2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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松下雅征氏(以下、松下):私から5つの質問の中で、「社会でお金を稼ぐ」と「自分の感情との向き合い方を」今まで聞いてきたんですけど、4つめに書いてる「最も判断に迷った進路選択」を聞いていきたいなと思ってます。
先生のプロフィールを拝見した時に、この受験業界で長年結果を出されているにもかかわらず、独立されて、今の活動をされているところが一番、個人的には悩んだ進路選択だったんじゃないかなと思うんですけど、どうですか?
西村創氏(以下、西村):いや、私は今まで迷ったことないんですよ。「どっちかなぁ」と迷うことがなかったですよね。
松下:今までの話を聞いても、行動までが非常に早いですもんね。
西村:人生であまり迷ったことが、進路にかかわらず、特にないんですよね。「もうこっちしかないよね」って自分の中で思ってしまいます。
松下:なるほど。長年受験業界で、シンガポールや香港での経験も経て、結果を出されていて、今は独立されていると思うんですけど。今の働き方に変えようと思ったきっかけは何だったんですか?
西村:とりあえず、大手の栄光ゼミナールとか早稲アカ、予備校の駿台・河合塾と、全部じゃないけど一通りの大手を経験して。講師から教室長と、教師をマネージメントするエリアマネージャーまで一通り経験しました。
それ以上になってくると、部長みたいな感じで、実際に生徒の授業は持たない感じになってくるんですよね。だから別に、なんか塾業界にいる必要がないと思いました。
西村:生徒に関われる仕事の中での、生徒に関わること以外で何か他にできることあるかなって考えた時に、一社員としてなんかやりきった感があったんですよね。
同時に、本の執筆や講演会などの副業の収入が、塾の給料よりも多くなってきていたんですよね。ある日、塾の人事部から呼ばれて「副業禁止なんだよね」って言われて。
松下:なるほど(笑)。
西村:「副業、目立ってやりすぎだから辞めてもらわないと」と言われました。「辞めよっかな、副業」と思って、勤めていた河合塾を辞めましたね。
松下:(笑)。なるほど。人事部的には驚きだったでしょうね。「そっち、辞めるんか!」ってなっちゃいそうですよね。
西村:そうですね。自分の中では本業は、会社員じゃなくて、西村という名前で活動してるほうが本業になってきてたんですよね。
松下:今、さらっと言いましたけど、本業よりも副業が収入が多くなることは、多くの方にとってそんなにないと思うんですよ。あらためて、いつからその副業を始めたんですか。社会人1年目のDay1のタイミングではたぶんやらないと思うんですよ。
西村:そうですね。塾講師のキャリアの最後のほうで、河合塾に入社してからぐらいですね。
松下:ある程度、シンガポールや香港の経験を経て、ご自身の中でもだいぶ余裕と言いますか、一通り、塾業界の中では働き方のペースとかもつかめていってから、副業を始められた感じなんですね。
西村:そうですね。それだけ経験すると新しいことがなかったんですよね。「これ、やれるか」と言われても、「もう散々やったよ」ということしかなかったんですよね。その余力のある分を、できることをやっていこうと思って、副業を始めたんですね。
松下:なるほどですね。
松下:副業って、具体的にその時は何をされたんですか。
西村:まずはWebメディアで受験教育系の記事を書き始めましたね。受験教育に関するコラムを書き始めたのがスタートですね。
松下:そこから広がって、どんなことをされたんですか。
西村:その記事に目を留めてくれた出版社の編集者から、「本にしませんか」と言われて、本を書いて。だいたい1年に1冊ペースで本を執筆してましたね。
松下:いや、すごいですね。もしかしたら伝わらないかもしれないですけど。1年に1冊のペースで本を出すって、けっこうしんどいじゃないですか。
私も、今回の書籍『13歳からの進路相談』が処女作なんですけど、制作に1年近くかかりました。それをずっと続けるって、相当な胆力というかエネルギーだなって思います。副業をやろうと思って続けてるエネルギーはどこから湧いてるんですか。
西村:そうですね。例えば、会社で嫌なことってあるじゃないですか。上司と考えが合わなかったりした時に、「この上司の言うことを聞かないと、ここではやってけない」と思うと、すごく窮屈じゃないですか。だから、いつでも辞められる状態にしたかったんですよね。
西村:ストレス解消とか、私はあんまり好きな考えじゃなくて。お酒も飲まないし、居酒屋で愚痴を言ったりしたことがないんですよ。それをやるぐらいだったら、家に帰ってすぐパソコン開いて執筆する。
そうすることによって、自分の収入も上がるし、サラリーマンじゃない個人の名前でも広がっていくし、外的な自立につながっていくんで。そっちのほうが、自分の中のストレス解消みたいな感じなんですよね。
松下:ある種、ここの会社でしか生きていけない、働けないということではなくて、別の道もあるけど、自分はここの会社が好きでいるんだと思える。それが、ストレス軽減にもなるという話だったと思うんですけど。
実は今の話、私の『13歳からの進路相談』の中でも、「選択のハンドルを握る」というフレーズが出てくるんですけど、その話とすごく近いなと思っています。
私が今回の書籍を執筆するにあたって重視したのは、社会を知る。自分を知る。最後に社会と自分の重なりを選んで選択するということでした。
選択というテーマについて、科学的な文献だったり、いろいろな研究を読んでいたんですけれども。どうやら人間を含めた動物は、自分で何かを選べる状態が好きというか、逆にこれしか選べないという状態になると、非常にストレスを感じるらしいんですよね。
動物で言うなら、例えば野生の環境にいるほうが……どれだけ環境のいい動物園を用意したところで、多少環境が悪くても、どこにでも行ける、自由に動けるという野生のほうが、ストレス度合いが少ないという研究が出てたりします。
人間も同じで、どれだけ役職が上の人でも、自分はこの会社の部長や社長になるしか働けないと思うよりも、たとえ一社員だとしても、自分にはこういう選択肢もあるけど、好きでこの仕事をしてるんだって思えるほうが、ストレス度合いは少ないと言われているらしいです。
松下:にしむら先生の、この進路の選び方だったり、副業を始める時のエピソードを含めて、常にご自身で、今いる自分のこの道は自分で決めている意識を……無意識かもしれないんですけど、大切にされている印象を受けました。
西村:河合塾も、最初2~3年ぐらいいればいいかなって思ってたんですよね。今までも、だいたい2~3年ぐらいで他のところに移ってたので。ただ、河合塾に入って、副業の収入が上がってきました。2~3年目ぐらいで、いつでも辞められる状態になったんですよね。
そうしたら不思議なもので、逆に辞めたいと思うことがまったくなくなるんですよね。結局10年以上勤めてですね。本当に居心地が良くなったんですね。
松下:おもしろいです。外部要因として特に何かが変わったわけじゃないですよね。
西村:上司も変わらないし、言われることも大して変わんないんですけど、何を言われても穏やかに受け止められるんですよね。
松下:なるほど。まさに逃げ道をあえて用意すると言いますか。その選択肢を作ることによって、逆に今いる道自体が変わらなかったとしても、それを受け止める自分の気持ちの部分が変化するということなんですね。
西村:はい。
松下:ありがとうございます。
松下:お時間も残り30分ぐらいになってきたので、質疑応答に移っていきたいんですけど、最後に1つだけ。
「もし、私が13歳なら」が今回のイベントテーマなんですけど。今の知識、今のにしむら先生の状態で13歳に戻った時、「これから進路どうしようかな」と考える時は、どういうことを考えます? どんな行動をしそうです?
西村:やっぱりあれですよね、サイル学院入学ですよね。
松下:ありがとうございます(笑)。そんなに気を遣っていただかなくても大丈夫ですよ(笑)。
西村:いや、本当に冗談でもなくて。身の入らない受験勉強してるふりをしていた時間が、すごくもったいなかったと思いました。もっと自由に選んでよかったなと。
世間の物差しに乗っかることができもしないのに、乗ってるようなふりをして、自分も騙して、そっちに向かってるみたいな感じに思い込んで。でも、できなくて……みたいな中で過ごしていたもので。
それぐらいだったら、受験勉強しないで、好きな読書をもっといっぱいして、いろいろな世界があるってことを知って視野を広げたかったです。そのほうが、いろいろな将来に有益だったなと思いますね。
松下:うれしい言葉をありがとうございます。勉強をしているふりをしているのが、1つのキーワードだなと思っています。
松下:私自身もある種(勉強をしている)ふりができて、それで結果がたまたま出た人だったので。高校も大学も、偏差値で、なるべくトップを選んでいったんですけど。にしむら先生と同じように授業がそもそもおもしろいって、最初はそんなに思ってなかったんですね。
もっと言うと、私の場合は勉強が好きだったんですよ。学ぶことは好きだったんですけど、テストのために暗記するとか、この瞬間のためだけに時間を使ってる感じがして。ずーっと違和感がありました。
ただ同時に、とはいえ私は学校に適応することができたタイプだったので、よかったんですよね。仮に勉強しているふりをして努力しても、私は偶然結果が出たんですけど、ぜんぜん出なかったこともあり得たなと思っていて。
そうなった時って、非常にしんどいだろうなと思います。私はそんな思いで今サイル学院を運営しています。にしむら先生が13歳に戻ってからという意味でも、ご自身の好きで得意だった読書をもっとたくさんやったり。
もちろん、今のにしむら先生も素敵なんですけど、ドラえもんの「もしもボックス」があったら、読書しまくって、見聞を広めたもう一人のにしむら先生のエピソードも個人的には聞いてみたいと感じました。ありがとうございます。
松下:時間にもなりますので、最後の質疑応答のパートに移っていきたいなと思っております。まず、事前にいただいた質問がいくつかありましたので、そちらをピックアップしながら、ご回答をお願いしたいと思います。
まず、中学生のお子さまを持つ保護者の女性の方からです。「一貫校に通う中2の女の子がいます。来年、文系理系の選択なんですが、どうやって希望進路を決めればいいかさっぱりわからず、ヒントをうかがいたいです」という話でした。
私の回答としては、さっきの進路選びの軸を見つけるためには社会を知ったり、自分の感情を知るのは大事というスタンスなんですけど、にしむら先生的にはどういう回答になりますか。
西村:シンプルに、文系科目と理系科目でどっちが得意かによりますよね。やっぱり結果を出せると、それがおもしろくなってくるんで。
関心があったとしても、結果が出せないと、やっぱりおもしろくなくなっちゃいますよね。自分にとって結果の出しやすい土俵で、常に勝負していくのが一つ大事かなと思いますよね。
松下:なるほど。私もこれまでのキャリアの中で、人のモチベーション、やる気を研究するような仕事にも就いていたんですけれども。
人のモチベーションってざっくり分けると、「やりたい」という気持ちと「やれそう」という気持ちの掛け算の総和なので、どちらかがゼロだと、もう片方がどれだけ高くてもゼロになっちゃうんです。そこがポイントだと、勉強している中で気づきました。
松下:私はどちらかといえば「やりたい」という気持ちを大事にしたいタイプなんですよ。でも、西村先生の言う「やれそう」という気持ちも、確かに無碍にはできないなと思っていて。多少の苦手とかであれば、「やりたい」という気持ちでカバーできる部分はあると思うんですけど。
明らかにできないのであれば、「どうしてそれをやりたいのか」という理由を深掘りしていき、別のフィールドを探す。西村先生が言うところの、「その理由だったら、商社じゃなくて、結果的に塾業界でも海外に行けたじゃないか」みたいな感じで、自分の活躍するフィールドを移すのもありなんだなと、お話を聞いていて思いましたね。
西村:そうですね。けっこう「好きか得意か」で迷う時ってあると思うんですね。好きなほうを選ぶか、得意なほうを選ぶかって、必ずしも両立できていない時があると思うんですよ。やはり好きなことで結果が出せないと、だんだん嫌いになってきちゃうと思うんですね。
私が一番好きなのは「世界の旅」なんですけど、旅行会社に勤めたいと思ったことは1回もないんですよね。自分がツアーリストとして活躍できるイメージがまったくないんで、やはり得意なほうとして受験指導を、と考えるんですね。
西村:あと、昔、小説家として自分の本を出したかったんですよ。小学生時代とか。
松下:そうなんですね。
西村:小説家になって自分の本を出すというのは、将来の夢だったんですよね。結局、小説家の道には今のところ行っていないですけども、得意な受験指導のほうに進むことによって、結果的に10冊以上の本を出しています。
だから、意外と得意なほうが好きなほうに近づいていって、夢が実現できて、満足感みたいなものが得られることってけっこうあるんですよね。
松下:なるほど。得意なことが好きなほうに近づいていくっておもしろいですね。私も実は中学生の時までマンガ家を目指していたんですよ。
西村:おお。
松下:マンガがすごく好きで。その夢は叶わなかったんですけど、今回の書籍は「マンガと図解でわかる」と謳っていまして、冒頭のマンガの絵はイラストレーターの方にお願いしたんですけど、ストーリーは全部私が考えています。
西村:(『13歳からの進路相談』のページを開きながら)これですね。
松下:そうです、ありがとうございます。間接的にではあるんですけど、経営者として今の学校を経営する中で、「マンガ家になりたい」という中学生の時にやめてしまった夢が叶ったので。
その瞬間は「できること」しか選べなくても、人生という時間軸で見ると、ずっと好きであり続けていれば、いつか「できる」が「好きなこと」「やりたいこと」に近づく。西村先生の言う「『得意なこと』『できること』を広げていくと『好きなこと』につながる」というのは、個人の経験としてもすごく思いましたね。
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