日本を熟知した海外生まれの2人による「海外から見た日本」

司会者:みなさま、大変お待たせいたしました。本日はお忙しい中、紀伊國屋書店 新宿本店 3階アカデミック・ラウンジ開催の、『⽇本はクール!?』の著者ベンジャミン・ボアズさん、『コンテンツ・ボーダーレス』の著者カン・ハンナさんのトークイベントにお越しいただき、誠にありがとうございます。

私は本日のイベントの内容、スケジュール、スピーカーのプロフィールをご紹介させていただきます、株式会社クロスメディア・パブリッシングのマエタと申します。よろしくお願いいたします。

本イベントでは、日本を熟知し、さらに海外の視点を持つお二人に「海外から見た日本」をテーマに対談していただきます。本日みなさまに来ていただいている新宿を見てもわかるように、海外からの旅行客が増えていますよね。この変化を身近に感じている人も多いのではないでしょうか。

コロナ禍の収束や為替の影響もあって、日本は海外からより一層注目される場所となっています。2021年の東京オリンピックは、新型コロナウイルス感染症の影響で、残念ながらインバウンド事業がゼロに終わってしまいました。しかし、今のポストコロナ時代に、あらためて世界に日本のすばらしさを発信する機会が巡ってきています。

しかし実は(日本を世界に発信するに当たって)日本人が「日本のここがすごい」と思うところは、海外の人から見ると伝わりづらかったり的外れだったりすることがあります。(それゆえ)「日本の良さをうまく伝えられない」という悩みや「なぜ日本は韓国のようにうまく自国のコンテンツ・商品をPRできないのか」という疑問を持っている人も多いと思います。

『⽇本はクール!?』の著者で、在日15年以上でありクールジャパン・プロデューサーとして日々日本のPRに関わっているベンジャミン・ボアズさん。『コンテンツ・ボーダーレス』の著者で、『NHK短歌』へのレギュラー出演やNewsPicksへの寄稿など、歌人・タレント・国際社会文化学者として活躍するカン・ハンナさん。本日はこのお二人に世界から見た日本の魅力についてお話しいただきます。

観光業やインバウンド事業に関わっている方だけではなく、マーケティングに関わる業務をされている方のインスピレーションにもつながる内容となっています。ぜひ最後までお楽しみください。

海外からの注目が高まる中で、日本のPRをどうしていけばいいのか

司会者:続いて、本日のイベントのスケジュールをご案内いたします。このあと1時間弱、ベンジャミンさんとハンナさんのトークセッションがあります。海外からの注目が高まる中で、日本のPRをどうしていけばいいのかについて、たっぷりお話しいただきます。

本編の終了後に質疑応答の時間を設けています。素朴な疑問でもかまいませんので、ぜひ疑問をぶつけてみてください。質疑応答のあとは、本をお持ちの方向けにサイン会を開催します。本をお持ちでない方で参加をご希望の方は、トークセッション後にご購入いただけます。サイン会は写真撮影もOKですので、ぜひ参加をご検討ください。

最後にベンジャミンさんとハンナさんのプロフィールを簡単にご紹介します。ベンジャミン・ボアズさんはアメリカ・ニューヨーク州出身の国際コミュニケーション・コンサルタントで、2016年に内閣府公認クールジャパン・アンバサダー、2022年10月に内閣府公認クールジャパン・プロデューサーに就任されました。

Netflixなどでの仕事を手掛けるほか、「NHKワールド JAPAN」でリポーターを務め、コロンビア大学・大阪大学など国内外の大学でクールジャパンに関する講演を多数行われています。また、新聞や雑誌にも日本語と英語で寄稿されており、スタジオジブリ月刊小冊子『熱風』への寄稿「"クールジャパン"はクールじゃない!?」が話題になりました。

これまでの著書としては、2015年に小学館より『日本のことは、マンガとゲームで学びました。』、2016年には『大人のためのやり直し英会話』を出版されています。ベンジャミンさんはふだんから日本のPRに深く関わっている方です。

続いてカン・ハンナさんは、国際社会文化学者・タレント・歌人・株式会社Beauty Thinker CEOと多様な才能を持ち、多方面で活躍されています。国際社会文化学・メディア学を専攻された横浜国立大学大学院・都市イノベーション学府・博士後期課程を卒業されました。

韓国ではニュースキャスターや経済専門チャンネルMC、コラムニストとして活動され、2011年に来日されました。現在NHK・Eテレ『NHK短歌』にレギュラー出演しているほか、NewsPicks『THE UPDATE』にも出演するなど、多方面で活動中です。

2019年にはKADOKAWAより歌集『まだまだです』を出版し、第21回現代短歌新人賞を受賞されました。さらに2020年11月には、100パーセントヴィーガンコスメブランド「mirari(ミラリ)」を立ち上げたことでも注目されています。韓国でも日本文化に関する書籍を8冊ほど出版しており、日韓文化交流にも力を注いでいます。

そして今回はファシリテーターとして、株式会社クロスメディア・パブリッシング代表取締役・小早川幸一郎がトークの進行を務めます。それではみなさま、お待たせいたしました。3人のトークセッションに移ります、拍手でお迎えください。

(会場拍手)

日本のポピュラーカルチャーが好きで、17歳で初来日

小早川幸一郎氏(以下、小早川):みなさま今日はお忙しい中、足を運んでいただきましてありがとうございます。株式会社クロスメディア・パブリッシングの代表をしています小早川です。私は社長に加えて編集もしていまして、今回のお二人の本の編集も担当しています。

一緒に本を作りながら、お二人から非常に勉強させていただきました。本当に出版社に入ってよかった、出版社をやってよかったなと思います。もし私が出版社の人間じゃなくても、今回のセミナーを知ったらたぶんみなさまと同じところで話を聞いていたと思います。

今日は紀伊國屋書店さまにこのような機会を作っていただきました。紀伊國屋書店さまはもうすぐ100周年ということです。また、こちらのリニューアルしたきれいな場所で開催することができてとてもうれしく思っております。ありがとうございます。

さっそくトークショーを始めたいと思いますが、今日は1時間半では短いぐらいの本当に密度の濃い話になると思います。後半にはみなさまからの質問タイムやサイン会も行いますので、ぜひ楽しみにしていただけたらと思います。話を聞きながら質問などを考えていただけたらなと思います。

まずは出版の背景や書籍の内容についてお話しいただきますが、みなさまの中にはすでに読まれた方も多いと思います。先ほどのマエタの説明にあったように、私からすると天才のような非常に多才なお二人です。なので本というよりは今されている活動や、これまでにされてきたことを簡単に話していただけたらなと思います。ベンジャミンさんから、よろしいですか。

ベンジャミン・ボアズ氏(以下、ベンジャミン):ただいまご紹介にあずかりました、ベンジャミン・ボアズと申します。みなさま、お忙しい中お集まりいただきまして本当にありがとうございます。特に立っていらっしゃる方は大変だと思いますけれども、一緒にがんばりましょう。

(会場笑)

自分はもう15年以上前に日本に来て、みなさまに生かしていただいています。幼い頃から本当に日本が(関連するものはなんでも)大好きで、特に日本のポピュラーカルチャーが好きでした。初めて来日した時は17歳の高校生で、自分の聖地でありどうしても行きたかった場所はこの紀伊國屋でした。

やはりマンガが好きで、日本の出版系のものが好きだったら、8フロアにわたって100万冊以上もの本がある(新宿)本店に行きたいと思うのが当然だと思います。行けて本当にうれしかったです。1階ずつ見て行って……。

日本がクールであることは、当たり前すぎること

ベンジャミン:自分の興味をそれなりに活かして日本語をたくさん勉強しました。日本に来て国際コミュニケーション・コンサルタントという普通の社会人のような仕事を始めたら「ベンジャミンさんはどうして日本に興味を持ち始めたの?」とよく聞かれました。私が「マンガだったよ、ゲームだったよ」と言うと、いつも唖然とされて「本当にそうなの?」と。

そういうのが自分の来歴で、著書として1冊目に『日本のことは、マンガとゲームで学びました。』という本を出しました。それから「日本人は英語の学び方に興味を活かしたほうがいい」という会話を何回もしていたことが、2冊目の『大人のためのやり直し英会話』を出すきっかけとなりました。

そんな中、何度も繰り返しのように「ベンジャミンさん、本当に外国人は日本が好きですか?」「ベンジャミンさん、日本はクールですか?」と言われることがあったんです。

みなさまの中には日本がクールかどうか気になっている方がいるかと思いますが、私はそれを1回も考えたことがないんです。当たり前すぎますから。日本は幼い頃からクールだと、自分の体の芯でずっと知っていたものですから。

「自分にとっては当たり前なのに、なぜ当の日本人はそのことが気になっているのか」とむしろ自分も気になって、それが小早川さんのおかげで3冊目の『⽇本はクール!?』のテーマになりました。日本のイメージを外の観点からみてうまくターゲティングすれば、マーケティング術で自分の商品・行き先・ブランドを活かせるという本です。……ちょっと長かったかな?

(会場笑)

小早川:いえいえ、ありがとうございます(笑)。内容についてはこれからいろいろとお話ししていただきます。では次にハンナさん、最近の活動や自己紹介をお願いします。

40ヶ国を回った中で、来日して「日本にいたい」という気持ちに

カン・ハンナ氏(以下、ハンナ):初めましての方もいらっしゃるかと思います、カン・ハンナと申します。私は日本に来たのが2011年で、それまでは大学生の時から世界40ヶ国を旅していました。高校生ぐらいから自分の中に「世界を知りたい」という気持ちが強くあって、お金を貯めて世界のあちこちを回っていました。

ブラジルやスウェーデンなど、けっこう遠い場所も全部回ったんですが、日本は韓国からすぐに来れる国だったので、いつでも行けるからとちょっと後回しになっていたんです。

2009年11月に初めて日本に来た瞬間に一目惚れしてしまいました。40ヶ国を回った中で「うわぁ、日本にいたい」という直感的な気持ちがすごくあって、そこから20回以上、一人旅で日本のあちこちを旅することになりました。

なんで私はこんなに日本のことが好きだったんだろうとよく思います。あとでいろんな日本の魅力や、自分が日本をなんで好きなのかをお話しさせていただければと思います。

日本に来て私は本当にさまざまな活動をさせていただいています。今回『コンテンツ・ボーダーレス』という本の執筆をするにいたった背景としては、私は日本に来て短歌というものに出会い、五七五七七の31文字を本当に愛する人生になりました。

その中で先ほどもご紹介いただきました『まだまだです』という第一歌集を出させていただき、ありがたいことに外国人初の新人賞を受賞させていただきました。それをとおして日本の伝統文学から日本の奥ゆかしさを知ることになり、日本のコンテンツの力を強く信じるようになりました。これはぜひ世界に広めるべきだと思っています。

先ほども楽屋でお話しさせていただきましたけれども、日本の大学院に通っていまして、博士過程を卒業できることになりました。来週、卒業させていただきます(笑)。

(会場拍手)

そこでひたすら研究してきた内容の一番最初、論文の「はじめに」の中で韓国のコンテンツを分析しながら抱いた「日本のすばらしいコンテンツたちが世界にもっともっと広がってほしい」という思いを込めて、今回『コンテンツ・ボーダーレス』という本を出版することになりました。ほかにもいろいろとありますが、あとでもっとお話しできればと思います。よろしくお願いします。

(会場拍手)

日本の文化には「人間なら誰でも共有できるような何か」がある

小早川:ベンジャミンさん、ハンナさん、ありがとうございます。ベンジャミンさんはアメリカご出身で、日本に興味を持ったのはエンターテイメントがきっかけということですね。ハンナさんはアジアがお得意ですが、ほかにもいろんな所に行かれてたんですね。それは初めて知りました。

ハンナ:そうなんです。40ヶ国ぐらいを回ったあとに「私は日本が好き」という気持ちを抱いたことは、自分の中でもけっこう衝撃的な経験で。やはりある国に行ったら、ものすごくすてきな文化を持っているけど自分がちょっと入り込めない文化だったり、本当に異文化として感じたりすることがあるんですけど、やはり近い国だからなんですかね。

日本は韓国ともいろいろと文化が近いところがあって、すべてがスッと入ってきたんですよね。なので勝手ながら、自分の前世は日本人だったのかなって思い込んでるんです(笑)。いろんな国を見た上で日本に一目惚れしたっていう背景があります。

小早川:ハンナさんは文化から日本に興味を持たれたということですね。

ハンナ:そうですね。本にもちょっと書かせていただいているんですが、1990年代後半から2000年初頭に、日本の文学や映画が韓国の中ですごく人気だったんです。岩井俊二監督の作品とか村上春樹さんの小説のブームが起きていました。私たちの世代、大学入る年代の子たちには、日本の文学・日本の映画はすばらしいというイメージはあり、憧れはずっとありました。

小早川:ベンジャミンさんは、日本に来る前にほかの国を回るようなことはしていたんですか?

ベンジャミン:幼い頃にはいろんな家族旅行をしていましたし、大学に入ってからバックパッキングでチベットとかにも行きました。やはり日本に少し滞在してみるとわかったんですが、ハンナさんがおっしゃったように「直感」は絶対にあると思います。自分たち2人を含めて日本のファンは、日本の文化の中で、言葉にはしにくいんですけれども普遍的な要素というか、人間なら誰でも共有できるような何かを体の中で感じるんじゃないかなと思います。

それに入り込めば入り込むほどおもしろみが出るんですよね。日本の文化は「奥が深い」とよく言われますけれども、本当にそうだなと思いまして。そういった1つの興味を持つと、その奥深くに入れば入るほどほかの方との絆が深まることも本当に好きです。

オーディエンスの人を指すのはアレかもしれないですけれども、このテーブルの外にドバイからいらしている友だちのアンさんがいらっしゃいます。アンさんと私が知り合ったのは合気道のおかげです。武道の合気道です。合気道で仲間になって、公園に行っていろいろな技をやっているうちに「こいつ、いいやつだな」と思って(笑)。

(会場笑)

そして絆が深まっていって、こうして私の本のイベントにも来てくれているんです。そういえば最近は道場に来ていないので、あとで話す機会があったらぜひ「アンさん、なんで道場にいないの?」って声をかけてみてください(笑)。

(会場笑)

日本に滞在してみると、誰でも自分なりの良さは絶対に見つかると思っている。だから当たり前のように日本はクールだと思っています。その人が日本に来てどういうものを好きになるかは誰にもわからない。本人も滞在する前にはわかるわけがないと思いますが、接すれば絶対に好きになると思います。それは日本の強さです。

日本は「やり続けることの美しさ」を教えてくれた国

小早川:ハンナさんはタレントであり歌人でもありますが、日本の魅力はやはり歌とかそういうところにもあるんですかね。

ハンナ:私自身は短歌を9年やっているんですけれども、最初は本当に直感的に「短歌で表現したい」という気持ちから入っていきました。しかし、やっていくとものすごく壁を感じて「なかなか難しい世界に入ってきちゃったな」って思ったんですけれども、その中でもやり続けることを学びました。

私の日本のすごく好きなところでもありますが、日本は「やり続けることの美しさ」を教えてくれた国なんですね。四字熟語やことわざでもよくあるように……「石の上にも三年」?(笑)。その言葉の意味をやっと知ったのは、短歌と出会えたからです。ひたすらやり続けること、それが本当に拍手をもらえるものなんだってことを、日本の方々にたくさん学ばせていただきました。

短歌をやっていく中で、私は「短歌は引き算の美しさだ」とよく表現しています。31文字しか使えない、むしろいっぱい文字を使うのはダメという世界で、余白の美しさや言い過ぎないこと、空間・すき間の美しさというような、本当に世界の中で日本にしかないんじゃないかということをすごく感じています。

短歌っておもしろくて、いっぱいお話ししたい、自分の感情を伝えたいということじゃなくて、減らして減らしてもう本当にこの一言しか言えない環境だからこそ言葉が力を持つことがあるんです。

全体で見た時に、日本の建築や映画、それからコンテンツデザインもすべて、余白をものすごく大事にしているのかなとすごく感じていて。そこからもう1回日本のいろんなことを見た時には感動します。

今のDX時代で、私自身もデジタルコンテンツを分析している中で、すごくスピード感のある世界になっています。そんな忙しい日々において、日本のスローダウンする、余白を作る文化は世界でNo.1じゃないかと思っています。

小早川:紀伊國屋書店さまも前はここにびっしり本が並んでいたんですけど、日本の良さというか、今回余白があるデザインにリニューアルされたような気がします。

ハンナ:(笑)。