2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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永井伸雄氏(以下、永井):シンプルにしていく。今の家電製品なんかもそうですよね。多機能化しすぎちゃって、むしろシンプルな機能のほうが売れていたりとか。ヤクルトさんだと、そういう意外な機能はあまりうたえないと思うんですが。
金安輝起氏(以下、金安):そうですね。食品や飲用ではなかなか用途開発は難しいのですが、課題解決というところで考えると、お客さまが商品を飲んでいただいた後、食べていただいた後のその先を考えるところがあります。
冒頭の紹介でもさせていただいたんですが、かつて衛生状況の悪さから日本で感染症で命を落としていく人たちを見て、最初は「健康の課題解決をしたい」と考えた。
今は衛生状況が改善し、環境も変わりました。昔はフィジカル的な課題があったけれども、コロナの影響もあって、今度は精神的な健康をより求めるようになってきた。
なのでベースとして、商品としては整腸作用という機能はあるんですが、今回は新たに時代に合った健康課題を解決する機能を取り入れて、お客さまの課題を解決していくところが大きかったのかなと思います。
アメリカのシンクタンク(の情報)ですが、睡眠負債で年間約15兆円の経済損失が出ているぐらい、睡眠不足によって事故が起きたりしています。そういう取り組みもいろいろやっている中で言うと、今の時代にあった課題解決をちょうど世に出せたのかな、というところはあると思いますね。
奥谷孝司氏(以下、奥谷):今のお話を聞いて思ったんですが、僕もオイシックスにいるので、「これを食べたらほにゃらら」とは、直接はなかなか言いにくいですよね。
金安:そうですね。
奥谷:なんですが、いわゆるペインソリューションと言うんですかね。例えばミールキットだと、うちの社長の髙島(宏平)は「料理のカーナビになりたい」と言うわけですね。何かあったら、それを見ればちゃんと正しい料理の仕方がわかる。
今って、なかなかお母さんから料理を学ぶこともなくなっている。そういう意味では、ペインをどう解決するか、そしてそれを実感したユーザーが正直なことを言ってくれることで売れる。さっき言ったように、「これを食べたらこんなことがありますよ」と言えない我々にとっては、非常に助かります。
用途開発ではないんですが、まさにヤクルトさんやオイシックスにとっては、体験コメント、正直レビューが本当に大事です。もちろん、認知のためのトラディショナルなマーケティング、そして戦略的なデジタルマーケティングも大事なんですが。
僕は「使用時間」と言っているんですが、お客さん同士が話してくれたり、「いいわよね」と言ってくれることが売れる仕組みになってくるので、そこをどれだけ深掘るかはすごく大事ですよね。
森竹アル氏(以下、森竹):消費者からしてみると「失敗したくない」という心理もあるから、「この商品がどうなのか」っていうレビューよりも、「この商品を買って使ったらどうなったのか」っていう情報のほうが求められているなというのは、すごく実感あります。
奥谷:自分でもしゃべっていて思うんですが、良い話を聞いたら「で、どうだった?」って聞くじゃないですか。そこがすごく重要だと思うんですね。例えば「めちゃくちゃ人気のラーメン店に並んだんだけどさ」と言われたら、「で、どうだった?」って聞きますよね。
つまり「で、どうだったの?」というのは、列んだら食べられることはわかってるんですが、選ばれて買ってもらった後のことを聞いているというか。
企業側で気をつけなきゃいけないのは、「いろいろ買ってくれたからもう良し」ではなくて、「で、どうだったの?」のところを、いかに市原悦子のように見るというか、見てにんまりできたら「あ、次がありそうだな」と思います。
他人に勧めるNPS(Net Promoter Score)もすごく大事にはしてるんですが、一方で最近通販業界や海外ではけっこう言われてるんですが、自分がもう1回同じ商品を買うかという「ネットリテンションスコア(Net Retention Score)」っていう考え方が重要だと思います。海外の人のほうが正直にNPSを言ってるんですが、日本の人のNPSの評価は難しい。
森竹:難しいですよね。
奥谷:ね。言ってるんだけど、本当は何も言ってないことがすごく多い。ブランドのことは好きなんだけど、「次ももう1回買う」が自分の中にあるかどうかはすごく大事だなと思っていて。
奥谷:ヤクルトさんとかを見てると、僕なんかはSNSに踊らされて……あ、踊らされてはないですね(笑)。Yakult1000が大好きで飲んでるんですが。
(一同笑)
奥谷:なぜかうちの奥さんはずっと「ジョア」ばっかり買っていまして。自ら店に行ってもYakult1000は「ない」と。でもワークフロムホームになったので、「ヤクルトレディさんが来たら俺が買いに行く」と言って、そこから奥さんも買ってくれるようになったんです。
うまくタッチポイントを使いながら、先ほどの「で、どうだったの?」をヤクルトレディさんからも聞けたりするのがいいなと思って。
通販やサブスクの中で、一見人的なチャネルが軽視されがちな感もあるんですが、ヤクルトさんは両方を持っている。僕は通販の会社にいるので「羨ましい」と最近思うんですが、そのあたりの熱量も売上に寄与してるんですかね?
金安:かなりあります。今おっしゃっていただいたように、店頭だと商品が並んでいるだけで物を言わないんですが、宅配ですとヤクルトレディの方が商品も紹介します。うちの宅配の事業では、商品とサービスをセットにしてお届けしています。
ご自宅までお届けすることもサービスですし、その方とコミュニケーションを図ることで気持ち的なつながりもあったり、あとは健康情報を提供したりとか、関係値を作っていく。継続性も含めて人間関係ができていくと、信頼感が生まれてきます。
そうすると深いつながりになって、お客さまのお役立ちになっていく。宅配のほうは商品だけじゃなくて、サービスも含めた提供でやっていますね。
奥谷:いいですよね。僕もそうですが、「また買います」って言うと「ありがとうございます」みたいな。「良いですよね」って言われたら、なんとなく「良いですよね」って言ってる(笑)。オイシックスにいると、その笑顔がなかなか実感できないですが。
前職のMUJIでアプリ開発をした時も、店頭の人が自信を持って話してくれていて。手元に持っているお客さんがいて、「いつもありがとうございます」と。大きいブランドになっちゃってなかなか個がわからないので、ステージを見て「いつもありがとうございます」と言えるのは、やってよかったなとすごく思うんです。
この話でもう1個すごく大事なのは、ヒューマンタッチなのかなと思いますね。
永井:そうですね。デジタルトランスフォーメーションだけではなくて、アナログのほうもトランスフォーメーションしていかないといけないのかなと思います。
永井:それでは次のテーマに移りたいんですが、ファンやロイヤルカスタマーの熱量はどうしたら上げられるか。最初のタッチポイントを作るだけではなくて、ロイヤルカスタマーを作っていくことについて、まずは奥谷さまから。
奥谷:先ほども言いましたが「コトからモノ」というか、まずはどういう体験を作りたいのか。お客さまのなんらかの課題解決であったり、気づき、自分がしたい・得たいと思っている体験に寄与するものを作ることで、自然にファンやロイヤルカスタマーは増えていくように思います。
もう一方で、僕は前職の無印にいた時も思いましたが、ヤクルトレディさんじゃないですけど「店舗のスタッフ」。たぶん林さんのところもみんなそうだと思うんですが、彼らが「良い」「良いですよね」とお互いに言い合えるのが、小売業のすごく良いところだなと思っていて。
その周りにはしっかりとしたマーケティング戦略や商品開発があるんですが、そこにグッといくのは意外とヒューマンインターフェースであったりします。
商品であれ、デジタルタッチポイントであれ、「この製品ではこういうことができるんですよ」と言われた時に、お互いに「そうよね」「そうだわ」って思えることが、1個の熱量の上げ方なのかなと思うんです。
僕とかは「デジマ(デジタルマーケティング)の人」みたいに思われがちですが、テクノロジーも大好きですけども、やはり人が介在しないとぜんぜん血が通わないんですよね。
オイシックスでいうと、良い意味でも悪い意味でも、料理をせず、きゅうりを眺めててもお腹いっぱいならないですし。そこにちゃんと「料理をする」という体験が入っていくことが必然になっていると、結果的に製品を好きな人は熱量が上がってきます。
髙島(宏平社長)も含めて、オイシックスはユーザーインタビューを欠かしません。コロナ禍になってむしろラッキーなのは、Zoomを含めてオンラインでユーザーインタビューできますよね。
生活観を聞いたり、子どもが突然現れたりとか。僕がやっている顧客時間でも、クライアントさまへのn1インタビューをやっておもしろいのは、「熱く語っているんだけど、それは僕が言ってるクライアントの商品じゃないな」とか(笑)。
あとは子どもが出てきたり、自宅の冷蔵庫を開けてくれたりとか、いろんなことする中でわかっちゃうと。だから「ファンだから」といって企業に呼んで話すのは、若干金銭的価値も合って。それがなくなるようにするにも、デジタルタッチポイントを通してZoomとかでインタビューすると素が見える。
逆に言うと、どうやったら上げられるかでプッシュするというより、素の状態を見ていくこともすごく大事かなと思います。厳しいコメントもいただきながらなんですが、そういうのはけっこう大事じゃないかなと思いますけどね。
永井:そういう意味では、まさに林さんの(ワークマン公式)アンバサダー。
林知幸氏(以下、林):そうですね。アンバサダーもそうなんですけど、今のお話を聞いてて思ったのが、我々ワークマンは全国で970店舗あるんですね。僕はよくスーパーとかへ行くんですが、実演販売がすんごい大好きなんですね。
奥谷:いいですね。
林:食品でも非食品でもいいんですが、目の前で「こんなに落ちる洗剤あるんや」みたいなのを見せられると、ついつい買っちゃうんですよ。それって、デジタルではなかなか伝わらない部分があるじゃないですか。
アナログとはいえ、店舗じゃないとできないことをどれだけ掘り下げて、価値をお客さんに提供していくのかはすごく重要だと思っていて。ワークマンでそれができているかというと、ちょっとまだできてないんですけども。
アンバサダーのお話をすると、まずはロイヤルカスタマーというか、熱烈なファンであるアンバサダーを我々の本社にお招きして、「今度出る新製品ってこうなんですよ」「これはこういう機能があって」と、実演販売のようなことをします。
あとは「どんなところでこれが役に立つか」というのは、普及曲線じゃないですが、オピニオンリーダーが使い方を発見して普及していくんです。「ぜひこういうのを使ってみてください」「なんなら製品リリースを出す前に、みなさんに情報だけ提供しますから」と、ちょっと特別感を出してあげたり。「ワークマンとつながっていて良いな」というところで、関係性として築いてますね。
永井:でも、きっとあまりべったりしすぎても良くないんですよね?
林:そうですね。でも「ぜひ紹介してくださいね」と、何かをお願いするわけではないんです。そうじゃなくて、なんなら社員の勉強会にお招きしてるので「今度の新製品請費はこうです」とか。
実は我々は、アンバサダーさんと共同製品開発をやっていて。製品開発でいうと、例えばキャンプだとかスポーツだとか、彼らにはすごく知見があるわけなんですよ。
そういった知見をもとに、例えばお客さんが「キャンプを始めたい」という時に、我々がその壁を低くするために、アンバサダーさんたちに意見を聞いて一緒に商品開発するんですよね。そういったところまでやっていくのが、ファンとつながっている価値なのかなと思います。
奥谷:聞いていると、インタラクティブかどうかがすごく大事というか。正直、都合よくお客さんの声を聞いて「お客さんの声から生まれました」って言うこともできると思うんですが、真にフェアなインタラクティビティがある。
でも、企業とお客さまの役割は違うので、お客さまはものづくりはできないわけですよね。なんですが、使用実感を伝えてもらうとか、場合によってはアンバサダーになってもらうことがインタラクティブだと思っていて。
優れた会社、特に今流行ってるものって、すごくインタラクティビティが高いんじゃないかと思っています。失礼な言い方ですけど、ものづくりにお客さまを使うというよりも、フェアにインタラクティブができるかどうかがすごく大事です。
お客さまにマーケティングアイデアや、ものづくりのアイデアがあるというよりも、別に使った体験でもいいので、フェアに「良かった」「悪かった」というインタラクティビティをどれぐらい50:50で持ているのかは、これからの時代にすごく求められています。
その蓋然性を図るのに、僕はデジタルがいいなって思うんですね。「100万人の声」ではないんですが、めちゃくちゃ濃い人や薄い人がいてもいいんですけど、どのぐらい伝わっているかが即時にわかったりもするので。
モバイルアプリの実証実験をした時に、一般的には「モバイルアプリにはインタラクティブ性がある。だからお客さんのコメントが書ける」と言うんですけど、実証結果を取ってみるとほとんどインタラクティビティ性がないんですよ。
お客さんは、主にそれを見るものだと思っている。企業姿勢としてそれが伝わっているところはインタラクティブですけど、そうなっていないところが大半だったりします。
なので、ヒューマンタッチをやりながら、どうビーインタラクティブであれるのか。もちろん企業の役割は、新しい商品や優れた物を提供しながらお客さんの生活に寄与することですが、どのぐらいインタラクティブでいられるかが大事です。
オウンドメディアを作ればいいかというと、僕もオイシックスで初期の頃に作って失敗しちゃったり。場があればいい、チャネルがあればいいのではなくて、そのプレイスがインタラクティブになっていれば良いと思うんですよね。
森竹:今おっしゃっていただいた「フェアなインタラクティブ」って、すごく大事な気がしていて。消費者からすると、場が作られていて、その中で「踊らされている感」を感じちゃう気がしています。
以前テレビで、ワークマンさんの商品開発のアンバサダーの方とのやり取りを見たことあるんですが、めちゃくちゃフェアだなと思って。
キャンプ経験のない開発の方が、キャンパーのアンバサダーの人にダメ出しされて、めちゃくちゃフェアな意見を言われて、それを本当にフラットに聞いてる。「この関係性ってすごく強いファンになるな」と感じましたね。
フェアなインタラクティブを経たファン、ロイヤルカスタマーとの関係性を築けてるのって、めちゃくちゃ強いんだろうなと思いました。
林:どうしても、ワークマンには(アウトドアに関する)知見がないものですから。ただ、いろんな発信がされていく中で「こういう製品が欲しいな」「こういう製品があったら、もうちょっとワークマンは良い会社になるのにな」「もっといい体験ができるのにな」という声を非常によくいただくんですよ。
我々のスタッフのキャンプ歴が長くなるまでずっと待っていても、時間がかかるだけなので、そうであれば熱烈なファンの人に意見を聞いて製品開発しちゃおうと。そこはもう、真剣勝負ですよ。
奥谷:正直さってすごく大事ですよね。しかもよくあるのは、企業コーポレートブランドというか、メッセージとして「正直であれ」とか「誠実であれ」はあるんですが、ちょっと目線を下げて「お客さまとの関係において正直である」。
林さんがおっしゃるとおり、「僕らがプロキャンパーになるには時間かかるから、お客さんに聞きたいです。学びたいです」というのは、本当に大事なことです。
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