一番辛かったのは、コロナでの全店休業の意思決定

中川英高氏(以下、中川):では、次のパートに移らせていただきます。これまで経験した一番のハードシングスと、それをどう乗り越えたかをおうかがいできればとに思います。では、野本さんからお願いできますでしょうか。

野本周作氏(以下、野本):はい。そうですね。思い出したくないことだらけではあるんですけど。

中川:(笑)。

野本:ちょっと結論から言うと、お二人には失礼かもしれないですけど、やっぱり一番コロナを食らっちゃった業界だと思っているんですね。観光業界も大変だなぁとは思いますが。やっぱり我々の業界は飛沫が飛びますので。

「お酒を飲むと、声が大きくなります」という中で、協力金が出る・出ないみたいなのも含めて、すごく振り回された業界で。やっぱりもう、なんかしばらく怖いものはないなと思うんですよ。

一番最初の緊急事態宣言がたぶん2020年の4月7日だったと思うんですけど、うちは4月2日から居酒屋に限らず大手チェーンの中で全店休業をした会社なんですね。会社全体が休んだんです。

その意思決定が、実は一番辛かった。3月31日に決算年度末だったんですよ。その前の年は、2019年度に黒字じゃなかったらもう上場廃止みたいな状態で、黒字にならないとやばい。ギリギリ黒字が見えた。が、2月の4週目に、学校に行かなくていい、イベント中止だとなって、そっからぐわーっと売上が落ちるんですよ。

もう毎日、利益がどれくらい残るかをずっと僕が計算をしながら、黒字でなんとか残したんですけど。ただ3月30日の月曜の朝だったんですけど、志村けんさんが亡くなられたという、訃報が流れた。

そこで、もうその日の夕方か夜ぐらいの小池百合子東京都知事の「夜の町には出るな」発言みたいなのがあって。その日に店舗のみんなから、めったにない電話がかかってきたんですよね。「町に人が歩いていません」「開けていても意味がないので、閉めていいですか」と。

「アルバイトがもう出勤したくないと言っています。『家でおばあちゃんと一緒に住んでいるので、自分が持って帰っちゃったらどうしよう』と泣き始めちゃいました」みたいな。うわーっともうその日に来たんです。

「自分がやろうとしてることは間違っていなかった」

野本:もうその夜中にここから2~3週間店舗を閉めたら、どれくらい赤字になって債務超過にならずに済むみたいな計算をうわーっとして、(翌)朝の8時から、うちの当時の社長と2人で打ち合わせして「よし、もう閉めよう」と。

役員会議とかで「他の会社は閉めていないのに、なんでうちだけ」みたいな話になるんですけど。「いや、知らない。もう現場が耐えられない」と。「とりあえず年度が締まったんだから、閉めましょう」という話になった。

閉めるにも、ちょっといろいろ手続きが必要だったので、4月2日からと言って、リリースして、取材もぶわーっと来て、店舗にもぐわーっと回して。その日の夜にFacebookで「いろいろ考えた結果、こういう決断をしました」と投稿したら、友達たちからコメントぶわーっとついたんですよ。

当時、芝大門に会社があったので、地下鉄の芝公園の駅の階段を上がったところが公園で、そこでそのコメントを読んで、1人で道端で泣きました。

あ、自分がやろうとしてることは間違っていなかったんだみたいな。今でも涙が流れそうなぐらい、思い出しちゃっていますけど。まあでも、その後が本当のハードシングスだったんですけど(笑)。

やっぱり一番印象的だったのがその決断で、本当にこれでいいのかみたいなことで、一番迷ったのは実はそこですね。

でも、結局その時はナンバーツーだったので。当時の社長は米山久というんですけど、僕はもう提案するだけで最後「よし行こう!」と言った彼はすごいし。

「野本、社長としてそれ今できる?」と言われると、僕はできるようになりたいけど、やっぱり現会長の米山氏はすごいんだなと、今話しながらちょっと思い出しました。

中川:いやぁ~……コメントできないぐらい。

野本:大丈夫です。

資金繰りに追われ、「無理かな」と何度も思った

中川:いや、大変でしたね。わかりました。では次、上田さん、お願いできますでしょうか。

上田顕氏(以下、上田):この話だと思いつくのは野球の時と、あとはポップコーンなんですけど。やっぱりポップコーン(の再建)が本当にきつかったなというのがあります。今、私はCTOとしてやっていますが、うちの会社には外部からのCxO含めて、CxOが社長を含めて4人います。

社長はもともといらっしゃる方で、実質我々CxO陣が中心で会社を支えている形ですが、社長じゃないので正直言うと、過去と背負う責任感は、まったく違います。

ポップコーンの時は、ファンドが買収して、かなり下り坂にも入っていて。他の原宿のお店とか、けっこうパタパタ倒産しだした時で、もれなくそのブームに入っていた。

はっきり言って、このままいくとだめだなと、ファンドも含めて、投資家も後ろもみんな思っていました。私もそれこそ資金繰りで、銀行時代に研修で習ったことをまさかやるんてと思ったんですけど。本当にこれはまずいなという状況に追い込まれていて。

正直さすがに私も無理かなと何度も思ったぐらいきつかったなというのはあります。ただ本当にいろんなことをやって、しっかりと黒字化が一時できて良くなった。私もコロナの入口で乗り越えるところまではいたんですけど。資金繰りに追われ、銀行に交渉に行っても当然難しく、ファンドももう追加出資ができないみたいな状態で。

ビジネスモデルがそもそももう一過性じゃなくてこのままだと永続的に破綻する。というところを変えなきゃいけないというプレッシャーで。私が創業した会社でもないんですけど。売上が戻ってきそうな時に借り入れしないと、工場を作らないと進めない。もう行くも地獄引くも(地獄)ってとこで。

でも当然貸してくれないので、保証人に自分が入ってみたいなことをやったのは本当に辛かったんですけど、それを乗り越えているので。今も当然旅行(業界)もきついんですけどね。やっぱり本当に崖っぷちで、自分が諦めたら絶対終わる状況だったので。

あんまりしょっちゅうやりたくないものではあるんですけど。そういうのは本当に結果的には良かったなと思っています。そこがやっぱり一番ポイントだったなと思います。

「倒産しても別に死にはしねえだろ」のマインド

中川:その大変な状況を乗り越えるためのメンタルというか、モチベーションを維持できたというのは、どうやったんですかね。

上田:まあ、「倒産しても別に死にはしねえだろ」みたいな感じですかね。当然いろんなシミュレーションをするんですよね。調達できなかった場合とかの。最悪の事態みたいなものも、やっぱりシミュレーションする時もあるので。

そこまで見えちゃうと、もうなんか前を向くしかないなというのはありますかね。

中川:そうですね。ありがとうございます。小野澤さん、では、お願いできますでしょうか。ハードシングスですね。

小野澤香澄氏(以下、小野澤):はい。めちゃくちゃ映画みたいなハードシングスを聞いた後なので、ふぁーとなっているんですけども。私、経営に関わり始めたのが去年の8月で、まだ6ヶ月のぺーぺーなので。実はそんなハードシングスは企業としてはないと、今みなさんのお話を聞いて思いました。

この先にそういう瞬間が来るんだ。そうなった時には、死ぬことはないなと思うといいんだなと今聞きながら思っていたところなんですけど。

個人の仕事人としてのハードシングスですと、シアトルでThe Pokemon Company Internationalで仕事をしていた時のことが思い浮かびます。

リクルート出身のがつがつ仕事をしたい若い私と、そのブランドが大好きで事業が伸びる、伸びないみたいなところはあまり興味がないという方たちの中で、どう与えられた目標を達成するかみたいな仕事をしていました。

その時に、やっぱり乗り越えられない壁みたいなものを感じて、すごくがっくりしたことがハードシングスだったなと思います。

CxOポジションを決心するに至った「決め手」は

小野澤:それをどう乗り越えたかと言うと、究極はやっぱり家族だなと思っています。その時アメリカでマッチングアプリで出会った夫がいたから、今の私がここに。

中川:いやぁ、いいですね。

小野澤:そして、マッチングアプリは最高だと思っていて、そう思っていたからこそ、今の仕事が来た。今はもう本当に声を大にしてマッチングアプリが一番賢い出会い方だし、使わないなんてもったいないわと言いまくる仕事につけてうれしいなと思っております。なので、家族ですかね。乗り越え方としては。

中川:いいですね。最後、癒やされた感じで。

小野澤:(笑)。

中川:ありがとうございます。すごく心に来るものがありました。本当にみなさん大変な修羅場をご経験されているからこそ、今のお立場があるのかなと思いました。

では、質疑応答コーナーです。じゃあ、ちょっと読みますね。

「本日はしびれるお話ありがとうございます。野球未経験者ですが、野球になぞらえた質問で恐縮です。キャリア形成における選球眼についてうかがいたいです。お話をうかがう中で、みなさんは大小好き嫌いを抜きにすれば、ネクストキャリアの機会には事欠かないのだろうなという印象を持ちました。

これまで、みなさんの目の前に決して少なくないオポチュニティが提示されてきたであろう中で、ご自身にとって、いったい何が決め手となって、これまでのキャリアチェンジ、CxOポジションを決心するに至ったのでしょうか。あるいは、見送った球は、どういった判断で見送ったのでしょうか」ということですね。

じゃあ、けっこういろいろな球がたくさん来ていたと思われる上田さんから、おうかがいしていいですか。

上田:いえいえ、そんなに打席に立っていないと思うので(笑)。そうですね。私はたまたま最近この5~6年、PEファンドの投資先キャリアをやっていますけど。

そういえば思い出すと、『ハゲタカ』という映画があって、たぶんここにいらっしゃる方、ご覧になった方が多いんじゃないかと思うんですけど、わりとああいう世界観がもともと好きでした。

たぶんみなさんもキャリアインキュベーションさんとかに、とりあえず登録しておけば……。

中川:ありがとうございます。

判断基準は、自分が行くことで、この会社を変えられる自信があるか

上田:はっきり言って(スカウトが)来ると思います。いろんな選択肢が来る中で、やっぱり自分が何をやりたいかというのを本当に決めなきゃいけない。

新卒でもそれは常にあると思っていますが、例えばPEファンドであれば、じゃあどこが最大手かとか、なんとなくそういうのはあると思うんですけど。やっぱりフィールドの広いところより、できそうなところを目指していくのが、たぶん最初のステージなのかなと思っています。

なので私も、エー・ピー(アドバンテッジパートナーズ)みたいな会社の投資先だから行ったというのは正直でかいです。そこでわりと自信がついてきていて、今は考え方は若干変わってきています。

最近は自分が本当に最大貢献できそうなフィールドはどこかという見方に来ていて。私、実は旅行が大好きなんですけど、自分が行くことで、この会社を変えられる自信があるという判断基準で、最近はやっていたりするので。

たぶん初めての部分だと、ある程度自信がついたフェーズで変わってくるかと思うので。とはいえ最初は、わりと来た球をあまり嫌がらずに。なので、私もポップコーンなんて、それこそもう何も知らないですし。

ただまあ、やっぱりとりあえず打席に立ってみようみたいなことなのかなと思っています。すいません、ちょっとまとまりがないんですけど。

中川:いえいえ、ありがとうございます。

自分がワクワクする「軸」と「縁」

中川:では、野本さん、次、おうかがいしてもよろしいですか。

野本:最終的に何を成し遂げたいのかという軸を、ちゃんと持ったほうがいいんだろうなと思っています。なんでも上田さんにかぶせちゃう感じになっちゃいましたけど、「自分のゴールって何?」みたいな。僕は、グロービスの経営大学院に行っていたので、やたら「志」と言われてきたんですね。

『志を育てる』という本も、実は一緒に書いているので。志ジャンキーなんですけど。やっぱり僕は「サービス・小売・外食」、小さくてもいいから日本に住まう人たちの幸せとか喜びをどう増やすかという商売というか、そういうことがしたい。

そのためにやっぱり僕みたいに現場からというキャリアを踏んでいない人間が、現場もわかる、経営もわかる、ちゃんとその間になってつないでいくというキャリアの1つとしてCxOがあったなと思っています。

結局みなさん最終的に何がやりたいんですか、どこに軸足をおきたいんですかというのを見ながら、あとは話を聞いていると、「ワクワクするかどうか」ですよね。

何回かお会いした人とか、その会社の人と話していて楽しいなとか、気が合うなとかあるじゃないですか。さっきの空気の話じゃないですけど。縁がない人って、なんか予定が合わなかったりとかあるんですよ。

中川:(笑)。なるほど。

野本:恋人みたいな感じなのかもしれないですけど。やっぱりそのご縁とか運とかタイミング、波長みたいなのもあると思います。あとは本当に僕も戦略コンサルに落ちまくって、結局最後にベルガーに拾ってもらったというのが縁で、本当に入ってよかったと、今は思うので。

やっぱりそういう縁とか運とかを大切に、しっかりと軸に沿って動いていったら、ドアは開くんじゃないかと思います。

中川:はい。わかりました。おもしろいですね。

「他の人がやらないことをやる」という軸で見るのもあり

中川:小野澤さん、ではお願いできますか。

小野澤:はい。今のお二人のに完全に乗っかってしまうんですけども、軸というところで、自分のミッションである「価値観の多様性を増やす」に沿うかどうかで見てきたと思いますというのが、ストレートなお答えです。

他の観点ですと、他の人がやらないことをやるという軸もあります。自分が「海外で働きたい」と思った30代前半の時に、周りの海外で働いている人は、男性で40代で駐在で家族がいて、その会社で10年の実績があって、という自分にないものを持っている方たちでした。

そんな中で、「私は今すぐ行きたい」となった時に何をしたかというと、彼らにはできないことを売りにしようとおもったんですね。テクノロジー人材であることと、未婚者なので自由にどこでも行けるし、なんでもやるという、そこところの組み合わせで、なんとか海外へという道を探していきました。

エキスパットのメリットというか、至れり尽くせりみたいなことは一切捨てて動いたことは、良かったなと思ったりはしますね。なので、他の人がやらないことをやるという軸で見るのもありなんじゃないかなと思います。

中川:なかなか共通点があるようでそんなにないなというか。本当にやっぱり各自みなさんの軸に沿って動かれているということなのかなとも思いました。