熱量は高いところから低いところにしか伝わらない

奥谷孝司氏:(以下、奥谷)先ほどオイシックスの話をしましたが、お客さまのインタビューによってわかることってたくさんあるんですよね。自分たちが思っていたのと違う反応があったりするので、正直に聞いていくことがすごく大事です。

「お客さまはものづくりはできない」と言いましたが、一方で言うと情報はフラット化しているので、なんとなくはみんな知っている。キャンプ用品を機能的には作れるはずなんですけど、体験を知らないから体験を聞いてるわけですよね。そうなるとロイヤルカスタマーは「じゃあいいわよ。教えてあげるわよ」なんて言いながらも熱量が上がるので。

「正直であれ」ということは、法人として誰が言ってるのかわからない人が言うよりも、ものづくりをやっている人や店舗の人が「正直」であろうとして、お客さんの声を聞くことが、本当の意味でのインタラクティビティになるんじゃないかなって思いますよね。

森竹アル氏(以下、森竹):ちょっと話がずれるかもしれないですが、以前弊社でラジオを普及させようというキャンペーン(NHK・民放連共同ラジオキャンペーン)を担当させていただいたことがあって。その時、熱量は高いところから低いところにしか伝わらないということが明確にわかって、すごくおもしろかったんです。

そもそもラジオって、商品としてものすごく熱烈なファンがいて、その人たちがいかに気持ちよく広げてくれる状態を作れるのか、という設計になっていたんです。

でも実はラジオそのもののファンの人たちよりも、実際にラジオに出演されるタレントの方、ディレクターの方、ハガキ職人とか、中枢のところに熱量をすごく持った人たちがいて。その人たちがどういうスタンスなのかでも、この広がり方がまた変わってきちゃうと思うんですね。

なので、フェアなロイヤルカスタマーと、企業の現場の社員の方々の向き合い方も、ファン心や絆、関係性が強化されるかどうかの原点の部分になるから、すごく大事なんだなって思いました。

「結果的にn1」を増やす

奥谷:今のアルさんの話を聞いて思ったのは、最近海外でもD2Cブランドとかは、かつては「アンチ流通」ということでものづくりの過程を可視化するようなブランドが出てきた。失礼な言い方ですけど、その次にSNSとかを活用したちょっとチャラめのブランドが出てきて、コロナもあってパタッと落ちてきています。

最近はセレブであれ、普通の起業家であれ、強烈な義憤というかn1のパーパスというか、ビジョンを誰でも世界に発信できる。そしてそれによって、共感が生まれたりする。

ヤクルトさまを見ていて思ったのは、僕のSNS上の友だちが「ヤク中(ヤクルト中毒)」と言っていて、もう毎回SNSにあげていて。そのn1にこっちの心の火が点いて、買い続けた。もちろん「戦略的にn1」という言い方もできるんですが、「結果的にn1」というんですかね。

ここで言ったら、目の前にいる人はこれだけしかいないんですが、「機能的価値が」とか「何万人の実証が」とかじゃなくって、みんなが「良い」って言う、そのn1のn5の熱量や、n4の熱量が僕らを動かすんです。こういう1個1個の点を重ねていくことが、ファンやロイヤルカスタマーを作っていく。

ヤクルトさんだって、ヤクルトレディと僕との関係もいわゆるn2ですよね。ここがじわっと来る。熱狂的なマスイベントをやらないといけないことはないというか、ちょっと難しい言い方をすると、メタ認知を上げていく。失礼な話、熱狂はある種、思考力が低下している部分もあるので。

そういう企業やブランドはいっぱいあるじゃないですか。バーンって商品を打ち出していったけど、ぜんぜん売れなくなる。結局は、メタ認知をしっかり作れてない。僕の見立てですが、ヤクルトさんの場合はもともとメタ認知があるわけですね。

でも、気がついたらいろんな企業がいろんなことをやってきて、もう何のことだかよくわかんない。でも、そこにペインワードとペインソリューションがしっかりきて、もう1回メタ認知が上がったんです。

今までのブランドアセット(ブランド資産)も、今までのブランド活動の全部が再びつながり始める。まるでネットワークのようにつながる。それをどっちからアプローチするかだけかな、という感じはしますよね。

Yakult1000をヒットに導いた「売る側」の実体験

金安輝起氏(以下、金安):確かに熱量って大事です。お客さまの視点もあるんですが、うちの場合はインナー向けというか、実際に商品をお届けする従事者。あとは小売さんで言えば、販売していただく方が熱くならないと、物は動かないのかなと思います。

ただ売ればいいだけではなくて、「なんでこれがいいのか」と説明したり、先ほども関係値のお話があったと思うんですが、直接商品について語れないとお客さまに対して熱量も伝わらない。

うちが今回(Yakult1000で)うまくいった要因の1つとしては、お客さまもそうなんですが、実際に販売する前に従事者や社員、ヤクルトレディ、お取引先さまも含めて、商品をしっかり4週間とか2週間とか飲んでいただいたんです。

飲んで体感して「これ良いね」「じゃあこの商品を売ろうか」「商品をお届けしようか」となると、自然と言葉が出てきます。それがコミュニケーションになって、良い意味で口コミだったりSNSに広がっていくのは、すごく感じるなと思っていて。

私もいろんな他の商品を試すんですが、やはり最初は「本当に効くのかな?」というところから入っていくんです。ところが紹介する人が「いや、これ良いんですよ」という確信を持って入っていくと、お客さまの中でも受け入れ方がぜんぜん違うんじゃないかと思います。

ファンやロイヤルカスタマー、お客さまの熱量も上げるんですが、そこから伝播させていく人たちも熱くさせないとお客さまは熱くならないんじゃないかなっていうのが、実体験としてはありますね。

奥谷:おっしゃるとおりですね。

森竹:おっしゃるとおりです。

瞬間風速型の熱量よりも、じわじわくる熱量が大事

奥谷:熱量は意外と上げられるんですが、あとはそれをどう維持するかですよね。先ほどLTV(Life Time Value)とおっしゃいましたが、LTVということは、すごく長いこと釜を熱くしなきゃいけないので。瞬発的に上げるのは意外と簡単だけど、それをどうやって維持できるかが、今の時代は本当に難しいですよね。

永井伸雄氏(以下、永井):オイシックスさんはサブスクビジネスなので、まさにその部分なんじゃないですか?

奥谷:そうなんです、僕らの場合はそれが如実に表れます。もちろんスパイク型で、例えばミールキットでモスバーガーさんとコラボして商品がすぐなくなったとか、ディズニーとコラボしてすぐ売れたっていうのも、小さいなりにも大事なんですが。

ずっと同じミールキットは作り続けられないので、ある程度の熱量を維持しなきゃいけない。当たり前ですが、ビジネスがその宿命を持っているので、本当に逃げられないですね。食べるものをご提供しているので、お客さまのご評価がダメであれば他のところへ行くし、別にスーパーは目の前にあったりもしますのでね。

だから瞬間風速型の熱量よりも、じわじわとくる熱量。ブランドアセットや関係者、店舗の人も「これが売れるから」というだけじゃなくて、「自分でも飲んでみたけど、すごく良かったよ」みたいなことが合わさっていく。表層的に「うち今イケてる」みたいにならないようにしないといけないんじゃないかなとは、すごく思いますよね。

どんなにやっても、モノには熱量は生まれない

永井:一瞬のブームで終わらせない、ということですね。例えばオイシックスさんですと、いろいな珍しい野菜を取り扱ったりして、そういう部分のアクセントはけっこう大きいのかなと思っています。

奥谷:オイシックスはできて22年経っているわけですが、それこそ野菜をマーケティングすることとかは、ある種チャレンジャーとしてできたことって言うんですかね。それをやったことによって、認知を少しずつ上げてきたってところもあるので。

なので何度も言いますが、「コトからモノ」がマーケティングだとすごく思っているんですよね。プロダクトアウトで「こんなもんできて、これはこうですよ。知らんけど」になるということは、マーケティングをやってないことになるので。だからこそ、全企業がこれからは「コトからモノ」にする。

今、マーケティングにすごく求められてるのが「体験」。結局、体験にしか熱がないと思うんですよ。どんなにやっても、モノには熱量は生まれない。物に魂が入るのは、人間が入れるもんですよね。

ファンもロイヤルカスタマーも「人」のことを話してるので、人からしか熱は生まれないんだということを、どう胸に刻んで物作りをし、物を配荷し、売っていくか。ここしかない。

もちろん林さんのところもそうですが、ただ店があって「物が売れるからいいか」となると、だったら何でもスーパーに配荷すれば売れることになるんです。そうはならないということは、もちろんヤクルトさんは十分おわかりだと思います。熱量は人からしか生まれないんですよ。

商品・ブランドへの顧客の熱量を上げる3つのステップ

森竹:今もそうなのかわからないですが、日本人ってiPhoneが好きじゃないですか。自分もそうなんですけど、iPhoneを買い続けている理由として、機能はもちろん良いんですけど、競合差別性がそんなに強いかっていうと昨今はそんなでもないよねと。

ともすると負けている部分も多いと思うんですが、「Appleが好き」という消費者がたぶん多いと思うんですよね。さらに新しい商品では、コトもそんなに大きく変わらない。商品や体験価値を提供しているAppleという提供元のフィロソフィーにエンゲージメントしている。持続的な熱量としては、そういうのがすごく大事になってきそうだなと思っています。

永井:でも、きっと「フィロソフィー」っていう言葉ではないですよね。積み重ねで、商品にぜんぶ投影されるものだと思っていて。今は「パーパス」とかいろいろ言っていますが、今さら言葉にするんじゃなくて、実はそれってふだんの積み重ねだと思ったりもしたんですが、金安さんはどうですかね?

金安:ちょっとズレるかもしれないんですが、お客さまや商品、ブランドを育てる時には段階があるのかなと思っていて。うちは長い歴史があるので、お客さまから知っていただいている、まずは信用もいただいているところがスタートではあるかなと思います。

どの商品でも、ブランドでも、業態でもそうだと思うんですが、まずはお客さまから信用してもらわないと、手に取ってもらえることが始まらないと思うんですよね。手に取ってもらった後の次のステップが、信頼なのかなと思ってます。

商品を「使って良かった」と思うと、今度は「その商品じゃなきゃ嫌だ」「そのサービスがないとなんかつらい」とか。そうなると今度は、その商品・ブランド・サービスに対して頼るような感情になってくる。ここで熱量がだんだん上がってきます。

最後の熱量は「その商品を支持する」と位置づけているんですが、ある一定まで行くとロイヤルユーザーになって、ロイヤルユーザーになると他の人に商品を推奨していくんですよね。「これ良いよ」「あれ良いよ」ってなると、n1からいろんな人に広がっていく。

究極は、お客さま一人ひとりに支持されるまで熱量を上げていく。先ほどの「継続性」というのを考えると、そこまで言っていただくお客さまは、よっぽどこちらが期待を裏切らない限り一定の評価はしていただけますし、広がりも見せていただけるお客さまになっていくのかなと思います。

ブランドや商品を育てる時にはそこを意識して、お客さまと接点を持つようなイメージをしながら、商品開発やマーケティングを考える癖をつけているかなと思います。

森竹:信用・信頼・支持ですね。

金安:そうですね。そういうステップがあるかなと思います。