社長はNo2をアドバイスを求める相手にしてはいけない

安藤広大氏(以下、安藤):今回のテーマは「No2を育成するために」ということですが、結論は「育成において奇策はない」ということですね。あとはそもそもの本人の能力に頼ってしまっては、再現性がないということです。

今日はNo2を育成していく上で、「してはならないこと」を6つご紹介して、しっかりとしたNo2の育成法をお伝えさせていただきたいと思います。

1番は、「No2をパートナーにしない」ということです。「No2は『同僚』のように話せる唯一の存在です。悩んだ時にはアドバイスをしてくれる心の拠り所です。対等なパートナーとして、何事も『一緒に決める』ことを心がけています」という社長はけっこう多いのではないかと思います。

すべてが当てはまらないにしても、No2を唯一話せる存在とか、アドバイスを求める相手と認識されている社長は世の中に多くおられるんじゃないかなと思うんですが、けっこう危険です。

何が良くないのか。例えば「新規事業が苦戦しているね」「あれはうちの会社には時期尚早でしたね」「やはりそう思うか。次はどうすべきかアドバイスをくれない?」というような会話をする。

そうするとNo2はどう思うかと言うと、自分は社長と同位である、同じ位置にいると。上下ではなくて同位にいる錯覚。こう勘違いをするわけですね。

組織の上下は責任の大きさで決まります。社長が会社の最終責任者ですから、責任を取れる立場ということで上。その指示を実行する立場であるNo2は下という組織図。これは人間的に偉いとか社長のほうが優秀だとかではなくて、組織における役割に対しての責任の大きさによって上下が決まっているということです。

優れたNo2の育成に「必要な恐怖」

安藤:社長はNo2に指示をし、No2はそれを実行することが求められる。そして社長は、社長にしか決められない決定をし、No2から聞くのはアドバイスではなく、あくまでもNo2視点で持っている情報。つまり、決定のための材料をNo2からもらうという関係性です。

同位の錯覚を起こしてしまうと、社長はNo2に横の立場として相談し、決定も一緒にするわけですから、アドバイスを求めてアドバイスを受けることになって、一緒にお互いが納得するかたちで決定をしていくという流れになってしまう。

そしてこれがやっかいなのは、社長が指示をできなくなるということです。なんせ同位なので。指示をできなくなるということは、No2に対して指示ではなくお願いをするようになるということです。

「お願い」と「指示」の違いは、実行するかどうかの決定権がお願いを聞く側にあるかないかなので、実行するために個人の納得する理由が必要になってくるということです。社長が必要だと思うことをNo2がやってくれないようなことが起きるということです。

こうなってくると、完全に横関係になっていきます。すると何が起きるか。社長はパートナーとして認識しているんですけども、No2は、社長のことをライバルと認識し始める。ただ、ライバルというのは社内外に対してのライバルなんですね。

No2のほうが実務を動かす量が多いことが多いので、「俺がこの会社を動かしているんだ」となる。No2は社内での人気も獲得し始める。そうすると、会社が割れる原因になってくる。

これも、いろんな会社の社長から相談を受けたことがあります。「No2が何人か引き連れて、裏切って辞めていく」と。こういうことが起きてしまうパターンで、「No2にもっと自由を与えて、もっと働きやすい環境を作ってあげるべきだった」と反省をされる方が多いんですけど、実はぜんぜん違います。

正しくは、社長とNo2の間に評価する側・される側という上下関係がしっかりできていなかったからなんです。No2が「社長はライバル」という勘違いをして、こういうことが起きてしまったので、しっかりと上下関係を作っていくことが必要だということです。

社長とNo2の関係は、あくまでも「上司と部下」の上下関係にあるので、評価する側・される側ですね。私から「評価を獲得しなければならない」という、これは「必要な恐怖」です。それを感じてもらうために、当然一定の距離感を取っているということです。

経営者は非常に孤独で不安になることもあると思うんですが、ここで一定の距離感を、しっかりとNo2との間にも保つことがとても重要になってくるということです。これが1つ目です。

成長に必要な「負け」との向き合い

安藤:2つ目は「No2を飛び越さない」。新任のNo2とかだと、まだ安心して任せられる段階ではありません。そのために、彼を飛ばして現場に指示することも多くある。社長ならば現場を把握することも必要ということですが、これもやはりノーです。

No2を飛び越して社長が指示をするようになると、No2からすると、社長は自分を飛ばしているので「自分の責任は消えた」という錯覚を起こします。無責化ですね。

人間は、自らが責任を認識していることに対して負けが発生し、自責、自分で責任を認識しながら、その負けと向き合って、それを埋めることで成長します。ですが無責化すると、負けたり業績が悪かったりした時も、「自分のせいじゃない」と認識し、当然成長しない。

「ぜんぜん成長しないから俺が直接やっているんだよ」という話をよく聞くんですけど、順番が逆です。飛ばし続けていては永遠に成長しないので、これをやっちゃいけない。

さらにNo2に加えてその下の、例えば部長も、社長と直接レポートラインが通っているとする。するとNo2と部長の2人ともレポートラインが社長と直接つながっていることになるので、これは部長側がNo2と同位であるという錯覚を起こしてしまいます。

そうすると、このNo2は部長のマネジメントが難しくなる。そして、No2として機能しなくなってしまう。なので、飛ばしてはいけませんよということなんです。

必要な機能を育てるという考え方

安藤:社長が直接現場に降りて情報収集しなきゃいけないということもあるんですが、これを延々とやっていると、会社がどんなに大きくなってもやらなきゃいけなくなる。社長が直接情報を取りにいくと、No2とか管理職のみなさんにとっての必要な機能が育たなくなる。

必要な情報を社長に上げる機能ですね。要は情報の取捨選択をして、社長に必要な情報を正しく上げる機能が育たなくなるということです。

あとは上司が2人になりますので、部長からすると、どっちの指示を優先したらいいのか迷ってしまうことになる。

なので1個飛ばしとか2個飛ばしというかたちで間を飛ばしてしまうのは、No2の育成にとっては最もやってはいけないことの1つです。

No2に役割と責任を設定しているので、彼を飛び越えてはいけません。No2が「与えられた責任」を果たすために本気で考え、問題が起きたら即座に報告する体制を作るのが社長の仕事です。

どこまで自分で解決して、どこから社長に報告しなければいけないかをしっかり覚えていかないといけないということです。これが2つ目です。