コアファンに新しいファンを連れてきてもらう
鹿毛康司氏(以下、鹿毛):質問タイムに行きたいと思います。それでは質問のある方、何でもけっこうでございます。はいどうぞ、そちらの方。
質問者1:ありがとうございます。いろいろお話が聞けて、楽しかったです。ちょっとファンベースマーケティングに戻りたいなと思って、ご質問なんですけれども、2点あります。
先ほど「アンチのオジサンを取り入れる」みたいなお話があったと思うんですが、ファンの方を「組織」と見た時に、「262の法則」に分かれるかなと思っていまして。
先ほどの事例は、アンチの方を取り入れたお話かなと思いますが、6割のあまり興味・関心がない方々をファンに取り入れることを、どう工夫されていらっしゃるのかを1点目にうかがいたいなと思っています。
2点目が、その方々をファンに取り込んだ時に、持続的にファンになっていただけるような取り組みです。という2点をうかがえればと思っています。
鹿毛:まずは1点目に集中しようか。どうやって取り込むかのほうが、ものすごい大変です。取り込んだあとは、持続はなんとなくできそうな気がしない? そんなことない?
質問者1:いや.......。
(会場笑)
アクティブになっていただいた方が、3年後、5年後、あまり会場に来なくなるような気がしていたので、うかがえればと思いました。
鹿毛:わかった。じゃあ、両方どうぞ。誰か答えたい人。
鈴木賢治氏(以下、鈴木):私ですか? じゃあ、藤本さんからお願いします。
藤本光正氏(以下、藤本):「262の法則」は、確かにあります。いわゆるコアファンの方ですよね。僕らが意識しているのは、やっぱりコアファンの方に新しいファンを連れてきていただくことですね。
さっきも言ったように、プロスポーツを見に行ったことがない方って、どんな空間かぜんぜんイメージがついていない人が多いと思うんですよ。行ってみると、楽しさが初めてそこでわかって、リピートにつながりやすい性質があるんですけど、「ゼロ→イチ」が本当に大変なんですよね。
ということを考えると、やっぱりコアファンの方が「おもしろいから行こうよ」っていう、誘い誘われの部分をどう誘発するかが一番早いというか、重要だなと思っています。
「興味を持っている人」を徹底的に調べる
藤本:なのでそういう意味でいうと、チーム側から考えるべきは、コアファンの方が誘いやすい状況を作ってあげること。具体的に言うといろいろ出てくるとは思うんですけれども、そういう観点でやっておりますね。
鹿毛:新規顧客を獲得するために、コアファンと一緒にやっていくというね。これは、ファンマーケティング・ファンベースマーケティングの鉄則でございます。次は?
河合辰信氏(以下、河合):さっきもお話ししたとおり、基本的にはみなさん、「ブラックサンダー」のことはあまり興味ないと思っているので(笑)。それでもなお、すごく興味を持っていただいている方はいます。
この人たちがどのポイントに興味を持っているか。どういうことをやると、より喜んでくださるかを、(ブラックサンダーに)興味がない人はおそらく知らないだろう、気づいていないだろうと思っています。なので、「ブラックサンダー」を大好きでいてくれている人が気づいているポイントを、その人たちにいかに伝えていくかをいろいろやっていくことですかね。
だから、興味を持っている人を徹底的にいろいろ調べるというか、知ることを大事にしています。
ファクトとロジックでは、信頼関係は作れない
鈴木:自分は、右脳の話をまたするんですけれども(笑)。「262の法則」はもちろんあるんですけれども、ファクトとロジックでは、信頼関係は作れないと思っているんですよね。そこで、「どう自分が本当にやりたいと思っているか」という熱意を伝え続けることだと思っています。それをしつこくやるということですね。
しつこくやって、例えば拒絶されても、それでもあきらめずにやっていけば、いつかはわかってくれると思っていますし、自分の考えとしては、同じ日本人で、英語とか違う言葉をしゃべっているわけじゃなくて日本語でしゃべれるので、通じるはずじゃないですか。なので、そう信じてやり続けています。
鹿毛:「話せばわかる」じゃなくて、「わかるまで話す」ということですね。
鈴木:はい。
鹿毛:そういうことですね。これに関係して、「262(の法則)でアゲインストの人もいる」ということだけど、一番のアゲインストは、みなさんの上司じゃないですか?……とか言ってね。怒られるかもしれないけど、上司だったり会社だったりするわけです。
例えば、ファンマーケティングをやろうとしたら、「そのKPIはどうなるの?」「売上はどうなるの?」と言って、つぶしにかかられることってありません? でも、お客さまを大切にすることはとっても大切じゃないかということを、ここは社長だからやれていると思いきや、社長でもやれないことってありますよね。だから、なんでこの人たちはやっているんだろうか?
例えば上司だったら、部下がどうやって言ってきたら、「よし、やれ!」って言います?
河合:どうでしょうね。「お客さまの立場で考えた話かどうか」に尽きると思っています。「それを突き詰めていったら結果になる」というのは、今までに実体験があるので。数字云々もある程度考えますけど、お客さま目線なのか、メーカー目線なのか。ちゃんとお客さまの立場に立って考えているんだったら、「じゃあ、やってみようか」と言います。
ファン作りのスタートは組織作りから
鹿毛:藤本さんはどうですか? どうやったら、「うん。よし、やれ!」って言います?
藤本:切り口が変わっちゃうかもしれないんですけど、ファン作りって、組織作りからスタートするとは思っています。「ファンに対して良い価値を届けようと思う従業員が、どれだけいるか」という。その気持ちの総量が、結局外に伝わっていくと思います。
なので、「まずファンだ」というのもそうなんですけど、従業員がまず、「届けたい」と思うモチベーションなりを、どう高い状態に保つかでいうと、やっぱり組織作りからスタートしなくちゃいけないかなと思っています。
鹿毛:組織作りとか、本気度とかですかね。
藤本:その価値観を揃えたりとかですね。
鈴木:自分は、まずそのやろうとしていることが(大事です)。お客さまもそうなんですけど、我々にとっておもしろいかどうかだと思います。
おもしろくないことをずっとやり続けることはできないので、「自分たちが楽しめているかどうか」という部分ですね。そこに本当に熱があるかどうか。熱量を持ってやれるんだったら、最初は多少うまくいかなくても、やり続けてうまくいくかもしれないし。自分だったら、そういうところで判断します。
「自分ががんばっていること」の実感
鹿毛:なるほど。次、手を挙げていらっしゃる女性......どうぞ。
質問者2:21期大阪校の、河合さんの高校時代の同級生です。
(会場笑)
河合:それ要る?
鹿毛:要る。
質問者2:鹿毛さんが、それを言ってほしそうだったから。
鹿毛:そうなんだよ。
質問者2:鈴木さんに言われてしまったんですけど、「ファン&ファン」というところで、組織自体も、やっぱりファン状態にならなくちゃいけないと思っています。みなさまの会社は、すでにそういった、「組織の中のファン」という状態になっていると思います。それをされた時の、難所はどこにあって、どのようにクリアされたかを聞きたいです。
鹿毛:じゃあ、1分ずつでドーンと。
鈴木:1分ですね。「BYAKU Narai」を運営している奈良井まちやど、という会社でいうと、どうファンになれるかというと、「自分たちがやっていることが、地域の役に立っているのが実感できるかどうか」だと思うんですよね。
我々はお客さまをいろんなところにお連れしますし、送客するんですよね。そうすると、地域の生産者とか職人の方から、お礼のメールとかLINEとか手紙をいっぱいいただけるんですよ。
我々は地域の宝をお預かりして、お客さまに伝えることをやっているので、それを地域の生産者に喜んでもらえる。そして、お客さまからの手紙とか口コミとかも含めてですけど、自分ががんばっていることが、しっかりと成果が出ていると思った時に、やっぱり楽しくなってくるということかなと思います。
一番効果的なのは、家族からの「すごいね」
鹿毛:どうぞ。
河合:正直、まだぜんぜんできていないと思っていて。社内がみんな「ブラックサンダー」大好きかというと、実はそうでもないんですよ。これをなんとかしなきゃいけないというのを課題として、この数年、少しずつ取り組んでいます。
「何が一番効くかな?」と思っている部分が1つあるとすれば、本人が周りから言われることです。特に家族から「すごいね」と言われるのが、一番効果的かなと思っています。本人だけじゃなくて、家族にとっても周りの人たちにとってもうれしいことを、会社としてはやっていくことを心掛けています。
藤本:お二方と1つだけ違うものがあるとすると、プロスポーツの場合は、やっぱり選手の存在があります。選手とフロント、いわゆる事業サイドのスタッフって、けっこう距離感があるのが通例なんです。だけど、その選手のがんばっている姿を伝えることもそうですし、逆に選手に、事業サイドの従業員たちががんばっていることをわかってもらうのもそうですし。
「選手とフロントのコミュニケーション」を意図的に誘発して、例えば、練習が終わったあとのケアのスペースをあえて事務所に作って、選手が練習が終わったあとに、ふらっと立ち寄るみたいな。
そこで選手と従業員のコミュニケーションが生まれたりするので、それがまったくないと、がんばっている姿を選手からなかなか認められないというか、裏方に徹するかたちになってしまう。なので、あえてそういう機会を提供するのは、工夫としてやっているところですね。
鹿毛:とにかく3人に通じるのは、「徹底的に青臭く」だと思うんですよね(笑)。まだ他に(質問したい方が)いっぱいいらっしゃると思うので、全部聞いていきたいと思います。一番前の方、30秒で質問をお願いします。
「売上」ではなく「心が動いたか」の指標
質問者3:特に鈴木さんかなと思うんですけど、ファンって、ローカルの地元のところを重視していると思うんですよね。他のお二方にも、もし聞けたらと思うんですけど、ローカルの中で、自治体とかとの絡みでファンの助けになる、もしくは逆に邪魔になるようなこと。それをどうブレイクスルーするのか、みたいなところを聞きたいなと思います。
鹿毛:次にいきます。向こうお三方、30秒でお願いします。
質問者4:僕は宇都宮に住んでいたことがあって、さっきのお話、すごく心に響きました。老若男女まみれて、本当の意味でのファンベースコミュニティを作っていると思ったんですけど、たぶん栃木の人はすごく保守的で、とっても苦労されたと思います。その苦労されたところを、ぜひお聞きしたいなと思いました。
鹿毛:ブレックスの大ファンですよね?
質問者4:大ファンになりました。まったく知りませんでしたけど。
鹿毛:何を言っているんですか。
質問者4:すみません(笑)。
鹿毛:次、どうぞ。
質問者5:みなさんグロービス生時代、どのような学生さんでしたか? 特に成績優秀だったか知りたいです。
鹿毛:もう1人、どうぞ。
質問者6:ファンのダイナミズムやインプレッションが、直接的に売上につながらないことも多いと思うんですけど、どういう反応とかダイナミズムが、「これいいな」「これ悪いな」という、肌感みたいなものがあったら教えてほしいです。
鹿毛:今の質問を全部総まとめにして、最後1分ずつお話ししていただきます(笑)。
(会場笑)
あと3分しかない。それでは鈴木さんからお願いします。
鈴木:まずグロービスに関しては、本科生を卒業するのに5年半かかったので、それで察していただけるかなと思います(笑)。
(肌感に関しては)やっぱり、どれだけ感動していただけるかだと思っていて。それは売上につながるかどうかではなくて、向き合ったお客さまが、どれだけ心が動いたかというのは、1つの指標になるのかなと思っています。
行政に関しては、やっぱりいろんな行政の方がいらっしゃるんですけど、「どのレベルの方とやるか」だと思うんですよね。主査とやるのか課長とやるのか、部長とやるのか副市長とやるのかで、付き合い方と打ち手が変わってくると思っていますし、そこの自治体に思いがあるかどうかで、やり方がぜんぜん変わってくるのが、今までの実感としてあります。
日常的に「お客さま目線」を考えること
鹿毛:最後にメッセージをお願いします。
鈴木:メッセージもですね(笑)。自分としては、本当にこのグロービスに出会えて良かったですし、2016期の同期がうちのCFOをやっていたり、そこでできた仲間たちと、本当に仲間になるんですよね。なので、このコミュニティを大事にするだけではなくて、自らが行動者になって、一歩踏み出すことをぜひ、やっていただければと思います。以上です。
鹿毛:鈴木さんでした。どうもありがとうございます。
(会場拍手)
河合さん、1分でお願いします。
河合:1分ですね。ローカルは、あまり関係ないといえばないんですけど、メーカーとして、これから私の時代で100年くらいまでいって、その先も会社を続けていってほしいなと思った時に、ローカルとのつながりはものすごく大事だと思っています。
なので、地域を助け、地域に助けられる。この共生関係みたいなのは、どんどん作っていきたいなと思って取り組んでいます。宇都宮の話はいいですね。成績は......。
鹿毛:成績は悪かったでしょう?
河合:「中」くらいです。
鹿毛:「中」ね。メッセージをどうぞ。
河合:メッセージですか。お客さま視点、お客さま視点って、ふだんめちゃくちゃ考えているんですけど、油断すると、どうしてもメーカー視点、企業視点になってしまいます。本当にめちゃくちゃ考えていてもそうなるので、みなさん本当に日常的に、お客さまのことを考えてください。以上です。
鹿毛:河合さんでございました。ありがとうございます。
(会場拍手)
企業は喜ばれて初めて存続できるもの
藤本:私がいただいた質問は、宇都宮が保守的な部分(ですね)。チームの名前が「ブレックス」というんですけど、ブレイクスルーの略です。現状維持じゃなくて「現状打破」ということで、今まであったことを打ち壊そうと。そういうビジョン、理念を掲げてスタートしています。そこをずっと言い続けてきたことが、変えられた一番のポイントかなと思っています。
鹿毛:行政はどうですか?
藤本:プロスポーツって、もともと半公共性があるので、行政との絡みは常日頃という感じですね。
鹿毛:お客さま、お客さまと言いながら、やっぱり社長だからマネタイズもしていかなきゃいけない。そこのバランスはどう考えられていますか?
藤本:やっぱり、中長期に常に立つことだと思います。今の利益を仮に少し失ってでも、中長期でファンベースを拡大していく重要性を忘れないことが一番大事かなと思います。メッセージに変えさせていただきたいと思います。
鹿毛:藤本さんでした。どうもありがとうございます。
(会場拍手)
あと何秒? マイナス23秒。じゃあ僕、勝手にプラスを付けます。
(会場笑)
お三方のお話、とってもおもしろかったと思います。みなさんと一緒の仲間であり、先輩であり、そして世の中で本当にお客さまに向かれている方です。
一言だけ言います。企業は喜ばれて初めて存続できる。喜ばれるからお金を払っていただける。それが売上になる。ファンベースマーケティングを追求することは、企業そのものであり、その企業の価値を作り上げる。
そういうことを、我々はこのお三方の話から、しっかりと受け止めたんじゃないかなと思っております。この京都の暑いところまで来ていただき、本当にありがとうございました。
(会場拍手)