いわゆる“エリート”は、ビジョンを描くのには不向き?

榊巻亮氏:(DX案件のポイントの)1つ目で、「『スペースコロニーで人類を生活させたい』みたいなビジョンを描くのが大事。ここがないと本当に道に迷うので、描いてください」という話をしました。

続いて2つ目。じゃあビジョンを作るのは誰なのよ? と、そろそろ「人」の話に入っていきます。私はガンダムが好きなので、よくガンダムに例えちゃうんですが、イメージはアムロ・レイですね。わかる人にだけわかってもらえればいいです。

(弊社ではガンダムになぞらえて)ちょっと新しいことを言うようなタイプの人を「Newタイプ」と言ったりしています。「こうだったらいいのに」という思いがあるNewタイプがビジョンを描いてくれると、しっくりくることが多いなと思います。これが“アムロタイプ”ですね。

OldタイプとNewタイプを比較して考えると、Oldタイプはいわゆる従来型のエリート。問題解決能力が高い人ですね。今、組織で上のほうにいる方々だと思います。問題解決能力が高く、言われたことをちゃんとやって、任務を遂行する能力が高い。

口癖はこんな感じ。絵に描いたような優秀な人ですね。イメージは、ホワイトベースのブライト艦長。従来型エリートの人はめちゃくちゃ能力が高いし、プロジェクトになった時はこの人たちの遂行能力が非常にグッドなんですが、ビジョンを描くのはけっこう難しいなと思うんですよ。

頭のやわらかい「新参者」こそ、理想を描ける

一方で(Newタイプが)どういう人たちかというと、文句を言いがち、理想を描きがち……アムロっぽくないですか? 「ブライトさん、頭が固いな。もっとこういうふうにしていきましょうよ」「もっとこうなったら、みんな楽に戦えますよ」「なんでこうなってないんですか?」と、言うような人たちです。

「新参者」「よそ者」「若者」だったりと、別の言い方をしたりしますけど、ずっと同じ取り組みをしてきた人より、もしかしたらちょっと外れている人のほうがいいのかもしれない。こういう人が理想を描いてくれたりしますよね。

一言で言うと、Newタイプは「理想追求アプローチ」なんです。現状の問題解決に邁進するんじゃなくて、「もっとこうだったらいいのに」という理想を描くタイプの人。Oldタイプは「問題解決アプローチ」ですね。足元の問題を着実に変えていくタイプの人です。どっちがいいとか悪いとかじゃなくて、特性ですね。

最初に「DXはビジョン追求型ですよ」と言いましたが、Newタイプのほうが理想追求型ですから、どう考えても(ビジョン作成に)合いますよね。

Newタイプに「こんなビジョンいいですよね」と描いてもらいたいんですが、そもそも誰がNewタイプなのかわからない。Newタイプを探してくるのはすごく難しいなと思っています。

外の視点を持ち込む中途社員を活用する手も

どうやってNewタイプを見つけてくるのか、ちょっとだけお話しすると、日頃から社内に「こうしたい!」「もっとこうだったらいいのに!」とか、現状に満足していない感じの人たちっていると思うんですよ。

我々のお客さまでは、社内をフラフラして雑談して、「今度こんなプロジェクトをやろうと思っているんだけど、どう思う?」「だったら、もっとこういうことできますよね!」「こんな理想形を描いたらおもしろいですよね」と言ってくれるような人を見つけてきて、意識的にプロジェクトに入れることをやったりしていますね。

中途社員もありですよね。(会社の色に)染まってなかったりするので、外の視点を持ち込んでくれたりしますから。こういう方たちを見つけてプロジェクトに入れたりします。

育てるやり方もあります。例えば、我々は住友生命さんと一緒に何度かプロジェクトをやらせてもらってるんですが、彼らはかなり意図的にNewタイプを育てたりしています。

業務側の人たちに最先端のソリューションを見せたり、勉強会を開いたり、情報システム主催で座談会をやったりして、「そんな世界があるんだな」と、視点を上げていく。「そんなことができるんだ」ということを繰り返し見せて、少しずつ発想をやわらかくする。理想形を描く訓練もやっているみたいです。

Newタイプを発掘・育成して、共にビジョンを描く

さっきもお話ししましたけど、ここで注意してほしいのは、ソリューションは手段なので一番最後なんですよ。最先端のソリューションを見るのは重要なんですが、何を見て欲しいかというと、そこで実現されている世界観を知ってほしいということなんです。

例えば、「今は、こんなツールでこんなふうに仕事をするスタイルがあり得るんだな」「屋台でもQRコードを使って払えるの!?」とかね。QRコードがいいとかじゃなくて、「そういう世界観おもしろそうだな」「うちに置き換えるとどういうふうに使えるかな」「こんな理想形がおもしろそう」(という視点で見る)。

その時にもう1回ソリューションに戻ってきて、どのソリューションが使えるのかを見てほしいです。いったん視野を広げるために、ソリューションを見るのもおもしろいなと思います。

本当はもっといっぱい話したいんですが、ものすごく駆け足で話をしてきました。(DXは)ビジョン駆動型の取り組みなので、まずビジョンを描くことがとても重要です。そのためには、Newタイプを見つけて・育てて、Newタイプと一緒にビジョンを描くことが必要ですよね。

Oldタイプだけでプロジェクトをやっていてもうまくいかないんですよ、という話をしました。(視聴者コメントで)「いろんな視野を持っている人がいいよね」。そうなんですよ。ジョブローテーションとかを意図的にするといいですよね。

業務も知っている、ITも知っている、他社も知っているという方は、けっこうNewタイプの振る舞いをしやすそうだなという感じがします。Oldタイプだけでやってもダメなら、Newタイプ人材と一緒にビジョンを描きましょう。

Oldタイプには「新しい世界」が理解できない

さて、ビジョンを描いたら支援を得に行かなきゃいけない。ここの話がまた難しいので、ちょっとずつしていきたいなと思います。

いい・悪いじゃなくて、企業の経営陣は従来型エリートの方々がそのポジションについているわけですから、ほぼOldタイプです。Newタイプと一緒にビジョンを描いて「これ、いいね」ってなったとしても、実はOldタイプの人たちはこの世界観を理解できないんですよ。なぜなら経験したことがないから。

すごくおもしろい例があって、最高にいいお話なので、山口(周)さんの本からよく引用させてもらっています。僕も含めてですが、Oldタイプには新しい世界が理解できないという話です。

グラハム・ベルさんが電話機を発明した時に、アメリカの最大の電信会社のウエスタンユニオンに、「電話を発明したので特許を買ってほしい」と売り込みに行ったらしいんですよ。

ウエスタンユニオンの経営陣は、たぶん当時世界最高の頭脳が集まった経営陣だったと思うんですが、「厳正な審査をして議論した結果、この『電話』という機器が、電報を代替して通信手段になり得る可能性はまったくないという決断に至りました。ですので、あなたの特許を買い取ることはできません」というリターンをしたらしいんですよ。

これ、めちゃくちゃおもしろくないですか。現代の人からすると(電話が)電報を代替するに決まってるじゃないですか。

でも、それは実現された世界を見ているからわかるんです。今じゃ考えられないんだけど、当時の世界最高の頭脳を持った経営陣は、知らないものだから理解できないんですよね。

理解できなくても、Newタイプを信じることも重要

これもいいですよね。「世界に、俳優の声が聞きたいという人がいるとはどうしても思えない」。ワーナー・ブラザーズのトップのハリー・ワーナーが言うわけです。

「映画に俳優の声を乗せて、音がある映画を作って、みんながそれを楽しむ世界を作りたい」というビジョンを描いても、「うん」と言ってくれないんですよね(笑)。これが、DXが決定的に難しい理由なんだろうなと思っています。

じゃあ、どうすればいいんだ? という話ですよね。こういう人の特性があるから、もう逃れられないんだと思います。

どうすればいいかと言うと、これは非常に難しいんですが、権力を持っているOldの方々・経営陣の方々に、「こういうものだ」って理解してもらわなきゃいけないと思うんですよ。

グラハム・ベルさんの例を引き合いに出してもいいですよね。Oldのみなさんは、どこまで行っても本当は理解できないと思います。非常に難しい。投資対効果で判断するような経営判断じゃないんです。

「ある程度『Newタイプを信じてやってみなはれ!』と言っていかないと、変化は起こせないんですよ」って言わなきゃいけないし。どこまで理解してもらえるかはわからないけど、そういう前提でプロジェクトをやらないと、従来型のプロジェクトのかたちでやってもうまくいかないなと思います。

数字で表しづらいDX、どの観点で投資を決めるべきか

数字で語れる世界じゃない、ということですね。例えば今までは、「システムを置き換えます」「効率が上がってこのくらい人件費が減ります」「ITのコストがこのくらい減ります」というのが、数字で見えたんですよ。

DXでも数字は出せるとは思うんですが、相当難しい。「顧客満足度がこのくらい上がる」「ファンになってくれるお客さんがこんなに増える」「リテンション、退職者防止につながる」「エンゲージメント向上につながる」とか、そんな感じですよね。

(DXの狙いは)より良い世界・未来のためですから。「人間が健康になる」と言って、それでいくら儲かるかはわからないですよね。数字じゃなかなか語れないですよ。

ファイナンスじゃなくて、「ビジョンの実現」という言い方をしています。もちろん、一定数ファイナンスと考えなきゃいけない部分もあるんですが、かなりの分量、ビジョンの実現で投資を決めるという判断が必要なんじゃないかなと思っています。

投資対効果では語れないのが「ビジョン」

私が以前お付き合いのあったケンブリッジのお客さんの経営者の方で、こういうことを言ってくださっている方がいました。これは最高に好きなエピソードなので、毎回紹介しているんですが、特にDXのプロジェクトはこれだと思うんですよ。

「投資対効果を示させて、基準をクリアするかどうかで判断するなら、経営者などいらんのだよ。ケンブリッジさん、わかるかね?」と言ってくれたんですね。

「投資対効果で語れない、言い換えればビジョンの実現をするべきか、今回は見送るべきか、そういう曖昧な世界の中で判断を下すのが経営判断なんだよ。だから、そういう難しいものをどんどん持ってきてくれ。俺が判断する」と言ってくれたんです。これ、めっちゃしびれますよね。

もう10年も前の話なんですが、結局、DXのプロジェクトには多分にこの要素が含まれていると思います。でも、これを決断する経営者の方々が従来型で判断しようとすると、やっぱりうまくいかないんだろうなと思っちゃうんですよね。

ということで、繰り返しですが、(Oldタイプの権力者を)事前に育成しておく。大変おこがましい言い方ですけれども、これがすごく重要だと思っています。DXは投資対効果じゃなくて、実現されて初めて理解できるものです。

Oldタイプに新しい価値観を理解してもらうには?

……恥ずかしながら僕も、うちのITチームが「Slackを入れたいんだ」「Slackでうちの世界観を実現するのが一番いいと思う」と言ってくれた時に、ぜんぜんピンと来なかったんですよ。「へ〜、そうなの? 別にほかのソリューションでもいいんじゃない?」って言ったんですが(笑)。

でも、Slackにしてうちはピッタリでした。すごく合っているなと思います。僕も、実現されて初めてわかりました。だから(Oldタイプが)100パーセント理解できなくても、背中を押すことがきっと必要なんだろうなと思います。

(スライドを指しながら)Newタイプが描いたものを、こんなふうにOldに理解してもらわなきゃいけない。だけど、Newタイプが描いたものを、Oldタイプはどうしても一発では理解できないんですよ。距離が遠すぎて、世界観・価値観が離れすぎていて。

理解してもらいたいんだけど、Newタイプ、よそ者、新参者、若者が言っているものがピンと来るかというと、相当つらい。

OldタイプとNewタイプをつなぐ“3人目”の役割

じゃあどうするかと言うと、どっちのこともわかるブライトさんみたいな人(New Oldタイプ)が、間に入る必要があるんですよね。……(ガンダムの例えは)わかる人だけわかってくれればいいんですが。

理想だけ追求するアムロ君(Newタイプ)、ドンとかまえるレビルさん(Oldタイプ)を行き来しながら、両者のことがわかって、Oldにも信頼されながら、Newタイプの言っていることやビジョンも理解する。こういう動きができる人が、実はDXでは非常に重要なんじゃないかと思っているんです。

NewOldってどういうタイプよ? と言うと、こんな感じです。Oldタイプ・経営者からは、信頼をしてもらわなきゃいけない。さっきのグラハム・ベルさんの例もありますが、結局Oldタイプは、どこまでいってもビジョンをパリッとは理解できないんです。

「ブライト、NewOldのお前がそこまで言うなら任せるよ。やってみろ」と言ってもらえる信頼関係をOldと作れるか。それが、NewOldの役割です。

これ、みなさんならイメージがつくと思います。プロジェクトが「いいプロジェクトだね」と言ってもらうというよりは、まず人として信頼される。「全部は理解できないけど、お前がそこまで言うならきっといいんだろう。任せる」と言ってもらえるか、ということです。

あとは、DXの難しさを伝えて経営者を教育するというか、下地を作る動きをしてもらうのも(NewOldの)役割ですよね。

文句を言いがちなNewタイプを「理解者」として支える

Newタイプに対してはどうか。Newタイプは理想を描くんだけど、文句を言いがちなんですよね。なので、理解者・支援者になってあげてほしい。「お前がやりたいのはそういうことか。なるほど、すごくいいね」という感じ。

Newタイプを発掘してきて、プロジェクトに引き込んで、なんなら育てるための勉強会とかをやって、一緒に深く議論をして、一緒にビジョンを作ることが必要だと思います。描いたビジョンを一緒にOldに話しに行く。そんな役割です。すごく難しいけど、ここが重要ですよね。

特にここに触れておきたいんですが、Newタイプと一緒に議論をしてビジョンを作る必要があります。(Newタイプだけに)任せて、「ビジョンを作ってこい」では、ぜんぜんダメなんですよ。

Newタイプが何を考えていて、どんなことを気にしているかを深く理解して、一緒に作らないと腹落ちしない。それをぜひやってほしい。

未来への「妄想」から、ビジョンを膨らませていく

僕らはよく、集中討議みたいなことをやります。これは、実際に住友生命さんで一緒にやったプロジェクトの写真なのですが、本当にこんな感じだったんですよね。プロジェクトで新しい世界を作っていきたい、どんな世界観なんだ? というのを、こんなイメージで描いていく。

まず、「思いをはせる妄想」。こんなことができたらいいんじゃないか、理想形なんじゃないか。それって具体的にはこんな世界で、こんなことをイメージしている。

それを現実に落とすと、ここまではいける、ここまではいけないかも。これってもっとこうだったら良くない? という感じで、思いを馳せて、言語化して、それを当てながら現実解を作っていく。そんなことをやっています。

住友生命さんと一緒にやった時は、この人(スライド右端の男性)が超Newタイプだったんですね。実はこの方はNewOldもやってくれていて、(NewタイプとOldタイプを)行ったり来たりしながらやってくれていました。そういう方を中心に、こうやって世界観を描いていくのがすごく重要かなと思っています。

何が言いたいかというと、3者が役割分担するのがすごく重要だなと思っています。もちろん、NewタイプとNewOldを行ったり来たりする人もいたり、逆にNewOldとOldを行ったり来たりする人がいたり、全部1人でやっちゃう人もいます。

シャアみたいなイメージですかね。でも、いいんです。役割が必要なだけで、3者の役割を分担したいということです。

三者三様、それぞれが役割を分担する

Newタイプは、「こういう理想があるよね」「これがいいよね」と、NewOldと話して、「確かにいいね。だけど、現実を考えるとここくらいまでがいいんじゃないか。こういう感じのほうがみんな受け取りやすいと思う」というビジョンを作る。

NewOldはOldタイプと話をして、「こういう世界観を描きました。これはうちの会社にとってすごく良くなると思うので、ぜひやらせてほしいんです」「う〜ん。俺は全部を理解しきれないけど、君がそこまで言うならぜひやってみてほしい。がんばってくれ。任せる!」という感じです。

これで、ようやくGOできるということですよね。伝わりますかね? 我々が言うのもあれですけど、ITコンサルやビジネスコンサルが来て、「御社にはこれが理想形です」と言ってもダメな理由がここにあるんですよ。

NewOldが腹落ちしてないので、「こういうの良さそうですね」「だそうです、ボス」と話します。「う〜ん、わしはしっくりこんのぉ」「だとしたら、これはお蔵入りですかね」というふうになっちゃうんですよ。

そうじゃないんですよね。ここ(NewOldとOldタイプ)に信頼関係があって、「お前が熱量を込めて言うなら、ぜひやってみろよ」、この構造を作らなきゃいけないということです。

コンサルはタイプ別で使い分ける

なので、手前味噌で申し訳ないんですけど、ここ(左下の「先生型」)ではDXはうまくいかないなと思うんです。いくら理想形を示してくれて、他社事例を話してくれても、Oldタイプが理解できなく、しっくりこないからダメなんですよ。

だから、我々はどうしてもここ(右上の「ファシリテーション型)でやらざるを得ないというか、これでしか変革はうまくいかないなと思っています。

なんとか二人三脚して、(NewタイプとNewOldを)行ったり来たりしながら、ここ(NewタイプとNewOldの関係性)をうまく作って、最終的にはOldタイプを動かしていくかたちでお手伝いをしているのが、我々のコンサルティングスタイルです。

こういう系(先生型)のコンサルさんもけっこういますよね。悪いわけじゃないですし、学ぶという意味では必要なんです。

さっき「ソリューションを学ぶ」という話をしましたが、Newタイプを育てるうえで、ソリューションを見て、ビジョンを描きやすくするという意味ではすごくいいんですよ。

ソリューションを見るとつい欲しくなっちゃうのですが、それはいったん忘れて、「世界観をゲットする」という意味で、ああいう系(先生型)のコンサルさんを使うといいなと思います。要は、何を意識してどこで使うか、どこで活用するかが大事かなと思います。

Newタイプにはできない、NewOldのもう1つの役割

(DXは)ビジョン駆動型の取り組み。5番まで話してきました。「NewOldにすべてを束ねてもらう」、ここが重要です。

ビジョンが大事と言っているんですが、結局は人なんですよね。ビジョンも人が生み出すし、ビジョンを持って熱量を生み出して、実行に持っていくのも人なんですよ。プロジェクトの中で3者を役割分担したり、バランスを取って組み込めると、うまくいく確率は上がるだろうと思っています。

最後に6、7を駆け足でお話しして、おしまいにしたいと思います。NewOldにすべて束ねてもらって、6までくると、ようやく普通のプロジェクトになるわけですよね。

NewOldのもう1つの役割は、ここから先のプロジェクトを遂行することです。これは、Oldタイプ・従来型エリートとしての役割ですよね。

従来型のプロジェクトと違うのは、ウォーターフォールがぜんぜん通用しないということです。ビジョンを作って、こうやって(スライド右に向かって)流れていくんですが、やっぱりぐるぐるしながら流していかなきゃいけなくて。Proof of Conceptみたいなものも流しながら、ちょっとやったけど戻るようなことがすごく大事。

なんですが、全体を見通して「今はここのフェーズでくるくるやっていて、次へ進んだけど1回戻るよ」とか、こういう動きが見えていないと道に迷っちゃうんです。

DXプロジェクトは失敗して当たり前

やっぱりちゃんと(プロジェクトを)立て付けて、全体工程が見えるようにして、今はどこをやっている、次はどこに戻る、結果がこうだったらこういうふうに動くよ、という見通しはすごく重要だなと思っています。

これは、Newタイプにはできないですよね。理想を描くのがNewタイプの仕事なので、NewOldみたいなバランス感覚を持っている人にこういうことをやってほしいなと思います。

それから、トライ&エラー。私は「トライ&ラーン」という言い方が好きで、エラーというか「学び(learn)」ですよね。トライするとわかる。

うちの会社はツールをSlackに切り替えて、これもトライ&ラーンで「うちには前のツールよりSlackのほうが合ってる」とわかったりしたんですが、そういう話です。

決して前のツールが悪いという話じゃなくて、うちに合っていたか・合っていないか。うちがやりたかったビジョンの実現にはSlackのほうが良かったね、という話ですね。これもツールの良し悪しじゃなくて、やりたいことに対する向き不向きなんだと思います。これがビジョンですね。

「共感」を呼ぶサイクル作りで“溝”を埋める

そうそう、これはちょっと話しておきたい。「DXで描いたビジョンを理解してもらうのは大変だ」という話をずっとしていますが、プロジェクトの中で「あ、このビジョンいいね」となったとして、それがこのへん(イノベーター、アーリアダプター)ですね。

イノベーター理論の図はよく見ますよね。アーリーアダプターくらいの方々がプロジェクトに入ってくれているんですよ。

その人たちが「いいね」と思ってからが勝負で、理解のある経営陣がこのへん(アーリーアダプター)で「いいね」と言ってくれて後押ししてくれるんですよね。そこからマジョリティに出ていく。

マジョリティの方々に理解してもらうのは、やっぱり深い溝、キャズムがありますよね。プロジェクトで「いいね」となったものをうまく外に出して、共感を呼んでいくというサイクルを組み込んでほしい。これは(この時間だけでは)ちょっと話しきれないんですが、そこがすごく重要だなと思っています。

一言だけお伝えしておくと、プロジェクトで最初にビジョンとして作った世界観をそのままご本尊として置いておくんじゃなくて、少しずつ具体化して受け取りやすいかたちにして、外に出すのはすごく重要だなと思っています。

ビジョンで人を惹きつけていくためのポイント

例えば、営業改革をします。営業のプロセスをこんなふうに変えて、新しい世界観をこんなふうに作っていきたいんだ、というビジョンがあったとするじゃないですか。

そうした時に、それで終わりにするんじゃなくて、例えば各営業プロセスで、お客さんに最初の接点を持つ、資料を送る、提案する、契約していただく、サービス提供する……とか。

こういう流れがある中で、それぞれでお客さんからどんな感情を引き出したいのか。逆に、どんな感情は引き出しちゃダメで、いい体験をしてもらうためには、どんなかたちの顧客体験が理想形なんだろうか。その顧客体験のためには、どんな取り組みや施策、システムが必要か。

例えばこんな感じでブレイクダウンするというか、具体化するというか、フェーズに分けてありありとイメージする。

「そういうことをやりたいのね」「確かに、そんな感情が呼び起こされるといいよね」「そんなふうに接客してくれたら、そういう感情になるよね」「その接客をするためには、確かにこういうデータがあったらいいな」という感じで、一言のコンセプトから少しずつ具体化していく。

「こういう活動をプロジェクトの中でやって、こんな感じが良くない?」というのを、少しずつ外に出していくのが、ビジョンで人を惹きつけていくうえで大事な作業かなと思っています。

(スライドを指しながら)こういうのもあります。だんだん進んでいくと、プロトタイプを作るとか、いろいろあると思います。

DXの肝は「NewOld」人材を生み出すこと

ということで、大変駆け足でお話ししても、全部は話しきれないですけれども、ポイントは伝わったんじゃないかなと思います。

ビジョンを描く、支援を得る、そして実現させる。実現させるのもぜんぜん簡単じゃないです。でも、うまく伝播していけば、支援してくれる人、「いいね」と言ってくれる人は増えるんじゃないかなと思っています。

さて、まとめです。みなさん、もうお気づきだと思いますが、今日お話ししたかったのはこれなんですよ。NewOldが肝。たぶん、これを聞いてくれているということは、みなさんはNewOldになる可能性を十分秘めているということです。

生粋のNewタイプも、生粋のOldもいないんですよ。時によって振れるし、僕もがっちりOldに寄っちゃう時もあるし、Newタイプみたいなことを言い出す時もある。

みなさんは、どの立場で、どんなふうにプロジェクトをまとめていくか。今、どの役割が不足しているかとか、そういうことを考えながらできる人たちなんじゃないかなと思うので、NewOldになって、うまく人をつないで、DXのビジョン駆動型のプロジェクトをうまくやっていってほしいなと思います。

ここに我々を組み込んでいただいてもいいし、みなさんがご自分でできる余地もすごく大きいと思うので、ぜひやっていただきたいと思います。僕からは以上です。