「あなたはうちの会社に受かるかどうかわからないけども、あなたの声は非常にいいから伸ばしてくださいよ」とか、そういう話をしとくんですね。

社内の試験でもそうなんです。そうすると、後々、例えば私が支社長をしている時に「こういうことを面接の時に言われたんです。あれがすごく励みになったんですよ」ということを言ってくれる人がいるんですよね。だから、そういった小さなことでもやっていくことが必要だと思います。

人間は諦めずにずっと考えていなければいけない

福田:それから、3つ目は考えることの重要性です。仕事の中には問題点がいっぱいあります。考えるとは、知識と経験で論理的に組み立てていくことだと私は考えているんですけども。

いろんな問題が起きても、やっぱり解決できない問題はあまりないんじゃないかと思っているんです。その原点は、私の夢の中と書いてあります。嘘みたいな本当の話なんですけども。

私が小学校3年生ぐらいの時に、ぜんまい仕掛けのおもちゃがバーンとはじけて壊れちゃったんですね。どうやっても組み立てられないんですよ。もう、そのことをご飯を食べる時もお風呂に入る時もトイレに行く時も、寝る時は枕元に置いて、1日中考えに考えていたわけです。

ずっと考えていたら、3日目の晩に夢の中でその組み立て方が出てきたんですよ。それで朝起きてやってみたら、本当に組み立てられたんです。このような、人間はずっと考えていたらなんらかの違う力が出てくるんじゃないかなという経験をし、考えることは本当に重要だと思っています。

これは私が日本郵便㈱新東京支店の支店長をやっていた頃の話です。1日何千万通という受取人払の郵便物がくるんですね。受取人払の郵便物は、全部点検をして通数を数えて、100枚ぐらいずつを束にして配達して、その料金をもらうわけです。それを全部人の手でやっているのですよ。

でも、我が社には郵便区分機という立派な機械があるわけです。これは数字も読めるし、漢字も読めるし、通数も数えられる。普通は郵便番号を読んで、郵便番号順に入っていくんです。

私が考えたのは、数字や漢字が読めるなら、間違った郵便物は除けばいいだろうと。受取人払は同じところ宛の郵便物なので、違うところにきた郵便物は全部除いてしまえ。中身をチェックして100通ずつ区分箱に入れてしまえ、というようなことを考えたんです。

そしたら、人の手で(誤区分検査と100通ずつの査数処理を)1時間に2,000通ぐらいしかできないのが、この機械で1時間に5万通できるわけですよ。その設計を考えて、業者に頼んでプログラムを作ってもらって、今区分機にインストールされています。一応特許は取ったんですよ。

やっぱり人間って、考えていくとなにかしら解決策は出てくるんじゃないか。だから、察知するとか、疑問に思うとか、そういうことをやっていくことが必要なんじゃないかなと思っています。

ここでも格言をご紹介すると、稲森和夫さんは「強い情熱とは、寝ても覚めても24時間そのことを考えている状態ですよ」と。松下幸之助さんは「寝ても覚めても一事に没頭するほどの熱心さから、思いもかけぬよき知恵が授かるんですよ」というようなことを言っています。

だから、やっぱり人間は諦めずにずっと考えなくちゃいけないと思いますね。

「自分がベストを作り出す」という考えで仕事に向かう

福田:4つ目は、疑問を持って工夫をする。これは考えることとけっこう似ているんですけれども、やっぱり疑問を持つことは非常に大事なことだと思います。

言われたからやるんじゃなくて、それが本当にベストなんだろうかと常に考えていくことですね。私たちは先輩から教わったり、(やるべきことが)マニュアルに書いてあったりするわけですけども。

でもそのマニュアルだって、それが本当に一番いい方法なのかはわからないわけですよね。もしかしたらもっといい方法があるかも。私が仕事を見る時は、それが先輩が作り上げてきたベターな仕事の方法だけども、ベストじゃないと考える。

「自分がベストを作り出すんだ」という考え方を持って仕事をしていくとおもしろいかなと。その仕事に疑問を持って改善していくこと。これだけが、私は仕事を楽しくする唯一の方法だと思うんですね。

だから、つまんないっていうと申し訳ないですが、事務的な仕事でも、ちょっと工夫してやっていくと改善される点があるわけですよね。

みなさんもご存じのとおり、トヨタ自動車の「カイゼン」は有名ですよね。QC活動とかいろんなことをやられていて、今でもその提案を募集されているわけです。

『トヨタ自動車75年史』でその推移値が出ていて、1986年には1人47.7件の提案があったそうです。2011年には、7.67件の提案があった。これだけ改善し尽くされた会社であっても、まだこれだけの改善余地があるんですよね。

仕事っていうのは、本当に改善する余地がいっぱいあって、それを考えるから仕事がおもしろいんだと思います。

判断力には、知識と経験の両方が必要

福田:それから5番目として経験は大事という話をしますが、私は、判断力というのは知恵と経験を足したものだと思っています。だから、知恵だけでは判断できません。また、経験だけでも判断できません。この両方がないとだめだと思うんですね。

経験することによって視野が広がったり自信がついたりして、いろいろな判断基準ができると、さまざまなところで言われています。でも、経験がなければ、瞬時の判断はできないと思います。

(スライドを示し)下のほうに小さく書いてありますけど、私は実は50歳を過ぎてから本社にいったんですね。そこには、本当に優秀な方がいっぱいいらっしゃるわけです。そんな中で、なぜ私があのようなポジションにいったかというと、経験があったからなんです。

私はずうっと現場を経験をして、ある程度勉強もしてきました。ですから、何かあった時にはかなり正確な判断ができたんじゃないかなと思っています。それを見て、「あ、こいつはなんだか使えるんじゃないか」ということになったんじゃないかなと思うんですけども。

ですから、私が本社のどんなところで仕事をしてもまっとうにできていたのは、経験を積んだことで、ある程度瞬間的な判断ができたことが大きいのではないかなと思っているところです。

いろんな仕事上の経験はありますけれども、私はこんな経験もしたんですね。あんまりしないほうがいい経験だったんですけども役には立つんですよ。

実は私、橋の写真を撮るのが趣味で、車で全国を一人旅しているんですね。九州からずーっと高速道路で帰ってくる時に、京田辺パーキングエリアというところで運転席で少し仮眠をしていたんですよ。

運転席で仮眠しているにもかかわらず、助手席のガラス窓を叩き割られて、中の荷物を全部持っていかれちゃったんですよ。免許証もお金もカードもなくなったので、警察でいろいろな手続きをしていたんですけど、結果的に、車はレッカーで東京まで運んで、私は新幹線で帰りました。

一文なしでどうやって帰ろうかなと思ったんですけども、いろんな工夫をして帰りました。こんなこともあったんです。だけど、こんな経験でもやっぱり学ぶことはいっぱいあるんですよね。

ですから、家族からは止められていますけれども、私はこれからも全国を一人旅すると思います。その時のためにはやっぱり、こういう経験も必要かなと。必要じゃないかどうかわかんないですけど、しないようにしたほうがいいかな。