社員の成長につながる、3つの重要な観点

——キャリア自律や人的資本経営という言葉が見聞きされる昨今、若手社員も自己成長を求める傾向が見られています。「そこに行けば誰でも成長できる環境」はないと思いますが、open workの20代成長環境でも上位に選ばれているイグニション・ポイントさまでは、成長をどう定義されているのか・どんな場づくりをされているのでしょうか?

末宗喬文氏(以下、末宗):まず「成長」の定義は、自ら考えてもらうことかなと思っています。弊社の最終面接でも、5〜10年後ぐらいの中長期で実現したいことや夢は必ず聞くようにしています。前提として自分自身がやりたいことを明文化した上で、その実現に向かっていくことが成長だと思っています。

目標や夢を言語化することが本人の意識にもつながり、上司もそれを見ながらしっかりとコミュニケーションを取ってもらっています。例えば、将来やりたいことにつながる仕事を任せたり、今の仕事が本人のやりたいことにどうつながっているかを伝えながら、モチベーティブしています。

「魅力的なおもしろい仕事がどれだけできるか」「尊敬かつ切磋琢磨できる仲間がいるか」「そういった仲間からしっかりフィードバックを受けて、改善できる仕組みがあるか」。この3つが、成長という観点で非常に重要だと考えています。

「魅力的でおもしろい仕事」に携われる仕組み

——なるほど。御社はコンサルティングと新規事業と投資ということで、3領域の事業を手掛けておられますが、「魅力的でおもしろい仕事ができるか」については、どんな工夫や取り組みをされているのでしょうか? 

末宗:例えばうちのコンサルティング事業では、大規模なパッケージシステムの導入は、積極的にやっていません。新規事業やDX、事業変革などの案件が中心です。

弊社を志望する方は、いずれは起業したり、サービスを作りたいといった方が多いので、デジタルの最新の知見や新規事業といった案件に関わりたい方が多いです。そこで、パッケージ導入案件ばかりだと、ミスマッチにもなってしまう。それを防ぐために、なるべく志向に合った案件を優先して取り組むようにしています。

必ずしもすべてが本人の期待に添えるかというと難しい部分もありますが、この1年あるいは中長期でやりたいことは上司も把握するように努めているので、部門長を中心にマネージャー以上のメンバーと相談しながら、目標につながる案件をアサインしていくようにしています。

——確かに、DXや新規事業はやりがいも経験値も得られそうです。一方で難度も高いと思いますが、若手社員がチャレンジする上でどんなバックアップをされていますか?

末宗:未経験やジュニアのメンバー1人ではできないことも組織や会社で取り組むことで実現できることも増えてくるため、チームで取り組む体制を作っています。例えばシニアマネージャーやディレクターが10〜20パーセント入り、マネージャーが50パーセントで、シニアコンサルタントが100パーセント、アナリストが100パーセントというかたちで、チームとしてフォロー育成できる体制をとっています。

また必ず成功する新規事業はなかなかないので、仮に失敗したとしても、まずはチャレンジしたことを認める評価制度をきちんと整備しておくことが重要だと思います。うまくいかなくても、その中で学んだ良い面を見たり、「今後登用しない」といったチャレンジ機会を奪うことはしないようにしていますね。

新卒2年目でもCXOに抜擢される「CXOチャレンジ制度」

——日々の業務での成長機会に加えて「CXOチャレンジ制度」についても拝見しました。この8年間で13社・15名のCXOを輩出されたということで、制度を活用された方のエピソードや狙いも教えていただけますか?

末宗:CXOチャレンジ制度には、いろいろなパターンがあります。自分自身がアイデアを出してCEOになるものもあれば、ジョイントベンチャーを作ってCXOとして関与していったり、我々が支援している投資先の経営陣の1人として入っていったり。

そういった機会を求めて、優秀な方が集まってくれるということが、まず会社としてはすごく大きなメリットですね。さらに、そこで1つでも事業が成功すれば大きな成果だと思います。弊社は「ゆたかな人生のきっかけを」という理念を掲げているので、メンバーの自己実現を応援したいという思いがあります。

——誰でもチャレンジできるんでしょうか?

末宗:社員であれば誰でもできます。例えば、来年新しくジョイントベンチャーを作ることが決まっているんですが、CEOやCOOを社内公募したところ、複数名の手が挙がり、選考の結果2名を抜擢することになりました。

そのうちの1人は新卒2年目の女性社員で、社会人経験は実質1年ちょっとなのですが、目の前のプロジェクトでも非常に成果を出していて、情熱も能力もあると判断しました。経営者としてのポテンシャルもあるため抜擢して取り組んでもらっています。

新しい事業への挑戦や人材の登用による好影響

末宗:彼女自身も将来は起業したいという目標のために弊社に入り、コンサルティングスキルを身につけて、新しいサービスや事業を作っていきたいという方で、今まさに目指しているキャリアに向けて歩んでいます。

彼女のように、年功序列も性別も関係なく、若手でもしっかりロールを担えそうな方、情熱や能力のある方はどんどん抜擢していく文化があると思います。

——前例があると「自分もできるかも」と思えたり、身近にロールモデルがいると心強いですよね。

末宗:こうした事例はどんどん作っていきたいと思っています。会社としても新しいサービスに取り組むことで、業界の知見やネットワークがどんどん蓄積され、コンサルティングビジネスにも還元されたり、いろいろなビジネスポジティブな影響が出ると感じています。

実際、株式を一部売却して数億円のキャピタルゲインを得た事例もいくつか出てきていますし、DX推進によって業界の知見やネットワークが生まれ、コンサルティングの仕事をいただけるケースも増えてきています。

全社員にメンター兼トレーナーがつく「パフォーマンスマネージャー制度」

——個人にとっても、企業にとっても良い循環があるんですね。フィードバックについては、「パフォーマンスマネージャー」という制度があると思います。これは新人だけでなく、役員も含めた全社員に、メンターとトレーナーの役割を併せ持つマネージャーがつくという、ユニークな制度だと思いますが、詳しく教えていただけますか?

末宗:パフォーマンスマネージャーは、上司の場合もありますが、あえてプロジェクトから離れた管理職の方を当てることもあります。第三者的なフィードバックをもらえる場や、直属の上司だと言いづらいことも率直に言えるような方をアサインするのも良いと考えています。

会社では、少なくとも2週間に1回、30分の1on1を必ず全社員で実施することをルール化しています。役員は私がパフォーマンスマネージャーをしているのですが、例えばボリューム感が大きい案件や責任を担っている方は、週に1回、しっかりコミュニケーションを取りながら、仕事の話や改善点なども率直に伝えるようにしていますね。

——相性も重要な気がするんですが、組み合わせはどんなふうに判断されているんですか?

末宗:そこは、ある程度人柄などを加味して人選をしていますが、相性というのは当然あると思うので、もし違和感があれば、柔軟に変えたりもしていますね。

——取り組みの当初から、現場の方々にもスムーズに受け入れられたんでしょうか?

末宗:最初はコーポレートメンバーで1on1の予定が入っているかをカレンダーで細かくチェックしたりしていましたが、今は基本的には定着していますね。経営陣からメンバーまで意義を理解し、効果も感じていると思います。

人事としては、パフォーマンスマネージャーに向けて「困ったらこんなことを話題にして話してください」というものを用意していますが、今はある程度はお任せしている部分も大きいですね。現場の若手社員からも「業務上の些細な課題から、視野が狭くなってしまう時の目線合わせや個人的な相談までできるので、かなり活用しています」という声があります。

本人にとって納得感のある評価をするための2つの評価制度

——なるほど。成長に関しては「どのように評価するか」も、とても重要だと思っています。自己評価だけでなく、会社からの評価が納得感のあるものだと、成長実感も高まる気がしますが、御社の「ロール&レスポンシビリティ評価」のメリットを教えていただけますか?

末宗:大きくは「ロール&レスポンシビリティ評価」と「バリュー評価」を組み合わせています。ロール&レスポンシビリティは、それぞれの職務に求められる役割を明文化しています。

役ごとにどのような役割を期待するかを項目ごとに設定して明確にしています。それぞれの項目ごとに点数や割合を定量的に定めて、達成度合いを数値化していることが特徴ですね。なんとなくの感覚的な評価ではなく、仕組みや項目がしっかりとあって、そこでどのくらいの点数なのかが本人にも見えるようになっていることで、納得感が持てるかなと考えています。

評価者を自分で選べる「360度評価」

末宗:あとは、360度評価のバリュー評価も組み込んでいます。弊社のバリューは、「誰もが起業家精神で」というアントレプレナーシップ、「予測不可能をのりこなす」というエフェクチュエーション、「最高の自分と最高の仲間」というエクセレントピープルを掲げています。それを7つの行動指針に分解して、しっかりやれているかどうかを上司や同僚、配下のメンバーに評価してもらっています。

このバリュー評価では、本人に評価者を選んでもらいます。パフォーマンスマネージャーや直属の上司は必然的に入るんですが、人選に偏りがある場合は、2名までは追加できる仕組みです。本人の納得感と偏りが出ないための工夫を両立できるようにしています。以前は会社側が評価者を選んでいたんですが、より本人の納得感を高めてもらうために変えました。

——自分で評価者を決められるのはおもしろいですね。ロール&レスポンシビリティは定量評価で、バリューは定性評価なのでしょうか? また、2つの評価のどちらに重きを置いているのでしょうか。

末宗:バリュー評価も定量と定性コメントを書くようにしていて、7つの行動指針に対して5段階評価で定量化している感じですね。ウエイトは、ロール&レスポンシビリティが7で、バリュー評価が3です。

ただ役割期待に応えるだけでなく、会社のバリューに沿った行動をすることで、必然的に成長につながると思っています。例えばアントレプレナーシップは、「自分でどんどん新しいことに取り組んでいく」で、エクセレントピープルは「どれだけ自己研鑽ができているか」「他者の成長を後押ししているか」というものが行動指針に含まれています。

自社のバリューを体験してもらうためには、やはり評価制度に落とすのがいいだろうということで、こうした2つの評価制度を設けています。

「失敗を責めない文化」だけでは不十分

——目的意識を持った人材がいて、その活躍のチャンスや仕組みがあり、事業成長にもつながるという、良い循環があるんですね。

末宗:我々が働く環境や社会は、本当にすごいスピードで変化しているので、会社としても現状には留まらず、常に変化していく必要があると思うんです。そうした中で、若手だけでなく全社員が成長・変化していくことによって、会社自体の持続的な成長につながると思っていますね。

——逆に「これをやるとうまくいかない」ということはありますか?

末宗:やっぱり、失敗を責めないカルチャーや評価の仕組みを作ることだと思います。文化があるだけではなく、評価につなげてあげることが大事だと思いますね。

——成長機会はすごくたくさんあると思うのですが、スキルを得たから独立・転職していくといった感じにはならないのでしょうか。

末宗:弊社も基本的にはできれば長くいてほしいと思っているので、やりがいや成長機会を提供し続けることはすごく大事だと思います。ただ、刺激という観点で言うと、コンサルティング・新規事業・投資という3事業があることで、転職しなくても多様なキャリア形成が可能となっています。一度退職して、良い経験を積んで戻ってこられた方も歓迎しています。

目標と仕事がつながっていれば、モチベーションも成果も高くなる

——最後に、「若手を育てたいけど、どうしたらいいかわからない」と悩んでいる方へのアドバイスをいただけますか?

末宗:まずは社員それぞれの中長期目標や1年間で実現したいこと・成長したいポイントを言語化することが重要だと思います。その上で、上司がしっかりとそこを理解してコミュニケーションを取り、適切な仕事を割り振っていくことです。

目標と仕事がつながることによって、結果的にモチベーションが高くなると思うんですよね。さらに仕事に対する取り組みが変わり、成果が出る確率も高くなる。それは個人にとっても会社にとってもすごく良いことかと思うので、失敗を責めるのではなくチャレンジを称えるカルチャーや評価制度を整備していくことが重要かと思います。

——まずは目標の言語化から始まるということですね。その上で、組織としてさまざまなかたちで、実現のための機会を提供されているんだなと思いました。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。