「web3」のスペシャリストが集結

司会者:それでは第1部の登壇者のみなさまをご紹介いたします。まずは株式会社フィナンシェ 代表取締役CEOの國光宏尚さんです。國光さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

國光宏尚氏(以下、國光):はい、よろしくお願いします。

司会者:國光さんはweb3という領域、日本でも古くから活動されてきております。ぜひたくさんのお話をいただけることを楽しみにしております。続きましてi-nest capital株式会社 プリンシパルの放生會雄地さんです。放生會さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

放生會雄地氏(以下、放生會):よろしくお願いいたします。i-nest capitalでベンチャーキャピタリストをしています、放生會です。國光さんはもう有名なので、私のほうはちょっと自己紹介をさせていただければと思います(笑)。

ベンチャーキャピタルの中ではクリプトとかフィンテック、エンタメ領域などへの投資を担当しております。クリプトですと、SBIさんに買収されたNFTマーケットプレイスをやっていた会社で、スマートアプリという会社があります。この会社がSBINFTという会社に今なっていますが、こちらに投資しておりました。

あと、国内で日本円のステーブルコインを発行しているJPYCという会社に投資をしています。

国内のファンドではSAFTのような、いわゆるトークンでの調達に対しての投資とかはまだ整理の途上なので、現行のファンドとの利益相反に気をつけながら、個人で投資してみたりであるとか、あるいは海外の法人を使って、クリプトに対する投資ができるように計画したり、そういった活動をしている者でございます。

昨年11月のFTXショックとかの事件もございまして、いろいろと見直しているんですけれども、そういったかたちでクリプトには携わっています。

もう少し経歴だけお伝えしておきますと、私はもともと国内の証券会社でM&Aのアドバイザリー業務であるとか、IPOをお手伝いをするような場所を経由して、そのあとベンチャーキャピタルに転職しています。

一見クリプトはぜんぜん関係なさそうにも見えるんですけれども、もともとは大学生だった2015年ぐらいからビットコインを買ったりして、ずっとクリプトはウォッチをしてきた人間です。今日はよろしくお願いいたします。

司会者:最後にモデレーターをご紹介いたします。第1部のモデレーターを務めていただくweb3リサーチャーの三井滉平さんです。三井さん、よろしくお願いいたします。

三井滉平氏(以下、三井):初めまして。web3リサーチをしている三井と申します。よろしくお願いします。ふだん自分でweb3に関するリサーチをして発信したりとか、いろんなweb3事業者さんに参加させてもらって、web3のリサーチから新規事業のサポートをさせてもらっています。今日はモデレーターとして参加させていただきますので、みなさんよろしくお願いします。

そもそも「Web3」とは何か?

司会者:それではここからはモデレーターの三井さんにマイクをお渡しいたします。三井さん、よろしくお願いいたします。

三井:よろしくお願いします。ではパネルディスカッションのほう、始めさせていただきます。ここから約50分間、20時までお二人にお話をおうかがいできればなと思っているんですが、僕のほうで4つテーマを考えさせていただきました。

1つ目は「web3とは?」、2つ目が「日本におけるweb3の現状と可能性は?」、3つ目がweb3全体の「今後はどうなる?」という展望のお話。4つ目が「web3を学ぶには何から始めれば良い?」です。それぞれ、僕からお二人におうかがいできればなと思っております。

そして最後、時間の許す限り参加者のみなさんから質疑応答をいただければなと思っております。もし気になることがあればウェビナーのQ&Aに書いていただけたら、最後に回収させていただきます。みなさんもぜひよろしくお願いします。

それでは、さっそく中身に入っていこうかなと思います。まずテーマ1つめ「web3とは?」ということで、今回のイベントはおそらくweb3について初めて触れる方だったりとか、これから勉強していこうという方もたくさんいらっしゃると思います。

「そもそもweb3って何だっけ」ということを、お二人におうかがいできればなと思っております。ちょっと漠然とした質問で申し訳ないんですが、web3とは何なのか、こちら國光さんから簡単にご説明していただいてもよろしいでしょうか。

國光:はい、よろしくお願いします。このへんは僕の名著『メタバースとweb3』とかに散々書きまくってるので、ぜひまだ見てない方は見ていただければと思うんですけれども。

三井:(笑)。

ブロックチェーンというテクノロジーがもたらした、「ならでは」のイノベーション

國光:大きく2つの観点があると思っています。一番重要なのはブロックチェーンというテクノロジーがもたらした、ブロックチェーンじゃなきゃできないイノベーションが1点目。もう1点はある意味、Z世代を中心にした社会運動みたいなかたちの側面があると思います。

前半で重要なのは、結局これってテクノロジーの歴史の中でずっとそうなんですけど、みんな新しいテクノロジーが出てきた時に「そのテクノロジーじゃなくてもできること」を、わざわざそのテクノロジーでやろうとするんですね。スマホが一番いい例で、スマホが出てきた時に多くの会社がやろうとしたことはPCで流行っているサービスとか、ガラケーではやってるサービスをそのまま移植しようとしたんですね。

でもこういうのはぜんぜん流行らなくて、結局スマホ時代に流行ったのって、ゲームで言ったらパズドラとかモンストみたいな、スマホならではのゲームをイチから作ったところ。例えばメルカリとかでも、マーケットプレイスっていっぱいあったけど、スマホならではのマーケットプレイス。LINEやインスタ、TikTokも同じで、そのテクノロジーならではのUI/UXをイチから再発明したところが勝つ。

ブロックチェーンでも同じことが起きていて、あまりにも多くの人たちがweb3・ブロックチェーンじゃなくてもできることをわざわざブロックチェーンでやろうとしている。「ブロックチェーンじゃなきゃできないことって何?」っていうところを突き詰めていくのが重要なのかなと。

そういう中で僕は、特にブロックチェーンじゃなきゃできないところで思ってるのは3つあって。1つはトラストレスで自律的に動くディセントラライズなネットワーク。2つ目がNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)。3つ目がDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)。このへんがブロックチェーンじゃなきゃできないとこなのかなと考えています。

なので、質問の「web3とは?」に立ち戻ると、重要なのはブロックチェーンというテクノロジーがもたらした、「ならでは」のイノベーションが1つ大きくあるのかなと。あともう1つは社会運動的な側面ですけど、そのへんまで語ると長くなりそうなので、とりあえず一旦はこのへんでテーマ出しって感じで終わっときます。

「web3」の特徴を表す、3つのキーワード

三井:ありがとうございます。僕自身も非常にいろいろ質問させていただきたいところなんですけど、ちょっとそれだと長くなってしまうので。もし時間が余ったら最後にさせてください(笑)。もしお二人の間でもそれぞれの会話に対して質問あれば、その場で喋っていただいて大丈夫なので。では続きまして放生會さんからも、web3とは何なのかについてご説明いただいてもよろしいでしょう。

放生會:ありがとうございます。もう國光さんが語られてる部分もあるので、ちょっと言い換えみたいなかたちにはなってしまうかもしれないんですけど。基本的な概念としては「ブロックチェーンを技術基盤とした次世代のインターネット」だと思いますけれども、大きくやはり特徴がある程度挙げられるかなと思っています。

いろいろな方がいろいろ挙げているんですが、私が一番好きなのはCoinbaseがブログとかで書いている定義なんです。キーワードを3つ出していて、1つはトラストレス。これは國光さんと同じだと思うんですけど、もう1つがパーミッションレスです。最後がディセントラライズ・インターネット。この3つがすごく特徴的だと、私のほうでは考えております。

一つひとつ具体的な話をすると、「トラストレス」って何なのかっていうことを考えると、これは既存のなにか……例えばエスクローでイラストを誰かに頼んで、その対価としてのお金を支払うというような行為をインターネット上でやろうとすると、特定の運営会社がいなきゃいけないんですよね。これクリプトの世界だとトラストポイントとか言ったりするんですけれども、このトラストポイントがなくてもいい世界なんですね。

誰かが送金の承認をしなくても、プログラムでお互い信用を担保できる。というか、信用という概念がいらないよねっていう発想なのが、このトラストレスだと思っていて。これは非常に革新的な話だと思っています。

ブロックチェーンが変えた「情報のあり方」

放生會:で、2つ目に挙げた「パーミッションレス」ですね。これは「誰かに許可がいらないでネットワークに参加できる」っていう話でよく言われるところなんですけれども、もう少し噛み砕いていくと、いくつかまた特徴があるかなと思っていて。

結局みんな誰でも参加できる衆人環視の中の世界観っていうことになっていくので、透明性がそこにはあったりとか。あとはみんなでデータの共有をやっていくので、いわゆるデータの可用性のようなものがあったりとか。ちょっと似たような言葉ですけど、データを相互で運用していったりとか、そういったことができるのが非常に良いと。

これができることによって、どんどんアプリケーションをみんなで組み合わせて作っていったり、どんどん大きなものを作っていったりということができる。これが加速度的にどんどん発展して進化していくのが、非常に魅力的だと思っています。

最後の「ディセントラライズド・インターネット」なんですけども、これはこれまでのサービスということであれば、例えば先ほどのメルカリとかスマホネイティブなサービスとして出てきたものって、運営会社が存在しています。ユーザーの情報とかは基本的に、運営会社のほうですべて管理していたわけなんですよね。

これがもっとユーザーのほうに還元されていく。技術的にというか、情報のあり方をどこに置くのかっていうのを実現させているのが、このブロックチェーンという仕組みで。これまでであれば運営会社のサーバー上にすべてのデータが乗っかっていたものが、ユーザーのほうに情報を持たせていくことができる。

これを技術的に解決しうるのがブロックチェーンと呼ばれているものだと理解していて、これがディセントラライズド・インターネットと呼ばれている部分だと思います。

web3の特徴を捉えることで考えられる「ブロックチェーンじゃなきゃできないこと」

放生會:これで結局何が良いのかっていうと、例えば運営会社がある日突然破綻しましたという時に、サーバーが動かなくなったってなると、情報が一切消えちゃったりとかするんですね。これがゲームの運営会社とかだったりすると、せっかく自分がこれまで育ててきていたものがパーになっちゃったりとかする。

あるいはちょっと冤罪チックに、自分が何も悪いことをしてないのに、例えば運営者から嫌われちゃったりとかすると、アカウントのBANを食らってしまうとかっていうことがリスクとしてはあると。そういったことを許さない・できないのがディセントラライズド・インターネットというところかなと思っております。

このトラストレス、パーミッションレス、ディセントラライズド・インターネットが、web3の特徴だと思っていて。ここに相性の良いものとして乗っかってくるのが、トークンエコノミーの部分かなと思っています。トークンを発行することによって、こういったディセントラライズド・インターネットを維持するような仕組みを用意することができたという世界観かなと思っております。

ただ國光さんがおっしゃったように、このトークンエコノミーから入っていってしまうと「なんでわざわざブロックチェーンを活用してこれやんなきゃいけないんだっけ?」みたいなものが、すごく生まれてきちゃうのかなと思っておりまして。そういったweb3の特徴をちゃんととらえて、なにかサービスは考えていかなきゃいけないよな、と思っています。

新しい仕組みを作る上での「時間軸」の考え方

國光:今のお話の中で、「ディセントラライズド・インターネット」は時間軸の話があると思っています。トークンエコノミーとかNFTとディセントラライズド・インターネットは、現時点では直接的には関係ないんですね。実際NFTやトークンエコノミーのアプリケーションで成功してるBored Ape Yacht ClubやSTEPNは、一切ディセントラライズドじゃないんですよね。

なので僕はやはりディセントラライズド・インターネットというのは、今は概念として存在してて、ここから5年間、10年間かけてそこにたどり着いたらいいよねって、社会運動的な話だと思っています。今起業するって話でいくと、ほとんどの成功してるアプリケーションはそこと関係ないので。

やはりトークンを絡めた新しいインセンティブの仕組み、NFTを絡めた新しいコミュニティを作る仕組み、そういうところにフォーカスしていった上で最終的にディセントラライズドを目指しまっせ、ぐらいでいい気がしています。

放生會:まさに時間軸がおっしゃるとおり、ぜんぜん違う部分はあるかなと思っていて。これ実現できているプロジェクトってビットコインぐらいしかないんだろうなって。基本的にはやはり誰かが開発していて、リーダーシップ持ってるっていうのが実態ではあるんですよね。

ただその思想をちゃんと持っているのかどうかは、ある程度考えなきゃいけないし、これを外してしまうとわざわざクリプトでやる必要性っていうのがないんじゃないかっていう話にもなってきちゃうのかなっていう部分ですかね。

國光:わざわざクリプトでやる意味でいくと、僕はその中でやはりNFTとDAOっていうところが大きいと思っていて。NFT自体もデジタルデータが本物であることが証明できる、だから資産性を持っっています。Bored Ape Yacht Clubとかも中央集権型ではあるけど、明らかに意味がある。

web2と違う点は「ユーザーを巻き込んだ」ところ

國光:例えばSTEPNみたいにトークンによってゲームのユーザーがストックオプションのようにインセンティブを持つみたいな。それによってユーザーを巻き込んだかたちでのマーケティングしていけるようになったのが、web2と比べて圧倒的に違う点です。このへんも今までのweb2にはできなかった。

そういった意味でいくと、データ自体が価値を持ったところや、トークンを絡めることでエンドユーザーや顧客をよりサービスの成功にインボルブさせることが可能になったことが「ならでは感」かと。僕はディセントラライズドは当面のところ、スタートアップのテーマでいくと様子見でいいどうでもいいと思っています。

ディセントラライズドだったりトラストレスとかパーミッションレスっていうのは……おっしゃるとおり10年後、このweb3がどういうふうなかたちで世の中を変えていくかって中でいくと、まさにって感じだと思うんですけど。今はまだぜんぜんそこに至っていないので。

今日は、思想的な話とかっていうよりかは、どっちかっていうとスタートアップが何で起業するかのテーマの話で、特にここで聞いていらっしゃる方は、ビジネス寄りの方が多いような気もしてるので。

起業のアイデアとしては、web3の中でディセントラライズドなところは一旦捨てて、それ以外のところで考えていく方がいいんじゃないかなと個人的には思います。

三井:なるほど、ありがとうございます。最初から非常におもしろいテーマをいただきました。