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NIKKEISHA STARTUP TABLEオンラインセミナー グロース期のスタートアップ企業が知っておくべき、ソートリーダーシップ戦略(全4記事)

広報の仕事は、目標とする「リターン」を得るための働き掛け プロやコンサルが、広報支援に入る企業にまず聞くこと

株式会社日本経済社が主催するNIKKEISHA STARTUP TABLEセミナーに、Sansanでマーケティングおよび広報機能の立ち上げに従事し、現在は上場企業やスタートアップの広報支援を行うkipples代表の日比谷尚武氏が登壇。「グロース期のスタートアップ企業が知っておくべき、ソートリーダーシップ戦略」をテーマに、広報担当者がメディアの話題をウォッチする理由や、自己PRの「PR」と「広報」の違いなどを語りました。

広報戦略を考える際のベース

日比谷尚武氏(以下、日比谷):みなさん、遅い時間にお集まりいただいてどうもありがとうございます。日比谷でございます。さっそく、今日の本編に入っていきたいと思います。

いろいろな企業の方に広報のお悩み相談を受けると、経営者の多くは、「うちも新聞に取り上げられるぐらいになりたいよね」なんておっしゃるんですよね。

そんな時に私はよく、「今朝の1面、どんな話題でしたか? ご覧になってます?」と質問します。ぱっと答えていただける方もいるんですが、そうじゃない方も多いんです。みなさん思い浮かびますか? これがリアルの会場だと、目をそらした方をあえて指したりするんですが(笑)、今日はオンラインで、そういうことはできませんから進めていきます。

つかみにこんな話をしましたが、「メディアで何が扱われているかを知ることが、自社がどう広報戦略を立てるか、何を発信するかを考えるベースになりますよ」ということです。別にこれは日経社さんのセミナーだから言っているわけじゃなくて、どこでも言っていることです。

世の中で何が話題かを知ることは、その先で、世の中にどんなニーズがあるか、どんなネタを求めているか、それをメディアの方がどう切り取ろうとしているかを知ることに直結するわけですね。

これスライドは以前もお出ししたことがあるので、見たことのある方がいるかもしれませんが、私は仕事の一環として、メディアの報道分析をやっています。

具体的に言うと、日々、テレビ、雑誌、オンラインメディア、あとSNSなどで、どんなことが話題になっているかをウォッチしていくんですね。放送時間や尺、リツイート数やエンゲージメント、そういったことを掛け合わせるんですけれども。

そうすると、どこで何が話題になっているかが見えてくる。これはちょうど1年前の年始のTV報道量の推移です。2年近くずっとコロナの話題が常に報道のトップを走っていましたが、ロシアがウクライナに軍事侵攻を始めたことで、2月の末に急遽ウクライナネタが上がってきた。(スライドの)紫の玉が上がってきて、ここから約1年近く常にウクライナのニュースがトップでした。

しかしその後コロナが落ち着いたりワールドカップがあったりした。そして最近だとWBCがあったり、強盗事件があったり、寒波が来たり、あおり運転があったり。そういうことで日々ランキングが動くわけです。

メディアの話題をウォッチする理由

日比谷:結局世の中の情報を受け取る方々は、一遍にたくさんの情報は処理できないので、一番、目にする情報、もしくは自分が気になっている情報を摂取して、それを取り込んでいきます。

今世の中で何が流行っているかを見て、例えば「今情報を出したらちょっと埋もれそうだな」という時は避ける、逆に、流行っている話題に便乗するとか。そういった外部環境に合わせて自分たちの情報の出し方、立ち回り方を変えていかないといけないと思うんです。

冒頭からちょっとマニアックな話をしていますが、広報の方は自分たちが何を言いたいかよりも先に、世の中で何が求められているか、どんな風向きかにぜひアンテナを立ててほしいと思います。ちょっと枕の話をさせていただきました。

ここから各論に入っていきますが、今日は1時間ですので、ダイジェストでお伝えするのは主に3つです。アンケートを見ると初心者の方も多いようにお見受けしましたので、ベテランの方は耳にタコかもしれませんが、「広報の仕事とは何ぞや?」という話を最初にします。

それからマネジメント層、経営層の方も参加者にいらっしゃるようですので、経営や事業の面から見て、広報をどう活かすかという話を少しします。後半は今日の本編の「ソートリーダーシップ」について話す構成でいこうと思います。

ちょっとだけ自己紹介をします。私は日比谷と申します。kipples(キップルズ)という読みにくい名前の会社の代表をやっております。日経社さんのコンセプトに近いかもしれませんが、広報やマーケティングを中心に「社会を変える主役を増やす」ことを目指しています。

特に私の場合、コミュニケーション、人や情報をつなぐという観点から良い世の中を作っていければいいなと、真剣に考え日々活動をしています。広報、マーケ以外ですと「新規事業を立ち上げたい」「コミュニティを作りたい」スタートアップから「お金を集めたり事業を大きくしたい」というご相談まで幅広くお受けしています。

あとは地域や自治体、行政などをつなぐ官民連携のプロジェクトも手掛けていまして、いろいろな社団法人やプロジェクトに関わっています。

広報に関わる活動だけピックアップしますと、名刺管理のSansanの創業期から、広報やマーケティングの立ち上げをやったり、広報の勉強会を立ち上げたり、今は広報の業界団体の実行委員をやっていたり。

あとこれはボランティアで、いろいろなベンチャーキャピタルさんと組んで、経営者向けに「広報とは何ぞや?」のレクチャーをして回ったり。幅広く思いつくままにやらせてもらっています。

広報の仕事によくある誤解

日比谷:「広報」と一口に言っても、けっこう誤解されていることが多く、私が少しでも発信することで、なんとか正しくお伝えできればいいかなと思っています。

よくある誤解の1つは、例えば「簡単に露出できるんじゃないの?」と言われるけれど、「いや、メディアに取り上げられるのは実は難しいんですよ」ということです。また「広報というのはメディア露出するのが仕事なんだろう?」と言われるんだけれども、「いや、露出するだけでもないんですよ」という。

もしくは「広報でメディアに取り上げられると売上が上がるんだろ?」と期待されるけれど、そうとも限らない。上がる場合もありますが、上がるとは限らない。あと、「とにかく広報すれば会社が伸びるんだろ?」という期待。これはうれしいんですが、必ずしも魔法の杖じゃないぞということですね。

あとは些末なところで、よく「自己PR」「PR表記」などと使われますが、「PR」や「広報」という言葉が本来の意味と違って使われるケースもあります。間違いじゃないんですが、誤解を生んでいるので、実は「違うんですよ」とぜひお伝えしたいです。そういう広報にまつわる正しい理解をしてもらいたいなという思いがあります。

あとは、ネットの登場で広報やPRについての知識やコンテンツが増えているので、みなさん独学で勉強できる幅が広がっています。広報の力をうまく活用すれば事業は伸びるんですが、下手すると炎上してしまったりネガティブに働いたりするので、そこは正しくお伝えしたい。

例えば、最近だと「SNSでとにかくフォロワーを増やすのがどうも正だ」みたいなブームが一部にあるんですが、「必ずしもそれはいいんでしたっけ?」みたいな話があったりしますね。

あと、これはちょっと耳が痛いというか、私も気をつけなきゃいけないんですが、広報のコンサル、プロと名乗る方々が、必ずしも経営やスタートアップ事業に詳しいかと言うと、そうじゃない場合が多い。

広報的な正解を言われても、スタートアップや経営の観点で言うと、「言っていることはちょっと受け入れられないな」ということもある。でも、「広報としては正論なんだ」と言われると迷っちゃうこともお見受けして、そういったこともなくなればいいなと思って、私はいろいろなことを発信しています。

情報発信以外の自社のブランディングにつながる活動

日比谷:最近は公共政策担当的な側面で、永田町や行政の方にスタートアップのことを届けたり、逆にITやスタートアップの政策に関してスタートアップに伝えていくような動きもコツコツやったりしています。

ちょっと自己紹介が長いんですが、実はこれ、ある意味私のソートリーダーシップなんです。要は発信だけじゃないいろいろな活動が、実はブランディングにつながったり「この人は○○のプロなんだな」と思ってもらう活動の1つでもあります。ちょっとおこがましいですが、懲りずに続きの自己紹介をお出しします。

私がやっている活動をいくつか挙げます。若手の官僚と起業家をつなぐコミュニティ「Public Meets Innovation」では、スタートアップの方々に霞が関や官僚の方をもっと身近に感じてほしいと活動しています。

「渋谷をつなげる30人」は、渋谷のまちづくりをするプロジェクトに民間の方に加わってもらい、5、6年活動しているんですが、私はそこでエバンジェリスト(伝道者)として活動しています。異なるセクターの方をつないで、コミュニケーションを増やす、知ってもらう活動をやったりしています。

つまり自分たちの活動を、自分たちの世界じゃない方々に正しく伝えてもらう。イノベーションを生む活動の源泉でもあって、このような活動も私は広報の考え方に基づいてやっているつもりです。

1つご紹介したいのは、私が関わっている広報の業界団体に、日本パブリックリレーションズ協会があります。広報の方は聞いたことがあるかもしれませんが、PRプランナー試験という、広報にまつわる資格試験の運営をやっています。

この試験は「広報ではこんな仕事をやる」という内容をほぼ網羅したものになっています。試験を受けなくても「こういうことが求められるんだな」ということを知るために、教科書や参考書の目次だけでも眺めていただくと、幅広さがわかっていただけるんじゃないかと思います。

フェーズや直面する課題で変わる広報の仕事

日比谷:ここからはいよいよ本編その2の「広報とは?」に入っていきます。先ほど「広報の仕事は幅広い」「メディアに出るだけじゃないんだよ」という話に触れました。では、みなさんは広報の仕事をどう捉えているでしょうか?

こういう質問をすると「プレスリリースを配信する」「メディアの露出を獲得する」「SNS」のほかに最近は「採用のためにオウンドメディアの運営をすることが仕事です」という方もいます。

これはどれも正解だと思っています。あとで詳しく申し上げるんですが、広報の仕事は、会社の事業のフェーズや直面する課題によって変わるし、変えていいものだと思っています。

例えば会社やサービスが立ち上がった時は、とにかくサービスの認知度を上げたり、メンバーを増やさなきゃいけない。名前を知られていないので、ブログなどでどんな会社なのかをわかってもらえる発信をすることが必要になります。

少し会社が大きくなってくると、組織の足並みをそろえるために、社内コミュニケーション、社内広報をやっていくことが仕事になる場合もあります。

広報の仕事は会社の規模やフェーズによって変わるがゆえに、「俺にとっての広報はこうだ」「隣の会社の広報はこういうことをやってるぞ」というのを聞くと、広報の定義がばらばらになってくる。そうすると、「いったい広報は何をやるんだろう?」と混乱しちゃったりすることが多いようですね。

自己PRの「PR」と「広報」の違い

日比谷:ちなみに、誤解シリーズで言いますと、みなさん「PR表記」という言葉は聞いたことがありますかね? いわゆる記事広告ですね。雑誌やオンライン媒体で、記事やコンテンツのように見えるけれども、実はお金を出して書いてもらう手法が、を「ステマ(ステルスマーケティング)」と言って、昔、問題になりました。

「広告なのに広告じゃないふりをするのは、ずるいじゃないか。フェアじゃないじゃないか」ということで、「きちんと『広告です』とわかるようにしましょう」というガイドラインが業界団体で定められています。「『PR』『AD』『広告記事』などと明記しましょう」というガイドラインがあります。

なぜそうなったかはいろいろあるんですが、ただ、そこで明記する例として「【PR】と添えるべし」と定められてしまったものだから、「どうもPRとは広告のことなんだな」という伝わり方をしているようです。でも、これはちょっと違うんです。正解はこの後に言います。

それからもう1つ。人材業界ではよく聞くんですが「自己PR」という言葉があります。採用活動の時に自分のことをいかにアピールするかという意味で使われます。ウィキペディアにも書いてありますし、人事系のコンテンツでは「自己PR」があちこちに書いてありますね。

ここでは「PR」は「アピール」の意味で使われているんですが、今日のセミナーで言う「広報」は、この「アピール」だけではないんです。要するに「自己PR」の「PR」と「広報」は違うんです。これもちょっと気をつけてください。

それから、よくある誤解の3つ目「プロモーション」、販促ですね。企業の販促活動を「プロモーション」と言いますが、その頭文字を取って「PR」。「PRは販促なんでしょ? プロモーションでしょ?」という意味で使う方もたまにいます。

これらの誤解は、みなさんが広報がどんなものかをよく知らないのに、間違った使い方で覚えていることから起こっています。実際は「違うものなんだ」ということを私は伝えていきたいんです。

プロやコンサルが、広報支援に入る企業にまず聞くこと

日比谷:「広報」の語源は「パブリック・リレーションズ」という言葉から来ています。この頭文字を取れば「PR」になるわけですね。文字通り「パブリック」は「社会」や「世の中」という意味です。世の中とのリレーションズですから、「関係を作る」「維持する」、そのへんがつまり広報の語源だし、本来求められるものです。

ただ、社会や世の中と言っても広すぎます。実際、企業や団体が何か事業活動をやろうとすると、もう少し解像度を高める必要があります。例えば消費者さんやユーザーさん、株主さんがいたり、株主さんに情報提供するアナリストの方や証券会社がいたり、監督官庁がいたり、これから採用していく従業員の方や従業員のご家族がいたり。

つまり「世の中」と言ってもいろいろな種類の方がいて、それぞれの方と関係を作っていく必要がある。それぞれの方々に働き掛けて、それぞれに期待する行動を取ってもらう。

例えば見込み客に働き掛けて買ってもらう、投資家の方々に働き掛けてお金を出して応援してもらう、ビジネスパートナーに働き掛けて事業提携をし、一緒に業界を盛り上げるなど、それぞれにそれぞれの働き掛けをしてリターンをもらう。そういう活動です。

だから、広報をやる時には、まず「あなたたちの会社にどんなステークホルダーがいるんですか?」「それぞれの方々とどんな関係を保ちたいですか?」ということをお聞きします。

それらを勘案すると、広報とは「ステークホルダーと理想の関係を作って良好に維持すること。その上で、事業としてやりたい目標を達成する。いい関係を作るだけではなく、自分たちの目的もちゃんと達成する。それを実現するのが広報の機能だ」となります。

この「関係を作る」とは、一回仲良くなったらおしまいではありません。事情は常に変わっていくので、変わるさまを見続けて対策をしていかないといけないんですよね。

冒頭に申し上げたように、メディアが何を扱うか、世の中の人が何に興味を持つかは常に変わるわけです。例えばライフステージが変わると食べるものが変わったり、付き合う人が変わったり、かけられるお金が変わったりといろいろ変わると思うんですが、そういったことの複合体が世の中ですから。

スライドの左下にあるように外部環境が変わる、もしくは社内で売りたい商品やサービスが変わる、事業所が変わる、社員の構成が変わるなどで、戦い方が変わる場合もあるでしょうし。

また、右下のコミュニケーションの方法ですね。もともとは電話やファックスで営業をしていたのが、IT、デジタルも使うようになったり、最近だとAIが対応してくれることもあるかもしれない。人に働き掛けて伝えたりコミュニケーションする技術はどんどん進化しています。それらを勘案した上で、常にいい関係を作り続ける。これが広報の難しさであり醍醐味なわけです。

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