ビジネスゲームに長けた経営者が起こす「新規事業」の特徴

岡田佳奈美氏(以下、岡田):既存の企業さんだと、まだ組織をピラミッド構造的に動かしているところが多いと思うんですね。それでも、「次の種を生んでいこう。VUCAの時代に対応していこう」と、新規事業に取り組む企業さんが増えています。

多様性を受容して、いろんなファクトを拾いながら新規事業を作りましょうとなった時に、既存の組織の在り方と新規事業の組織の在り方に、乖離が生まれる気がするんですけど。そのへんはふだん、企業さんのサポートをする時にどういうことを意識していらっしゃるんですか?

山口高弘氏(以下、山口):いろんな経営者さんが所属しておられる研究会の創設者の武井さん、どうですか。

岡田:(笑)。

武井浩三氏(以下、武井):さっきからちょこちょこ出ている話ですけど、いわゆるビジネスがすごくうまい経営者って、俺から見るとビジネスゲーマーですよね。ゲームの攻略者というか。そういう人って、そもそも自分が攻略できるゲームしかやらない。

だから、新規事業を立ち上げているように見えて、世の中の既存事業をただコピーしてやっているだけで、新規事業としての要素がない気がして。その会社にとっては新規事業だけども、社会で見たら単なるセグメントでエリアを切っただけとか、ちょっと寄せたとか。

それって、いくらお金を用意してこのぐらい投資すると、このぐらいリターンが返ってきて、とかなりの精度で最初から計算できるものだから、別に新規事業ではないという感じがするんですよね。

一方で社会課題解決に寄った事業は、そもそもマーケットがぜんぜん存在しないとかめちゃくちゃニッチとか、どうやって成り立たせるのかがめちゃくちゃ難しくて、普通の金儲けが好きな経営者が入ってこない領域が多いと思うんですよね。このへんの新規事業は、本当にすごくクリエイティブな新規事業な気がします。

だから、「うちの会社も新規事業を立ち上げないと」と一括りにしたくないとすごく思うというか。これは個人的な、感性の話ですけど、俺はもともとアーティストだし、アーティスト型のビジネスにしか興味がないんですよね。コピペでいけるものに価値を見いだせないというか。

だって、アートってオリジナルでないと意味がないから。もちろん贋作みたいなのを、ものすごいレベルまで磨き上げる世界もあるんでしょうけど、その経営者が何を描いているのかが気になる。

社会の制度疲労の原因

岡田:こういう視点で見ると、アドバイザーで入っていただいているGOBはどう映っているんですか?

武井:GOBはやばいですよ。俺から見ると、新規事業の金剛組みたいな感じですかね。金剛組、わかります? 宮大工の(笑)。

山口:宮大工っぽい感じですね。

武井:ものすごいレベルでやっているなと思いますね。

山口:武井さんがおっしゃった新規事業の「新規」って何だという話ですけど、そこってクライアントが何かによるかなと思っていて。社会課題解決って、必然的にクライアントは社会になって、社会課題解決型事業の新規事業って、必然的にゼロからになるんですよね。

しかも、社会課題解決型事業は境界を決められず、土俵を自分で定義できないところもあるから、基本やりたくない事業の典型例かなと思うので、ゲームが得意で勝ち方がわかっていて、攻略の道筋をまずインプットしてからやるみたいなスタイルだとなかなかうまくいかないというか、そういう構造にないですよね。

岡田:新規事業を何と捉えるかですね。

山口:あと、既存の事業と新規事業という観点でいくと、そもそも雇用関係が存在している時点で新規事業に向いていないと思いますね。だって、雇用されているということは、もう雇用の枠の中にあるじゃないですか。

言うことを聞かなきゃいけない人たちが存在している時点で、ファクトは歪みますよねという話で。ファクトに忠実に事業を作ろうと思ったら、雇用形態が存在していたらそもそも無理だなと。

岡田:なるほど。雇用形態は存在しないほうがいいと。

山口:ファクトに雇用形態とかないですからね。

岡田:他に何かファクトを歪めてしまう要因ってあるんですか?

山口:ファクトを歪める以外の力学はないから。

武井:特に今までの既存の形態の社会は、人間が勝手に生み出したもので。

山口:そうですね。

武井:それこそファクトでも何でもなくて、そもそも「会社」なんていうものは物理的に存在しないし。

山口:確かに確かに。

武井:「事業って何?」って人間の活動の話であって、ビジネスなんてものも存在しないし触れないし。

山口:確かに。

武井:社会もそうですけど。ものすごく自然と反した、人間の都合によって作られたものだから、今、制度疲労を起こしているんでしょうね。

山口:そうですよね。そもそも会社を作ろうとした時に参考になるものがなく、なんか組織っぽいのがあるなと思って見たのが、伝統的に存在していた行政機関と軍隊機関という。

官庁組織は経済活動と言うよりも、どちらかと言うと社会的な規制とか紛争解決とかそっち系なので、ちょっと無理があるなと思って。

メルカリがフリルに勝った理由

武井:いや、そうですよね。だって、世界最初の株式会社と言われている東インド会社は軍隊ですからね。

山口:もともとそうなんですよね。

武井:イギリス国家と同じぐらいの軍事力を持っていたやつらが、いきなり他国に行って人を殺しまくって奪いまくって、「今日からここは俺たちの土地ね」と言ったというのが株式会社の始まりで。

山口:もはややっていることはローマですよね。

武井:それを武力を使わないで金でやっているだけで。お金を持っているほうが金で相手を買って、「今日からお前らは俺の持ち物ね」としたみたいな。結局資本主義って、金を持っているほうが勝つじゃないですか。特にコモディティビジネスに関しては。

だからすごく矛盾しているなと思って。スタートアップとか一時期すごく流行りましたけど、ユニコーンみたいに広がるということは、世代とかいろんなものを飛び越えて、ものすごく汎用的、つまりコモディティな商品なわけですよね。

山口:そうですね。

武井:コモディティな商品というのは差別化がないから、大きい資金を投下しまくったやつが勝つというすげえ単純なゲームで。例えばフリマアプリのメルカリがフリルに勝った。メルカリはフリルより1年後ぐらいに出ているんですけどね。なぜ勝ったかと言うと、大きいお金を集めたからというのが一番大きな要因ですよね。

だから、ユニコーン企業とかって本当にクリエイティビティの真逆というか、ビジネスゲームの要素が強いなと思うんですね。もちろん全部がそうとは言えないかもしれないですけど。

山口:本当にそうですよね。軍隊の構造が会社のもともとのベースになっているというのが示唆的なんですけど、軍隊の基本は「奪う」じゃないですか。軍隊に参画する人のモチベーションって何かと言うと、奪ったものが自分のものになるからじゃないですか。

「人からものを奪います。奪ったものが分配されます」というロジックでがんばりますという力学でできたものがもともとの成り立ちなので。まったく真逆のメカニズムでできているものを「生み出す」ところに使いましょうというのは無理があるという話です。

武井:本当だ。

山口:なので、うまくいった人に対して多額の金をリターンしますみたいなモチベーションの作り方も、「人を殺しまくったら財宝をあなたに多めにあげるからね」というローマのロジックとまったく同じじゃないですか。根本的に合わないなという感じはしますよね。

武井:なるほど。ギバーとテイカーですね。そうか、新規事業、起業家は本来はギバーなんですね。

コモディティ化の弊害

山口:コモディティを生みたいと自分にラベルを貼るという話がありましたけど、「私はコモディティを生みたいと思っています。横のものとなんら違いませんけど、ちょっとだけコストパフォーマンスが良いものを生みたいと思っています。はい」と言っているようなものじゃないですか(笑)。

それ、アーティスト的には言いたくないぞみたいな話がありますよね。

武井:うん。めちゃくちゃかっこ悪いですね(笑)。

山口:かっこ悪いですよね。でも言っていることはそういうことですよね。

武井:そういうことですね。「NEXTユニコーン」とか言っちゃっていますけども(笑)。

山口:そうなんですよね。「ガチコモディティを生みたいです。はい」と言っているようなものなので。それはそれで1つの選択肢ですけど。

規制とかしちゃいかんとは思うんですけど、あまりにもコモディティ化してくると、選択肢がなくなるじゃないですか。しかもその選択肢があまりにも当たり前になりすぎてしまっていて、それ以外の選択肢を持てなくなっているということは、制約の方向に走っていくので。

なので、コモディティが広がっていけばいくほど、選択肢が制約される構造になるとすると、何らかのはさみって要りますよね。

武井:そうですよね。WindowsとかのOSもそうですけれど。ちょっと新規事業と離れちゃいますけど、やはり究極的にコモディティになったものは、株式会社みたいに特定の個人の所有物にしちゃいけないと思っていて。極論を言ったら、今の社会で言うと国営化。国のもの。

山口:(笑)。

武井:だからLINEとかは国営企業にしたほうがいいと思うぐらいだし。だけどLINEって実際は韓国企業ですから。「国策として危うくないの?」とか。同盟国かもしれないですけど。そんな中で、やはりWeb3の本質って所有権の分散化で。

山口:そうですね。

武井:GoogleとかAIとか、特にAIは途中がブラックボックスじゃないですか。あんなもの、今MicrosoftがChatGPTの大株主ですけど、やばいに決まっているじゃないですか。だから、こういうものを民主化してみんなのものにしていく領域を増やしていけたらな。GmailとかLINEとか、そういうものほど、Web3化に本来は適しているなと思っていますね。

ESG、SDGsの「攻略できるゲーム化」

山口:そういう意味で、究極的にはコモディティビジネスの出口はインフラ化であり、制度化であり、公的所有物化といったところですよね。だとすると、民間でやっていくうまみがないような状態でやっちゃえばいいわけですよね。

「こういったビジネスをやるんだったら助成します」みたいにしたら、資本競争優位性が出て、もともとやっていた会社よりもコスパが良くなって、勝ちやすくなったという話もあると思うので、制度化でやれるといいかなと思いますけどね。積極的に民業圧迫みたいな感じで。あくまでコモディティだけですけどね。

武井:そう。株式市場に上場するのは「社会の公器」とかって言っていますけど、あれはぜんぜん嘘ですからね。

山口:本当は制度化ですよね。

武井:そう。だから、社会の公器と言うんだったらコモンズ化だと思っていて。

山口:確かに。

武井:クリエイティブ・コモンズとかコピーレフトみたいにオープンソース化することが起業家の一番目指すべき姿じゃないかなって。

山口:奪う力学でできた組織がコモンズ化に向かうのが難しいとすると(笑)、作り方自体を変えないといけないですね。

岡田:実際にいろんな企業の新規事業に携わる中で、山口さんはそういう「コモンズ化に向かっているな」みたいな萌芽を感じられたりするんですか?

山口:うーん、語弊を恐れず言えば、ESG、SDGs……攻略できるゲーム化してきているんですよね。なのでやっている、というのが正しいんですよ。

攻略できるゲーム化しているというのはすごくシンプルで、もはやどういう領域にどれぐらいの資本を入れたら、どのくらいのリターンが呼び込めるかが計算できるじゃないですか。なので、攻略ゲーマーが参入してくるという話であって。

ただ、カントも言っていますけど、「意図はどうであれ、良ければいいんだ」という話もある。めっちゃ邪悪なモチベーションでも社会貢献すればいいという話があるので、これはこれで正しいと思うんですけど、ただ、コモンズ化に向かうということはないなと感じますね。間違いなく。

武井:確かに。