『数値化の鬼』の著者・安藤広大氏が登壇

安藤広大氏(以下、安藤):あらためまして、みなさんこんにちは。株式会社識学代表の安藤でございます。今日は本のタイトルにもなっています、この「数値化の鬼」というタイトルで、お話しできればと思います。

はじめに私どもの紹介です。2015年3月に設立をした、株式会社識学という、現在8期目の会社です。大阪、名古屋、福岡、あと仙台にも拠点があって、事業を進めさせていただいています。

業務内容に関しましては、メインが組織コンサルティングで、今日もテーマになる識学というロジックを使った、組織運営のコンサルティングをさせていただいている会社です。

私の簡単な自己紹介ですが、大阪府出身で早稲田大学卒業後、NTTドコモに入社し、その後ジェイコムホールディングスという会社に転職をしまして、ここでは6年半くらいお世話になりました。最後3年間ぐらいはマネジメントを中心にやらせていただきました。

当時の私のマネジメントスタイルは、今識学で「こうすべきだ」と言っているものとは、まったく違うかたちでした。結果的に振り返った時に、部下の育成の部分や、今日の話で出てくる、効率的に組織を運営するというところが、まったくできていなかったと思います。

2013年に識学に出会った時に、組織をうまく動かせない要因は、すべて管理職、上司、その上の組織を動かす側にあると気づきました。ただ、当然私も3年間、手を抜いていたわけではありません。ひょっとしたら、組織にとってあまり良くないことを、良かれと思ってやってしまっている経営者や管理職のみなさんが非常に多いのではないかと思いました。

これは管理職の方にとっても、管理される社員のみなさんにとっても、とても不幸なことだなと思い、この考え方をしっかり世の中に拡げていけば、その不幸がなくなり、結果的に日本全体の生産性も高まるのではないかと考え、識学という考え方で独立して、1年半くらい個人でやったのちに、2015年の3月に今の会社を設立しました。

今、どれくらいのお客さまに、この識学を導入いただいているかですが、2022年2月期の最終時点で約2,700社。今は3,000社を超える数でお客さまに識学を導入いただいている状況です。まずこの識学とは何かを簡単に説明させていただいたのちに、「数値化の鬼」というタイトルの本編に入っていきたいと思います。

組織内に誤解や錯覚があることで生じる不利益

安藤:識学とは、人間の「意識構造」に関するロジック、学問であると定義しています。「意識構造」とは、この図にありますとおり、人が物事を認識して行動に移る前のことと定義しています。

要は、人は物事を正しく認識することができれば正しい行動が取れるんですが、認識を誤ってしまうと行動も誤ってしまう。

その認識の誤りのことを、日本語で誤解・錯覚と言うと思うんですが、要は識学とは、人がどのように誤解や錯覚を起こし、どうすれば誤解や錯覚を起こさないのかを体系化したものです。

それをどのように組織運営のコンサルティングに活かしているのか。簡単に言うと組織から誤解や錯覚を取り除けば、組織のパフォーマンスが上がる。

この誤解や錯覚の発生の要因の多くは、組織のルールを作る側。管理職や経営者のみなさんの良かれと思って行っている言動によって、組織に誤解や錯覚が生じておりますので、それらの言動を修正することで、組織の誤解や錯覚を取り除き、組織のパフォーマンスを上げています。

「誤解や錯覚と言うけど何?」と。いつも大きく2種類に分けて説明させていただいております。1つ目の誤解や錯覚は、「相互に発生する誤解や錯覚」と言っています。

4人が同じ会社にいるところをイメージいただければと思います。同じ会社にいながら、4人とも別々の人生を歩んでいますので、別々の常識や別々の価値基準、つまり別々のルールを持って、集まっていることになります。

別々の常識、別々のルールを持った状態で1つの事象を見た時に、当然ズレが生じます。例えば営業部では、「いい営業」という言葉の定義1つを取っても、当然認識にズレが生じる。お客さんの要望をたくさん聞いて、値段を下げる営業だと言う人もいれば、いろんなかたちで「いい営業」の定義があります。

上司と部下の間でいい営業という言葉の定義がズレた時に、それぞれのいい営業がどういうものかの、認識のすり合わせ、ルールの答え合わせが行われる。このルールの答え合わせが会社運営のありとあらゆることで行われていると、組織運営上、ロスタイムになります。

あとはそれぞれがそれぞれのいい営業だと思ってやったことに対してズレが生じると、それが衝突の要因になったりする。なので、こういう相互に発生する誤解や錯覚は、組織運営上、できる限り発生させないほうがいいということです。じゃあどうしたらいいのかと言うと、全員が共通のルールのもとに身を置けばいい。

勘違いをさせない組織運営

安藤:そのルールは誰が決めるのか。会社組織には、指定された役割と、その役割に応じて与えられた責任が存在します。その責任を取れる役割に就いた人が、責任に基づいたルールを決定する権限を行使すれば、ルールの齟齬による誤解や錯覚が生じなくていい。

しかし、会社によっては、このルールを決めるべき人がちゃんとルールを決めていなかったり、ルールを決めるべき人が決まっていなかったり、あとは部下にビビッて決めきれなかったりする。これによって、多くの誤解や錯覚が生じてしまいますので、ここをなくしていきましょう。このルールを決める上で重要なのが、今日のテーマでもある、数値化です。

もう1つの誤解や錯覚は、事実に対する誤解や錯覚と言っていまして、これも数多く存在します。ここ(スライド)ではわかりすい例を挙げていますが、この「正しい順番」と言っているのが、「事実」です。

「事実」は、お客さまにサービスを提供し、そしてお客さまから対価を頂戴し、その対価の中から従業員は、自らの貢献に応じて給料を獲得できるという順番になります。商取引によっては、はじめに対価が来ることもありますし、給料が先に払われることもありますが、この順番で確定していかなければ、成立しません。

これが事実ですが、これを勘違いすると、サービスや対価に関係なく、まずはじめに自分が給料を獲得できる。つまり会社がサービスを提供できなくても、対価を獲得できなくても、自らが給料を獲得できると勘違いを起こす社員が出てきてしまう。

なぜ、この事実に対する誤解や錯覚があってはいけないのか。世の中は事実どおりに進んでいきますので、この勘違いした状態は長続きしません。この会社はいつか給料不足になります。そうすると会社が倒産するか、こういう勘違いをした人には辞めてもらわないといけなくなるんです。

昨今は「まず給料を与える」ことばかりか、「給料プラスがんばる理由も会社に与えてもらわなければがんばれません」という人が増えている。なので、そういう勘違いをさせないような運営をしていきましょうというのが、2つ目の誤解や錯覚です。

簡単に本の紹介をすると『数値化の鬼』、今回のテーマですね。あとは『リーダーの仮面』という本とか、その前に3冊ほど本を出させていただいています。

数値化が重要な2つの理由

安藤:いよいよ本題、今回のテーマである、数値化の重要性です。理由1つ目は、先ほど相互に発生する誤解や錯覚の話をさせていただきましたが、「上司と部下の間の認識のズレを生まないため」です。

例えば、「たくさん営業に回りなさい」と言うのか、それを「10件営業に回りなさい」と言うのか。10件と言えば上司と部下の間で認識のズレは生じませんが、「たくさん」という言葉を使うと、認識のズレが生じます。数値化することでそういう認識のズレを生まないことが、まず1つです。

2つ目は、本の中でも、今日のプレゼンテーションの中でも、大きなテーマとさせていただいている、「行動量を最大化するため」です。

なぜ行動量を最大化する必要があるのか。行動量を最大化できれば当然「成果が上がる」。行動量×確率が成果なので、母数の行動量が上がると、同じ確率で推移すれば、成果も上がります。

母数が増えたことによって確率が下がるのは、本当に増えすぎた時には可能性としてはゼロではないですけれども、(おおむね確率が下がることは)ないので、まずは行動量を上げることが重要です。

あと「確率が上がる」。行動量を増やすことで、その物事に対して慣れたり、成長するので、確率も上がっていく。そして「PDCAのペースが上がる」、これも同じですね。行動量が上がることでPDCAのペースが上がり、回転速度がどんどん上がっていく。最後に「業績が安定する」。フルの行動量をキープし続けることによって母数が安定しますので、当然業績も安定します。

今でこそ我々の売上の比率の4割くらいが、ストック収益(サービスや商品を継続的に提供することで、定期的・定額で得る形の収益)になっていますが、上場まではほとんどがフローの売上(商品を販売するたびに得る収益)でした。それでもある程度業績が安定できたのは、行動量に一番着目し、とにかく行動量を安定させることに集中したからかなと思います。

認識のズレをなくし、行動量を最大化する指示の出し方

安藤:行動量を最大化することができれば、一定の成果が上がりますが、行動量を阻害する要因さえ取り除けば、行動量は上がります。では、阻害する要因を見ていきましょう。

1つ目は「明確でない」。先ほどの数値化の理由1と被りますが、例えば上司が「今四半期は君の主体性を5段階評価するよ」と言うと「どうすれば主体的だったと認められるんだ」と部下が迷ってしまう。こういう指示をしてしまうと、部下は本日この瞬間、どういう一歩目を踏み出せばいいかに迷いが生じる。

迷いが生じて、一歩目を踏み出すまでの時間が、ロスタイムになります。こういう不明確な指示を出してしまうと、「部下の迷い時間、イコール行動量の最大化を阻害する要因となってしまう」ということです。

じゃあ、どういう指示をすればいいのか。識学では、「完全結果で指示をしましょう」と言っています。完全結果とは、「10キロを60分で走りましょう」が完全結果です。人によって解釈がズレない。

「10キロをなるべく早く走りましょう」は、不完全結果と言います。人によって解釈がズレます。要は10キロを50分で走った時に、ぜんぜん速くないと言う人もいれば、速いと言う人も出てしまう。なので、完全結果で指示をしましょうと言っています。こうすると部下は迷わなくなる。

結果という言葉は、期限と状態に分解できます。ここで言う期限とは「60分以内に」ですね。そして「10キロを走る」が状態です。主体性を評価するのであれば、例えば「月2、3回は必ず事業提案をし、必ず1つは承認されるような提案をしてきなさい」とか、明確に設定することで、部下の迷いをなくします。これが完全結果での指示になります。