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ゆるい職場×プロティアン 新時代のキャリア開発(全4記事)

研修で驚くほど、高スペック・社会経験もある新入社員が増加 今の日本企業における若手育成のポイント

プロティアン・キャリア理論に基づくキャリア開発を推進する「一般社団法人プロティアン・キャリア協会」主催のイベントに、『ゆるい職場』の著者で、リクルートワークス研究所主任研究員の古屋星斗氏が登壇。プロティアン・キャリア協会代表理事の田中研之輔氏と、「新時代のキャリア開発」をテーマに対談しました。本記事では、「若手」と「ミドル・シニア」に対する人事の考え方の違いや、中長期的に自社の若手の人材力を高めるために必要な視点などが語られました。

今の日本企業における若手育成のポイント

古屋星斗氏(以下、古屋):一人っ子の話もありましたけど、一人っ子家庭は確かに2010年に15パーセントぐらいだったんですけど、直近20パーセントぐらいに増えているんですよね。そういった意味では大事にされているのは間違いないし、今後人口動態的に若手の人口は、今(出生数が)80万人を切るとか、状況が差し迫っているわけです。

どんどん職場における若手比率は低下してるわけですから、一人ひとり腫れ物を触るように扱うみたいな状況になるのは仕方ないわけです。正直そうなった時に、私は、ポイントは「職場の中で育てない」ことだと思うんですよ。

田中研之輔氏(以下、田中):あぁ、おもしろい。

古屋:そうじゃないですか。だって職場の中で育てられないですよ。上司・部下の上下関係では、基本的に指導の効率はたぶんこれまでの6掛けとか7掛けになるのではないですかね。もちろんもっと新しいアサイン手法とかをタナケン先生も研究されていると思うんですけど、そういったものが今後どんどん出てくると上がっていくかもしれません。

私は仕事の量的負荷と関係負荷と質的負荷と呼んでいるんですけど、質的負荷は、ストレッチな経験なので、ないといけないんです。ですけど今の若手を研究すると、関係負荷とか量的負荷があると、質的負荷がシュリンクしてしまうんですよね。

ただ問題は、関係負荷と質的評価には、すごく強いプラスの相関があることです。関係負荷は理不尽さとか人間関係のストレスとかですけど、つまり、今のマネジメントのやり方・アサインのやり方は、ぶっちゃけて言えば理不尽でないストレッチのやり方がないんですよ。

ですから上下関係でやるのをいったん諦めて、職場の外でどう育てるのか。職場の外で育った力をどう本業に還元させるのかを考えたほうが、手っ取り早いのではないかなと思っています。

職場の外であればハラスメント関係が生じる可能性は極めて希薄ですし、例えば副業とか、それこそプロティアンにいろんな自分で活躍するとか、変幻自在に活躍する。そういったものを本業にいかに還元してもらって、それで異動先を考えたりアサインを考える。そうしたほうが、むしろ今の日本企業の状況に合っているのではないかと考えています。

「若手」と「ミドル・シニア」に対する人事の考え方の違い

田中:ちょうど僕の世代で、同級生で1976年生まれの阿部(真大)さんという、若者研究をやっている研究者がいます。彼が言ったのがおもしろくて。

「自分たちのやりたいことを仕事にすると結局低賃金しかもらえないから、やりがいの搾取だ。若手は搾取されていく」と言っていた。その文脈と、またこの「ゆるい職場」論で「余力を持ちながら、でもキャリア不安でいる若者たち」は、本当に時代の変化を感じていて。

だから僕は古屋さんの新書を読ませていただいた時に、阿部くんの「搾取される若者たち」の次の時代を浮かび上がらせるフレームだと思ったんですね。で、阿部くんのよりもさらに職場の中に入っている。阿部くんのはフリーランスにけっこうフォーカスしていた。フリーランスというか、アルバイトかな。

古屋:わかります、わかります。

田中:だから労働集約型のバイク便とか今でも増えているけど、そういうアルバイト店員の若者たちがやりがいを搾取される話だった。そうではなくて、新卒採用を勝ち抜いてある種の企業群の中に入り、余力を残している。で、若手を職場の外で育てることに関しては、僕も企業現場に行っていますけど、企業人事は一番不安だよね。

古屋:本当にそのとおりです。

田中:企業人事が不安、つまりそのまんまいなくなる、と。「ミドル・シニアのキャリア開発は副業・越境させましょう」みたいな話だと「うん、やりましょう」(笑)。裏側の声で言うと早期離職制度もありますから、みたいな。だからどんどんチャレンジしていってくれていい。

でも若手は、最初の10年のファーストキャリア形成では職場の中に置いて、なんとか外を見させない。隣の芝が何色かを見させないみたいな(笑)。

古屋:そうそう……(笑)。

田中:でも古屋さんの知見では、ゆるい職場で今、若手たちは「余力を残している」わけでしょ。で、もっとキャリア成長をしたいと思っている、という理解でいいですか?

古屋:そうですね。もちろんいろんな人がいますけど、それこそハイポテンシャル層は特にそういう傾向がありますね。

中長期的に自社の若手の人材力を高めるために必要な視点

田中:今日は人事とかキャリアコンサルタントとか、現場の人が多いと思うんですけど、それに対して時間軸で言うと、何年目までに何をしたらいいとか、何かそういうサジェスチョンはありますか?

古屋さんの知見をベースにして、最初の3年で例えば3割辞めていくみたいなフレームに対して、この「ゆるい職場」論はどういうインプリケーション(結果として生じる影響)を出すんですかね。

古屋:短距離走の経験をすごく求めているので、3年でどうこうみたいなロジックが適用できないですよね。「石の上にも3年」は、その職場が安定的にその後も自分のキャリアを支えてくれる、ある種の安心感を必要とします。

自分が退職するまで、会社がキャリア安全性を供給してくれることを前提にして「3年はがんばれ」という言葉が成立していたと思うんですけど、今はそうではないじゃないですか。

今日も某百貨店さんの話がニュースになっていましたけど、いきなり外資系企業に売却されて旗艦店が違う会社旗艦になるみたいなこともあるわけです。こういった世の中になった時に、やはり「3年我慢しろ」というロジック自体、オールドスキームのアドバイスになってしまう。

逆に、自分の今の職場に限らずいろんなところで、3年間でできるような経験をもっと獲得していくことを、サジェストできるか・できないかが、育成できるか・できないかの分かれ目になるのではないかなと思います。

おっしゃるとおり、副業・兼業した人材の調査とかをやると、若手に関して言うとまず自社に対するコミットメントが上がるんですよね。つまり「隣の芝は青くなかったんだ」とわかるわけですけど、ただ離職率もやはり上がってしまうんですよね。この問題をどう理解するかですが。

ただ、そんなしがみつき人材を育ててもしょうがなくないですか? 若手に外を見せずにやると、確かに離職率が下がるんですよ。けどコミットメントも上がらないんですよね。

その会社のことを大して好きでもないし、仕事に対して生き生きもワクワクもしていないんだけど、その会社に「いないといけないからいる」状況の若手を作るだけです。それが中長期的にその会社の人材力を高めるかというと、私はすごく疑問です。

タナケン先生が考える、若手育成の2つの仮説

田中:そうね。私も今、自分がCHROなら若手をどう育てるかの仮説は2つあると思っています。1つはアルムナイ(卒業生。定年退職以外の退職者)、そしてもう1つは抜擢人事。

企業さんはもちろんこれをやっている。パナソニックさんもそうだけど、「もう出ていってもいい。チャレンジしてこい」と。そして力をつけて戻って来いという、かわいい子は世の中の厳しさを受けてこいみたいな、そういう応援をするような施策。

いっとき前の話ならば、「何を言っているんだ、3年も我慢できないのか」と村八分だったわけでしょ。もうまったくそういう時代ではない。そしてもっと言うならば、転職までさせないにしても、チャレンジを与えていく。つまり適正負荷を与えていく。古屋さんも少しおっしゃっていたけど、若手の中の能力差がけっこう顕著にある。

古屋:まったくそうです。

田中:例えば私も大学に出ていて思うのは、六大学レベルでも「1年生の頃からベンチャー企業に2社行っています」みたいな子も、もういるんですよ。

古屋:いますよね。

田中:2年、3年とやって、ベンチャー企業のIPOまで経験して、新卒でどこどこ企業に入ったりする。そうすると新人研修の中で「なんじゃこりゃ」と考えてしまう若手もいる。

古屋:本当にそうです。

田中:だから僕は、もうずっと前から、新卒一括採用のフレームを、通年採用に変えろと言っています。いわゆる秋ターム・春タームと分けて、通年採用でやる。そして第二新卒もかませて、若手はジョブミスマッチを防ぐ。これをやっている企業も経団連の中で増えてきていて。

ジョブ型雇用と言う前に、もっとやるべきことがある。採用した300人なら300人の経歴別、いわゆる「キャリア資産別キャリアラダー」があり得ると思っている。

「大学時代にけっこう恵まれた環境だったんだね。2社も中長期のインターンをやっていたんだ。けっこう経営企画とかを回したりしちゃったのね」と、採用の時にわかっているわけですよね。そういうカルテがあるんだったらそれに向かって、その子たちは一括の研修ではなく、もう現場に出すとかね。

でも優秀なポテンシャル人材もまだまだいて、無色透明で入ってくる。「なんだかこの子できるな」と。でもぜんぜんインターンなんかやったことなく、アルバイトしかやったことない子は丁寧に育てる。そういうキャリア開発が必要かなと思いますけど、いかがですかね。

古屋:まったく150パーセントアグリー。100パーセントアグリーした上で、50パーセント勉強になったという意味です(笑)。

田中:(笑)。

研修で驚くほど、高スペック・社会経験もある新入社員の増加

古屋:本当にそうですよ。本にも書きましたが、多極化しているというか、差がすごいんですよね。入った時点で差が生まれている。かつては会社に入った瞬間はみんな白紙で「ポテンシャル採用です」という感じだった。何の社会的な経験もないし「入ってから勉強させていただきます」という気分でみんな入ってきたわけですし、企業もそのつもりで育てたわけです。

でも今は一斉研修をして「何だこれは」と思ってしまう若手もいらっしゃる。やはりものすごくスペックが高くて、社会的経験もものすごくあって、「高校時代からクラウドファンディングして自分の会社作りました」みたいな人が、ざらにいるわけです。

私は15年ぐらい前に新入社員でしたが、その頃とあまり変わらないような白紙の新入社員ももちろんいる。両者が同じ会社に混在しているのが、やはり非常に対応を難しくしていますよね。

若者論みたいな、「Z世代はこうだ」みたいな平均値の議論がまったく通用しない、そういう世界です。まさにラダーを分けるとか、何か打ち手を変えるとか。そういう意味で、若手育成はすごく難易度が上がっていますよね。

定年までその会社で働くイメージがある人は2割しかいない

古屋:あと「職場の外で育てる」話をしたんですけど、最近私が注目しているのが、会社の内側だけど職場の外という空間があるんですよ。越境学習研究の中に「日常の越境場」という概念があるんですけど、そういった空間があり得る。

つまりこれって若手の有志団体とか若手の勉強会とか……別に若手に限らなくていいですけど、部署・部署との社内勉強会みたいな。こういう空間は職場の外ですよね。職場の人間関係とかまったくなくなるじゃないですか。ですけど、ひとつの企業の中です。だから私は、この空間はすごく活用できると思っています。

過剰に外の情報をフリーダムに与えるわけでもないけど、でも職場のある種の関係負荷の中ではないところで育てられるかもしれない可能性があるわけですよね。これで今、明らかに成果が出ているのがNTTさんの「O-Den」という団体です。

田中:へぇー、有志団体?

古屋:O-Denという有志団体ですね。グループ会社横断で自主的に勉強会をやったり、独自にビジネスプランコンテストをしたり、すごく活発に活動されています。

田中:僕が企業現場に出て1つ変わってきたなと思うのは、若手はある意味大人というか、落ち着いているから、あまり昔のように労働組合に入らない。労働組合とか従業員組合で、わーっとやらないのね。で、もちろん執行役員はがんばっている。僕もよくそういう人たちに会っているんだけど、それは盛り上がってる。

つまり別にベア(ベースアップ)で闘争する必要はないんだけど、組合もある意味人事と協調関係・共創関係を作り出しているから、「自分たちの働くアイデンティティは組合だよね」みたいなのは、もう根こそぎないんですよ。

あと今おっしゃっていたO-Denみたいなので、今度行きますけどソフトバンクだったら、ユニバーシティがある。キリンもユニバーシティか何かがある。社内での学び場、リスキリングの場みたいなのがあって、そこで積極的に学んで適正な負荷をかけていく。

若手は古屋さんから見て、キャリア開発を望んでいるんでしょ。キャリア成長は望んでいる?

古屋:これも人それぞれと言わざるを得ないんですけど、ただ終身1社の状態ではないのはもう大前提になっています。大手企業に入った人にアンケートを取っても、定年までその会社で働くイメージがあるという方は2割しかいないわけですよ。残り8割はどこかのタイミングで転職せざるを得ないわけですよね。

そうなった時に、やはりそういう問いかけをせざるを得ない。つまり自分の会社以外の会社に必要とされる人物であるかは、望むと望むまいとにかかわらず、相対せざるを得ない。どちらかというと、私はそうとらえていますね。

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